復讐者、彼の冒険はようやく始まる
旅へと赴く数日前
この数日で旅の目的をリョウマ・ジェフ・アマンダ・ルカルド・ラフロシアで明確化した。
まずは道中にある獣人の国の都市 ジュライドという所を向かう。
そこにはスキルについて詳しい人がいるそうだ。
すでに獣人であるルカルド経由で話は通しておくとの事。
それが済み次第、街を離れ、ミカロジュの森へと向かう。
そのミカロジュの森では転移陣を使い、イグルシア帝国へと潜入する。
潜入してする事は二つ。
まずはエスカルバンの事件の顛末で誘拐された者の情報。
誘拐された証拠を握る事で外交でも渡り合う事ができるためだ。
可能であれば誘拐された者の救護もリョウマとラフロシアに一任された。
二つ目はリョウマのスキルである【復讐】。
今リョウマ達が分かっている事はこのスキルが大変万能である事しか分からない。
そのためにもジュライドにもいくが、エスカルバンの事件で出会ったあの白髪の男の言い分だとただのスキルというには考えにくい。
「他のスキルとは違う価値があるのかもしれない」
ラフロシアは皆との会議の最中そういった。
確かに人を操れると思ったら、色々と生み出せるわで強いスキルではあるが…怒りという制限もあるのでいまいちリョウマは【復讐】にそんな価値があるのか疑問視をする。
そんな風に思いながら、リョウマはレイフィールドの正門へと着いた。
「おーい、リョウマ!みんな待っているぞ!」
門へと向かうとリョウマがお世話になっている人達が見送りのために来ていた。
ガモン率いる衛兵団の人々が遅刻してきたリョウマを弄る。
「ごめんごめん」
ルカルドがガモンの意見に対して突っ込みを入れる。
待ってくれていた皆の前に立ち、息を整えるリョウマ。
そんなルカルドはリョウマの顔を見て一言を言う。
「なんか彼女さんにアドバイスもらったかいにゃ?今朝とは違う表情になっているにゃー」
くくくっと笑い声が聞こえそうな表情でルカルドはリョウマの些細な変化を見抜く。
「あぁ、まだ解決したわけではないけど、解決するための道に入ったって感じだ」
少しずつだけど、自分の持っているスキルを受け入れる。
まずはそこから徐々に周りを見て行こうと決めたリョウマ。
その顔は前よりも明るくなっていた。
「それは上々だにゃ。次に会う時はまた戦おう」
そんなリョウマとルカルドは向かい合いながらお互いを真っすぐに見て言う。
「将軍はお前だけになるから任せたぞ?」
「大丈夫だにゃ、何かあればラウラに丸投げするしにゃー」
「ちょっとルカルドさん!そんな無茶振りはよしてください!」
ルカルドの側にいたラウラはそんなルカルドの言った事に対して注意を入れる。
最近、ルカルドに弟子入りしたというラウラ。
元々はリョウマの部下として入ったのだが、その頃よりも顔が引き締まっているように感じる。
何より違うのが目だとリョウマは思った。
前までは王国の貴族であるためか、どこか淑女のような可憐なではあるが人だよりな感じをしていたラウラだが、今は一人の兵士が持つような野望を抱いているようだ。
「あっリョウマさん。これ良かったら道中に食べてください。保存が効く野菜を入れました。」
そういい、手料理なのか瓶詰めされた漬けた野菜をリョウマに手渡すラウラ。
「有難う、ラウラ」
手渡す時に近づかれた瞬間に気づいたら先程までラウラを認識していたにも関わらずに気づかなくなった。
(あれ?)
そしてリョウマが疑問に思って数秒後…
「成長した私も楽しみにして下さい。」
リョウマの耳元でラウラはその女性特有の可愛い声で囁く。
それに対してリョウマは少し慄く。
そしていたずらが成功したとばかりに身を引くラウラ。
「ふふふっ」
「おいラウラさん、あんまりリョウマをいじめないでやってにゃ」
そんなラウラを嗜めるルカルド。
今のが前に少し話してくれた彼女のスキルなのだろうか?
今リョウマの身に起きた事を思い出すと、その効果に彼女の成長が楽しみになる。
「やられたよ、僕の【英雄】とは相性が悪いって事は分かったよ」
「でも、まだ維持がうまくできないのでスキルとしてはまだまだ卵も同然にゃ」
「いや、それでも期待できるよ」
自分だけではない、自分の周りもどんどん変わっていく。そう実感したリョウマ。
「私も渡したいものがあるからいい?」
するとミルダさんが前にやってきた。
「リョウマさん、旅には怪我が付き物です。これは私が調合した回復薬ですのでどうぞ」
ミルダさんはそういいながら、小瓶に入った液体型の薬をリョウマに渡した。
「有難うございます…あれからマリアンさんはどう?」
これからの旅の元凶である事件の被害者であるマリアンの話題を聞くリョウマ。
事件のケアとしてミルダは定期的に問診しているみたいだとガモンから聞いている。
「えぇ、しばらく後になるけど、あなたが勧めた孤児院で働いてくれるそうよ。定期的に会っているのだけど、彼女の息子共々元気にやっているわ。」
「そうか、良かった。」
あまり彼女とは話していないリョウマだが、仕事を紹介した事もそうだが…マリアンに近しい物を感じていた。
彼女の気持ちは怒りはあるはずだ。それでも逝った人の想いを優先して復讐ではなく残された者と共にしっかりと生きて行こうとしている。
それは過去の復讐を成し遂げてしまったリョウマからすればとても尊く感じるものだった。
一方は大切な人との死別、一方は大切な人からの裏切り。
怒る対象が違えど、しっかりと理性を保って行動した彼女にリョウマは何か学べるものを感じていた。
すると群衆の奥からリョウマを呼ぶ声が聞こえる。
「リョウマ、早く馬に乗りな。」
奥を見ると旅の仲間達が馬に跨り、待っていた。
どうやら先に着いていたようだ。
馬にもう乗っている3人は荷物を背負っている。
そしてメグがリョウマの馬を携えて待っていた。
「了解」
見送ってくれた人達の間を通り、リョウマは自分の馬へと向かう。
すると、レンコがリョウマに声をかける。
「リョウマ!行く前にヒカリにあいさつ!」
すると、愛娘が来ている事を知るリョウマ。
「おおぉそうだな」
すると奥にいたのだろうか、レンコとは別の乳母がヒカリを抱えてリョウマに向かう。
「じゃあ、行ってくるぜ、ヒカリ。」
ヒカリに一言だけ言うとぎゅっと抱きしめるリョウマ。
言葉も送りたいが、それよりも感じるものをリョウマは当分会えない娘に授けようと思った。
「あうぁー!」
それに対してとても嬉しそうに笑うヒカリ。
その笑みに癒されて、再び乳母にヒカリを渡すリョウマ。
そのまま馬に跨るとレンコが荷物をリョウマに渡す。
「リョウマさんの荷物はこれです」
「皆、お待たせ。」
遅刻した事を詫びるリョウマ。
「いえ、そんなに経っていませんし、大丈夫ですよ。」
メグが優しくリョウマに言う。
「アマンダとは何かあったの?」
同じ立場だからかレンコはリョウマに探りを聞いてくる。
「まぁな、少し気が和らいだよ」
「そうか、リョウマの気分が晴れたのなら良かった」
リョウマの変化を聞けて嬉しそうに微笑むレンコ。
「じゃあ、私が先導していくから着いてきてくれ」
そして今回の案内人であるラフロシアが会話に入る。
「あぁ、頼むよラフ。」
「あぁ、任された」
ラフロシアは何ともしない感じに頷く。
「では!みんな行ってくるよ。」
「大事にな!」
ガモンが声を掛ける。
リョウマ、レンコ、メグとラフロシアの4人で行くことになるこの旅。
向かうはミカロジュの森。
すると丁度朝日が目の前から出て来た。
「うわ…」
「きれい」
メグとレンコがその光景に感動している。
リョウマはそれを見てこの旅がどうなるか考えた。
