復讐者、感謝を伝える
時間は少し遡り…
魔王国三大将軍の一人でもある獅子の獣人は颯爽と現れた。
「ラウラ―大丈夫かー?」
「はい、ルカルドさんのおかげで助かりました。」
ルカルド・エヴァン・ラオハート
魔王国の獣人の最高責任者
その陽気な性格の裏腹に頭の切れた戦略で軍を指揮する事を得意としていた。
さらに個人でもその実力は強く、リョウマと並ぶかそれ以上とラウラは聞いていた。
ラウラはルカルドの下を見る。
おそらく潰されてしまった…マッコウはもう生きていないだろう。
不憫には思うが、元は犯罪者なので深くは考えない事にする。
「な!獅子の獣人?!もしかしてルカルド・エヴァン・ラオハート?!!」
「にゃ?あいつは敵か?ラウラちゃーん」
陽気な猫声でいう。
元は獅子の獣人らしいが…その風貌は大変見ずぼらしい。
(本当にこの人は将軍なのだろうか?)
ラウラは毎回会うたびに思ってしまう。
よくリョウマも将軍に見えないと呼ばれるが、それは地味さ故。
ルカルドは獅子の獣人の割に毛深い猫に近い外見なのが玉に傷だった。
猫の獣人と言った方が見た目では伝わるかもしれない。
「はい、彼女は青い靄を出す移動系スキルを使います。捕まえるなら先手で行くべきです!」
「なるほど。情報サンキュウー」
リョウマから教わった異世界のお礼で言い返すルカルド。
こんな口調だが…リョウマよりも年上だ。
「くそ!」
もう待っていられないとばかりに靄を出すローナ。
「ふーん」
それを見るルカルド
「ルカルドさん!逃げちゃいますよ!早く捕まえましょう」
「平気平気…だってあれねー」
すると手元から爆弾を出すルカルド。あれは兵士に支給される一般的な爆弾。
破壊能力は少なく爆風が出る程度だ。
「ぽいっ」
わざわざ擬音をいって投げる。
パンっ
小さな爆発音が鳴った。
すると、靄に爆風で形を保てなくなり、散っていく。
「う…」
「あの靄はね、ようは扉だよ。彼が人の形まで大きくないと恐らく移動できないんじゃないかな?
…だからほら…まだあの女はそこにいるにゃ」
確かにローナはまだそこにいた。
「…こんな一瞬でスキルの弱点を見抜けるの?」
ローナは驚いていた。
うわさで相当の切れ者だとガ―ジルや他の人物から聞いていたが、突然入ってきた戦闘で瞬時に弱点を見つけ、それを利用して行動にする。
口では簡単だが、かなり難しい事だとラウラは思っている。
「まぁ…君のは分かりやすい部類だね。もうちょっと工夫がほしいよね、でなきゃスキルの持ち腐れだよ」
スキルは強いが、故に慢心する事もある。
そのスキを突くのがルカルドの得意とする事だった。
「で、どうする?捕まるなら、痛い目に合わせないけど…」
そう言い、微笑むルカルド。
前髪で目が見えないが…よほど意地悪な笑みを浮かべているのだろうとラウラは思う。
「くっーーーー!」
ローナも手がないのか、悔しそうな表情をする。
「ん?」
するとルカルドは変な気配を感じる。
そして、ローナの横に赤い靄が浮かび上がる
(おかしいなー、あの女は青い靄のはず…)
では…誰が赤い靄を出しているのか。
そして、あれは入り口なのか出口なのか。
危険を察知し、爆弾をまた投げるルカルド。
すると、小さな靄から手が出てくる。そして靄を人一人分ほどの大きさで透明な膜で覆った。
(あれは…防護魔法か…)
それを使用するのは別に珍しい事ではない。
おかげで爆弾の風は靄を消し去るまでにはいたらなかった。
それよりも、相手がしっかりと対策している事を警戒する。
それはつまり、相手が強い事を意味した。
ここにきて初めて身構えるルカルド、そしてそれを見て同じように身構えるラウラ。
そして赤い靄から人が出てくる。
そこには二人出てきた。
一人目はローナと似た顔の青い髪の女性。
そして、もう一人は…白い髪を短くした男性だった。
「ラルフ!」
ローナは男の方を見て反応する。
「ローナ、お疲れ様…退避命令が降りた、ガ―ジルがやられた」
ラルフといわれた男はローナにいう。
「え!ガ―ジルさんがやられた?!」
「あぁ…だから君がここにいる意味もなくなった。一応ガ―ジルには死んでもらったが、お前の能力は貴重だ。失うのは俺らにも惜しい」
ラルフという男はため息を吐きながら言う。
「ふんっ!使えない妹ね、目の前のあの女位倒しなさいよ。スキルを極めないからこうなるのよ!ラルフももっときつく言ってやって」
青髪の女はローナと姉妹なのか、ローナがピンチだった事に注意をする。
「くっ…」
もはや何も言えないローナ。
「おいおい、兄ちゃん…このまま逃がすってのは甘いと俺は思うんだよねー」
そうルカルドはいい、ラルフという男を挑発する。
「あなたは…ルカルド・エヴァン・ラオハートですね。お目に書かれて光栄です」
意外にも丁寧なあいさつをしてくるラルフという男。
「あなたの功績は我々の方にも届いていますからね…少し手を打ちましょう」
そういい、どこからともなく剣を出すラルフ。その数は3本だった。
それ瞬時にラルフが何をするか知るルカルド。
(やばい!!!!!)
