復讐者、女の自覚
速いテンポで剣と刀がぶつかる音
キンッ
キンッ
キンッ
キンッ
それが部屋の空気を緊張させる。
己の愛刀を使い、レンコは対峙する男…ザッカと戦っていた。
「その刀…良い刀だな」
ザッカは一旦距離をおいて、レンコと対話する事にする。
「刀身はこの薄暗い中、綺麗に照らされてる、まるで少ない光をかき集めるかのように」
そして、右に持っていた剣をレンコにかざす。
すると、剣がピキっとヒビが入り、そしてそのまま折れた。
「ほら、おかげで私の剣の一つが粉々に…この剣はドワーフの鍛冶師にやってもらったんだがな…決して弱い剣ではないのだが…それでも壊すとは流石は刀…その強度と切れ味は驚愕に値する」
ザッカはふふふと笑いながら答える。
「しかし…貴方自身には何か焦りも感じるな、まるで…名誉を挽回したいような」
レンコはザッカの言葉には耳を傾けない。
「そっちも良い剣を使っているな。」
そして、彼の言っている事を無視して、ザッカのもう一つの剣を見る。
彼女の腕は痺れで震えていた。
「あー、気づきました?これは特別だからな」
そういい、刀身を見せるようにザッカは話す。
「魔物を多少知っていれば知っているか?“ロードバジリスク”を」
「…その牙とでもいうのか?」
ロードバジリスクというのはこの世界の魔物に与える階級の中で上から3番目に指定されている。
バジリスクの親玉的存在で、街一つを滅ぼす程に凶悪とされている。
蛇の魔物で地球の伝承と違う点は多くあり、例えば石を喰らいながら生きている。
そのために目を一定の間見続けると生物を石にしてしまう先天的スキルを持っている。
その牙は岩を喰らうためにとても頑丈だ。
「いえ…こいつはその中でも特別…化石なのですよ」
魔物は昔から存在する、その中でも化石となる魔物もある。
「その化石となる過程で…地中のボルドタイトも吸収したのですよ、苦労したよ用意してもらうのに」
「な!」
ボルドタイトはこの世界で自然で出る鉱石の中で一般的に知られている最も頑丈な鉱石。それを武器として使用するのはとても稀だ。
なぜならとてつもなく重いのである。
一粒で大の大人がやっと持てる程だ。
「そんな剣、なぜ持てるの?」
「そこでスキルですよ。俺は重さを変えれるスキル【重量変換】を持っている。だからこの剣…名を“巌切り”…を使用できる」
「…」
そこで聞くべきではなかったのかもしえない。
しかし…レンコは聞いてしまった。
「後天か?」
「…」
今度はザッカが黙る番だった。
「強いとされるスキルというのは簡単に身につくものではない」
続けてレンコは言う。
「そのスキルの効果を見ると…後天的スキルであるのは明白だ。」
そして同時に…レンコは話してしまった。
「私の大切な人も後天的スキルを持っている。なので、どうやって得たかは分かる」
「これから切る者として聞くわ、あなたの過去に何があった?」
今度はザッカが何も答えなかった。
「…もしかして、それがマリアンさんを逃がした理由か?」
レンコはザッカの目を見て言う。
数回剣を交えただけで分かる彼の実力。
それにも関わらず…彼はマリアンを逃がした。
そこにレンコは疑問を感じた。
だからこそ、聞かずにいられなかったのだ。
「……何をいっているのだか?」
ザッカは目を泳がせず、真っすぐ目を向けて言った。
改めて彼の手は“巌切り”を握り直す。
「…おしゃべりはここまでにしようぜ。そろそろあなたを切って、この子達をローナの所に連れて行かなければいかないといけないんでね」
「おそらく、その女の所には私の友達が向かった。すぐに捕まるわ」
別の道を行ったラウラをレンコは思う。
強くはないが、何か変わろうとしていた彼女は前の私を見ているようだ。
「まぁ、あの女だけはガ―ジルさんが紹介しただけですからね…仲間でもなんでもないです。」
「?、仲間意識はないのか?」
レンコはザッカの言った事をおかしく思いながら聞き直す。
「俺らはただ依頼を受けて一緒にいるだけだ。俺がここにいるのは、ガ―ジルさんに誘われたからで、それはあの人ここまで育ててくれた恩があるからだ」
