復讐者、疑惑の勝利
ラウラとレンコの戦闘が一段落着いた頃
ガ―ジルとリョウマは長い戦いを強いられていた。
「はぁ…はぁ…!!」
満身創痍のリョウマ。
「意外だな…お前はもう少し強いと思っていたが?」
目の前にいるガ―ジルはリョウマにそういう。
実際、途中まではリョウマが勝っていた。
【英雄】を使ってガ―ジルと良く戦った。
だが、決め手に欠けていた。
(【復讐】がうまく使えない)
チート級の力を使えるはずのスキル【復讐】。
しかし、その力をガ―ジルに当てる事ができない。
(まだ明確に復讐対象と俺が認識していないから?)
エマやスフィアは明確な復讐対象として意識していた。
しかし、この相手、ガ―ジルにはまで何もされていない。
(発動はしても、怒りの加減では戦闘までその行為が及ばないのか)
ここで【復讐】での戦闘経験がない事を悔やまれる。
(今は【英雄】で戦う事を考えないとな)
弱くなった自分を自覚し、一旦保留する。
そして、今できる最善を模索する。
「おいおい、まさかこんなものとは言わないだろうな?」
大斧をぶんぶん振舞わし、ガ―ジルは挑発をしてくる。
「俺はまだ本気だしてねぇぞ!!!!!」
そういうと、斧を横に構えて力を溜める。
「 “溜まった火山”」
「まっ!魔法だと!?」
そうして、さらに距離を取るリョウマ。
「ふんぬ!!!」
そして、魔法を纏った大斧を地面へと向ける。
ドン、ドン、ドガーン!!!!!!
そして爆発が連続して発生し、リョウマへと斧の斬撃が飛ぶ。
「くそ!」
そうして、斬撃を殴るリョウマ。
「はは!面白いなそれ」
「まぁな」
漫画みたいな斬撃の相殺の仕方。
それは【英雄】の物理強化を用いての受け流しだった。
勿論、生身なんかで受けてはいない。
「お前、魔法も使えたんだな」
「これでも親方と呼ばれるんだ、ただの力馬鹿と思われちゃ困る」
「自分で言うかよ」
そして、また同じ方法で攻めてくるガ―ジル。
「 “溜まった火山”」
これではまずいと思う。
まず距離が縮まらない。
【英雄】でアジトを壊す程の力は出せるが、これ以上あの威力を出すのは街の存亡にかかわる。
なので、自然にコントロールをしなければいけない。
だが…
(【英雄】でまだそこまでできないんだよな)
そもそも魔物討伐を中心に王国の冒険者は過ごしていた。
対人間との戦闘は苦手とするところ。
ただでさえ、最近はデスクワークに勤しんでたのもあって、訓練不足を後悔する。
(なら…)
「ん?」
すると、ガ―ジルは己の足元を見る。
もこもことした床からはやがて土の手が出てきた。
「うわっ!」
それを斧で急いでなぎ払い、跳ぶ。
それを見逃さないリョウマ。
シュンッ
「うわ!目の前に!」
そして、ガ―ジルの目の前へと跳んだリョウマは拳を彼に突き出す。
「“斧平手”」
そういい、ガ―ジルは大斧の平らな部分で己を守り、そのまま振り払う。
「ちっ!」
そのまま横へと飛ばされ、着地する。
「危ない危ない、無詠唱が出来たとは…まぁ将軍の立場なら当たり前か」
そういい、先程の戦闘を分析するガ―ジル。
「今の手を使うという事は、先程のアジトを使う手は使わないのか。残念だな…」
完全にガ―ジルのペースだ。
「【復讐】を期待したが、何故か使えないのか」
「別にお前程度、使わなくても倒せる」
リョウマは残念がるガ―ジルにむかつき、言葉を返した。
「はっ、そんなのは倒してから言え、 “溜まった火山”」
そういい、戦闘を続ける二人。
「そんだけつえーのになんで闇に手を染める?」
蹴りを入れて、リョウマはガ―ジルに聞いた。
「だから仕事だよ、仕事」
「お前の様な実力なら…いくらでもあるだろう」
それこそ冒険者とか色々と力が必要な仕事はある。
「贅沢に暮らすには金が必要だ。そのために俺は今ここにいるんだよ」
すると、少しだけガ―ジルの顔が曇る。
(もしかして…)
「そうか」
そういい、ある作戦を思いつく。
自分の【英雄】と 戦闘では使えない【復讐】でならできる作戦。
そのために今一度思います。
ガ―ジルの罪を…
(こいつは多くの家族を壊した実行犯)
(こいつは魔王国に危険をもたらした)
(こいつは俺の仲間に手をかけた)
これでリョウマには十分だった。
(よしっ、始めようか)
そうして、にへらと笑みを顔に浮かべる。
その顔はまさに復讐者に相応しい、復讐を楽しむ顔になっていた。
◇
(こんな男があの三大将軍の一人?)
