復讐者、いざ戦闘へ
「なるほど、ロウドのやつが…」
ガモンはマリアンから事情を聞いて、事情を把握する。
その中で彼女の夫がロウドだった事を知った。
「知っているのか?」
リョウマがガモンに聞く。
「あぁ…少し前になるが、合同訓練の時に見かけてな、その時ロウドは周りの衛兵よりも頭一つ飛びぬけて強かった。オマケに【魔法耐性】のスキル持ち、是非とも俺の元で鍛えたいと思ったが、家族を理由に断られてな」
彼がグレートゴブリンを倒した話を聞いて、微笑むガモン。
一方マリアンは何か他に伝える事はないかと考え込んでいた。
ふと、彼女が銃を向けられた時の事を思い出す。
「そういえば、女の人が見せた銃に赤い紋様がありました、何かの手がかりになるかもしれません」
「赤い紋様?」
ガモンはマリアンに聞き返した。
「はい、それに自分の国は治安が悪いとも」
「ミルダ、資料室に各国の国旗があったな?それを持ってきてくれ」
「分かりました」
そして、資料を取りにいったミルダはすぐに持ってきた。
「こちらをどうぞ」
「有難うな」
マリアンから各国の旗が記された資料を受け取ったガモンはすぐに中を開いた。
ぱらぱらとめくり、マリアンに見せながら、彼女が見たであろう紋様…すなわち国旗や市町村旗を探した。
そして、それは見つかった。
「これです!この赤い紋様です!」
マリアンは真っ先に自分の指をその国旗に載せる。
それを見る、ガモン、リョウマ、そしてミルダ。
「どこだ?ここは?」
リョウマはこの世界の地理には詳しくない。魔王国と王国を除くと他の周辺国の常識の範囲の事しか知らない。
つまり、マリアンの指を指した国は魔王国から遠い国にあるという事が分かる。
リョウマとは違う反応をした人が二人いた。
それぞれ、ガモンとミルダは苦い顔をしていた。
「どうした二人とも?なぁ、ここはどこなんだ?」
素直に聞くことにするリョウマ。
ガモンが口を開く。
「あぁ、ここの名前はなぁ…エズカルバンって言ってな…通称“眠れない都市”」
「都市?国じゃないのか?」
リョウマはガモンの言った事に聞き返す。
「あぁ、国じゃなくて都市だ…ただあまりに犯罪の多さと治安の悪さで本国から切り離された独立国家として10年前に生まれ変わった曰く付きの都市だ」
ガモンは自身の中でこれから敵にする犯罪者の危険指数を上げた。
「エズカルバンのあった国…魔王国から西の方にあるレイズ王国って言うんだが、まぁ普通の王国だ。当時の王様の腰が低い事以外は領民も平和に暮らしていた。そんな平和な国だったからか悪いやつらにめをつけられたのかもしれないが、俺としてはどうしようもなかったと思うぜ」
マリアンからガモンは国旗の資料を戴き、今度は青い国旗のページを見せる。
「ここは知っているだろ?」
そこは地理に疎いリョウマも知っている国だった。
「…イグルシア帝国、この大陸で最大の国家だな」
イグルシア帝国は魔王国のある大陸の中で一番大きく国で人口も多い。その特徴は侵略国家で過去に武力で領土を広げた歴史がある。
半世紀前から何があったのか公にされたいないがその侵略行為は落ち着き、表立った行動はしていない。
「ここがエズカルバンの権力者を支援して色々しているみたいだ。表では国際政治の一環の技術提供といっているが、イグルシア側の強い力が入っているのは推測できる」
「それで味をしめた裏社会の強者をエズカルバンに集めた。世の中、どこにだってそこで暮らすしかない人ってのはいるものだ。過去に一回だけ、レイズ王国が極秘にエズカルバンを攻撃したんだが…5000の軍勢をわずか100人でエズカルバンが撃退した」
「それは…やばいな…」
「それからエズカルバンの地位が確立され、レイズ王国は手放したも同然になった。それが今回の敵だ…」
これまで話を聞いて、マリアンは声を上げて言う。
「主人は……息子は助かるのですか?」
怯えが見て取れた。
自分を助けるために残った二人の家族。
その家族が帰ってこないのではという恐怖は彼女の身に迫る。
「マリアンさん、これから大至急捜査員及び対抗するための戦闘員を集めます」
続けて、ガモンはマリアンに対して言う。
「マリアンさんは我々でお守りします。ここで皆さんの帰りを信じましょう」
「リョウマも今回の実働部隊に入ってくれ、お前の力が必要だ。もしかしたら、その親方ってやつと対峙してもらうかもしれない、エスカルバンの実力者だろう…将軍ほどではないかもしれないが、間違いなく強者だ」
「分かった」
「後は腕利きの剣士と束縛系のスキルを持っているやつが欲しいな。ロウドと一緒に戦ったっていうザッカはかなりの達人だろう。ローナっていう移動スキルのやつをすぐに抑えるために確保できる人材が必要でもあるしな。」
ガモンが淡々と欲しい人材を列挙していく。
「そうだな、俺はいくつか心当たりがあるから呼んでもいいか?」
「あぁ、今は時間がおしい、あんたの権限と俺の権限でここは一気に人を集めよう」
「了解、それがいいな」
そういい、リョウマはメグに声をかけようとする。
すると、通信魔法が彼に来る。
頭の中で機械音の様なものが鳴った。
(丁度いい、メグからだろうな)
「丁度電話がきた」
周りに一言を言って通信に出るリョウマ。
(もしもし、メグか?今丁度おまえらを…)
(リョウマさん!)
