復讐者、味を求む
リョウマ達は温泉に入った後、その帰り道に宿の近くにある料理屋でご飯を食べた。
エルフは長湯は苦手なのか、意外と早くラフロシアが出てきたので5人そろっての夕食だ。
「普段は水浴びだからな」
「「えっ」」
エルフにはお風呂の文化がないのだろうか。
女性陣が驚きの目線を送る中、夕食を始める。
リョウマ達の入った料理屋はこの世界での魔王国では一般的とされる料理屋だった。
基本となる品ぞろえはパン類、スープ、サラダとお肉料理だ。
サラダがメニューとして振舞われるのも簡単な氷魔法を使えば身近に取れる野菜は割と保存できるからだ。
一方で魚は運搬の都合上、氷魔法で運ばれるレイフィールドか港町ぐらいでしか振舞われない。
リョウマやケンの様な異世界人が感じるに、ここのお肉自体は大変美味しい。
前の世界で考えるなら精々国産か外国産ぐらいの違いしかなく、種類も鳥、牛、豚の三つしかなかった。
リョウマもたまにシカ肉や熊肉を食べた事があり、あのくせがある味は割と好きだった。
しかしその希少性で日常的には食べれなかったのが悔やまれていた。
そんな肉の種類が少ない前の世界と比べ、ここ異世界は魔物が蔓延る世界。
あらゆる種類の魔物が存在し、それらは危険性がなければ大抵は食に回される習慣がある。
流石にゴブリンといった亜人系の魔物は食さないが、高級食材でドラゴンなんてのもあるぐらいだ。
実際、リョウマは一度だけドラゴンの肉を食べた事がある。
ドラゴンといってもワイバーンだが…その身は大変美味だったのを覚えている。
あまりの美味に、初めてこの世界の食事事情で前の世界より勝っているものを見つけた瞬間だった。
しかしリョウマ達はあまり日々の食事を美味しく思っていなかった。
素材がいいのに不満に思うという事は…それはつまり味…果ては調味料の問題なのだ。
「うーん、味が薄いですな」
出された肉入りのスープを飲みながらケンは言う。
「まぁこっちの世界は薄味が多いからな」
リョウマも元の世界の料理を知っているので相槌を打つ。
そう、この世界の料理は圧倒的に調味料が少ないのだ。
「やっぱり調味料の確保が難しいからよね」
この世界で育ったレンコは言う。
基本は塩か胡椒のみの味付け。
たまに香草を塗すぐらいだ。
その塩や胡椒もそれぞれ海辺と熱帯地域でしか生産できない。
「俺も旅の途中で未知のスパイスを求めているけど…ないんだよねこれが…」
ケンはがっかりしながら言った。
新しい魔物の肉は簡単に見つけるが、調味料となる植物をここまでの道中では見当たらなかったらしい。
リョウマはケンの言っている事を聞いて意外に思った。
魔物がいる世界だから、植物も特殊な成長をしている可能性もあるはずだが…
「なんでだろうな…ありそうなものだけど…」
「ここは魔王国だからだろうな、ここは大陸でも四季があるから調味料となる味が濃い植物が生えずらいし、そもそも珍しい植物や野菜が少ない」
そこでラフロシアが説明を挟んだ。
「ミカロジュの森に行けば調味料となる新しい植物もあるかもしれないな」
「おぉ!それは楽しみだ、旅の目標が増えて嬉しいぜ。」
ケンは嬉しそうにしながら言う。
「でも、そんな薄味ですか?」
「まぁ俺らからしたらな、俺はもう慣れたけど」
メグが二人の味覚に疑問視しながら、リョウマが答える。
そんな風に会話をしながら夕食を終えて、4人の食事は終わったのだった。
◇
夕食の後は宿に帰り、就寝する一行。
しかし一人だけ花街に行こうとしたある男一人は正座を強いられて、廊下で寝ることになった。
「旅のお金を無駄遣いするな」
との事
その翌朝
殆どの人が休めた楽しい夜が明けて、リョウマ達は関所を無事に通ってヴォンロウドへと入った。
「痛かったー」
昨日の足の痺れを思い出すケン。
「ダメって言ったのに行こうとしたからですよ」
メグが年上のケンを叱る。
「くそ…おれはフリーなのに」
ケンが恨めしそうに言う。
まぁ、旅の資金にも限りがあるから女性陣の言った事は真っ当な事ではあるが…
「メグちゃん、あれは特殊な例だから参考にしないでね」
「そうですね」
ケンもここ最近はメグとレンコとも打ち解けるようになった。
ラフロシアも普段はあまり話さないが、昨日の料理屋でアドバイスを送っているのを見るとそこまで邪険に扱ってはいないようだ。
「しかし、このヴォンロウドだっけ?あんまり魔王国と変わらないな」
道を見て言うケン。
「ヴォンロウドは地理的には魔王国と大差ないです。しいて言えば獣人が基本的な人種だという事と海に面していないという点ですかね?」
珍しくメグが説明をする。
「そうかー」
「あ、あと昔は魔物が多くいたとか」
地理的に同じという事は未知の食材の可能性が少ないという事。
なので少し消沈した感じにケンが答えた。
「でも流狼祭は楽しみだな、色々な国の食事が来ているのだろう?」
リョウマがわくわくしながら言う。
「えぇ、私も聞いた限りだとこの内陸にあるヴォンロウドの王様が美食家らしくて、自分の国に名物料理がない事を悔いて、ならばと色々な料理を食べたいために開いたのが切っ掛けみたいよ?」
ラフロシアが答えた。
「すげー我儘なというか私的な理由で出来たお祭りだな」
リョウマは内情を聞いて驚く。
「しかし、結果的にそれがうまく行き、今では大陸一番の料理の祭典にまでなったみたいだ」
どうやらその流浪祭のおかげで獣人の国であるヴォンロウドの経済は良くなったようだ。
「まぁ…でも色々と問題もあるけどな…」
ラフロシアが残念そうに答える
しかし、いい事ばかりではない。
祭典を開くようになって外の国ともこれまで以上に交流をするようになった獣人。
しかしここでもとリョウマは思ったが差別も少なからずある。
それで開催当初はいざこざが堪えなかったらしい。
「まぁ…そういうのはどこにでもあるよな」
リョウマは前の世界での歴史を思い出した。
「今は法律でそういうのは守られるようになったけど…まぁ無視するバカもいるからな…」
法律があっても、あの手この手で抜け道を作る者がいる。
ラフロシアはその事を言っているのだろう。
「はははっなんか話題が暗い方に…」
ケンが場を明るくするためにわざと笑う。
「あっすまないレンコ…別にそういうつもりで言ったわけでは…」
ラフロシアが慌てて正す。
その様子に皆くすって笑った。
「まぁでも、もしかしたらそういう問題とも直面するかもしれないな…」
リョウマが確認するようにいう。
「我々としては面倒はやめてほしいけどな」
「分かっている。俺らの目的はあくまでも帝国の内情を調べる事だ。」
そういうとそのまま馬で前へと進む五人だった
そして二、三時間程歩道を走っていると今度は目の前に馬車の旅団を見かける。
「あれって昨日言っていた大型の商団かな?」
見ると20台程の馬車が縦列で伸びる様に走っていた。
そしてその紋章に目が行く。
それは黄色と赤の紋章だった。
「あれは商業の国バランのだな…かなり迂回して来ているな…余程の荷物なのか?」
商業の国バランはその名前の通り商業国家で五人の商人達が取り締まっている国だ。
領土は小さいが多くの商才に溢れた人たちが挙って集まるためにその国際政治での発言力は大きい。
さらに発明も盛んに行われているのもその立場に大きく関係している。
「あれは五大商会ではないな…何処だろう…」
リョウマが知っている範囲であれは大きな紹介ではないと思う。
バランを取り締まる五人の商人はそれぞれに商会を運営している。その名前と紋章は各国に知れ渡っているが、目の前のはどれでもないようだ。
「まぁ…普通に横を通りすぎれば問題ないだろう…」
向こうは運んでいるものがあるためか…歩みがのろい。
そして五人は商団の最後尾の馬車を過ぎようとした時に事は起きた。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!
遠くの方で鐘を叩きつけるような音が聞こえた。
すると皆が御者が場所を止めていた。
「なんてことだ!すぐ逃げなきゃ!」
御者が慌てていた馬を馬車から話そうとしていた。
載っている人達もその手伝いをしていた。
「なんだ?どうした?」
当然リョウマ達もその異変を気にする。
すると、馬車に載っていた商人が俺たち見かけたからか焦りながら答えてくれた。
「あんたたち!あの鐘は最大危険信号で我々では手に負えない魔物が出た時にのみ鳴らされるんだ!早く来た道を戻りな!」
それを聞いてもリョウマ達は落ち着いていた。
「この商団の護衛は?」
「数は20とそろえたけど…最高でもγだ…この鐘が鳴らされているという事はβ級かそれ以上だ!!」
「なるほど…」
リョウマはそれを聞いても落ち着いていた。
「この先頭に商団のリーダーがいるのか?」
ラフロシアも落ち着きながらいう。
「!…あぁいるにはいるだろうが…」
リョウマ達の落ち着きぶりを見て、唖然とする商人。
「分かった、俺とラフロシアで先に行こう。レンコとメグはケンを守って。後、そこの商人…多分逃げる必要はないぞ?」
「倒すのか?」
ラフロシアがリョウマに聞く。
「あぁ…別に善意とかじゃなくて…修行の一環でな」
元々魔物を倒すつもりで旅には望んでいたリョウマ。
そのいい機会が巡りこんできたとすら思っている。
「分かった。じゃあ行こう」
そういうとリョウマとラフロシアは馬を掛けさせて先へと向かう。
「…あんたら落ち着いているから俺も大丈夫だと思って入る…だけどβ級って街を一つ破壊する規模じゃあ…」
「大丈夫ですよ、ケンさん」
レンコがケンの心配を察してか答える。
その声には余裕とも取れる程に軽やかで…
「あの二人はもっと強いですから」
そして…その顔を見るケン。
それはリョウマの勝利を全く疑っていない…余裕の笑みを浮かべた顔だった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