目の前の満身創痍のリョウマ。
あれから双方傷を負い続けるも、リョウマの技はガ―ジルを倒す決め手に欠けていた。
「ホント意外だな…お前はもう少し強いと思っていたよ」
目の前にいるガ―ジルはリョウマにそういう。
途中までは魔法や【英雄】の技を駆使して戦ってたが、途中からそのそれが無くなった。
「くそ、倒せねぇ…」
代わりに弱しい声が出る。
そして、それを見る周りの駆けつけてきた衛兵達。
なぜ誰も来ないのか?
彼が将軍だからか?
しかし、それはガ―ジルには好都合だった。
流石に大人数はきつい。多勢に無勢だ。
「おら!」
そして、一方的にガ―ジルの攻撃を受けるようになるリョウマ。
「どうしたどうした?!こんなもんか?さっきの威勢はどうした将軍よぉ!」
そうして、大斧でリョウマをなぶり倒す。
「くそっ」
そして彼の体からは赤い血が噴き出る。
(殺れる!)
こういう殺せる時殺さなきゃ彼のいる世界では生き残れない。
エズカルバンで育ったガ―ジルは身を持って生きる術を知っている。
優秀な部下に資金に人脈。
今、ガ―ジルはその全てを着実に増やしていた。
ザッカという優秀な部下
資金と人脈はイグルシア帝国
この依頼が終われば、それをより強固なものにできる。
大斧を上げて、降りぬくガ―ジル。
「終わりだ!」
そして、あっさりと止めを刺す。
横にリョウマの首を一切り。
本来、斧では難しい所業も彼の腕力なら完了する。
そうして、戦いは終わった…
「ふぅー」
一息をつく。
まだ逃げる事も必要だが、どうにかできるだろうとガ―ジルは思う。
なぜなら、これで彼の戦歴には将軍殺しもついた。
これは闇の世界ではとても役に立つ肩書だ。
他の連中も恐れおののくだろう。
ガ―ジルはそう思いながら周りを見た。
、なぜか…視界がぼやけているのを気が付く。
(あぁ?)
する時が付く、ぼやけているのは兵士だと…
そして、段々と自分の見ていた世界が消えてった。
「あ?」
思わず間抜けな声が出る。
周りに誰もいなかったのだ。
ある男がガ―ジルに声をかける。
「どうだった?幻覚の俺は?」
ガ―ジルの前にリョウマが立っていた。
傷は先程見ていたものと違い、少なかった。
首も繋がっている。
「何!…お前はさっき俺が…」
首を切ったはずだと言おうとしたら、リョウマは止めた。
「あー実に見事だったよ…見てみたらどうだ?お前が何を倒したのか?」
そして後ろへと振り向かせるリョウマ。
ガ―ジルはそこにいる女性に目を奪われた。
「!!!!!!!!セリー!」
年は10代ぐらいか…髪はガ―ジルと同じ茶髪を短くしていた。
それは故郷にいるはずのガ―ジルの娘だった。
(なぜセリーが!!!!)
はるか遠くにいるはずの娘をどうやってここに呼んだ。
「…おい、消せ」
「ほう、気づいたか?」
「あぁ、幻覚だろ?胸糞悪い」
リョウマはそういう彼は消した
「なぜあの子を知っている?」
「さぁな、俺はただお前の大事なものを見せただけだ、俺に見えていない」
「何?」
なぜリョウマに知っている。
それが彼には分からなかった。
誰にも隠していた娘の存在。
「俺は戦いは基本的に楽しくやるんだが…」
両腕の筋肉を倍増させて言う。
「…流石の俺も怒りを感じたぞ」
「ふん、お前の負けだ」
しかし、先程よりも力が上がったであろうガ―ジルを前にしても、リョウマはビビっていなかった。
「さぁ、来いガ―ジル。今、お前は多くの手をかけた親や子供が感じた事を身を持って知った」
元々していた構えにさらに力を加えて、迎撃を試みる。
「次で決めてやる」
彼も無傷ではない、先程のダメージ…基、体から出た血はまだ出ている。
「おう、ならそれに答えて俺の最高火力で殺してやる」
そういい、ガ―ジルの怒りは頂点へと達した。
「あぁ…お前は最高に俺をキレさせたよ」
大斧を握り直すガ―ジル。
「死ね」
そういい、先程とは違う、俊敏な動きで殺しにかかる。
この戦いで初めて目の前に跳んできたガ―ジルは技を繰り出す。
「“焔の噴火”」
それは間違いなくこの戦いにおいての最大の一撃だった。
ガ―ジルの…
「ようやく、お前の方から俺の側に来てくれた」
(何?)
「最初の様な一発は危険だが…」
拳を振りぬくリョウマ。
「…カウンターでなら調節が利く」
シュンという音が鳴る。
「“そよ風の拳”」
そしてその拳はそのまま、ガ―ジルの腹へと吸い込まれた。
「ぐぼぁ!!!!!!!!!!!」
強烈に後ろへとぶっ飛び、となりの空き家の壁へと激突する。
「がはっ!!!!」
当然のように口から血が飛び出て、その打撃の強さが分かる。
そのまま、地面へと仰向けに倒れるガ―ジル。
「はぁー!!!はぁー!!」
(くそ!やられた!)
幻術は俺を挑発するのと同時に【英雄】の力のコントロールをするためのものだった。
(そこで俺の大斧での戦闘が初めて前のめりになった)
そこで調節していたカウンターという寸法だ。
しかし…じゃあどうして彼が知らない幻術が生み出せたのか?
側にリョウマが近づいてきた。
「はぁ、はぁ…どうして俺の大事な物が見えたんだ?」
「スキル【復讐】のおかげだ、戦闘…直接俺には叩き込めないが、相手を惑わすサポートとしては使えたんだよ」
「くそっ…さすが将軍だな…」
「なーにいい感じに終わらそうとしてるんだ?」
「え?」
そして手に大きな針を出すリョウマ。
「あぁ?何をする気だ?」
「目的を言わすのも将軍の俺の務めだ」
「いや…まて」
「待たん、俺の娘を危険にさらした罪、今返せ」
その後すぐ、手の針を彼の足と手に刺して磔にする。
「ぐわぁーーー!!」
血が針を通り、壁へと流れる。
こうしてガ―ジルとリョウマの戦い…いや最後は戦いですらない。
リョウマの蹂躙は幕を閉じた。
後、これの数分後、周りの衛兵がリョウマを頑張って止めた。
◇
「さて、ここは一段落と」
そういい、座り込むリョウマ
「…」
側にはガ―ジルが拘束されていた。
「なるほど…意外と甘いのな」
すると、不本意な事言うガ―ジル。
「痛い目にあっておかしくなったか?」
「はっはっはっは、違いない」
すると、ガ―ジルは笑った。何が可笑しいのかリョウマには分からなかった。
「あー、【復讐】の力を持つ男がどういうやつか気になったが、確かに強いが…なんとまぁ根がいいやつに宿ったもんだ。」
すんなりと話すガ―ジル。
「ん?」
しかし、そこには聞き捨てならない言葉があった。
「?…どうしておまえが知っている?【復讐】を」
リョウマは落ち着いて聞いた。
【復讐】は今さっきいったばかりだが、まるでガ―ジルは知っているかのような口ぶり。
「実は依頼人に注意されていたんだよ。そのスキルを持つ奴に注意ってな」
「何!どういう事だよ!」
リョウマはこのスキルを得てから調べに調べた。しかし、このスキル…【復讐】はリョウマが初めて会得した人物。
だからか、どの文献にも記載されていなかったのだ。少なくとも魔王国の読める資料は…
アマンダに聞いても、彼女は分からないと言った。
彼女ほどの立場だ。彼女が知らなければ恐らく誰も詳しくは知らないだろうと思っていた。
そして、徐々に受け入れて言ったのだが…
「おい、ガ―ジル!お前は何を知っている?」
「おうおう、びっくりさせんな、こっちは重症なんだぜ?ははは…今回初めて焦ったなリョウマ…まぁ娘を手にかけていない事が分かった今…お前を恨むことはない。この痛みだけなら元より覚悟していたしな」
そういい、手の感覚がなくなったのに気が付いて、腕を見るガ―ジル。
そして、再び目をリョウマに合わせる。
「異世界から来たお前ならそのスキルへ可能性が高いとおれらの依頼人がいっていたな」
「なんだと?!おい、お前らの依頼人って誰だ!イグルシアの人か?!」
自分のこの世界での出生まで把握していたガ―ジル。
しかし、そんな焦りの気持ちを他所にガ―ジルは話し続ける。
「なぁリョウマ、そもそもスキルがどうして生まれるか知っているか?」
当たり前の事を突然聞いてきた。
それを過去に呼んだ文献で答えるリョウマ。
「それは…個々の才能と努力ではないのか?」
この世界ではスキルというのは一種の才能とされており、それは自然現象と同意義とされている。
しかし、そう答えると鼻で笑われた。