「育ての親」
まるで今の自分みたいだ…ヒカリを育てているレンコはそう思ってしまう。しかし、間違ってもザッカのように育ってほしくない。
「今のあなたと同じですね?レンコ・ヤギュウ」
「!」
「!、知ってるのか?私を」
レンコはザッカの発言に驚く。
少なくともレンコはザッカと初対面だと思う。
「えぇ…その刀で身元は判明しましたよ…それはかの道場ヤギュウの一人娘が持つはずの刀。そしてその人物の経歴は元王国直下の魔物狩りパーティのメンバー、そして将軍のリョウマの復讐相手の一人だと…」
「!!!!」
なぜそれを知っているのかとレンコは思う。
それは魔王城にいる魔王と当事者のレンコを含め、数人しか知らない。ましてや国外の男が知っているのはありえない。
「ガ―ジルさんから少し聞いていてね。あなたのリーダー、リョウマ・フジタは恐れられているんだよ。どうやら俺らの依頼人にな…」
「どういう意味?」
レンコは聞き返す。
「さぁ?頭がいい人の考えは知らないな。俺はただ君を殺せばいいよ」
にへらと睨むザッカ。
「俺はガ―ジルさんの邪魔するやつを殺すだけ…ずっとそうしてきたんだ。そしてうまくいった」
何かガ―ジルとの過去でもあるのか、ザッカは自分の剣を撫でながら言う。
そして、メグとヒカリの方を見る。
「…その赤ん坊…あのリョウマの子か?」
「…ちがう」
レンコは否定する。
「くっくっく…なるほど…あなた嘘が下手ってよく言われないか」
どこか聞き覚えのある事を言われるレンコ
「では一つこれからする事を先に言いましょう」
ザッカは嬉々として話しながら言う。
「今から、この子を殺してリョウマの所に向かおう」
にんまりととんでもない事を言うザッカ。
「…」
ここで何かを言う程小物ではない。
しかし、レンコはふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「あの男は強いからな…将軍の怒りを見てみるのも面白い」
そういいながら、ザッカは続ける。
「王国を潰した影の立役者、そんな強い人が無様に死んだら最高だとは思わないか?」
そして、ザッカは…
そういい、残酷な笑みで笑うザッカ。
「さぁー、どうだ?俺を殺したくなった?俺を止めなきゃ…この赤ん坊と娘の命、そしてあなたのリーダーの命ははない」
そういい、ヒカリの方へと歩く。
すると…
ヒュン…
なんと、反対側にいたレンコはザッカの前の前まできた。
「へぇー、珍しいですね…その魔法」
かすかに聞こえるあの電気のびりびりとした音。
それは目の前の女からでていた。
「普通、刀を使う剣士は魔法を使う事は少ないけど…」
ザッカはレンコが魔法を使えた事に少し驚く。
そして彼女は数太刀、ザッカにお見舞いするが、それを全て受け止められる。
「くっ!」
そして再び、後ろに下がるレンコ。
「普通、剣を極める者の殆どは魔力の適正が低かったり、もしくはない場合が多いけどな」
なぜなら魔法で充分に威力があるのを出せるからだ。
そのため魔法剣士というのはこの世界で少ない。
「それがあなたの切り札ですか?差し詰め、雷魔法か?」
ザッカは呆れる様に言う。
「魔法剣士は総じてその魔法による威力や効果が弱い。物理においては俺の巌切りの斬撃に遠く及ばない」
そういいながらも、さらに距離を空けたザッカ。
「なんでこの距離を取ったか分かるか?」
お互いに剣と刀…近距離武器だ。
「俺の巌切りは剣の中でも特別でね。今からゲームをしよう。何、簡単な耐久ゲームだ。」
得物を投げない限りはこの距離は詰められない。
「俺のスキルは物の重さを軽くする事…だから重さを戻しながら剣を振ると…」
そういい、上段の構えをするザッカ。
「重さの差は同時に力の差…くらえ!!」
くるっとレンコが思った瞬間
ぞくっとした気配がする。
レンコは咄嗟にザッカの直線状から外れようとするが…できない。
いつのまにか、後ろに二人、メグとヒカリがいる。
(この人、これも込みで今まで戦っていたの?!)
そして、ザッカが上から彼の剣、“巌切り”を振り下ろす。
「刃撃一太刀!!!」
ドンッ!!!
すると、地面が文字通り切れて、レンコの方まで向かって来た。
ズバァン!!!
「ぐぁ!!!!!!」
レンコはその剣撃をうまく刀身で切り返して霧に変える。
しかし、衝撃を全ては返せてなかった。
波状した剣の刃が彼女を襲う。
「へぇ…よく耐えれたな。普通はそのまま切られる人が多いのに」
ザッカを見るレンコ。
「威力が高いからあんまり乱用はできないんだよね…ここ潰れるかもしれないな」
ザッカは頬を掻きながら言う。
「じゃあ、次いくよ」
そういい、もう一発、もう一発と続けて打つ。
「くっ…あっ!…」
レンコは苦虫を噛むように耐える。
そのまま、彼女はその斬撃に耐え続けた。
耐えて…
耐えて…
耐えて…
耐え続けた。
何回受けただろうか?
そんなことをぼーっと考えるレンコ。
辺りは斬撃で切り刻まれ、足を踏む場がない。
彼女の足元と後ろのだけ、メグとヒカリを守るようにレンコはただザッカの斬撃を耐えていた。
「…いい加減大人しく切られてくれないかな?」
ブンッ
そういい、もう一発、剣撃を出すザッカ。
殺そうと思えば殺せるのだろう。しかし、自分からこの場を作った手前意地でもこの技でレンコを殺すつもりらしい。
でなければとっくにメグとヒカリを守れなかった。
しかし、今度のはもろに喰らってしまい、後ろへと飛ばされてしまう。
「ぐぁ!!!…」
そして、真後ろを見るとメグとヒカリがいた。
「さて、そろそろですか?何か言い残す事はあればそのリョウマって将軍に伝えるよ」
そういいながら、ザッカは少し近づいてきた。
(何か…手はないのか…力はもう彼には敵わない。)
それでも、彼女は諦められない、諦められない。
頭で策を考えるが何も思いつかない。
彼女は考えれば考える程に策を思いつく前に、思考が停止する。
(でもヒカリ…)
それもまだ意識を保っていられるのは…守るべきものを理解しているからか。
ふとっレンコは後ろにいたヒカリの顔を覗いた。
そして、自分の子供の頃を思い出す。
◇
道場の娘として育ったレンコ。
道場を愛して、自分をいずれは継ぐと猛進してきた。
女性という事で周りの反発もあったために彼女は身を粉にして修行をし、実力を高めた。
考えた。どうすれば、周りを黙らせるか。
考えた。どうすれば、周りを認められるか。
そんな中、彼女はある答えを出す。
何かを得るために、何かを捨てる。
女性としての幸せではなく、道場の一人娘であるヤギュウ・レンコの幸せを追求すると。
その思いで行動する。
模範となるために勉強や剣の修行に励んだ。
さらに強くなるために、冒険者になり、ギルドで武者修行する。
周りの女は友達同士で遊ぶ中、一人で修行した。
道場を拡大するために依頼を受けて…リョウマを裏切り、お金を得た。
しかし、お金を得て、レンコは思った。
(私…何がしたいんだろう…)
そんな事を思うようになり、しばらく道場で自堕落な生活を送る。そしてレンコの体にある変化が起きる。
それはリョウマを裏切って数週間後だ。
彼女の中で何かが空っぽになった。
道場の事を考えても、あんまり考えがまとまらない。
むしろ、日を追うごとに…リョウマの事を思い出す。
気丈にふるまわなきゃと育ったため、その思いに気づけなかった。
得たお金で道場をより大きく…しかし、肝心なその理由がすでに彼女の中でなかった。。
かつての門下生も魔王国のとの争いもあり、離れていった。。
両親…そして育ててくれた叔母ももうすでに病気で他界した。
唯一の拠り所と思って大事にしていた道場だったが…今は特別に思えなくなった。