「え?レンコ!メグに連絡は頼んでいたんだが…」
(ひっく…ごめん、本当にごめん!)
通信越しにレンコが泣いているのが分かる。
ただならない事が起きたのは聞かなくても分かった。
「何があった、すぐ教えてくれ!」
(ごめんなさいごめんなさい、私が気をぬいたばかりに)
「レンコ・ヤギュウ!命令だ!すぐに何があったかいえ!」
悪い知らせなのは間違いないのだ。しかし、それが何か分からなければ判断のしようがない。
リョウマは悪いと思うが、厳しくレンコに何があった聞いた。
(ひっく…さっきヒカリとメグが誘拐された)
「何!?」
(市場で歩いていたら、少し離れてしまった時にガラの悪い男にメグが絡まれてしまって、助けようと戻ったら男が私達に気が付いてそのままメグを気絶させてヒカリ事連れて行ったんだ!)
「追ったのか?!なぜ逃げられた?!」
レンコは決して足は遅くはない。むしろ、冒険者として活動していただけに一般人よりも数倍速い。
(勿論、追ったんだけど…ひっく…角を曲がった所の行き止まりで忽然と消えたんだ!)
「消えただと!」
再び驚くリョウマ。
リョウマの声に周りのガモンとミルダが反応する。
「おいおい、消えたってまさかこれと関係しているんじゃ…」
「でしょうね」
ガモンがさらに問題が困難になった事を心配し、そしてミルダが指摘する。
そして、つい先ほどの話を思い出し、リョウマはレンコに聞く。
「まさか……。レンコ、そこに青い靄みたいなものがなかったか?」
(…そういえば、青い靄が見えた気もするが…)
「くそっ!」
リョウマは側に会った壁を殴りつける。
これでメグとヒカリもエズカルバンの一味に誘拐されたのだと確定した。
「レンコ、急いで衛兵団本部まで来てくれ。ラウラも一緒にだ。犯人に心当たりがある」
(え?!)
「細かい話は後だ。それにまだヒカリとメグはやばい状況なのは変わらない」
子供達に何かしようとしている組織だ。決して無事で返すつもりなどないだろう。
(ひっく…分かった!すぐ向かうから待ってて!)
そこで通信が切れた。
「…でっ、察するにお前も関係者になったみたいだな」
「ガモン!言い方ってものがあるだろ」
「黙っていろミルダ」
ガモンは余程の事があったと思い、あえてリョウマに聞く。
ガモンは先程彼に言った一言を思い出す。
「お前のスキルでどうにかならないか?」
ガモンは心優しい軍人だ。ただし、それと同時に魔王国の都市を守る衛兵団の団長でもある。
日々、平和を守るために、彼は常に最も成功率の高い事件解決及び犯罪阻止を心がけてきた。
そして、それは今も変わらない。むしろ、国単位の犯罪になる事も予見し、リョウマに聞いたのだ。
「はぁ…」
ガモンはリョウマをそっと見る。
これは幻覚なのか、はたまた現実なのか
徐々にリョウマの周りに赤黒いオーラが漂っているのが見える。
「うっ」
「うわっ」
それは周りにいた衛兵やマリアンに気分を悪くさせる程の負の力。
側に寄ったガモンですら、その気に耐えがたいものがあった。
今度は丁寧に聞くガモン。
「ガモン、今回の件、すぐに終わらせるぞ。」
リョウマはまだガモンに背を向け、顔を見せずに言う。
「はっ?あぁ大至急実働班を編成するから…」
ガモンの言葉を遮って、リョウマは続ける。
「ヒカリが…俺の娘がそいつらに誘拐された…俺の大事な俺の部下もな…」
リョウマ、くるっとガモンの方を向く。顔はよく見えない。
彼は下向きに顔をふせ、表情を伺えないようにしている。
まるで怒りに耐えているかのようにガモンとミルダは感じた。
「俺の娘だけじゃなく部下にも手を出したんんだ…俺の」
(支えに…)
彼の中で沸々と湧いてくる力。
(あぁ…この感覚…またあれが使えるのか)
スフィアの件
エマの件
そして、レンコの件を最後にしばらくでなかった彼の力がが今再び目を覚ます。
「“復讐”だ」
そう言うと彼は顔を前へと向ける
その眼は先程のだらけら青年ではない。
かといっても将軍のような煌びやかな存在にはなれない。
その顔は怒りに満ち、さながら魔将と呼ぶに相応しい意気を醸し出していた。
◇
レンコとラウラが衛兵団の本部へと来て、エズカルバンの話をリョウマはした。
「リョウマさん!本当に申し訳ないです!メグとヒカリを危険な目に合わせて、私がもう少し気をつけていれば」
「リョウマ…本当に本当にごめんなさい。私あなたの大事な物をまた守れなかった…」
ラウラは泣きながらリョウマに謝る。
そして、レンコの方ももう泣いてはいないが、産んだ子が誘拐されたのだ…その顔は当然優れない。
さらに彼は今はリョウマに忠実な存在。女としても守れなかった事を後悔している。
「ラウラ、泣くな。まだ助かる道はある。今、俺たちができる最善をいくぞ」
ラウラには宥めるように話すリョウマ。
しかし、レンコには少し違う態度で言う。
「レンコ、今お前に言う事はない」
「…分かりました。」
ラウラはそれを複雑そうに見ながら、リョウマとガモンの指示を待つ。
「まぁ、そういう訳で今回の犯人は手強い」
ガモンが確認するように言う。
場所は医務室から変わって、会議室を衛兵団の方で用意してもらった。
「場所も分からないし、そんな移動スキルを持っているやつらどうすれば?」
ラウラが心配そうに言う。
しかし、リョウマは慌てずに答えをいった。
「花街だ…」
!!!
会議室にいたガモン、ラウラとレンコはリョウマの言った事に驚く。
そしてレンコはすぐに察しがついた。
「まさか…もう?」
「そうだ、俺は今、大変心が怒りで満ちているんだ、これを見ろ」
すると、空中に画面を出すリョウマ。
一般的な地図魔法で、空中に地図を写せる便利な魔法だ。
そこには赤い点が載っていた。
「俺の娘はどこだと念じる事でスキルと魔法の両方を併用してできた。この赤い点がヒカリだ」
「ならすぐに行きましょう!」
そういい、レンコは持ってきた刀を腰に携える。
「私もいきます!魔法なら使えるので戦力になるかと…」
ラウラも志願する。
「あぁ…お前らには相応に働いてもらう」
命が危険だとかは言わない。レンコは戦力になるし、ラウラは戦闘経験は少ないが魔法が使えるので必要かもしれない。
そもそも、リョウマは直属の部下が少ないのだ。自由に指揮をするためにも二人は必要だった。
「おいおいおい、それだけですぐ行くつもりか?討伐班を待ってはくれないのか?」
ガモンがリョウマに聞く。
わずか3人、あまりに少ない。
「一応、後何人かに声をさっきかけたが、やつらが逃げる可能性もある。大至急現地へ向かうべきだ」
これを聞いてため息をつくガモン。
「…止めても無駄だろうな、おし、俺と10人程ならすぐに出れる。相手の数は分からないが…まぁ最低限なんとかなるだろう。」
「助かる、有難うガモン」
これに礼を言うリョウマ。
「始末書はお前が書けよ、後、今回は流石にこの一件では終わらないだろう。それもわかっていての事だな?」
笑いながらガモンはリョウマに言う。
エズカルバンと戦うという事は後ろに控える国とも事を構える可能性があるという事だ。
「俺の娘を奪ったんだ…相応の返しをさせてもらわなきゃ気が進まない」
リョウマはそういい、厳しい顔をする。
その顔は普段の優しい表情などではなく、どこか恐怖すら感じる程に感情がなかった。まるで怒りを抑えるかのように。
「いいか、みんな、今回の敵は国とか関係ない」
リョウマは淡々という。
「やつらは子供を奪う悪者だ。人として終わっている。そんな悪者にはしっかりとお灸をすえなければいけないと思わないか?」
リョウマは握りこぶしを作って言う。
「どんな事があっても、子供を奪っていい理由なんかになりゃしない」
そして、最後に力強く…怒りの如く言い切る。
「行くぞ、復讐だ」
「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」
こうして、リョウマ達はエズカルバンの一味がいるであろう所へ向かった。
戦闘はもうすぐそこまで来ていた。
◇
場所は花街
花街そのものは多くの都市にあり、その名の通り、男性魅了する女性が数多く働いている。
リョウマが多くの医療知識を教えたのもその背景で、そこで働く人は前よりも安心して暮らせるようになった。
そして、そんなレイフィールドの花街でも何件か潰れた店が多く集まるところがある。
エズカルバンのアジトはそこにあった。
「あんた!!なんでこんな子を誘拐するの!」
ローナは厳しくメグを誘拐した男にいう。
「こんなかわいい子が子持ちだぜ?せっかくこんな街にいるんだ、一人の女ぐらい遊ばなくてどうする?」
茶髪の男、マッコウは言う。
その下品な笑みに女性のローナは寒気を感じる。
場所は潰れた居酒屋を簡単に改装したアジト。
二階建てで、見た目の割に他の潰れた店とつなぐ地下室があるのが魅力で彼らの親方がアジトにした
すると奥から大男がでてくる。
「まぁ、そう怒るなローナ。案外掘り出し物だぜそいつぁ」
どしどしと階段を下りてきたその大男はローナに言う。
「親方!」
「ガージルさん!」
ロウドよりも大きな、そしてひげを蓄えたガージルという男。
このエズカルバンの一味のリーダーで、ある計画の概要を知っている人物だ。
「あの女が抱っこしていた赤ん坊…高い素質があると鑑定結果が出たぜ」
「そうなんですか?」
ローナは聞く。
彼らは優秀な子供を欲していた。特に武力として戦力となる子供を…
「はっ、期せずして俺のお手柄じゃないですか!」
マッコウが調子のいい事をいう。
「まぁ、親が誰か気になるが、一旦持ち帰って、普通に育てるのもありだ。また今度にしよう」
「そうですね、おそらくここを見つけるのは時間の問題でしょうし…」
先程マリアンを逃がした事はすでに報告している。
すぐにここを立つ事が決まった。
でも、ここにいる皆は今すぐに追手が来るとは思っていなかった。
しかし…
「ん?」
「なんだ騒がしいな」
外が騒がしいのを感じるガ―ジルとマッコウ。
「ザッカ!窓から見ろ!何があった外で」
そう言ったガ―ジルは二階にいたザッカに指示する。
二階からの窓から覗くようにしてロウドを倒した男…ザッカが言う。
「…どうやら…そうもいかないみたいですよ親方」
「そうもいかないだと?」
ガ―ジルは。
(まさか…)
「おいおい、そんなにここの兵隊は優秀なのか?」
「俺らの事ちっとも見つけられなかったのにな」
ガ―ジルが皮肉を言い、マッコウがそれに応対する。
いくらなんでも早すぎる、しかしザッカは気配察知のスキル持ちでもある。間違いないようだ。
ガ―ジルは指示を出す。
「マッコウとローナは人質の所へ、ザッカ、お前はあの赤ん坊の所へ連れていけ、そしてローナと合流しろ…残りは俺と共にここで向かい打つ」
「了解」
「うーす」
「分かりました」
そして、各々が持ち場へと向かう。
3人を重要な所に任せて、自分は戦闘で時間を稼ぐ算段だ。
それには訳がある。
彼は壁に掲げていた大斧を捕る。
それは血が固まったような黒色で妖気を感じさせるものだ。
この任務についてからしばらく戦いはなかった。
ガ―ジルは元々一対多の戦闘を好んでいる。
彼の中で戦いへの強い欲求が生まれる。
「かかってこい、滅多切りにしてやる!!!」
その顔は戦闘への嬉々とした表情。
これから起きる戦闘にエズカルバンの一味の大親分のガ―ジル・ダルドギウスは胸を躍らせるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!
東屋