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復讐者、一瞬の刹那

ザッカという男の人生は一言で述べるなら悲劇だった。


エズカルバン近くの農村で生まれ、彼は母親と共に育った。


ここで彼に普通の家庭、真面目に働く父親、家庭を支える母親、共に遊んでくれる兄弟がいれば今の彼はいなかっただろう。


そして彼はおそらくガ―ジルに出会わなかった。


幼く一人息子のだったザッカは母親から愛されていなかった。


農村の畑、家事といった全てをザッカが物心ついた時からやらされていた。


赤ん坊の頃も、お金で家政婦を雇っていたって育てられただけ。


なぜにそのお金があったかといえば、母親がエズカルバンの大手の商人の妾だったからだ。


しかし、ザッカを産んだ事でザッカの母親は農村へと送られた。


彼の父が産まないという選択を選ばせなかったのだ。


エズカルバンの商人はよそとは違う。


影での暗殺は日常茶飯時、安全と後継者を残す対策としてやった事だった。


しかし、学のないザッカの母はそれに嫌気がさした。


お金は送られても、使う事のない農村。


あるのは自分の子供と怠惰な時間だけ。


育児にも興味なく、街から送られるお酒を飲みながら怠惰に過ごしていた。


そんな人の元で育ったザッカだったが…別に苦しいとは思わなかった。


そもそも…酷な話だが、ザッカは()()()()()()()()()()()()()


よその農村の家族とかを見て、自分の境遇について考えた事はある。


しかし、考えただけでそれで自らを不憫には思わなかった。


なので、求めるような事はしなかった。


言われたように家事をし…


言われたように畑を耕し…


言われたようにお金を母親に渡す…


そんな何にも興味の無い世界で10年間過ごした。


そして10歳を迎えた年にそこである転機があった。


なんと、子宝に結局恵まれなかったザッカの父の命令で、ザッカの育った農村からエズカルバンへと向かう事になった。


ザッカの母はこれにとても喜んでいた。


エズカルバンを知っている人はそこは危険な地域だとするが、何もない農村よりも全然物が流通しており、経済も人も盛んだった。


住めば都…そんな事を母が口にしてたような記憶が残っている。


そして、迎えの馬車に乗って二人はエズカルバンへ向かった。


しかし、それは彼にある不幸をもたらす。


それは雨が降る中起きた。


空は黒い雲で覆われて、ごろごろと雷がでそうな音を鳴らしていた。


そしてその道中、ザッカの乗る馬車は盗賊の襲撃にあったのだ。


数にして10人程。


ザッカの父親の商売敵が殺し屋を雇い、動いたのだ。


護衛との拮抗した戦いを繰り広げながら、じりじりとその数は減っていた。


母親の焦った顔を鮮明にザッカは覚えている。


そして、それが彼女の最後に見た顔だった。


護衛が全員やられ、馬車へと殺し屋が近づいて来た。


その時に雷鳴の音がする。


そして、綺麗な線が馬車の側の木に当たった。


パキパキ…


ズドォォォォォォォォォン!!!!!


そしてなんと…その木がザッカの乗る馬車を潰したのだ。


襲ってきた殺し屋はそれを見て、慌てふためく。


しかし、潰れた馬車を見て殺しは完了したと決めつけて引き下がった。


その側に流れる血もみて…


しかし、ザッカは奇跡的に…いや不幸にも生きていた。


「んん?」


馬車の屋根が潰れ、雨のしずくが彼の頬に当たる。


そして真横に木が幹を見る。


そこには母がいたはず。


まだ子供だった彼は、咄嗟の行動でその木を持ち上げようとした。


育ててくれていなくて、一緒の家にいた肉親。


彼の中では唯一の身近な存在だった。


それを失う恐怖は子供には計り知れないものだった。


木を持ち上げようとすると同時に来る虚無感。


その負の力で力いっぱい木を持ち上げようとする。


1時間と2時間とそれを続けた。


すると、ふと木が軽くなった事に気が付いた。


それから軽くなれ軽くなれと念じて、ついに彼が大木を…倒れた木を持ち上げてずらしたのだ。


そして、木をどかして、母に声を掛ける


「母さん!」


思えば、いつぶりだろう。


自分の母を母と呼ぶのは。 





そして…()()()()()()()()()()を見るザッカ。





彼の目の前に広がっていたのは悲惨な光景だった。


木の下は赤く染まっており、母親の原型はそこになかった。


見た事のない物体。


それが人の中にあるものだろ幼い彼には分からない。


しかし、それが同時に母だという直感も彼には届いていた。


「あっ…あっ…うわぁーーーーーー!!!!」


そこでようやく認識した。


そもそも生きているはずなかったのだ。


木が倒れた時点で母の命はそこにはなかった。


ザッカは泣きに泣いた。


その雨が彼の涙をなくしても、彼の心は時間と共に廃れた。


そして、そのまま彼は泣きながらも屋根になる部分で夜を過ごしながら気づいたら寝ていた。


朝を迎え、雨もやんでも彼は動かなった。


まだ10歳の少年、それも母親が死んだ直後。


道も知らないと来た。


これで動き回る子はいない。


しかし、そこに残っても餓死か魔物の餌になるのは目に見えていた。


このままどうすればいいのか…


そんな事を延々と考える時間が無限に感じる様に来た。


そんな時の昼にあの男と出会った。


「なんだ?生きているじゃないか?」


歩いてきたのか足元を濡らして音で近づいてくる男


その顔はひげを蓄えた大男、ガ―ジルだった。


「たくっ、殺しの依頼を受けたのに死体を確認しないとか馬鹿だろ。」


どうやら当時、彼は殺しの依頼の元締め的存在で、おろそかな仕事をしたザッカへの殺し屋の後始末をしていた。


「あまり好きではないが、仕方ない…このガキは死んでもらおう」


そういい、剣を出す。


すると、横の木を見る。


そこは真っ赤に染まっていた。しかし、何かおかしい事に気が付く。


「あぁっ?なんで血が見える?」


普通、潰れたなら倒れた木の下に血ある、しかしどう見ても母だったであろうものはそこにあった。


「おい、ガキ…その木をおまえがしたのか?」


そこでガ―ジルはそこに唯一いた少年に聞く。


「…どかした」


「どかしただぁ?…こんなガキがスキルだと?聞いてはいないが…おい、じゃあこれどかしてみる」


「…」


特に反論せず、ザッカは言われるがままにどかした。


それを見たガ―ジルは驚く。


(こんな木をガキが素手でどかしただと…)


