スフィアへの復讐
リョウマがケインに魔王国へと飛ばされてから半年が経った。
ランドロセル王国ではリョウマ・フジタは憎き魔王国へと単身で旅立ったと伝えられた。
民衆は心の拠り所だったリョウマが国内にいない事を残念に思いながらも、貴族の異論を唱えるとどうなるかを知っているため、皆、口を噤んだ。
一方、かつてリョウマの仲間だった3人の女性達はそれぞれ違う生活を謳歌していた。
商人になったスフィアは巨万の富を得る事に野望を抱き、ランドロセル王国内にある商売が盛んな街にて腕利きの商人として活躍していた。
リョウマから異世界の技術を盗用…彼女にとってはもう死んだと思っているため、譲ってくれたものとして引用し、商売に励み。金銭を稼いでいた。
この町では町民からは心優しき若女商人として印象を受け、日々働いていた。
そんな商人であるスフィアの朝は早い。
毎朝かかさず、その日の朝に発行される新聞を読みながら、情報収集を自らし、今日も仕事部屋で仕事の準備をする。
しかし、今朝の朝刊にはスフィアの身を震わせる事が書かれていた。
その書かれていた記事の題名に思わず驚くスフィア。
「…ケイン侯爵惨死。さらに魔王軍と全面戦争が開始されただって!」
過去の雇い主である、ケインが亡くなった…いや、殺されたのだ。
細かい事はかかれておらず、突然玉座に彼の死体が出現していたと書かれている。
そして、その死体には…切り傷で、これまでの魔族への虐待への報復、そしてを現支配制度の革命を目的に魔王は全面戦争を仕掛けると書いてあった。
書いてある事は恐怖そのものだが…
スフィアは違う考えを頭に思い浮かべた。
耳にかかった綺麗な白髪を耳にかけながら考える。
「これは儲かる…」
スフィアは常に損得…特に金勘定で物事を考える。
戦争というのはビジネスにおいて大きな発展のチャンスだ。スフィアは若いながらも、すでに多くの商談を成功に持ち込んだ。
なぜそこまでにして彼女がお金に執着をするかというと、彼女は貧しい家で育った事が大きい。木こりの父と畑作業をしていた母。真面目だったが、このランドロセル王国は貴族上位の社会。
いくら働いても、貴族と懇意の商人達に二束三文で買いたたかれ、貧しい生活は続いた。
そんなある日、貧しさのあまりに両親が彼女を売る決断をした。
この世界では生きるために身売りをするのは決して珍しい事ではない。スフィアの他にも妹と弟がいたため、彼女の両親は苦渋の決断を下した。
スフィアの両親は泣きながら小さかったスフィアに事情を説明した。しかし、その時スフィアは落ち着いて対応していた。
その時、彼女の両親は罪悪感にかられながらも、了承してくれたスフィアに感謝した。
そして彼女がいなくなる前日にささやかながら最後の晩餐という事で、いつもより豪華なご飯を用意した。
しかし、それはスフィアの思惑通りだった。
その日の夕餉に彼女は料理に毒を盛ったのだ。
それも両親だけではなく、家族全員に。
これまでは家族と暮らす事が彼女の中でもっとも安定した生活だった。
しかし、それが出来なくなった家族を彼女は見捨てた。
両親から身売りの話をされ、スフィアの心は大きく変わった。
生きるために必要なのは自分の行動だと思い知った。
貧乏の両親は娘を売る程に落ちた。この世は全てお金がないと意味をなさないと幼少期の彼女は悟ったのだ。
こうして、金銭至上主義という歪な考えが彼女の中に生まれ、それが後の人生で徐々に染みついていった。
「さっそく、社長や出資者達に企画書を出さないとね」
そういい、机からペンと紙を出す。
彼女だからこそ、戦争という危機的状態にもかかわらず、こんな状況でも金のために迅速に行動に移せる。
それはある意味で、人の目には天才として映るのかもし、悪魔に映るかもしれない。
論理観や常識を持たない、自分の考えを持つ彼女だからこそ、この1年の間で成果を出した事は純粋な称賛に値する。
しかし、その道中で怒らせてはいけない人を怒らさせなければの事。
現にこの部屋に忍び込んでいたリョウマは言葉にした。
「とてもプロフェショナルを感じさせるよ。なぁ、スフィア…ホントおめぇの行動力にはお手上げだ、そういえばダンジョンでゴールドゴーレムが出現する情報をお前が見つけた時は俺らのパーティの懐事情を助けたっけな?」
そうリョウマは言い、机をはさんで彼女の前に姿を現した。
突如、目の前に出てきた死んだはずの男にスフィアは驚く。
「!!!!リョウマ!どうしてここに!死んだはずじゃ…」
目の前に半年前に死んだはずの男があらわれて身構えるスフィア。
「誰も死んだとは言っていないぜ?」
リョウマはニヤリと顔に笑みを浮かべた。
その笑みを見て、頭の回転が速いスフィアは瞬時に判断する。
まずは机に備え付けられたリョウマからは見えない位置にあるボタンを押した。
「まさか、ケインを殺したのはあなたなの?いえ、そうに決まっているわね」
スフィアは目の前にいる人物がかつてのリョウマなのか分からなかった。
風貌は変わらない。だが、かつてリョウマが纏っていた雰囲気や気質がといった物が全く違うモノになっていた。
前のリョウマが心優しき青年なら、今のリョウマは冷たい目をした復讐者だ。
「あぁ、さすがスフィアだな、勘が良いよ。そうだよ、あいつには宣戦布告の意味も兼ねて、人柱になってもらったよ」
実に気持ち良く殺させてもらったよとリョウマは言い切った。
その言葉を聞いて、警戒度を上げるスフィア。恐らく、かつての仲間だったという認識はもう彼にはないのだと彼女は察した。
スフィアはその間も頭の中で脱出の策を練っていた。
「この外道が!人の身で魔族に身を寄せるとは…いくら金好きの私でもそこまでしない!」
時間稼ぎに罵声を浴びさせる。
「はははっ、魔王国のことか?それは間違いだ。あいつらは良いやつでいっぱいだ。このランドロセル王国よりもずっとな」
実はそんな事は商人になったスフィアは知っている。
ただ、あの爆発で死んだと思ったためにリョウマへの対処を何もしていなかったのだ。
リョウマは言う。
「おまえら、ここの人間はなぁ…みんな腐っているんだよ」
そして、リョウマは横へと歩き、スフィアへと近づく。
(まだ来ないのか?)
スフィアは内心焦っていた。すでに侵入者を知らせる隠しボタンを押したにも関わらずに誰もこないのだ。
そのために会話をしたというのに…
すると、リョウマが答えを言った。
「あー、ちなみにお前には俺の隠していたスキルを使って、幻術にかかって貰っていたんだ。今朝からな…まぁこの部屋は変わりない…変わったのは外だ」
「なっ!」
すぐに窓を見るスフィアだが、そこにはいつもと変わらない町並みだった。
「ほれっ」
パンッと一拍子の音と共に彼女の視界はぐにゃりと曲がった。
彼女の目には映っていなかった物が映り、聞こえていなかった音も聞こえてきた。
「うわぁー」
「きゃー!」
「やめてくれー!!!」
町の人の声が聞こえる。
なんと、町が襲われているのが見えた。
「朝からこれだ。誰もこの商会には来ていないんだよ、ここに住んでいるお前以外はな」
窓の外には炎で家々を燃えていた。
「ここは王国の重要な金源であり、物資の収容地点だ。俺ら魔王軍はそれを理由に襲わせてもらったよ」
「なっ!…」
このままではまずいと思い、ペンで反撃をするスフィア。
「うるさいな…寝てろお前」
しかし、スフィアの攻撃を華麗に受け止めて、首に手刀を当てて、彼女の意識を消すリョウマ。
そのままスフィアの目は重く閉じてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらくしてスフィアは目を覚ました。
「う…」
「起きたか、寝てから1時間ってところか?」
「これは…?」
スフィアは十字架に腕と足を括りつけられた状態で町にある家の屋根から町を見下ろしていた。
周りを見ると自分は商会の屋根の上にいる事が分かった。
そして前を見ると…
「あぁ…あぁあ…」
人々は逃げまどい、その顔は恐怖に染まっていた
そして魔族だろうか?冒険者たちが立ち向かっているが、皆簡単に殺されていた。
「ここの冒険者は金に汚いからな…まぁ、反撃するなら殺すわな…」
静かにリョウマは言う。
