エマへの復讐
スフィアの住んでいた町が魔王軍に襲われてから数か月。
ランドロセル王国は緊急事態宣言を発令し、国民全員に魔王軍への注意を呼び掛けた。
エマのいる魔法学園にも、生徒ながら必要に応じては戦争への参加がある事がつい先月発表された。
「はっ!魔族なんて恐れるに足らず!我ら貴族の手によって滅ぼしてくれよう!」
ケイン侯爵と同じ侯爵家である侯爵のご子息、ジェラルは放課後の教室で高らかと宣言した。
誰もいない教室で交際関係にあるエマと一緒に過ごしていた。
「そうね!ジェラルがいれば魔族なんて平気よ!」
エマはジェラルのいう事に賛同していた。
彼女はリョウマとの一件の後、ランドロセル王国の魔法学園へと入学していた。
「いやいや、同じ貴族のエマも十分に強いじゃないか」
「そんな、私は男爵家ですから…」
実はエマはケインにもう一つ報酬を要求していた。
それは彼女を貴族にする事だった。
この魔法学園は平等を謡っていたのだが、近年は貴族の寄付金ほしさに教授陣が金策に駆け込んでいる。そのため、平民も半数近くいるのだが、多くは活躍の場を貴族に盗られている。
それを知っていたエマは養子として王国の男爵家に養子になり、貴族になったのだ。おかげで、彼女の学園での生活はバラ色だ。
まず、クラスは一番上のSクラスに入学する事ができた。これは元々の彼女の力量なら申し分なくは入れた事だが、同じSクラスでも平民のSクラス生徒は入ったその日から厳しい目にあう。
目の前にいるそのジェラルがその主犯で、貴族以外は使い捨ての駒以外に考えていないぐらいのくずっぷり。
先ほどの宣言も、下々の犠牲は入れていない前提で言い放っている。
しかし、このジェラルという男…その能力はエマと同じ年ながら凄まじく、魔力量だけならあのリョウマと同じなのだ。使える術は少ないので、今は宝の持ち腐れだが…しっかり鍛えれば強くなるやもしれなかった。
しかも、顔は全ての女性を魅了するだろう甘い顔で、エマは彼の容姿に一目ぼれしていた。
普段はくずな男が自分には甘えてくれる。そんなギャップを彼女は彼に見出し、お付き合いする事にした。
ジェラルもそんなエマの素質、そして容姿も可愛い事から交際を認め、現在二人は順調に関係を築いていた。
「けほけほ」
すると、せき込む音がエマの下から聞こえる。
そこには同じ学園の制服を着ている女子生徒がいた。
つめたい床に手と膝をつけながら、彼女はエマを背中に載せながら椅子となっていた。
「おい、豚?何をしているの?咳なんてするな、うるせぇー」
エマはその生徒に不満を言う。
「すみません…」
黒髪の少女はそういうしかなかった。
逆らえば、痛い目に逢うからだ。
「まぁ、そう言うなって…平民だから仕方ないだろう。ここはこうするんだよ」
そう言うと、ジェラルは強めの蹴りを彼女に入れる。
「けはっ!!!」
「うわー良い蹴りねジェラル、今の私がびっくりしたー」
エマは笑いながらジェラルにいう。
ジェラルがした事には一切注意しない。
「はははっ、ごめんよ、でもこうやってしつけした方が早いだろ?平民はさ」
「…そうねー」
これが王国にある魔法学園に在籍している平民の現状だ。
入学してみたら貴族に虐げられる日々。辞めたくても、貴族達や先生達がこの学園を辞めさせてくれない。このSクラスの少女はただ卒業するのを待つしかない状況。
助けを呼ぶにも教授達は買収されているか、辞める時も反対する者は記憶を消すという徹底ぶり。行動は無意味だった。
そんな状況に女子生徒は涙した。
涙がぽたぽたと床へと流れる。
「あー汚いなーもう…まだしつけが足りないのかな?」
ジェラルは顔を笑みを浮かべながら、再び女子生徒に近寄る。
「一回徹底的にやれば?ほら…」
エマは立ち上がり、ジェラルの後ろへと行く。
「あっやめて…」
少女は言うが、ジェラルとエマは聞く耳を持たない。
「口答えするなよ」
醜い笑みをジェラル
は見せながら、彼女による。
そして、足が後ろへといき、少女は来る衝撃に身をかまえた。
…
しかし、それは来なかった。
「たく、大人も腐っていると子供も腐ってしまうのか?」
ぶしゃっとエマの耳に聞こえた。
そして、突如前へと現れるリョウマ。
「ぎゃーーー!!!」
音の発生源である、ジェラルの足から血が飛び出す。
「ジェラル!!!」
エマがすぐに治癒魔法を出した。
「おぉー、久しぶりに見たな…お前の治癒魔法。今見るとその白い光は禍々しく見えるぜ」
「あなたは!どうして生きているのよ!?死んだはずじゃないの!」
エマは出てきた男、リョウマに向かって言う。
「まぁ、俺が生きているのはこの際どうでもいいじゃないか、ここには俺がお前にお礼をしに来たと言えば分かるか?」
それを聞き、何をされるか不安になるエマ。
「ひっ!!!!」
エマはリョウマの殺気に怯えた。おそらく魔力はどうにかしたのだろう…それ以外の肉体能力も含めて残念ながら彼女ではリョウマの力に抗う事はできない。そう一人なら…
「エマ!有難う!もう大丈夫だよ!こいつはなんだ?」
ジェラルの一言で怯えから逸脱するエマ。
治癒魔法を与えた事で傷はもうふさがっていたのだ。
「あっ…ジェラル!…こいつは敵よ!リョウマよ!こいつは昔私の仲間だった人だけど、私を殺しに来たのよ!あなたも召喚の時にいたでしょ?あの【英雄】のスキルを持っていたあいつよ‼」
ジェラルはケイン侯爵が死んだニュースを思い出す。そしてジェラルは、リョウマがここにいる以上、それは魔王軍と手を組んだ事しかありえないと推断する。
「あー俺はお前が誰か知らないが…貴族なのか?」
「そうだ!!!誉れある王国の侯爵家の直系であるジェラルだ!貴様、エマの言う通り魔王軍と共に行動をしているのか?」
ジェラルはリョウマをにらむ。
「ぷっ、誉れね」
その答えにジェラルは憤慨した。
「貴様、我らが国王によって召喚されながら、恩を仇で返すのか!」
「恩?くっくっ…恩ときたか…これは驚いた、エマ…お前の友達か?実に面白い事をいうな」
「何がおかしいのよ!ジェラル!!そんなやつやっちまって!私!彼のステータス知っているけど、あなたとほぼ同じよ!勝てるわ!」
「ほう、俺と同じか、それはすごいな」
リョウマは簡単にその事実を褒める
それを聞き、ジェラルも戦闘へと移ろうとする。
「有難うエマ!貴族である俺が負けるはずない!しっかりサポートしてくれ!エマ!」
「そうよ!サポートと回復は私ができるから遠慮なく殺して!」
「おう!」
そしてジェラルは手に剣を出現させて、リョウマへと切りかかる。
「いけーーーー!」
「遅い」
どん!!!!
リョウマは見えない速さでジェラルの攻撃をかわし、カウンターで腹にパンチを一発入れる。
「かはっ!!!」
「へっ…??」
エマの後ろへと飛んだジェラルは壁へと激突し、粉砕した。
「エマ、お前がのぞいたステータスは偽物だ。念のためにしていた行為だが、まさか仲間がそれをしてくるとは…ホントくずだよお前」
「ひっ!」
エマは怯えていた。もう彼女にはどうしようもない。
「変わらないな…お前は誰か強いやつがいれば強気ででるが…こうして一人になると何もできない、いや何もせずただ他人に任せるよな」
リョウマはエマに殺気を与えながら逃げないよう近づく。
「それだけならいいんだが…だがお前は他人を馬鹿にしないと気が済まないのか?ここ一週間の間、お前を監視をしていたが、どれだけこいつ虐めんだよ。同じ平民だったろうに」
「違う、私はそいつと違う…」
エマは怯えながらも、答えた。
(こいつも結局変わらないか…)
「たくっとりあえず…」
後ろでリョウマの殺気で気絶している子に治癒魔法をかける。
「俺、話したよな?俺がここに来る前の学校での話。その時は楽しそうだねと言ってくれたじゃないかエマ?なんで、それがこういう事するかな?理解できないよ…」
リョウマはエマに彼の高校時代を話していた。それにエマはとても共感をしてくれていたとリョウマは思っていた。あんな別れ方をしても、仲良く青春を繰り広げていたら…命まではとらないつもりでいたリョウマだが、それも監視の段階でなくなっていた。