殺しにきたガ―ジルはここで彼を殺す事をやめる。


「おい、ガキ…これからどうする?」


「分からない…ずっとお母さんに言われた事をしてきたから、でも死んじゃった。」


ザッカは座りながら答える。


「なら、命令するやつがいれば来るか?」


不気味にもすんなりという事を聞いたザッカにガ―ジルは驚く。


しかし、ザッカには何もおかしくなかった。


大人との交流は指示と命令…それのみで生きてきたザッカにはただそれをしてくれる存在がいるだけで生きていくには十分だった。


母を失ったのは悲しい…しかし…それよりも生きていた気持ちが強かった。


「おじさんが?」


「あぁ…俺がしてやる…それでどうだ?」


「うん…いく」


「よし、お前に与えたい剣がある。後、少しお金の事でも協力してくれ」


そして殺し屋の元締めに一人の男児がついているといのは裏社会で一つのニュースとして広まった。


その後は物事があっさり進んだ。


まずはガ―ジルの指揮の元、ザッカの父親を暗殺した。


それにより、莫大な資金を調達。


さらに管理をするためにザッカを利用し、すんなりと掌握はできた。


後にザッカはこの事を知るが、怒りも何もなかった。


生まれてから一度も会っていない父に愛情を湧くのが無理といえるだろう。


彼はむしろガ―ジルからもらった剣である【巌切り】を手にしてからというもの夢中になった。


それで出す技や殺しの依頼。


それをガ―ジルに命令され、達成していくのどんどん快感を得るようになった。


そんな生活を長くし、やがて彼は青年へとなった。


もう、ザッカは父の会社の存在も忘れた時ぐらいの時、そしてだんだんと殺しの依頼がつまらなく感じた時に今回の依頼が来た。


子供の誘拐の依頼だ。


レイフィールドのアジトの酒屋でいる時にガ―ジルから言われた。


「ザッカ、子供一人…余裕があれば家族も一緒に誘拐をしてこい」


それは気分転換してこいというような感じで言われた。


特に歯向かわずに、おとなしくその仕事につく。


そこである家族に出会う。


すると…ザッカは自分で不思議に思ったが、その家族に興味を持った。


それはザッカの中にかすかに残る理想の家族に近かったからなのか


はたまた、その理想の家族像に嫉妬したからかは本人も分からない。


少し会話をし、雰囲気にのまれたのかもしれない。


共にゴブリンを倒し、父とはこういうものかと擬似体験したのかもしれない。


もしかしたら、奥さんはとても子供思いだったからかもしれない。


父がいれば、こんな感じなのかとザッカは思った。


ローナに影でさきに母を人質にして殺せばと言われたのは不思議と腹が立った。


自らはさんざん殺しをしたに関わらずにだ。


そして、ロウドとジェムを連れてきたザッカはガ―ジルに仕事の報告をした時に言った。


「ガ―ジル…あのロウドを殺すのは俺にさせてくれ」


ガ―ジルはそういうザッカに驚く。


「…まぁおまえか、俺しかあいつは殺せないから任せるつもりだったが…めずらしいな、お前の方から頼みをするのは」


ザッカはそれに答える。


「別に…ただ気に食わないから、殺したくなっただけだ」


いつものように何となくを強調する。


殺しをしてきても、その殺す対象に興味を出した事のないザッカを知るガ―ジルがそれだけでもロウド達の何かがザッカに変化をもたらした事に気が付くも。特別何もしなかった。


むしろ、将来の事を考えるとザッカにはいい経験と思っていた、だからそのままにする。


しかし、それは過ちだった。


レンコと戦っている時も時々その事が頭にちらつく。


それがこの後致命的な油断になるとは知らずに。







レンコに大きな傷を与えた時に考えたのはロウドをどう殺すかだった。


すでにレンコは戦意喪失だと決めつけ、ザッカは特に気にしなかった。


思えば、それは彼の中で初めての仕事の中での油断。


まだ息の根を止める前に相手に対する意識をなくす。


これを油断以外になんというか。


(さてっと…)


どこかぼーっとする気を抑えて、巌切りを振りぬこうと上段の構えをする。


すると、次の瞬間、目の前にいたレンコが消えた。


「は?」


いや、消えたすぐにザッカの目に見えた。


彼に目の前に…


そして、そのままずぶりと脇腹を刺されてた。


「!!!!がはっ!!!」


(なんだ!急にこの()()!)


さっきはあくまでも足速いだけで、手数はそこまで早くはなかった。


しかし今度のは見えなかった。


「なんだ!お前…急になんで強くなった?!」


強くレンコに聞き返すが返事はなかった。


「……リ……」


何かをレンコはつぶやいている。


そして、それはだんだんとザッカの耳に届いてきた。


「リョウマのために…リョウマのために…」


まるで自己暗示にかかりながら彼女はいう。


そして、その目はまるで生気を感じない、うす白い目だった。


「お前…なんだよ!?」


(なんだこれは?スキルか?でもなんの??!)


ザッカはそう予測するが…彼女の現象を見ても、それが何のスキルか全く分からなかった。


そして、脇腹に刺さった刀を横に切り出す。


ブシャッ


激しい激痛がザッカを襲う。


「ぐわぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!!!」


ザッカもここまでの傷は負った事はない。


しかし、レンコはそのまま連撃をする。


素早い刀捌き…剣よりも重いとされる刀をこうも簡単に操るとは…


まるでナイフのようだ。


(こいつ、さっきまで教科書通りの戦い方だったのはず!!)


