復讐者、これまでとこれから
時間と場所は早朝のレイフィールド
城下街はまだ薄暗く、そして、静かだった。
早朝から働く人の影が見受かられる。
そんな魔王国の都市…レイフィールドの北の方では山がある。
魔物も危険度は低いながらも、その数は多く生息しており、力のない一般人は足を踏み入れてはいけない所だった。
そんな森で二人の男が戦っていた。
ドゴォォォォン……
バゴォォォォン……
木々が倒れる音を響かせながら、鳥達はその騒音の元凶から飛び立っていく。
黒髪を短くした青年と猫の様な獣人が対峙していた。
「たくっ…加減してくれよ」
ルカルドとリョウマのはお互いの動作に気を付けながら次の手を考えていた。
「それは難しい話だにゃ」
「あっそ!」
先に動いたのはリョウマだ。
(≪大地の腕≫!!!)
リョウマは脳内で思い浮かべた物を名前と共に連想させて具現化する。
大地に左右の腕の形を生み出し、それをルカルドへ掴みかか様に操る。
しかし、それをルカルドはなんなく飛び越える。
器用に土で出来た腕を使い、空中へと昇る。
「ほい!」
そして手に持っていた刀…といってもククリ刀の様な楕円のナイフで見事に土へと還す。
「魔法除去か…」
「無属性魔法は便利だにゃ、リョウマも【英雄】なんかに頼らないで魔法を極めればいいにゃ」
この世界には魔力と魔法が存在する。
魔力は大きく分けて二つある、
体内にある体内魔力を生み出すか、
空気中に漂う体外魔力(自然魔力ともいう)を扱うかの二択だ。
この魔力をそれぞれの想像上の産物に具現化する事がこの世界の魔法だ。
この世界の魔法は適性が存在しない。
誰しもが、あらゆる魔法を学びさえすれば発動、そして行使ができる。
ただし、魔法の会得までは個人差がある。
長い人は一生かかる人もおり、その原因はまだ解明されていない。
そして一方で、体内魔力は生まれつき量が決まっている。
そして体内魔力が少ないものは、体外魔力をうまく行使できない場合が多い。
そういう意味では魔法使いになるための向き不向きは存在した。
「俺は体外魔力を中心に使っているんだ。そのため魔法を多く行使ができない」
そのため、色々応用が効く土魔法を中心に勉強したリョウマ。
「そうなんだにゃ、やけに土魔法を使うから愛着があるとばかり思ってたにゃー」
そういいながら、持っているナイフを投げつけるルカルド。
「あぶな!」
慌てて避けるリョウマ。
今リョウマは旅へと出る前の最終的な準備としてルカルドと一体一の実戦訓練をしていた。
「遅いよーリョウマ―。はい、二つお見舞いするにゃー」
そういうと、ルカルドの前に火の玉が二つ出てきて、そのまま猛スピードでリョウマへと向かう。
「≪邪魔くさい炎≫」
ルカルドは声に出していった自分が出した炎の玉の技名をいった。
「くっ!!」
いらつく&気になる名前だが、それもルカルドの術中だと決め無視し、火の玉はを殴って対処するリョウマ。
勿論、素手でやれば大やけどになる行為だ。
「【英雄】の効果かな?いいねー、英雄に相応しい雄々しい戦い姿だよ。」
ルカルドの分析通り、【英雄】の効果で焼けるよりも、手の回復を高めて消したのだ。
魔法を捨てて、スキルを極めたからこそできる芸当の一つだ。
「でも、そんなのは工夫すれば誰でもできるにゃ、それ!」
すると、彼の後ろが突然爆発する。
そして、目線の先にいたルカルドが消えたように見えるリョウマ。
「はっ!どこだあいつ!」
辺りを見渡すが、どこにもいない。
それならと相場は決まっているという物。
「上か!」
「と思わせて…時差で後ろだにゃー」
真上にいただろうルカルドは小さな爆弾で無理やり落下の軌道を変えた。
そしてリョウマの後ろへと行き、そのままの勢いを殺さずに、流れる様にしてリョウマの背中に蹴りを加える。
「ぐはっ!」
今度は離れていた所にいたルカルドは急にリョウマの後ろへと飛ぶ。
「一本!また俺の勝ちにゃー、リョウマ。」
ルカルドは勝気な顔でリョウマを見下す。
別に一本制ではないが、仮に今のが剣とかならリョウマは死んでいた。
戦闘態勢をお互いに解く。
ルカルドの方へと目を向けるリョウマ。
そこにはやってやったぞという気持ちが見て取れた。
リョウマはしばらくの戦闘で疲れたのか、地面にうつ伏せになる。
「はぁーはぁー!」
この訓練の結果はリョウマの負けのようだ。
リョウマもめずらしく息を整えながらルカルドに聞く。
「どうだった?」
「うーん、全然ダメにゃ…中級者なら勝てるけど、格上…俺ら将軍みたいな他の象徴だとどうしてもスキルをある程度使わなきゃ厳しいだろうにゃね」
この戦闘ではある枷をリョウマは己に科していた。
仲間内では彼の代名詞であるスキル【復讐】の未使用。
彼の中である懸念が生まれて【復讐】を使わない事でルカルド程の強者と戦う事でどうなるか実践したのだ。
「【復讐】は使えにゃいのか、リョウマ?」
「あぁ、戦闘以外では使えるんだけど、戦闘だと使えなくなる」
「まぁ大きな原因は…多分そのスキルを手にする時の復讐が終わっている事だにゃー」
ルカルドは己の分析結果を話す。
リョウマはルカルドの言っている事に納得する。
確かに…仲間だったスフィア・エマ・レンコへの復讐を終えてからこのスキルをうまく使えていない気がしてならなかった。
「まだ生まれたばかりのスキル…まだ効果ができっていないのかもしれない」
「出来ていない?」
「スキルが発現した時に頭の中で大まかにできる事が流れてくる分かるにゃ?」
「あぁ…確かに」
「そうにゃ、でもそのスキルが具体的にどう使えるかは、そのスキル保持者がどう使うか所が大きにゃ」
「だから、スキルを使って間もない時はその効果の範囲が広いにゃ」
てっきりスキルの効果は決まっていると思っていたが、メグに教えたようにリョウマもまだ可能性があるのかもしれない。
「そのスキルをどう使うか決めた時にそのスキルの真価は発揮されるんだよ」
「……なるほど」
リョウマ何か思案する顔で考え事をする。
「人によってスキルは感情によって大きく左右されるからにゃ…一応ミカロジュまでにある程度定めないとイグルシアの竜の野郎に勝てるとは思えないにゃよ」
ルカルドはリョウマに注意を送っておく。
「目下、この任務で一番辛い所だろうね。まぁそこは旅でどうにか対処を見つけるよ。できるだけ魔物も道中で討伐して勘を取り戻すようにするよ」
リョウマはそういうと立ち上がり、魔王城の方へと戻る。
「そろそろ戻るわ。旅の準備もあるしな」
今日の昼には旅へと出る。
悩む問題は先回しにしようとリョウマは思っていた。
難しい問題は未来の自分が解決するだろうという思いがあるためだ。
「あ、手紙は出していたから」
「おっ!助かるよ、これで俺のスキルについて何か分かるかもしれない!」
そして、男二人は魔王城へと帰っていった。
(さて、アマンダの所に向かわなきゃな…)
旅へと出る前だから時間を作れと言われていたのだ。
出発の直前になったけど…許してくれるかなとリョウマは思う。
そんな戦々恐々とした思いで、待ち人がいる魔王城へ一歩一歩進むのだった。
◇
出発の直前。
リョウマとアマンダは二人で時間を過ごしていた。
最初は怒っていたアマンダ。
時間を作れといって出発の直前になったのだ。彼女が起こるのも無理はない。
「後、外が騒がしかったけど…」
「あぁ…ルカルドと一緒に訓練してたんだ。」