と、少し気が緩んだせいか、殺気も緩んでエマは口を開いた
「私も最初はそうしようとしたけど、ここはもう貴族の場所だったのよ!だったらそれに合わせるでしょ!私はいずれイケメンの裕福な貴族のお嫁さんになって愛し合って、贅沢するのが夢なの!」
「それで同じ立場のやつをいじめんのか?」
「そいつや他の平民が悪いのよ!私はちゃんと準備した!あなたを殺す事で貴族になった!私の功績で得た地位なのだからどう使おうといいでしょ!」
その言い分にリョウマは呆れる。まぁこの世界の多くの人はそうやって成り上がってきた。
リョウマが知らないだけで、案外、彼の世界でもこうなのかもしれない。
(いじめっ子、世に羽ばたくってみたいに…)
しかし、ここはその世界ではない、異世界だ。
そしてその理論を覆すスキルの存在がある。
「なるほど…じゃあ貴族の地位と、今の君に俺は何もしないでおこうか」
「えっ」
何を言っているのだろうか。まさか見逃してくれるのかとエマは驚く。
「あなた何を…」
「ここから逃げられたら、お前が俺にした事は許そう。ただし…これに逆らうなら今すぐに殺すぞ?」
「…わっ分かったわ」
「わぁー!!!!」
「きゃー!!!」
すると、外が騒がしくなったのが聞こえる。
「何?!」
「おっ始まったみたいだな。俺が用意したゲームを盛り上げる存在だ」
そう言うと、リョウマはにかっと笑いながら姿をくらました。
その直後、クラスメイトの貴族の子が教室へくる。
「エマ!平民の生徒達が私達を襲っているの!特に一番虐めていたあなたが狙われているわ!逃げよう!」
「えっ!?」
なんと平民の生徒達は暴動を起こしているみたいだ。
どこからともなくエマの耳にリョウマの声が聞こえた。
「逃げてみろ、それがお前の生きる道だ」
少し考えるエマだが取れる行動は一つだった。
「そうだね!早く行こう!」
後ろにジェラルもいるが、おそらく歩けないだろう。生きるために彼女は彼を見捨てる事にした。
「正門はだめ!裏門から逃げよう!」
「うん!」
(何がなんでも逃げてやる!あいつは約束は守る…私が無事この学園から逃げさえすれば…とにかく早く逃げなきゃ!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
たったったった
「はぁはぁはぁ!」
「はぁはぁはぁ!」
(もうすぐ裏門、これで逃げられる)
途中、追手である平民の生徒が迫ってきたが、魔法力で上のエマはクラスメイトの女子と共に交わしてきた。
おかげで遠回りになったが、ゴールはもうすぐだ。
リョウマは個々から逃げられたらと言った。つまり、学園から出れば無事になるのだ。
エマは一緒に逃げてくれている側の女子にいう。
「有難うね、裏門に真っすぐ迎えたのはあなたのおかげよ」
思えば偶然か、目の前に共に逃げてくれている彼女が最初の友達だった。お互い似た夢を持ち、いずれ良い結婚相手がいたらいいなと話していた。
ジェラルと付き合ってからは話す機会が減っていたが、やはり持つべきは友達だと再認識させれる。
「エマと私の仲じゃない」
彼女は言う。
次の角を曲がれば裏門が見えるはずだ。
(もうすぐ!逃げきれればまたどうにでもなる)
この際、再び冒険者になって個人ランクを上げて、イケメンの奴隷を囲うのもいいかもしれない…とエマは未来に思いをはせていた。
普通の家庭に生まれた彼女は治癒魔法にだけ才能があった。
しかし、治癒魔法ができるだけでは何もできなかった。モンスターも討伐ができない。
そんな時にケインから話を貰い、二つ返事で了承した。
学園へ入れば、それだけで地位は向上する。
さらに、貴族にもなれる。この世界で十分な自由を得る事ができ、成り上がれる。
もうその目標はしばらく無理そうだが、今度は友人とそれを目指すのもいいかもしれない。
そんな事をエマは思いながら、角を曲がり、そして裏門を見た…
そこには大量の生徒たちがいた。
二人は立ち止まる。
(裏門は誰もいないじゃないの?まさかもう追手が…!)
すると、クラスメイトが前へとでた
「言われた通りにエマを連れてきたわ。これで私と付き合って下さいリョウマさん!!!!」
…
「はぁーーーーーーーーーーーー!!!!」
エマはクラスメイトの言った事に驚愕をする。
「あなた…エマはジェラルと付き合ってずるいわ、私もあいつの事好きだったのに…」
クラスメイトの女子はエマの方を振り向いていう。顔は涙目だが笑顔だった。
「そんな事で友達を売ったの!?ふざけないで!あなた!絶対に許さない!」
「こっちこそ許さないわ!知っているのよ!私が告白した時に、すでにあなたと彼は付き合っていたのを!面白そうに陰で笑っていたのを!」
「え!」
(なぜ…それを知っているの!まさか…)
「まぁ、そういってやるな…ラウラ」
「なっリョウマ!またあなたなのね!!」
リョウマが生徒たちの間から出てきた。
「あっリョウマさん!」
クラスメイト…ラウラはリョウマに向かっていった。
「おーお帰り、よくエマを連れてきたな、えらいぞ」
エマのかつての友は嬉しそうにリョウマへと媚びる。
まるで最愛の人を見つけたかのように
「これで、あの私と付き合ってくれる?」
「それはまた今度な、ほら出会いが出会いだからさ。君ももう少し落ち着いてから決めな、申し訳ないけど」
強気な先程の態度と変わって、誤魔化しながら言うリョウマ。
「もう、リョウマさんよりもいい男なんていないですよ…ホントエマは勿体ない事したね」
そして後ろを振り向き、かつての友はエマを見下す目をする。
彼女を生徒の裏に隠したリョウマは言う。
「という訳でなエマ、君のお友達は俺が頂いたよ。どうだ?信頼した友達に裏切られた気分は?中々来るだろ?俺も最初は辛かったよ…」
「あなたに…まさか…そんな、そんなのって…」
彼氏を倒され、友達を奪われ、もう彼女には何も残っていなかった。家族も自分が貴族になる時に見放した。この先助かったと思っただけに、この絶望は受け居られなかった。
「あーがっかりしている所悪いが…まだ終わりじゃないんだよね。」
手をリョウマは前に掲げた。すると、エマに向かって平民のクラスの子が迫っていった。
「ひっ!!!!なっ!!!!」
すぐ後ろに逃げようとしたが、後ろにも生徒達がいた。
裏切った友達の案内があって逃げきれていたエマは簡単に捕まった。
「やめて!やめてやめて!!お願い見逃して!」
「あーそいつらに何をいっても意味ないよ。今操っているから…」
リョウマは彼女に聞こえるように近づく。
「すごくめんどくさくてね、簡単な事しかできないけど、彼ら彼女ら…君の被害者達に殴る蹴るをエマにする事で日々の恨みを晴らす暗示をしたよ。」
にこってしながリョウマは言う。
「で、ここがゲームの本番…この数の暴力に耐えたら見逃してあげる」
彼の後ろにはまだ100人はいる生徒達がいた。
エマはこれから起こる事に対して恐怖で身が固まる。
「この悪魔め!鬼!鬼畜!外道!無理に決まっている!!!!!なんで!なんで!殺そうとしたことは謝るし、償いもする!だからもうこんなのやめてぇぇえ!」
涙ながら彼女はリョウマいう
「…これはスフィアにもいったけど、俺は最後にいったぜ?謝罪を受けると、それをしなかったのはおまえらだ」
「まさかスフィアにも?!」
「ああぁ…お前もあいつに続くんだ」
そこでエマはスフィアがどうなったか確信した。
「や…いやいやいやいあやいやいやいあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
天に向かって一人の少女が泣き声をあげる。しかし、それは誰にも聞き遂げられなかった。
「じゃあ初めていいよ。待たせたね」
「やめ…
どごっ ばきっ どぐっ
ばぎっ ばぎっ どばっ
どすっ ばぎっ どしゅっ
平民クラスの子達、基エマの被害者達がエマを殴る蹴るの音をする。
彼らがエマの顔や体全てに力いっぱいにぶつけていた。
「ぶげらっ!!!…もう…ぶべっ!!!…やめてぇぇえ!がはっ!おねがおうぇ!…します」
そして30分程経った。
エマの顔は腫れ、誰か分からない程になっていた。全身に痣が出来ており、見る人に恐怖を与えるほどだ。
しばらくその行為は続き、どこかの骨が折れる音が空間に響いて、リョウマは終わりを悟った。
彼女の姿は人に埋もれて見えないが、死んだのは確実だとリョウマは思った。
「ご苦労!じゃあ、今から記憶を消すねー」
そういいリョウマは生徒の記憶を消した。流石にこの現状をした事を認識させるのは辛かろう。
代わりに新しい記憶をつける。
「今から王国にクーデターを起こすけど、その後は君たち若い世代が頑張ってほしい。俺ら魔王軍もサポートはするが、自分たちの国だ、自分たちでやってみろ」
リョウマは復讐の後は、後継の育成に力を注ぐつもりだった。そのため、彼らにような苦労をした若い子を欲しがっていた。
(これで残りは一人…道場を継いだいうレンコのみ…)
次はどんな復讐ができるだろう?
「…」
しかし…どこか心が軽くなっていないかいとリョウマは自問する。
「…」
(レンコか)
そんな事を思いながら、リョウマは学園を後にして次に復讐へと足を進めるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