それよりも…
(リョウマ…)
気持ちが落ち着かない中、数か月の時間が過ぎた頃。
ある時の夜、吐き気を感じ、病院にいった。
「おめでとうですね、レンコさん」
「へ?」
それはつわりだった。
その事を知ったレンコは…不思議と驚きはしなかった。
むしろ…幸せに感じた。
そこで初めて認識したのだ。
(あー私は…あいつの事が…)
女性としての自覚がここでようやくレンコの中に芽生えた。。
愛の自覚だ。
道場よりもリョウマの事とお腹の子の事で頭がいっぱいだった。
そして、彼女は考えを変えた。
(…この子とリョウマのために生きよう)
自分の心を全てを占めているこの想い。
これに従う他無いと彼女は決めた。
お腹にヒカリがいる時にスフィアのいると思われる町が無くなり、リョウマの存在を感じたレンコは内心嬉しかった。
学園が倒されて、エマの方にリョウマはいったと知った時は次は私だと喜んだ。
しかし、同時それは自分への罰が来る事を分かっていたという事。
「あなたはきっと私を許さないだろうね…リョウマ。」
そして、そこから彼女はその子供を養うために、そしてリョウマのための最後を行うよう考えた。
正式に道場は閉じた。
理由は妊娠のための休業だったが…戻るつもりはなかった。
同時に王国もなくなり、道場の需要が無くなる所だったので良かったのだろう。
今はただ剣士の中での歴史に残る古い道場。それで道場の娘としての運命は十分だろう。
さらに月日が経ち、死ぬ前にリョウマに謝る、そして…殺される準備を整えた。
そう決心してからの日々の彼女の心境は不思議と落ち着いていた。
勿論、あの時の後悔で泣きたいほど謝りたい。一緒にヒカリとリョウマと生きたい思いはある。
しかし、それよりも彼女は復讐されるのを選んだ。
彼の思うように身を委ねたいと思ったからだ。
そんな結果が今のレンコだ。
一度捨てたからこそ、この命の大切さをこの身で知るレンコ。
生き様、家、さらに自らの子供を失ってきたレンコ。
しかし、そんな事があっても今を暮らせるのはリョウマのおかげ。
命を失わずに生きてきたおかげ
そしてその証でもあるヒカリは彼女の中でも希望だった。
例え、血は繋がっていなくても、まだ私を母親なのかどうかも彼女は知らなくても、レンコはヒカリを育てる事を誓っている。
彼女の今は過去を改めた事で得たのだ。
(そうだ…考えを変えよう)
そこからレンコは思考を再開した。
「俺のパーティ仲間だったころを思い出せ」
あの時は任務もあったが、リョウマと一緒にいるのが心地良かった時間だ。
その時にも多くの強敵と戦った。
任務と自らの思いを合わせた結果、彼女は当時のリョウマに次ぐ実力者として活躍していた。
(あの時は…リョウマのために戦うのは心地よかったな)
(確か…感情はこうだ)
再び、過去を元に考えを一つに絞り、それに集中する。
そして、道場を潰し、本当は何が欲しかったかを理解した。そして何が大事かを悟った。
危うい青年、リョウマ
彼がいなければ何もできない。
そして、その証であるヒカリだけは助けなければ…
(後は何も考えるな。力が弱いだのなんだの、今は考えてもしょうがないわ)
どんどん、そしてどんどんとレンコの意識が無意識の領域へと行く。
目的は目の前の敵を倒す。それは自分を変えてくれたリョウマのために。
そして気づかない内にレンコの意識は無くなっていた
次の瞬間…レンコは目を開けたら、右腕を切られたザッカが目の前で地に伏せていた。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