そして、そこであった事を言うリョウマ。
それを興味深そうに聞くアマンダ。
最近は一緒に居る時間を作れなかったので色々と話をした。
毎日会っているが、お互いの立場や周りに人がいたためにこうして二人きりになるのは久しぶりだ。
そして話はリョウマの【復讐】の話になった。
「そう…だから【復讐】が使えないのね」
「あぁ…元々好きなスキルではないけど、使えないと分かると不便だよ」
今は二人でアマンダの私室で隣り合っている。
すりすりとアマンダがリョウマの肩に寄ってくる。
それを普通に受け入れて、頭…正確には髪に隠れている彼女の小さな角を撫でて感触を楽しむ。
リョウマからすればかなり年上だが、こういう行為を許してくれるのでにどこか心がくすぐられる気持ちになる。
原因も一通り話したリョウマにアマンダは答えた。
「あなたがかつての仲間へ復讐する時、私は止めなかったの覚えている?」
そう言って、あの再び傷だらけで魔王城に戻ってきた時を思い出す。
確かに止めていなかったとリョウマは気づく。
「多分…普通なら止めるのだろうけど、その“普通”よりも私はあなたの意思を尊重したかったの。…この世界に来てあなたが初めて自分でしたいと言った事だから」
勿論、アマンダ個人の考えとしては自国のために王国に制裁を与えなければいけないと常々思っていた。
小競り合いがここ数年続いており、それは王国の貴族優位のための行いために有能な平民を戦に駆り出していたのだ。
そんな不条理をそのままにするのは人として許せないし、何よりそれで傷つくのは魔王国側の民も一緒だ。
しかしリョウマが来るまで王国との全面戦争には発展しなかった。その理由は単純だ。
戦争をする事を彼女が好まなかったからだ。
代わりに対話で何回も、時には極秘に王国の民を移民として扱い、魔王国に招いていた。
王国もそれには気づいていたが、国から自分達に害をなす平民を追い出す事を目的にしていたために黙認していたのだろう。
そんなわけで、解決をしないまま、長年魔王国と王国の歪な因縁が続いた。
しかし、そんな因縁も魔王の私情で覆された。
「確かにこれまでの様に【復讐】は使いにくくなっているかもしれない。でも、スキルは生まれた以上決して無くなったりしないのよ?どうしてか分かる?」
突然な話題を言うアマンダ。
「人の性格は絶対に無くならないのよ。なぜなら性格はその人の命の色でもあるんだから」
「性格?」
「うん、生き様でも思想でもいいわ…とにかくそれらとスキルは一緒。使わなくなってもずっとあなたの心には残り続けるのよ」
よく人が使う例えで「よく性格変わったね」というのがあると思う。
しかし、それは間違いではないのか。
例えば、性格が変わっても元となった性格や人格は必ずその人の糧として残っている。
変わったのなら残らない。その変わったものが別の何かに摩り替わっているいるのだから。
「リョウマはまだここに来て間もないのよ。悩んでいる事に苦しんでいるけど、そのまま悩んでいいの。答えに焦らないで…そして自分の答えを見つけてほしいの」
アマンダは笑顔でそして説得するように話す。まるで母性のあるお姉さんだとリョウマは感じた。
「あなたの復讐は終わったの、じゃあ次はどうする?今後はそれを模索しよう」
「なるほど…復讐の経験を糧にどうやってスキルをうまく使いこなすかか…あの復讐を反省するのか…」
リョウマはどこか復讐に対して悪だと思っていたのかもしれない。
しかし、それは思い違いかもしれない。
エマやスフィアと知り合った事で人間の闇の部分を見れた。
そして、そうはならないと思った。
それはある意味では彼女達に出会えてよかったという事なのではないのだろうか?