リョウマはスフィアに向けて言った。
「どうだい?自分が築き上げたものを壊されていく気分は?」
ここ半年で町を盛んにしたのもスフィアの手腕があっての事だとリョウマは調べがついていた。
最高の復讐をするために、リョウマはしっかりと調査をした。
スフィアはきっとリョウマを睨む。
「この悪魔!」
いくら金至上主義のスフィアでも、目の前で人が殺されているのを見ると拒絶の衝動に駆られる。
「ふっ悪魔か…」
リョウマはそのスフィアの言い分に笑う。
「俺は最後までお前らに手を差し伸べたぜ?それを台無しにしたのはどいつだ?」
「何よ…あれは仕方なかったのよ!私は冒険者はお金がいいからやっていただけで、それよりも莫大な額をあのバカ侯爵からもらえたのよ!むしろ、騙されたあなたが悪いわ!」
「ホントお前は笑わせてくれる。笑い過ぎてのどがつぶれそうだぜ?つーかそれがお前の本性か?パーティーでは比較的寡黙でクールだったのにな…」
「くっ…」
「まだまだお前に見せたいものは続くぜ?確かお前はお金のために俺を見放したよな?」
そういい、彼は屋根の下にアイテムボックスの袋を下に向けた。
その袋には見覚えがあった
「それは!どこでそれを!いや返せ!今すぐに!!!」
ジャラジャラジャラジャラ
そこからは金貨がたくさん出てきた。
「これ、お前のへそくりだよな?びっくりしたぜ。希少なアイテムボックスを貯金箱に使うとは…それにこんなによく貯めたな」
まだまだ金貨は出ている。それは二階建てのこの商会の建物の半分の高さまで連なる程だった。
「私のお金だ!返せ!返せーーーー!!」
「…まだ、そんな事言えるのか…まぁいいよ、もう少ししたら返すよ」
てっきりなくすと思っていたので返すと言われ、驚くスフィア。
すると、炎が金貨の周りにも来た。
炎の熱で金貨も溶けだしているように見える。
「いやーこっちの金貨が溶けやすいって聞いた時さ、これひらめいたんだよね」
リョウマが嬉しそうに言う。
その怖い笑みに、スフィアの背筋は氷のような冷たさが走った。
「なっ何をする気だ…」
金貨が端の方から溶けている、その内に全てが溶けるだろう。
「いや、スフィアはお金が大好きなんでしょ?だから工夫を凝らしてプレゼントしようと思って♪」
そこでスフィアは自分の未来をどうなるか確信した。
「いっ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ!!!帰して、私はケインに言われて仕方なくだったの!」
普段は冷静な彼女も、何がなんでも生きたいという本能のまま彼女は叫ぶ。
「確かにあなたには悪い事したわ!でも…それでもあなたは生きているでしょ!!」
「ふーん、生きていたから殺すなと?」
その言葉にリョウマは今日初めての怒りの表情を彼女に向け、露にした。
「ひっ!!!!」
スフィアは顔を蒼白とさせながら、リョウマの殺気に震えた。
「俺は旅の頃に教えただろ?前の世界の道徳について、そりゃお金は大事だ、だが義理や人情を無視したらだめだとも。それをお前は守ったか?…」
「まっ守ったわよ!孤児院をいっぱい建てたし!!スラムの人に炊き出しも企画したのよ!私はこの半年で変わったの!あなたを殺した事は謝るわ、でも私もあれから変わったのよ!だからお願い、これまでの活動に免じて…もう許して…」
彼女は涙顔で言う。
「ほう、やっぱりそう来たか…」
リョウマはアイテムボックスに手をいれた。
アイテムボックスから羊皮紙を出し、それを彼女に見せつけた。
それはスフィアには身覚えがある紙だった。
「何なに?今月だけど10人の奴隷を闇奴隷商に手引きしたと、うわー稼いだね…次に炊き出しという名の…無断での新薬、それも麻薬に分類される薬の人体実験の場の提供。おおぉ…凄い凄い!これは他の国とやったからかとんでもない額だね」
「さすがスフィア…人のためにね。呆れて、逆に感心するね…どうして俺は君みたいな人を側において、共に冒険できていたのやら」
「あぁ…それは…」
スフィアの表情は青ざめていた
そこで、ようやく彼女の状況を理解した、これはもう取り返しのつかないところまでに来ている事だという事に。
(まぁ、俺もよく見抜けなかったよな…)
「結局、お前が守ったのはお金になる俺の世界の知恵だけさ」
リョウマは呆れながら口にする。
「まぁ、そんなスフィアを僕は理解しているつもりだ。お金をどんな手でもせっせと集めていた悪魔な商人のスフィアのために俺から熱々の金貨を上げよう」
そういい、リョウマは彼女に近づく。
じりじりと近づくリョウマにスフィアは死が近づいているのだと感じた。
「ひっ!!!いや、いらない!遠慮します!ダイジョブです!お金はもういいから!あなたのいう事なんでも聞くから…許して!許してください!お願いします!…なんでもするから!」
「はぁ…」
リョウマはため息をついた。
元パーティーメンバーだっただけに、この醜態は見ていて見苦しいものがある。
磔にされた彼女をそのまま、下にある金貨の溶岩へと落とす。
彼女に向けてリョウマはただ一言だけ言う。
「じゃあな」
縛られたままなので動きも取れない彼女は重力に逆らわずに落ちる。
そして、金貨に触れた瞬間。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
極上の歌声を上げて、彼女はのたうち回る。
「熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!!助けて、お願い!!!!許して!!!!」
スフィアの肌は焼け、中の肉までも焼かれていた。
人の焼ける時の匂いはこんな匂いなのかとリョウマは自らの鼻で感じた。
数ある死刑の中で火刑が一番惨い処刑方法だとどこかで聞いた事があるリョウマ。
なるほど、炎では…高熱では彼女に瞬時の死をくれない。
肉が焼ける音を奏でながら、じわりじわりと彼女を殺す。
げ臭い匂いも辺りに漂っている。
勿論、これも復讐のひとつである、そして最後のとどめをリョウマは用意する。
「そうだ、最後に選別だ」
そして再び莫大の金貨をアイテムボックスから出す。
(熱い熱い熱い!何をしているの?!)
まだ焼かれていない眼球で見るスフィア。
そして眼前に、顔に降り注ぐ金貨の雨…それは段々と重く体にのしかかっている
(まさか!)
「やめてやめてやめて!嫌だ!そんな死に方いやだ!げほっげほっ殺して!殺すならすんなり殺してください!熱い!アヅい!熱いの嫌だ!痛い!重い!助けて!!!誰か!がほっ、誰か助けてぇ~~!!!」
口に金貨が入る程に降ってくる中、スフィアは懸命に叫んだ。
スフィアの叫びは炎の業火ともにリョウマに届いていたが当然無視する。
その表情でリョウマは満足げにほほ笑んだ。
「金が大好きなんだろ?なら金と共に亡くなるのは本望のはずだ。スフィア」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
(こんな死に方嫌だ!あんまりだ!なんで?お金を得るために私は頑張った!なのになんでなんでなんでなんで!)
そう思いながらもどんどん金貨が彼女に積もる。
そして、次第にスフィアの体は金貨に埋もれ、見えなくなった。
(重い!熱い!重い!誰か助けて!お金なんていらない!誰か助けてーーーーー!)
金貨に埋もれ、届かなくなった声を金貨は受け止めた。
そして、そのまま金貨を流していると、金貨の山が突然少しだけ…まるで人一人分低くなるのを見たリョウマは笑みを浮かべる。
リョウマは満足感を感じながら、次の策を考え、己の手を見ながら握りしめる。
自分のスキルである【復讐】の使用した実感を感じていた。
・街一つを飲み込む幻術。
・大量の金貨の創造。
・街一つを消す業火。
今回、【復讐】ではそれらを可能にするスキルが利用できた。
そして、一つの復讐が終わり、スキル達は消える。
「さて……後2人か」
そんな事を考えるリョウマは、もう興味がないというばかりに金貨の山を置いたまま、町の外にいる魔王の待つ部隊へと戻るのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