復讐者、教えを説く
第二章の開幕です。
「さて、どうしようか…」
リョウマは魔王城を歩きながら考え事をしていた。
手には大陸の地図を持ち、ここから目的である帝国までどうやって向かうか考えているのだ。
先日、イグルシア帝国への密偵の任を任されたリョウマ。
そのための詳細も戴き、旅支度をと思い旅程を組もうと地図を広げたが…どうのように向かえばいいのか悩んでいた。
それもそのはず、リョウマはランドロセル王国とこの魔王国にしか足を運んだことがない。
どうしても誰か…地理に明るい人をチームに入れなければいけない。
しかし、それを誰にするかが悩ましいところ。
帝国への入国…するための旅路へと赴く。
まずはレンコとメグは連れていく事は決めていた。
理由は顔立ちだ。
どうやら帝国はリョウマような俗にいう東洋系の顔が多くいるそうで、馴染むためにも似た顔立ちの者を派遣する事に魔王との会議で決まった。
今も横にメグを携えて、とある人物の元へと向かっている。
今回の旅路では直接向かうとその間に多くの国を通らなければいけない上、長い道のりになる。
そもそもこの世界では外交はどうしているのか?
毎回、長い間国を留守にしていれば、簡単に外交を行う事するままならない。
飛行機のある世界で育ったリョウマの世界ならいざ知らず、国同士の戦争や小競り合いや魔物がいる世界で長期の旅は地獄の旅路だ。
リョウマは過去にその点に関して疑問に持ち、その事情を聞きにアマンダに聞いたら、最な答えが出た。
「エルフの集落があるミカロジュの森に向かうのよ。あそこには転移魔法陣があって、どこにでもいけるのよ。その旅路なら大体二週間もあれば着くかな?」
ミカロジュの森
この大陸において最大の森だ。そこにはエルフ族が住んでいる。
エルフは魔法と自然の知識が豊富で、その力を使って国ごとの移動の補助を任されている。
そのため、立場は中立だ。そうする事で彼らは彼らでの文化を守り、その地位を確立していた。
森の中では方角器が一切使えないので、ここに入るには案内人を連れていく必要がある。そこでリョウマはその案で向かう事にし、最初に必要である案内人の元へと向かった。
「ですが、あまり乗り気ではありませんね、リョウマさん」
メグは少し様子がおかしいリョウマを見て気にする。
「あっ嫌、少し気まずい相手なんだ…これから会う人はさ…ははは」
そんな話をしながら、目的の部屋の前に着き、その者の部屋の扉を叩く。
「どうぞ」
短い返事だったが、女性だと分かる声だ。
「おじゃましまーす」
リョウマは緊張してに中へと入る。
部屋は研究所を思わせる風貌で、物は綺麗に整えられていた。
そして中央にはソファとテーブルが用意されており、リョウマの求めていた人物はそこで優雅にお茶を飲んでいた。
…湯呑で
ずずずずず…
リョウマの価値観ではエルフとは洋物のカテゴリに入るが、それが和風の食器を使っているのは何とも言えない微笑ましい気持ちになる。
「久しぶり、ラフ。今回は頼みがあってきたんだ」
ラフロシア・ステュアート
このエルフの女性は口から湯呑をはずして、リョウマからラフと呼ばれているみたいだ。
「リョウマか…久しいな、今回はどういった要件だ?」
水色の髪を長く伸ばし、その体形はエルフだからなのか…美術品を思わせる程に気品に溢れていた
。
今はリョウマが見下ろしているが、身長も女性にしては高く、リョウマの同じぐらいだ。
リョウマはいつになっても彼女のエルフとしての特徴である長い耳を見てしまう。
「お前が国を離れている間に、俺は帝国への調査を命じられたんだけど、ミカロジュの森に向かう必要が出来た。その案内をしてくれる人を今探していて、ラフはどうかなと…」
「なるほど、それで私か」
ラフロシアは納得したように腕を組む。そしてその大きそうな胸は少し形を変えた。