(あいつらか…)
もしまだ生きていたらという複雑な事を思うリョウマ。
しかし、それは自らで手を下したのだから考えてもしょうがない事。
「それにスキルだけじゃない、この世界では魔法を始めとする色々な術や力があるのよ。それも旅で勉強してきて、そして帝国のやつらに痛い目合わせよ!」
アマンダは目を細めながら微笑みをリョウマに向ける。
それにリョウマは有難うという気持ちを込めながら抱く。
「きゃっ!」
突然の彼の行動に少し驚くアマンダ。
「有難う、アマンダ。おかげで気持ちが楽になった。」
解決はしていないけど、少しだけ進もうとする気持ちが彼の中で芽生えた。
「でも…国家象徴が国に滞在しているのが一人でもいいのか?」
「まぁ…国家象徴だから減らしても問題はないかな…仕事しないし…」
この世界では様々な国にその国を象徴する存在がある。
それを国家象徴とこの世の人は呼ぶ。
魔王国では三大将軍がそれに該当する。
共通しているのは王族や市政者ではない事。そして戦闘や特殊技能に長けた者。
「ある程度の情報を得たら帰ってくるんだよ?旅の最中はいいけど、帝国では暴力行為もほしないようにしてほしいわ」
アマンダはリョウマの目を見て言う。その目は真剣そのものだ。
「リョウマが来てから、色々と厄介事が増えているからね」
「人をそんな疫病神みたいに言わないでくれ…」
リョウマは残念そうにアマンダに言う。
「だって…リョウマが来てから国一つ潰れるし…。これ、ここ数百年はなかったのよ?そんな事を起こした中心人物に注意するのは影の婚約者であり、一国王として当たり前だと思うわ!」
そう元気にいい、アマンダは続けた。
「だから…無事に帰ってきてね。」
心配そうにアマンダはリョウマを見つめる。
「あぁ…」
リョウマは返事を返す。
「後…一応ラフには注意するように」
アマンダはジト目でリョウマに言った。
先程までの甘い空気が台無しだ。
「えっ?なんで?」
リョウマは訳が分からないとばかりに聞く。
ラフロシアはアマンダの方が付き合いが長いはずだ。
「彼女…前に私がミカロジュに行こうとした時に誘ったのだけど、断ったのよ」
「そうなの?」
「で、今回は二つ返事で行くでしょ?何かが隠している気がするんだよね…」
「ただ、里帰りしたかっただけかもよ?」
リョウマの中でのラフロシアのイメージはちょっと天然なお姉さんだ。気分屋でもある彼女だから割と適当な理由だろうと予測する。
「…女の勘よ」
リョウマに聞こえない声で言うアマンダ。
アマンダは彼の適当な所を気に入りもしているが、それが周りに心配をかけている自覚を少しは持ってほしいと思う。
「え?何?」
リョウマはそんなアマンダの思いを知らずに聞く。
「何でもなーい、まぁ多分リョウマが迷惑する事はないと思うから、気持ちいい事には合わないでね」
(いざって時はレンコがいるから最悪な事態はさけれるでしょう)
こんな風に彼を心配する裏では女の黒い計算が企てられていた。
「気持ちいい事?まぁ注意しておくよ」
とりあえずリョウマはうなずいておいた。
すると、時計を見るアマンダ。
「もう時間じゃない?」
「あっやべ!じゃあ行ってくるよ!」
焦りながら外へと向かうリョウマ。
「いってらっしゃい」
アマンダはそういって別れを告げた。話そうと思えば念話でも話せる。
それよりも、こうしてしっかり言葉で別れを告げておきたい。
恐らくだが…これも女の勘でしかないが、彼はこの旅でまた成長するだろう。
想い人の成長を期待しない女はいない。
そして、それを止める女も。
リョウマは旅のメンバーが集まる城下町の門まで駆け足で行く。
(まだ私に…彼の闇を見せてくれないか…)
嬉しい表情は変わらないが、どこか先程にはなかった影を出すアマンダ。
(まぁ、私は見守る存在、手を出すのはあのコに任せるわ)
ふと、横の…リョウマの座っていた位置に目を置く。
そして手を当て、まだ暖かい彼の体温を感じる。
それはとても暖かく…まるで彼の心を表しているとアマンダは思った。
そして次第に彼女の影はどこかに消えていったのだった。
(リョウマ、どうか無事にね…)
そんな想いをリョウマは思われている事を知らずに門へと走る。
そしていよいよリョウマの異世界冒険が始まるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋




