復讐者、悩みを打ち明ける
夕日が眩しい時間帯。
城下街に働いていた人達がそれぞれの家へと帰宅する。
それらを照らすかのように、魔王城から見える夕陽は彼らを照らし、その景色はとても幻想的に写った。
「ふぅー」
戦闘訓練を終えたメグ。
段々と彼女の持つスキルのひとつである【大喰らい】を使いこなせるようになった。。
おかげで敵の体力を吸う力を意識的に使いこなせるようになってきた。
そんなメグはどこか気持ちが落ち込んでいた。
(このままでいいのかな)
この前のエズカルバンの事件で自分は何もできなかった事を引きずっていた。
メグはレンコに助けられるまで気絶をしていたし、何より直接的に被害を受けてはいない。
なので、気持ちを落ち込ませる事はないと思うかもしれないが、彼女は違った。
(私がいなければ、死んだ人は助かったのかな…)
今回はリョウマの機転で、アジトが発覚してすぐ現場に向かわれた。
しかし、レンコとラウラが分かれ、それぞれの敵と相対する必要があった。
そこを本来はヒカリ…果ては自分の身を自分で守っていれば、今回の事件の被害者を無くす事ができたのではないかと彼女は考えていた。
(こんな気持ち…初めて)
そもそも彼女の記憶の中にはエスカルバンの時よりも辛い思い出があった。
貴族の生徒が自分をぼろ雑巾のように扱わう日々。
助けを求めようとも、味方してくれた先生はクビになり、貴族側の先生には黙認されたりと未来の見えない生活を味わった。
しかし、それとはまた違う先の暗さを今彼女は体験していた。
自分の行動のせいで誰かが死んでしまったという後悔
そして、それが自分の注意の至らなさと実力不足という点
改めて自分の立場を思いだす。
今は何もできなかった学生ではないのだと。
魔王国三大将軍の一人、リョウマ・フジタの部下であり秘書なのだと。
リョウマからたくさんの物を貰った。
私が敵わないと思っていた学園の人達を葬った事実。
そんな人の元で自分を変えたいと思い、彼の住む国に移住してきたのだ。
しかし、時間が経てばどうだ。運よくリョウマの元で数か月が過ぎたが、何も変わらない。
最初は仕事が出来る事で重宝された。
言われた仕事を淡々とこなした。
それで同僚のラウラには仕事面では尊敬された(生活面では完敗だが…)。
しかし、それも時間が経てばそれは誰でも出来る事。
そんなもので内心誇っていたという自惚れに恥ずかしさが込みあがってくる。
(…部屋に帰って寝よ)
何か心の中で整理がつかない時は寝る事にしているメグ。
帰宅準備をして、訓練場から自分の部屋へと帰る。
そんな帰り道で歩いているとある人物に出会う。
「あら?リョウマと一緒にいた子ね」
三大将軍の一人、ラフロシアだ。
ラフロシアはメグの事を覚えていたのだろう。
彼女はメグに挨拶をした。
「初めまして、私はリョウマ様の秘書を務めていますメグと申します。前回は将軍であるラフロシア様に挨拶をせずに申し訳ありませんでした」
「そんなに固くしなくてもいいわ。ここは魔王国、君のいた王国のような貴族制度がない国よ」
ラフロシアはしっかりと挨拶するメグに少し笑い、緊張を溶かす。
「メグ、今日はもう終わりかしら?」
「え?はい、今から部屋に帰ろうとしていたのですが」
突然、自分の予定を聞かれて驚くメグ。
「リョウマについて聞きたい事があるんだけど、時間はあるかしら?」
先程、リョウマとのコンプレックスを思い出していただけに即答ができなかった。
「…えっ…あ、はい…いいですよ。私の部屋に近いので、そこでもよければ」
「有難う、助かるわ」
優しい微笑みで返事をするラフロシア
(綺麗…)
あまり色恋には興味のないメグも、同性ながらラフロシアの種族であるエルフの特有の美貌偏差値の高さでたじろぐ。
そして二人はメグの部屋へと向かった。
◇
メグは一通りラフロシアに彼女の知るリョウマのについての話をした。
出会いの話では虐められている時に救世主のように出てきた事。
その時は普通の青年印象だったが、学園での復讐劇を創った事に驚嘆した事
そして、助かったお礼をしにきたら、秘書として雇ってくれた事。
そして部下として一緒に仕事をしていく内に、ますます普通な青年だと感じるも、時々見せる先生っぽさにどこか魅力を感じる事。
(…少し好きとかそういう話に発展したらめんどくさいな…)
リョウマの事は人として好きだが、異性としての好きはないメグ。
どうせなら自分とは反対の…陽気な人が好みだ。
もしもリョウマとくっつく様な事があれば…想像したくないとメグは思う。
敵が多すぎるのだ。
「なるほど…そんな事があったのね」
「はい、王国との戦争…といいますか、一方的な蹂躙撃の最中にリョウマさん自身には色々していたみたいなのですが、私が直接知っているのは学園の時の強襲だけです」
「いいわ、とても助かるわ」
ラフロシアは嬉しそうに言う。
ラフロシアを口数と表情を出さない人だとメグは初対面の時に感じたが、リョウマの事だと感情が表にでるようだ。
「ラフロシアさんってリョウマの先生をしていたのですよね?」
メグがリョウマの過去を少し聞いてみたいと思い、今度は自分が質問を返してみた。
「えぇ、そうよ。正式には教育担当としてリョウマにこの世界の常識や魔法を教えたわ」
「その時はどのような感じだったのですか?私が知ってるリョウマさんと違ったりしますか?」
自分の尊敬する人がどのような学びの姿勢でいたのかは気になるところ。
「そうね、少なくとも復讐をするような子じゃなかったわ」
「元々彼の世界は高い教育水準を布いていたみたい、で座学は城でも仕える事ができるぐらいにあった。魔法も彼には資質があったのと、強い興味があったからすんなりと上達して一年で熟練者に匹敵する程の魔法をくりだせるようになったわ」
「ただ、彼が一番苦手…苦労にしていたのは、この世界の文化や価値観についてよ」
ラフロシアは少し申し訳なさそうに話した。
「内容は理解しても、納得はしていなかったわ」
メグを見て、ラフロシアは聞いてきた。
「例えば、奴隷制度がある国をメグは知ってるわよね」
この世界には奴隷制度がある。魔王国でもレイフィールドにはないが、遠い町や村では奴隷がいて労働に励んでいる。
「彼は納得していなかったわ」
それを聞いて、メグは瞬時に理解できなかった。
「メグはどう思う?」
そんなメグにラフロシアは話題を振られる。
「え?貧しい人が生きるため職業斡旋所という認識でしたけど…」
「えぇ、そうね」
なんか生徒と先生みたいと思いながら、メグは続けた。
「良くない環境も確かに存在しますけど…そういう環境があるとしか思っていませんでした。もっと言えば、考えた事がなかったですね」
「そうよね。自分と関わりがなければ、人は大概無関心だと思うわ。私もそうだったように」
確かに悪い考えもあるが…それで助かる場合もある。
メグはその被害に遭わなかったが、知り合いの村とかで身売りをして家計を助ける娘や息子がいた。
それがメグの様な既存の制度の無関心へと発展していた。
なので、メグやこの世界の人は奴隷制度を嫌うものはいても、否定する者は少ない。
「でも、彼と彼の世界は違ったみたい」
「彼の世界では奴隷制度及び人身売買は国際的な法律で禁止されているみたい。そして、貧困で身売りを選択肢としてあるのがそもそも間違いだと彼は言っていたわ」
「…」
考えた事もなかった答えを言われる。
口では簡単にいえるが、実際に体験してみると、何とも言えない気持ちになる。
「だからだけど、私は面白かったわ」
「え?」
するとラフロシアは嬉しそうに話す。
「リョウマにこの世界の事を教えるをよ。だって教えながら、私の持っていた常識をどんどん覆してくれるのよ」
教育担当を務めただけに、知識豊富なのであろうラフロシアはその壁を壊してくれる存在を嬉々として喜んだ。
「その価値観や文化が段々と彼に馴染んできて、彼の普通だけど…どこか常識を外れの行動の原動力なのかもしれないわね」
確かに普段は普通な青年…悪く言えば地味な男なのだが、怒りが頂点に達すると味方には脅威を敵には恐怖を移す行動に出る。
危うい青年だ。
「そんな生徒を持って、長い人生の中で私は最高に満ちていたわ」
教室で…リョウマとの講義でどのような雰囲気だったかは分からないが、リョウマからは女と男の関係は出されなかった。
しかし、今のラフロシアからは少しだけそれを感じた。
「ラフロシアさんはリョウマの事が好きなんですか?」
「…」
すると、メグの予想を遥か上回る速度で返答が来た。
「まず、今は私とあの子は生徒と先生のような関係。だから、あんまり期待されても…そういう甘酸っぱいものにはならないわ」
微笑みを持ってメグの質問の答えを返す。
段々と自分が言った質問が場違いだった事を認識する。
「失礼致しました!上の者に失礼な事を聞いてしまいました」
「いいのよ、彼という人間に興味があるのは認めるわ。でも、そういう話題は私あまり好きじゃないからあまりふらないでほしいわ」
ラフロシアはそういって、席を立った。
「じゃあ話も一通り聞いたから、帰るわ。今度の旅は私、けっこう楽しみでもあるの。初めて生徒と行動を共にするんですもの。メグもくるのよね?」
「はい、こちらこそよろしくお願い致します」
「えぇ、よろしくね。今日は有難うね」
「はい!」
そういい、ラフロシアはメグの部屋を後にした。
ラフロシアを見送った後、メグはラフロシアの言っていた事リョウマの事をいう。
(価値観や文化を納得していなかった…リョウマさんが…)
そんな感じには見えなかったが、彼の中ではいくつもの葛藤があったのかもしれない。
それが溜まりにたまってあの戦争の引き金になったのかもしれない。そして彼のスキルも…
(あれ、でも…)
もしも価値観や文化に納得していないのなら
(どうして、あんなに周囲の人と仲良くできているのだろう?)
(どうして、苦しい環境なのに、普通な青年でいられるのだろう?)
メグは学園でいじめにあっていた。
だから、不思議でしょうがなかった。
周りが嫌な環境に身を置いている時の絶望と孤独感を。
そんな心情をメグは己の体験から疑問に思った。
(…でもリョウマさんだから、どうにか乗り越えたのかも)
そう考え、彼女は考えるのを終えた。
もう夕陽は沈み、窓をみると夜が来ていた。
しかし、まだどことなく昼間の暑さが残る夜だった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋




