復讐者、その一撃に全てを掛ける
馬達が刻みよく蹄を打ちながら走る。
その音色を普段は馬に乗らないリョウマは心地よく聞いていた。
ミカロジュの森へと向かうリョウマ達一行の旅。
最初は青春を思い出すかのように駆け足で馬を走らせたが、今は落ち着いて馬をかぽかぽ言わせながら歩いている。
そのまま、一日目は無事に予定していた宿街に着くことができ、まだ旅行感覚で寝泊まりができた。
その夜に改めて、ラフロシアの紹介とメグとレンコにして親睦を深めた。
レンコがリョウマの王国時代の事を話すとラフロシアは嬉しそうに根掘り葉掘り質問をしてきた。
自分を出汁にされるのは恥ずかしいが、チームの輪をのためならいいやと思い、そのまま女性陣の(主にレンコ)のノリに身を任せた。
そして今は二日目の昼頃。
太陽が地面を照らしているが、馬が走るおかげで風が起きて暑くはない。
しかし、この二日目からは次の街との距離も開き、また困難も増す。
魔王国は魔王の善政で他国と比べても国内の交通面や整備は大変良好である。
しかし、魔物はという生物が存在する。
魔物以外にも動物がこの世界には当然いる。
違いは魔力を帯びているかいないか。
殆どはその魔力を反応や動きに費やしている種類がいるが、中には火を噴いたり、水を放つといった属性魔法を使う魔物もいる。
「ぼーっとするしないでリョウマ。落馬したらどうするの?」
すると、側で並走していたレンコが声を掛けてきた。
うとうとしていたリョウマを起こそうとしたのだろう。
「いやー、少し退屈に感じちゃって…魔物でもいたらと…」
そして辺りを見渡すリョウマ。
魔物を事を考えていたのも、少しだけ魔物との戦闘をしてみたいというのもある。
王国の冒険者時代以来魔物を討伐していない。
そんな時に旅をして、見える景色が草原や小さな林が多くある平地。
山とかあれば景色に多少の違いも出るというものだが、先程からずっと同じ景色では目を瞑りたくもなる。
「魔王国はそもそも魔物の数も少ないし、危ないんだからそんな事考えないでよ」
確かにレンコの言っている事は正解だ。
なので、魔王国は安全な国として移住民の数も多い。
多少の制限はしているが、国外の人気は高い国だ。
「まだ序盤だから気を抜かせてくれよレンコ」
いやでも旅の後半になれば気を張る時は来る。
深く考える癖のあるリョウマは意識的気を緩くしようとしているのだ。
「もう…」
そんな風にレンコはため息をついて、改めて前を向く。
先頭で率いている女性に目を向けた。
そこには水色の髪をした長身のエルフであるラフロシアが悠然と一行を先導していた。
「ラフロシアって綺麗だよね」
「あぁ、そうだな」
リョウマのいた世界ではエルフは妖精で神秘的な美しさを兼ね備えていたという一部の伝説もあるが、この世界では本当のようだ。
その長くまとめた髪は風によりさらさらと揺れて、とても草原の風景に映える。そしてその白い肌が太陽に照らされて神々しく見える。
そんな容姿が整った彼女だが、同時にこの国の国家象徴である将軍を担う者だ。
各国にいる象徴、その数は国ごとによって違うが実力あるもにしか任命されない。
そんな彼女の実力はリョウマと同じか上だ。
そして彼女の知識は異世界人のリョウマからすれば英知に匹敵する程に膨大だ。
「ふーん、そうですよね」
「え?」
すると、なぜかレンコがすねた。
「ラフロシアって綺麗だよねやっぱり」
まだすねているレンコを見てリョウマは少し考える
(もしかして、ラフロシアを褒めたのがまずかったのか?)
基本的にしっかりとしたレンコだが、たまによく分からない所でボケる(いちゃついてくる)のでリョウマは苦労している。
(というか誘導尋問だろう)
「いや、ラフの魅力とレンコの魅力は別だからな…めんどくさいからすねるな」
そしてレンコと付き合いの長いリョウマはくだらなさそうにレンコを諭す。
「うん…分かった」
軽く命令口調でいうと彼女は嬉しいのか従う。
少し…〇ゾが混ざっているのではないのだろうか?彼女には
最近…どことのなく俺に付き添うようになった気もする。
そんな事を思っていると前にいたラフロシアが止まった。
「どうしましたか?」
メグがラフロシアに声を掛ける。
「夕立が来そうだから、少し早いが休憩でも取ろうかと思って。」
基本的にラフロシアが旅のペースを管理している。
しかし、どうやって雨が降ると予期したのか。
「なんで雨が降ると分かるんだ?」
リョウマはラフロシアに聞いてみる。
「そこの木を見てくれ」
すると、旅の側に置いてある木を指さす。
「あれはシトシト樹と云って別名で「雨知らせの木」。普段は枝垂れている枝が雨が来る時にだけ上を向くからついた名前だよ」
そしてその木を見るリョウマ。
確かに枝はやや上を向いていた。
「さらにその上がり具合で雨の量も分かるよ。上に行けば行く程少ない量の雨。そしてあまり上がらないなら大雨って感じだ」
丁寧に説明するラフロシア。
彼女はリョウマの教師であった時期もあるが、教えるのが好きなのだろう。
「はい、私も授業で習いました。でもあれってミカロジュの大森林だけのものではなかったですか?」
こちらの世界の教育を受けているメグはラフロシアに聞き返す。
「それで間違っていないよ。あれは友好の証で私がここに来た時に譲ったものの一つだ」
聞けばラフロシアはミカロジュの大森林にあるエルフの集落を率いる長老の娘のようだ。
その者が他国でお世話になるという事で二国間で色々と交換をしたらしい。
「お陰で整備の一環として貢献もしているという事…じゃあ休憩しますか」
「そうだな、頼むよラフ」
そして馬を降りる二人。
「ちょっと!休憩ってどうするの?もうすぐ雨にしても屋根なんてないし、魔法を駆使する時間もないのよ?」
レンコは降りた二人に注意する。
辺りは草原…となると魔法で休憩所でも作るのだろうと察したレンコ。
しかし魔法というのは基本に規模が大きい程、発動に時間がかかるのがこの世界の常識。
発動する人の等身大の大きさまでなら遅くても5分もあればどの属性も発動ができるが、それ以上になると途端に戦闘では使えない程時間がかかる。
今いるのは4人に4体の馬。その分の雨宿りの休憩所を作るのは、もはや魔力枯渇で生命の危機に瀕しる。
「大丈夫だよレンコ。ラフならすぐだ|」
すると道を外れて草原の真中へと向かうラフロシア。
そして片手を前へとかざして彼女は念じた。
≪妖精の東屋≫
そして地面から大きな四本の木を生えてきて、その枝と根が絡み合い、やがて少し小さめの小屋へとなった。
馬が休めるように納屋まであった。
「さすがエルフ。相変わらず植物の魔法に長けてるね」
「別にエルフ全部がこういう訳ではないわよ」
建築したラフロシアをねぎらうリョウマ。
そして、突っ込みを入れるラフロシア。
後ろでは驚くレンコと無表情だが汗をたらっと流すメグがいる。
「ラフの魔力保有量はピカイチだよ。俺も色々習ったけど、大規模魔法だけは参考にならなかったな…そもそも俺は魔力をそんな持っていないし」
「まぁそういう事よ。魔力をいっぱい持っているから、その分早く魔法が完成するのよ」
そういうと、種をとばすラフロシア。
「くっ!」
そしてその種から生えた蔓で縛られるリョウマ。
「うわっ…ラフ、どうした?!放してよ!」
「先生をばかにする生徒は外で頭を冷やしてね」
綺麗な笑みで怖い事を言うラフロシア。
そんな二人のやり取りをよそにメグは正確に言う。
「植物魔法…適性が少ない上、発動が一番かかるとされるあの…」
「リョウマも大概だけど、同じ世界でこんな人もいるんだ」
そしてレンコも続けていった。
「何をぼーっとしているのだ二人とも、早く馬をしまわないと雨来るぞ?」
リョウマ達はその間に馬をしまったようだ。
すると、その言葉を体現するかのように遠方で大きな雲ができてこちらに向かっているのが見える。
「あっはい!」
「今行くわ」
そして慌てて二人は小屋へ
外は段々と薄暗く、遠くでごろごろと鳴った。
「入れて!」
リョウマの叫びが草原に響いたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ざぁーーーーーーーー
案の定、ラフロシアの知識と実力のおかげでリョウマ達は雨を凌いでいた。
この≪妖精の東屋≫の内装は大変落ち着くようにできていた。
木の温もり(まぁ建物というよりは木そのもの)を感じされる床。
そして備え付けのテーブルに四人は座って雨が止むのを待っていた。
「降りましたね」
メグは雨の降り具合が多い事に驚きながら話す。
「確かにね、でお昼はどうするの?こうなったら少し早めのお昼にでもしましょ?」
そういうラフロシアは皆を見る。
リョウマはさっと顔を外へ向ける。
「良かった…中に入れてもらえて、あぁ…俺はあんまりした事ないから誰かに任せたいんだけど…」
メグは引き続き外を見ていたが、窓越しに首がぷるぷるしているように見えた。
「私も…料理はからっきし…」
レンコはおもむろに立ち上がり言う。
「私が出来るわ」
「待て!お前は座れ」
するとレンコが立ち上がったのを強く止めるリョウマ。
「なんで?私ヒカリのお世話もしているのよ?」
レンコは不思議そうに言う。
メグとラフロシアはレンコが珍しくリョウマの意見を遮った事に少し驚いた。
「お前…ヒカリのミルクすら激マズにするだろ」
そう、この女…レンコ・ヤギュウはある意味天性の料理人で、あらゆるご飯を不味く調理できる。
先程述べたヒカリのミルクも赤ん坊用の粉を水にゆすぐだけなのに、沸騰で鍋はこぼすは量を間違えるわで乳母が叱っていた。
そして危ないという事で調理全般はレンコはしない事になっている。
正直、彼女に【残飯料理人】のようなスキルがないのが不思議だ。
「大丈夫!次はうまくいく!」
「それ、飯マズ属性のフラグだからだめ!」
夫婦漫才(夫婦ではないが)をしだすレンコとリョウマ。
それに耐えかねてか、ラフロシアは声を上げた。
「…では私が作ろう、私も多少心得がある」
そして調理場へといくラフロシア。
十分程で料理が出来た。
「はい!自信作だよ。」
そして机に並べられる多くの色とりどりの料理。
確かに色とりどりだ…
その全てがサラダでなければ…
リョウマはその光景に心配になり、一言…確認のために聞く。
「ラフロシア…聞いた事なかったけど…エルフってさ…」
「そうだ!我らエルフは動物の肉は食べないぞ。野菜とたまに魚だ。」
笑いながらいう青髪の乙女。
「さて、食べましょう」
「美味しそう!」
女性陣は嬉しいようだ。
「色々種を持ってきていので、それらを魔法で生やして新鮮で出せるわ。味を楽しんでくれ」
そういいながらラフロシアも食卓に着く。
しかし、この中で一人の男であるリョウマは心に思う。
(肉が食べたい…)
野菜ばかりだからか余計に感じる。
しかし、ここで肉喰いたいと言えば作ってくれたラフロシアに申し訳ない。
(まぁ…途中で魔物の肉とかを食べれば問題ないか)
前までは牛、豚、鳥と云えば通じたが、ここではそれらは魔物として扱われており種類も前よりも豊富だ。
リョウマは道中にそれらを捕まえればいいと思い、彼も食卓に着く。
しかし、彼は忘れていた。肉を食べる上で大事な事をができない事を…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三日目…
再び野菜…魔物との遭遇無し。
四日目…
再び野菜…魔物との遭遇どころか空に羽ばたく鳥の姿しか見ない。
五日目
…他の旅人と遭遇。それとなく干し肉でもないか聞くと無いとのこと…
…彼らを”肉”としようか迷うも理性が勝つ。
六日目
…
そして七日目にリョウマの体に異変が起きた。
「頼む。焼き肉を食べさせてくれ…」
なぜ女性陣は野菜のみの生活で普段通りにいけるんだ?
ここまで肉を断つのはリョウマも過去にはなかった。
リョウマもまさか肉がないとここまで気分が落ち込むとは思わなかった。
「うーんといっても…魔物がいないしな…」
「そうですね…ここまでいないのもおかしいですね」
「ごめんリョウマ…見つけたらすぐに調理するから」
「嫌…レンコのはいいよ」
お腹が空いても断固としてレンコの料理は食さないリョウマ。
彼とレンコのとは何があったのかやら…
「あ!リョウマさん!」
すると前方を見ていたメグが指をさす。
「おぉ!あれは草原熊…熊だがなぜか草を好む熊ね」
そして貴重な事をいうラフロシア。
「そしてその草のせいで肉に臭みはなく大変美味しいとのこ…」
「狩るぞ!!!!!!!すぐ狩るぞ!!!」
そして馬を掛けるリョウマ。
約一週間ぶりのお肉にリョウマは全力でスキルの発動のために意識する。
(肉は殺さないように…!!!)
そして馬から飛び降り、空へと浮かぶ…
あまりの速さにラフロシア達はスローモーションに見えている。
そして、狙われている熊は反応に遅れて、身構えるもよける事ができない位置までリョウマを来てしまった。
そしてリョウマ拳に【英雄】の力を纏い…力を溜める。
「ぐぁ!?」
「眠れ!!!!」
どがぁ――――ん
肉を傷つけない、しかし打撃を満遍なく与えるイメージで力の限りを与える。
さながらもうすでに完結したグルメ漫画のような打撃を与えたリョウマ。
「よっし!」
そして、それに続いてレンコ達も着く。
「うぉーーー肉だ!焼き肉じゃーー!!」
歓喜のあまり両腕を上げるリョウマ。
これで食生活が変わると確信した。
旅という解放感、そして肉への執着で普段の倍ほどテンションを上げているリョウマ。
しかし…彼は忘れていた。
その点を冷静にレンコはリョウマに聞く。
「リョウマ…肉の解体できるの?」
「あ…」
呆然とするリョウマ。
新たな食糧問題に突き付けれたリョウマ一行だった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