「はっ違うね、スキルってのはな…自ら授かるものだ。」
「おい、それはスキルが自分で欲するという意味か?」
「そうだ、ある人物の研究でこの事実は発見された」
しかし、リョウマはガ―ジルの言い分を無視し、否定する。
「嘘だ…誰がこんなスキルなんかいるか!こんな争いを生むような…スキルを!誰が!」
自らのスキルの恐怖を一番理解しているのはリョウマ…自分自身だ。
彼はスキルを使うが、このスキル…【復讐】を好きだと思った事はない。むしろ、呪いだとすら思っている。
このスキルがあるばかりに自分は復讐に走ったのではと影で悩んでいた。
「権威に聞けばそこらへんは分かるだろうよ」
意味深な事を聞くガ―ジル。
「そして俺らは…正確には俺らの依頼人がその先の研究のさらに先をしているみたいだ」
「…」
「気をつけな。リョウマ・フジタ」
「俺が?」
なぜリョウマを拉致する必要がある。確かに珍しいスキルだが、そんなのたくさんいるのをリョウマは知っている。公表しているだけでも数十人はおり、それらは国の重役として活躍している。
「今は分からなくていい、ただ気を付けておけ、あいつらは俺なんかよりも数倍強い」
「何?!」
「俺らは闇の住人でもある、そして俺らの研究を邪魔させるためにも各国のお偉いさんは動いてもらわなければいけなくてね。まぁ、ある意味…俺らはおとりだ」
「なんで今そんな事を言う…」
「あぁ…それとな…」
何か一言を述べるガ―ジル。
「何をいっているんだ!お前は今から捕まえてじっくり聞いてやる」
「はっはっは…俺は闇の住人だぜ?…」
ガ―ジルの笑い声が室内に響く。
「ホント甘いなお前…だからこそまた言うぞ」
もう命がねぇんだよ…最後にガ―ジルはそう言うと…
バシュ…
最後にそういい、ガ―ジルの首は飛んだ。
「!!!!!」
リョウマは周りを見たが、誰もいなかった。
ガ―ジルの体による、幻覚でもなく、確かに首が切られていた。
死体のそばによりリョウマは大声を上げる
「おい!おい!死ぬな!」
無理だと分かってもリョウマは言ってしまった。
「誰か!回復魔法を!」
しかし、首を斬られたのだ、当然、それは無駄に終わった。
「くそぉーーーー!!!!」
目の前の死にリョウマは怒る。
そして、己のスキルの謎の手がかりを逃した事をに後悔する。
(自決?いや…)
元々失敗したら死ぬ手順だったのだ。
それ程の組織…
ガ―ジルの言った事を再び思いだす。
「イグルシア、権威、自ら授かる…」
考えれば考える程、分からなくなるリョウマ。
しかし、心当たりがないわけでもなかった。
(一旦…これは保留だ。)
明らかにリョウマのキャパを超える案件。
(…あいつらは無事だよな)
地下に向かったレンコとラウラ、そして人質になっているヒカリとメグの身を案じる。
ガ―ジルに幻覚を見せた時点で、衛兵団達には他の下っ端を倒した段階で地下へと行ってもらった。
そして入り口へと向かうリョウマ…
しかし、階段へ向かうと誰かが出てきた。
それはラウラだった。
「ラウラ!」
少し安堵するリョウマ。
しかし、顔を覗くとその顔は険しかった。
「リョウマさん!」
ラウラがリョウマの元へと来る。
「どうした?そんなに焦って?まさか!」
誰かが殺されたのかと心配するリョウマ
「…さんが!」
口がうまく回らないのか、慌てて行ったので聞き取れない。
「ロウドさんとジェムくんが切られて命があぶないんです!」
それは目的の二人の命の危険が彼に知らされていた。
「はぁはぁ…回復を施しているのですが…だめそうなんです。それで考えたのです、リョウマさんならできるのではと…」
確かに【復讐】の使い方によってはできる。
「…気を付けろか」
先程、言われた事を思い出すリョウマ。
「分かった、すぐ案内してくれ、ラウラ」
「はい、お願いします!ロウドさんとジェム君を助けてください!」
「あぁ」
そういい、二人は駆け足で向かう。
この事件の幕が降ろそうと時計の針がさらに進むのであった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!
東屋