ファンタジー世界の魔物との戦闘
魔法とスキルの駆使した戦闘
自分の知らない異世界人とのふれあい
「ようやく異世界らしいぜ」
思えば…前の世界でみた小説。そこでは多くの主人公は異世界を冒険していた。
裏切りやら復讐やらでまだまともな冒険をしていないと改めて思ったリョウマ。
むしろ、今まではそんな事を思う余裕がなかった。
「気を楽に…」
切羽詰まるのは大切だ。メリハリをつけなければ緊張感がない。
でも、それも行き過ぎれば気持ち荒んでしまおう事をリョウマは身を持って知っている。
そのために自分のスキルとの不信感がぬぐえなくなっている。
そこから変わろうと彼自身は思った。
「よし!行こう!」
そう言うと先に掛けるリョウマ。
「あっ待ってリョウマ!」
「私が案内しないと道が分からないだろう」
そしてメグは無口で馬を走らせる。
レンコ、メグ、そしてラフロシア。
今回の旅の仲間たち。
奇しくも冒険者時代と同じ男女比だ。
そんな周りに思う所があるからかリョウマは思う。
(やりなおしの意味もあるのかな?)
仲間が増えるかもしれないが、それでもどこか既視感がぬぐえない。
まるでやり直しをさせてもらっているみたいだ。
(ミカロジュ…そしてイグルシア、なんとしてもあいつらにスキルの謎を聞かなきゃ…)
自分らの国を害した事についてもそうだし、俺の【復讐】についても何か知っている事をほのめかしていたあの男の行方。
それを得るために今男が旅へと出る。
「一路、ジュライド、そしてミカロジュの森へ!」
◇
思い思いに皆、別れの言葉をそれぞれに向けた見送り組は、その後静かに解散した。
ヒカリを抱いていた乳母はそのままガモンとミルダと一緒に魔王城の方へと戻った。
そんな中、最後まで見送っていたのはルカルドだった。
「いったにゃー」
ぼそりとルカルドがぼやく。
今回の留守で一番大変になるのは彼だろう。
他の将軍がいないのだから。
(留守は預かったぜ、リョウマ…あとラフ。)
同じ将軍として才女であるラフはあまり好きではないが、まぁ二人に留守を任されたとあればやぶさかではないとルカルドは思う。
「じゃあ、ガモンち、仕事に戻るにゃー」
「了解です、ルカルドさん。」
歳はルカルドの方が若いが、立場が上のルカルドには敬語を使うガモン。
(そういう意味ではあいつは昔から分け隔てがなかったなー)
己の好敵手に対する感想を思いながら、少し寂しさを感じるルカルド。
「それではルカルドさん、これからもよろしくお願いします。」
すると、ラウラが側に来る。
彼女の親友が最後に言った言葉を思い出す。
「ラウラ…帰ってきたらよろしく」
恐らくだが、二人の仲である約束があるのだろう。
それはお互いの成長を見せる事なのか将又色恋の範囲なのか。
どちらにしろ、それを若いながら他の人と繰り広げられるのは若さの素晴らしいとする所。
「…いや」
思わず言葉で否定するルカルド。
若さなどという言葉は言い訳だ。それを言うなら自分も十分に若い。なのにこんな言葉を漏らすとは…
「どうかしました?」
ラウラが不思議そうな顔でルカルドを見る。
「いや、ラウラの新しい修行が浮かんでねー、あまりに残酷だから”いや”って…」
「なんか恐ろしい事考えていた!?」
そんな冗談を口ずさみながら師と子は歩く。
そしてそれは旅に向かったものもそうだ。
(にゃにゃ♪うかうかしてられん。)
やる事はいっぱいだと改めて感じ、しかし、やる気も過去以上に浮かぶ。
そして、ルカルドを含めた皆がそれぞれの場所へ戻ったのだった。
それぞれの立場で街を、国を、そして己を研鑽するために。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