それが彼女は今、片手剣のように切っている。


今度は右腕を切る。


「くっ!」


しかし、流石に剣を持つ腕を切られるのはまずい。


激痛に耐えながらも回避行動へと移るザッカ。


しかし、まるで磁石のように着いてくる。


バシュ…


「!!!!!!」


今度は声にならない悲鳴を出す。


脇腹と右腕を切られ、一気に体力を奪われた。


「はぁ…はぁ…」


ザッカは【巌切り】を持ちながら傷をかばう。


剣を落とさなかったのは、長年武器と共に生活していた性なのか。


捨てる事は命を捨てる事と同意義となっていた。


しかし、すでに大量に血を失い、立っているのもやっとだ。


そして、ふらつきながら仰向けに倒れるザッカ。


(やばいな…)


まさか、あの状況で倒されるとは…とザッカと思う。


一瞬の出来事だった。


10秒も経っていない。


しかし、同時に思う…本来の俺なら相手を切れていた。


相打ちにでも持ち込んでも…殺しの喜びを知る俺ならこうも無様にならない。


(やっぱり…あの親子のせいか…)


ザッカは別室にいる男とその子供を思い出す。


自分とは無関係と思っていた家族とその関係性。


(笑えるぜ、あんなのに憧れていたのか俺…)


それを目の当たりにするとどこか心に来るものがあった。


(そういえば…あんなに戦闘で笑ったの初めてだったな)


ゴブリン戦を思いだす。人殺しの依頼とは違う充実感…


しかし、もうそれを叶える事はない。その家族に手をかけたのだから。そして己の命ももうすぐ…



すると、なぜか追撃が来ない。


(どうした?…)


可笑しいと思いながらも、失った血の量…そしてそれがまだ続いている事で意識が遠のく。


(やべぇー…最後に)


彼が最後に思い浮かべたのは、自分の愛剣はなかった。


(親父…)


それは彼の親の事なのか、またはガ―ジルの事か



そして、ザッカの意識がなくなる直前、最後に聞こえたのはなぜか赤ん坊が泣く声だった。









「おぎゃーおぎゃー!!」


ヒカリの泣き声で意識が目覚めるレンコ。


その意識は徐々に戻ってきた。


「あれ?…?」


目の前でザッカが倒れているのか


それも腕と脇腹を切った状態。


現場を見ても明らかに彼女がした事だ。


しかし、どうにもレンコはその事に実感が持てない。


まるで白昼夢を見ながら行動をしたような、自分ではない自分が相手を殺したような…


「う…う…」


そして、傷をかばいながら、その泣き声のする方へと歩く。


そこには涙をたまらせたヒカリがレンコを覗いていた。


(!…いけない)


子供の前で殺すなんて、ましてや彼は情報を持っている。


すぐに出来る限りの回復魔法で止血する。


ザッカの血は止まり、後は彼の気力次第となった。


(私は…)


リョウマとヒカリを守りたい一心だったのは覚えている。


しかし、その結果がこの相手の状態なら、レンコは自らに恐怖した。


(一体…私に何が…)


すると、今度は頭の中に新しい情報が入ってきた。


それはレンコに取って初めての状態だった。


(えっ…これはスキル?)


レンコもスキルを会得したようだ。


しかし、それが後だというのはレンコは聞いた事がない。


普通はそれが何か自分で理解してから使えるのとリョウマから聞いていた。


それを無意識の状態に使っていた。


(…後で考えよ)


そうして、ザッカの治療を終えたレンコは、メグとヒカリの側へと行く。


そしてヒカリはレンコに気が付くと嬉しそうにした。


(良かった…私の行動に泣いたわけではなかったのね。)


これでもしそんな事があれば、レンコは死をも考えた。


そして、メグも起こす。


「ン?…あれ?レンコさん」


「大丈夫?けがはない?」


「え…私、男に誘拐されて…」


そして周りを見渡す、メグ。


周りはザッカの巌切りのせいで地面がえぐれていた。


「……これ…どういう状況ですか?」


「敵の仕業よ、倒せたけど」


そういい、ザッカへと目を移す。


メグも大体の事情を把握する。


「じゃあ、非難するよ…と言いたいけど、ラウラが別行動しているからそっちへ行くわ。ヒカリをお願いできるかしら?」


別行動をしたラウラの身を案じる。


スキルの事も気になるが、それは後で考える事にした。


「そんな、レンコさんも傷だらけじゃないですか!私の回復魔法を受けたから行きましょう。


珍しく慌てた表情をするメグ。


「そうね、そうして向かいましょう」


こうして、母が子供を救う対決は母の勝利で幕を閉じた。


しかし、母の心にはまだ黒い渦の様な蟠りがあり続け、引っかかる思いを残すのだった。

ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

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