復讐者、悪い事はするな
リョウマ、ケン、メグ、レンコが温泉でのんびりとしていた頃。
ラフロシアは宿場街の冒険者施設であるギルドに足を運んでいた。
ギルドでは冒険者達への仕事斡旋の他にも交通情報や魔物の情報といった多岐に渡る情報センターとしても活躍してる。
国営のため、その情報の信ぴょう性もよその情報屋で入手するよりも確かだ。
ここでジュライドまでの道で問題がないか、彼女は聞きに来ていた。
「あのジュライドまでの道筋の情報がほしいのだけど」
ギルドの受付嬢に聞きいくラフロシア。
「ジュライドまでですね…少々お待ち下さい。今確認してまいります」
「後、これも頼む」
そして封筒とお金を出すラフロシア。
「お手紙ですね、承りました。住所の方に不備はございませんか?」
「えぇ、それで大丈夫よ」
そう言うと、受付嬢は奥の方へと行ってしまった。
カウンターに寄り添って待つラフロシア。
しかし、ここの受付嬢を始めとする従業員は国営のため教養のなった人が働いているが、ここを利用する人はその限りではない。
「ひゅー、ねぇちゃん、エルフじゃないか。それもその恰好は旅でもしているのか?一緒に旅のお話でも聞かせてよ」
このように下心のままで行動する輩はいる。
リョウマからしたらこんなテンプレみたいやついるのかと突っ込みも入れたくなるほどのテンプレっぷり。
「悪いが友人を待たせているのでな。ここで聞く事が終わったらすぐに出るつもりだ」
やんわりと断るラフロシア。
しかし、そんな事では男は引き下がらない。
「いいじゃん、少しぐらいさ。ほら一杯奢るから」
優しそうな微笑みでいう、見れば特別顔も悪くなく、そういうのが得意な女性なら喜んで一緒についていくのだろう。
しかし、ラフロシアは人間の容姿に興味はない。
適当にあしらい続けていると、向こうも中々引き下がらない。
手ごたえがあると勘違いしているのだろう。
すると受付嬢が戻ってきた。
「お待たせいたしました。現在の所、ジュライドまでの道筋で魔物及びその他の警告は出ていません。ただ、昨日大規模な商会がジュライドまで発しましたので道は途中混雑しているかと思われます」
必要な情報を手にする事ができたラフロシア。
「どうも有難う」
そういってラフロシアは情報料の銅貨一枚を渡す。
そしてそのままギルドを出ようとするが…
「お?終わった?じゃあお話しようよ、ねぇ」
男はしつこく付きまとう。
ラフロシアは付き合いきれないと思い、無視を決めてそのまま出ようとした。
すると男はラフロシアの腕を掴んで動きを止めた。
「たくっ…無視は良くないよ、エルフのねぇちゃん?俺は元王国貴族だぞ?」
すると突然態度を変える男。
「俺は元王国の貴族で宮廷魔法師だったんだよ!魔法はそこら辺の庶民なんかより使えるんだよ!」
そういい、小声で詠唱する男。
「≪女の人形≫」
どうやら動きを封じる魔法を放ったようだ。
ラフロシアは動きを止めた
「どうだ?動けないだろ?ここは大人しく俺と飲めよ?なぁーにちょっと付き合ってもらえばいいんだよ」
爽やかな笑顔なのが怖い。こうして多くの女性を手玉に取ったのだろう。
「今はこうして冒険者に身を落としたが、いずれはあの国家象徴の小僧を打ち取り、国を潰した事を後悔させてやる!その時はいい思いをさせてやるよ、エルフ」
王国では一部の貴族にエルフが闇市で奴隷として扱われていたのを聞く。
確証はないが、この男のラフロシアへの態度から関係していたのかもしれない。
「あのリョウマ・フジタに勝てると?」
「あぁ、あいつが戦争で生き残ったのは俺みたいな強力な魔法使いが戦わなかったからだ!」
そういいながら、ラフロシアの肩に己の腕を掛けようとする男
しかし、それは叶わなかった。
「え?」
ぼきっ
男の腕はラフロシアに抑えられ、指と関節の間で真っ二つに折れていた。
それはまるで絵に描くような曲がりっぷりでとても非現実な光景に男は目を丸くする。
そして少し遅れて痛みが彼を襲う。
「ぐわぁーーーーーーーー!!!!!!なんだ!いてぇー!」
あまりの突然の激痛、そして驚きに男は罵声を目の前の女に罵声を浴びさせる。
「あのエルフだ!青髪の!あいつがなんかしたんだ!」
離れる様に尻餅を着いて、折れていない片方の腕で必死にラフロシアを指をさす男。
流石に無視はもうできないかと思い、後ろを振り向くラフロシア。
その表情は先程と変わらず毅然としていた。
男の顔には涙が一杯だったが、憎しみの感情も生まれてきていた。
そして当然ギルド内で大声を出せば、野次馬達も来るわけで、それは場の責任者をも呼ぶ。
「どうしましたか?」
ギルドの責任者であるギルドマスターが間に割って入ってきた。
「マスター!あのエルフが魔法で俺の腕をへし折ったんだ!ギルド内では先にを出した方が罪にとわれるだろ!捕まえてくれ!」
このギルドに多少なじみがあるのだろう。来た男をすぐにギルドマスターと知っていた被害者の男は痛みを忘れる勢いでギルドマスターに説明する。
「…先に手を出したのはあの男だ」
ラフロシアは淡々と説明した。
「変に言い寄られてね…強引に捕まえられそうになったのを抑えたまでだ。そこの受付の女性は見ているよ」
そしておどおどしながら先程の受付嬢が前に出てきた。
しかし、その答え方がまずかった。
「はい、あの男が腕を強引に捕まえようとした時に男の方の腕が曲がったかと」
「捕まえようとだろ!俺はまだ何もしていない!過剰防衛だ!なら先にを出したのはあっちになるだろ!」
男は喚きながらラフロシアに非があると述べた。
そして男は折れた痛みをこらえながら内心でにやついた笑顔で運よく自分の都合のいいように受付の女性が答えた事に喜ぶ。
(めんどくさい)
最初、ラフロシアは毛ほどにもこの男に興味がない。
悪さをしようが、何を使用が見逃すつもりでいた。
しかし、彼が元王国の貴族という事で気が変わった。
一方、男はどんな目をラフロシアにを合わせてやろうかと考えていた。
莫大な慰謝料で奴隷落ちにさせるのも悪くはない。
この国ではだめだが、隣の獣人の国ではそれができる。
現に男は王国が無くなった後に、土地を転々としてこのような事を数回繰り返していた。
その度に味わえるあの快感。人を陥れるのはなんとも美味な味だと男は思う。
それも元は自分は王国の貴族であるという特別感からきた。
腕を折られるのは流石に答えたが…このエルフの容姿で我慢しようと思った。
ギルドマスターもどのようにするか悩んでいるようですぐには行動ができないようだ。
そして判断に困っている時に今度はラフロシアの方から動く。
「まぁ…そうね…そのままでいるのもなんだから、添木ぐらいは用意してあげるわ」
すると意外な行動をするラフロシア。
(あれ…確か…まだ魔法は解いていないはず…)
魔法を解除していないのこっちへと来るラフロシア。
「じゃあ添木を付けますね」
そういうと、魔法で添木を出すラフロシア。
ちくっ
(うん?)
すると男はどこか小さな針に刺されたような痛みを感じるが、すぐになくなったので気にしなくなった。
「どうしてくれんだよ!これでは働ける冒険者がいないでしょうが!」
「そうですね、ではお詫びにこれから受ける依頼を私がやるというのはどうでしょう?」
「何?」
「貴方の名前で依頼を受けて、そして私が討伐をする。そうすればあなたの功績にもなるし、当然依頼料は全額あなたに振り込みます。それで今回の件は無しにしてくれませんか?」
すると男にとって魅力的な事を言うラフロシア。
(ほう、こんなエルフが俺の代わりに依頼をやってくれる上に、功績も自分のモノ…いい事ずくめではないか!)
「へぇー、でも依頼の時に襲われるとか嫌だぞ?」
「では、この契約魔法を使いましょう」
契約魔法は契約を破った場合に仕置きを発生させる魔法。
「では、奴隷になるとかが妥当ですかね?」
「あぁ…そうだな、それが一番いい」
そういいな契約の内容を決める二人。
「では、私が依頼中にあなたに襲う事を禁止する」
これで契約魔法は完成され、男は安心した。
「では、落ち着いたみたいなので…私はこれで」
出てきたギルマスも野次馬も引き下がった。
余りの展開だったが、穏便に済んで良かったと思ったのだろう。
しかし男は別の事を考えていた。
(はっはっは…このエルフは馬鹿だ。別に俺は襲ってもいいんだよな)
そう、ラフロシアはは契約魔法で拘束されているが、男の方にはなんにもなかった。
これではラフロシアが一方的にやられてしまう。
「じゃあ、さっそく夜間の依頼を受けよう。外にいくやつでもいいな」
そういい、受付で依頼を受け取る男。
「あぁ、問題ない」
ラフロシアは平然としている。
(はははっ外でやるのもおつだな)
と本当に下品な発想をする男。
顔は爽やかなだけに質が悪かった。
そして依頼を請け負った男はラフロシアを連れて依頼のある宿場街の外の森へといった。
(はははっ!楽しい夜になりそうだぜ)
◇
数週間後、宿場街で依頼を受けた別の冒険者パーティーが森へと入った。
その冒険者パーティーは長く宿場街で依頼を受け付けており、森に入るのも手馴れていた。
そんなある日、少し奥に入ったところにそれはあった。
人型の木だ。
まるで襲い掛かるかのように片方の腕は上げている男の様な木だった。
片方の腕はまるで折れたかのようにくの字に曲がっていた。
冒険者パーティーたちは言う。
こんなあったか?
それにしても木にしては表情がしっかりしているような?
でも木だよねこれ。
うん、魔物ではないね。
冒険者パーティーはそういいながら、そんな見慣れない木を人面木と呼び、宿場街の新しい名所にした。
同じころに一人の流れの冒険者が行方不明のリストに加わるが、その者が見つかる事はなかったという。
◇
時間は戻り、リョウマ達の入っていた温泉。
「どうだったラフ?少し時間がかかったね」
帰ってきたラフロシアと温泉の休憩所であったリョウマは声を掛けた。
「あぁ、特に問題はないそうよ、ただお祭りのせいで道中が混んでいるかもだそうだ」
「そうか。有難う、わざわざ聞いてくれて」
牛乳を飲みながらリョウマ言った。
「何。新参のケンが一人で風呂は寂しいからこうしただけだろ?気にするな」
そして聞いてきた事を答えてラフロシアは風呂に入る事を告げると女湯の方へと入っていった。
その顔はリョウマに小さいながら労ってもらえたからか嬉しそうに見えた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