そして、横にいるラウラをかばい、もう二人もを守ろうとするが…
(遠い!!!)
「お連れさんには怪我をしてもらいましょう…まぁ死ぬかもしれないですが…」
そして高速で剣が跳んできた。
ルカルドは背中でそれをかばう。
グサッ
グサッ
グサッ!!
「ぐわっ!」
「ルカルドさん!」
「では、また…」
そういい、ラルフ達はその場を去った。
靄は最後にローナが入った時点ですぐに消えた。
「ルカルドさん!ロウドさん!ジェムくん!」
守られたラウラはあたりを見渡す。
「ててて…俺は平気だにゃー」
将軍のルカルドは痛そうにしているが、致命傷ではないようだ。
そして、ロウドとジェムの方を見ると。
「あぁ…」
ラウラはその光景に唖然とする。
剣はこの場にいた中で一番若いジェムには届かなかった。
届いていなかったが…
ロウドが剣を二本刺さった状態でジェムをかばっていた。
「がふっ!」
口から血を吐くロウド。
彼の足元には大きな円を描いて血がぽたぽたと垂れる。
「ロウドさん!しっかり!!!」
ラウラはすぐに助けようと剣を抜こうとするが…
「ラウラ!その剣に触るな!抜くと血が止まらなくなる!!」
気が動転しているのか、焦って剣を抜こうとするラウラを大声で止めるルカルド。
ルカルドは瞬時に判断して、最適解をラウラに伝える。
「急いでリョウマをここに呼ぶんだ!回復魔法が使える人もありったけ呼んで!!!だが、一番可能性があるのはリョウマのスキルだから彼を一番に呼ぶんだ!」
ロウドの怪我は明らかに致命傷だ。
これでは回復をした所で自ずと死んでしまう。
なので、万能スキルの呼び声高いリョウマの【復讐】でどうにかするのがベスト。
しかし、それはリョウマのスキルの発動条件を知っているルカルドからすればとても小さな可能性だった。
「くそ!」
ラウラにもジェムにも言えないが、長年戦いの場に身を置いたルカルドは分かってしまう。
ロウドの命はもう持ちそうにないと…
刺さった剣からロウドの血が想像以上に早く…多く垂れる。
「お父さん…」
ジェムが泣きそうになりながらいう。
そして、ロウドは笑顔でその顔へと振り向いた。
◇
思えば、単純な人生だったのかもしれない。
しがない町人で腕っぷしだけはあったから、街のごろつきをやっていた時期もある。
それが親父のすすめで衛兵になった。
別に理由はなかった。
憧れもなく、ただ生活のために始めた。
ごろつきをしていてもお金は必要で、それを理由に安定した職業だった衛兵になっただけ。
ロウド・イマージュはそんな特別も夢のなく…なんでもない男だった。
何かに必要とされたいが、それをたいした努力もせずに見つけられずに日々の時間を過ごす。
それがある時に変わった。
衛兵団の依頼でとある村で大型の魔物が出たらしい。
あの大狼のとの遭遇の後だ
見事に退かす事には成功した。
本当はなぜか魔物の方が逃げたのだが、村人はそんな事は気にせず祝ってくれた。
しかし、そんな釈然としない気持ちで最初は祝いの場にいた。
すると、とある女性と目が合った。
そこで出会ったのだ。彼女と…妻のマリアンだった。
一目惚れだった。
街でごろつきをしていた刺激のない日々。
衛兵になって何か変わるかと思っていたが、何も変わらなかったからっぽの日々。
村の依頼が終われば、レイフィールドの衛兵団で旗を上げようと思っていた矢先に彼女と出会えた。
「結婚してくれ」
我ながら可笑しい話だ。
一度も女と付き合った事すらないのに、そんな男が結婚してくれと言った。
言った後になぜもう少し考えなかったと後悔した。
しかし、それは杞憂に終わった。
「え…はい」
「「「「「「「うわぉーーーーーー」」」」」」」
村人だけではなく、仲間の衛兵団もみんな驚いて、結局後半は俺らの祝賀会みたいな感じになった。
(あの後は、マリアンの親父さんにこっぴどく殴られたっけ…)
いきなり娘をたぶらかしおってと言われ、喧嘩したのだ。
しかし、それでお義父さんとは仲良くなれた。