「あぁ、ラフの出身は確かミカロジュの森なんだろ?ラフなら戦力としても申し分ないし、丁度いいと思って頼みたいんだ。都合は着くか?かなり長期になるけど…」
実は目の前のラフロシア、ルカルドと同じ将軍で、エルフとその他の人種のまとめ役として君臨している。
戦闘力はルカルドやリョウマと同じぐらいとの評判だが、さらに彼女は豊富な知識を持っている。
趣味にしか興味がないため、あんまり貢献はしていないがきっと彼女の知識はとても大事になる時が来る。
「確かに私は森の出だ。それにあそこの転移紋関係で知り合いがいるからな。いいわ。丁度里帰りをしようと思っていたから私もリョウマと行くわ。リョウマとの旅行なら楽しそうですしね」
ラフロシアは嬉しそうに言った。
「いつ頃からならいけそう?」
「そんなの他の者に任せればよいが、まぁ一週間かな。将軍は言わば象徴。本来の仕事はあってないようなものよ」
これはまたルカルドと同じ事を言うラフロシア。
「なら、メンバーの集会と旅路の相談を明後日、そして次の週には出ようと思うから準備をしてくれ。」
「了解、ふふふっ、最近誘いに乗らなくなったね、また今度一緒にお酒でも飲もう」
妖艶な笑みで、ラフロシアは髪を弄りながらリョウマに提案をする。
「はいはい、お前が潰れなければな」
そういい、リョウマは部屋を後にする。
部屋に残るラフロシアはリョウマがなくなってしばらくした後にまたじっくりとお茶を飲むのだった。
◇
「良かった、了承してくれたよー」
リョウマはほっと一息をついてラフロシアが了承してくれた事を喜んだ。
「どこが苦手だったのですか?将軍のラフロシアさんだったのは驚きましたが、それにしてはとても友好的でそこまで気まずくお会いになる方ではなかったかに思うのですが…」
メグはそういい、なぜリョウマが気まずい雰囲気を出していたのかを聞いた。
「ラフロシア…ラフは俺がここに転移してからの知り合いの一人でまだこの世界の事をよく知らない時に色々教わったんだ。先生的な?よくしてもらったのだけど、その後も結構食事とか訓練や果ては学会の論文を見てほしいと誘われていてな。最近断り気味だったから…気まずかったのだけど、見た感じそうでもなかったから良かったよ」
転移して初対面の時にはあんな美人なエルフはいないとばかりに目をかっぽじってみてしまった恥ずかしい過去は言わないでおく。
今はアマンダとレンコの件で男女関係はもういっぱいだから、あまり他の女とプライベートで会うのはまずいとリョウマは思っているのもある。
「へぇー、そうなんですか」
メグは相変わらず単調な返事をする。
感情が乏しい彼女だが、改善はできているのだろうかと心配するリョウマ。
「そういえば、メグのスキルを確認しなきゃな。次の要件まで時間あるし」
メグを連れていく以上、ある程度の戦力として扱わなければいけない。
そのため、メグのスキルの戦術指南をする事をリョウマは決めていた。
二人は魔王城の敷地内にある訓練施設へと赴いていた。
訓練施設と云っても、とても単純な間取りで、室内には体育館程の何もない空間があるだけだ。
「それでも、個々の壁にはアダマンタイトも混ぜているから、大規模な魔法とかの訓練でも使えるぜ」
「…そんなのを私に打つのですか?」
メグが無表情で述べる。
「打つわけないだろ。話のタネさ。じゃあ例のスキルを使ってくれ」
「はい」
「今からスキル会得者の強化方法を教える。しっかりついてくるように。後、質問すべて戦闘が終わってからな。」
お互いに距離を取り、メグとリョウマは戦闘態勢をとる。
「いいか、はじめの合図で俺がさっき言ったように意識してみろ。」
リョウマはにかっと確認するようにメグに言う。
「はい」
「では…。はじめ!!!」
すると、メグの雰囲気が変わり、体全体に力を張っているようにうかがえた。
リョウマは戦闘の時にどう俺を倒すかを考えろと言っておいた。