もうお義父さんとも会えないのか…
その後は街へとマリアンを連れて二人で暮らし始めた。
それには多少の喧嘩やすれ違いがあったが、それも時間がたてば昔の笑い話になっていき、時間はどんどん過ぎていった。
そして、子供に恵まれた。
ごろつきだったロウドは少し怯えた。こんな俺に子供がいていいのかと、それをマリアンにいったらこう返してきた。
「なら、この子にお父さんの子で良かったといわれる存在になればいいんじゃない。」
マリアンはにっこりと笑い、言った。
そしてそれからロウドは父としての自覚を持ち…息子のジェムを愛した。
そして、それは受け継がれていた。
(「お父さんみたいに」か…)
先ほどのジェムの一言。あれほど身震いした事はない。
俺の息子ながら…立派に育ってくれた。
そこで現実の戻る。
自分の腹にさされた二つの剣が視界に入る。
(やばいな、咄嗟だとはいえ…受け方を間違えた。)
でも後悔はない。
後ろにいる息子を守れた。これ程父として誇れる事はない。
唯一の心残りは、まだ若い息子と最愛の妻をこの世に残す事だが…
(ジェムはもう強い…きっと健やかに育ててくれる)
マリアンはどうなるだろう…できればすぐに再婚はしてほしくないが…複雑だ。
走馬灯を終えて、未来を想像するロウド。
「お父さん」
そして後ろからジェムが声を掛けてくる
「ジェム…俺はお前のお父さんになっていたか?」
不安だったジェムの誕生に子育て、それを聞くのはずるいとは思うが聞かずにいられなかった。
「うん、お父さんははジェムとお父さんだよ!早くその怪我治そ!で、お母さんの所に戻ろう!」
涙声でいうジェム。そしてその目からはぽたぽたと涙がこぼれている。
「うんそうだな…でもお父さん少し眠いんだ…お母さんに伝えておいてほしい事があるんだけど頼んでいいか?ほら…病院行くかもしれないし」
できるだけジェムを怖がらせないように言うロウド。
己の死期は刻一刻と迫っていた。
「うん」
「それじゃあ…」
とジェムに言葉を贈る。
マリアンへの言葉を送った後にジェムにも言う。
「ジェム、…お前は俺の最愛の息子だ。母さんを宜しく頼むぞ。」
「うん!お父さんも早く怪我治して家に帰ろう!」
そう言われ、微笑むロウド。口からは血が出るが吐かないように横へ流す。
「有難う…俺の元に生まれてきてくれて
…有難う」
最後にそういい、ロウドの目は閉じて、彼の首は下を向いた。
(ごめんなジェム、マリアン…お父さんは先に逝くぞ、でもお空でお前らを見守ってやるからな…)
意識がどんどん崩れながらも、ロウドの姿勢はジェムを守ったままを維持していた。
そして顔は決して死を恐れずに笑顔で、残す人のために己の人生は良かったのだと伝えるために…
そしてそのロウドの背中は大きく見えた。まるで、息子を持つ立派な父だった事を証明するかのように…
一人のごろつき、一人の戦士、そして一人の父親の命が静かに天へと上り詰めたのだった。
◇
リョウマがそこへ向かった時には全てが終わっていた。
ロウドはすでに亡くなられていた。
間に合わなかった事にラウラは号泣し、合流したレンコ達に泣きついていた。
そして、敵の逃亡という形でこの事件は終わりを迎えた。
エズカルバンの一味の下っ端と“狂い殺し”のザッカを確保した。
新しくリョウマのスキルの謎に迫る情報を得たが、どうにも釈然としない終わりを迎えてしまった。
戦闘が終わった現場での指示を終えたリョウマは衛兵団の医務室へと向かっていた。ガモンから許可を取っている。
「俺もいくにゃ」
「私も行かせてください」
ロウドの亡くなった現場にいた二人…ルカルドとラウラも来たいという。
二人は戦闘で終わった後だが…それでもマリアンに伝えたいものあるのだろう。
「分かった」
リョウマは彼らに返事をした。
そして3人にはマリアンの所へと向かうのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