「見た感じで何かしているのはばれるが…まぁそれも戦闘になれれば落ち着くだろう。じゃあこっちからいくぞ」
そういうと、リョウマはメグに殴りかかる。
勿論、訓練なので実力の三割も出していないが、メグは息苦しそうにそれにやっとの思いでついていく。
5分位止まらずにリョウマの一方的な打撃をメグが防戦するのが続いた。
「よし、ここまで」
時間が経ち、リョウマは攻撃を止める。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
さすがの無表情が殆どのメグも、元将軍の攻めには疲れた表情を隠せない。
勿論、そんなのを見るためにリョウマはこの訓練をしてるのではない。
「どうやら、スキルの効果は体との接触でも行けるみたいだな…。【大喰らい】のスキル、中々に応用が効きそうで良さそうだ。当たりスキルだな」
リョウマが気になっていたメグのスキルは「大喰らい」。
彼女の先天スキルだそうで、ただ食べ物をたくさん食べられるスキルとしかメグも認識していなかった。
ただ、リョウマは知っている。スキルは使い方次第でどれも強くなれる。
「【大喰らい】の効果をメグの理解している範囲で言ってみてくれない?」
「はい、栄養を無限に摂れるというものです」
「…つまり、メグの認識では栄養を取る方法自体は決めていないんだ」
「…そういえば、そうですね。考えていなかったです…学園でもスキルの使い方は習いませんから」
ラウラやメグのいた学園は魔法学園だからな…スキルは個人技なので、常識の範囲で教える事はあっても、深くなればなるほど教わる事はスキルと個人の力量によって変わる。
「決めていないのが良かったよ。無意識だろうけど、今の戦闘で俺はいつもの十倍は疲れている」
「そうなんですか?でもどうして…そんなスキルではないのに…」
メグは驚いたようにいう。
「ふーん、謎の多いスキルだな…俺の【復讐】も中々だけど」
そういい、リョウマは自分のスキルを思い浮かべる。
「まぁ、とにかくこれでメグも一応の身を守る術はできたな。では続けるぞ」
「了解」
そして、そのまま一時間程、二人は戦闘訓練を続けた。
◇
そして一通りに戦闘訓練を終わらせてからメグは気になった事を言う。
「…どうしてリョウマさんは疲れないのですか?」
今は横でお互いに座りながら話している。
しかし、【大喰らい】で戦闘時に接触者の体力を吸収しているのにリョウマは普通な感じだ。
「いい質問だね。それがスキル会得者の強化方法に関係している」
そして説明に入るリョウマ。
「あの手、この手で出来そうなことを繰り返しチャレンジ!そんな中で俺はスキル【英雄】で疲れにくい体を生んだんだ」
「すごいですね…【英雄】」
「まぁな。それにスキルってのは意識して発生や発言する技術だと皆言うよな。ガモンの【頑丈】も俺の【英雄】もさ、そのスキルを認識して意識的に使う事で初めて効果がでるのみたいに。道具と一緒だね」
鋏を使えば切れる。糊を使えばくっつく。
リョウマはファイテングポーズをとり、恰好をつける。
「【大喰らい】で相手の体力を取るとかどうよ?現にできているし、もっともっと相手の力をドレインすれば強いんじゃないかな?そう考えてやればうまくいくかもしれない」
「…なるほど。分かりました」
「分かったかな?教えてる側は不安だけど、まぁ、最初は分かりにくいけど、対戦してなんとなくは分かっただろう…そうやってどんどんスキルできる事を増やしていけばいいよ。今日はここまでにして、次の仕事に向かう。」
「はい、有難うございました」
メグは感心するようにリョウマにお礼を述べる。
「いや、いいってそういうのは…」
少し照れくさそうにいうリョウマ。
その後二人はそのまま訓練施設を出て、次の会議へと赴くのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋




