復讐者、ある魔法少女の過去
私は普通の家庭に生まれた魔法使いだ。
名前はエマ・ラマール。
今はもうないランドロセル王国では普通の家庭に生まれたらどのような適正があるか幼い頃に診断される。
多くの同年代の子が特別な事を授からずに診断された中で、私には魔法の才があった。
魔法の才能がある事は普通の家庭では大変に喜ばれる事だった。
魔法の才能がある事が分かった時、お母さんとお父さんの嬉しそうな顔は今でも覚えている。
今思えばあの頃が一番幸せだったのかもしれない。
世の中の暗い部分を知らず、ただ言われた通りに学び、食べ、遊んでいた頃。
もうしばらく家に帰っていないが、きっと彼らは私の成功をまだ願っているだろう。
ともかく、両親、周囲にそんなちやほやされながら育ったのが私だ。
ちやほやされて育った私はその生まれ育った町で回復術師をやっていた。
周りからも褒められ、街でも比較的裕福に暮らせていた。だが…私はその現状に不満だった。
刺激がなかったのだ。馬鹿らしいかもしれないが、毎日毎日同じ生活。患者が来ては回復をし、お金を取る…そんな刺激のない毎日を続けて入れば答えは変わるだろう。
そんな退屈に感じる日々の中で、ランドロセル王国でも特例で貴族制度の一員になれるのが冒険者という仕事を知る。
命を懸ける仕事だ。
当然、両親の反対や周囲の街に残ってほしい気持ちは言われた。しかし、それ冒険者という仕事を知った私にはもう街一つにいる事が収まるものではなかったのだ。
そして私にのみ両親にもし出発を伝えて、生まれた街を出ていった。
今思えば、私の意見を最後には認めてくれる良い両親だ。
そんな両親の子として産まれた私の現状を考えると両親に申し訳なかった。
さてと…
ここまで話してどうしてエマ・ラマールがこうまでおとぼけたキャラになったか。
それは当時のランドロセル王国の貴族制度を見ていたからかもしれないし、私の本性でしかないのかもしれない。
ただ街を出た後に私の中できっかけはあった。
そのまま少し離れた街のギルドへ登録し、仲間を募り、冒険に出たのだ。
しかし、冒険者になってすぐに思い知った。才能などではなく、しぶとく生きる者が強いのだと。
結果をいうと、私の最初のパーティー私を除いて全滅した。
悲惨だったとだけ言おう。
そして、その辺りから安全な暮らし…特に貴族の様な上からものをいう暮らしに憧れる様になった。さらに言えば、最初のパーティが全滅してから私は回復術師として、危険のない依頼を受けるようになった。
危険のない所でより安全にかつ自分を傷つけずに生きる。
しばらく経てば、その生き方が染みついてしまった。
勿論、当時はそんな身になっている精神状態だなんて気が付いていない。
今でこそ、こう言えるのだ。
それからリョウマ達のパーティに入り、裏切りに手を染めて、流れ流れで今私の胸にはナイフが沈んでいた。
「がふっ…」
口が血の味がする。
しかし、それもしばらくすると薄れてきた。
(あー、私、刺されて…)
おそらく私はそんなぶらぶらな心情で生きていた報いを受けているのだろうと感じた。
「げほげほっ」
新しく喉から苦い味を感じた。出血が続いているのだ。回復魔法をかけるが効き目が薄い。何か毒を使っているという事だ。毒があると回復魔法が阻害される。
ふと、横を見るとメグが倒れており、その先ではラウラがイグルシアの人だろうか、戦っているのが映る。
(あいつはフレディね…ラウラだけじゃあ難しいわ…)
そしてメグへと視線を戻す。
エマはメグを見て、彼女との出会いを思い出した。
リョウマを裏切った後も、学校では安全な所を作る事に必死だった。
それがあの馬鹿な貴族の彼氏になる事だった。そしてメグをいじめた。
徹底的にだ。
(私の居場所を作るために…)
そう、エマ・ラマールが直接的に陥れたのは二人だ。
リョウマとメグ。
薄れる意識の中でエマの感じた事はただ一つ。
(このままでは、二人に申し訳ない)
死ぬのは良い。走馬灯で見たエマ自身の人生は特別でもなんでもなかった。
だけど、せめて己の失敗で共に落ちてしまった二人に何もしないでこのまま死ぬのは許せなかった。
エマはすでに己が出来る事は分かっていた。
「メグ…私は前に自分のスキルが嫌いって言ったわね」
人を操る事しかできないこのスキル。
はっきり言って悪者のスキルだ。いくら自分のスキルだと考えても、「操る」という言葉の邪悪さには勝てない。
やり直せるならとなんど思ったか、取り返したらどれだけ救われるかと嘆いたか。
「ははっでも私…やっぱりこのスキルの使い方をはっきり熟知しているみたいなのよね。んで…どうやらこれが勝ち筋みたい」
そっとメグに触れるエマ。
己の人生を振り返り、逃げても仕方ない事を知ったエマはこのスキルを否定する気持ちは残しつつ、可能性にも掛けた。
それが今の行動だ。
「私ね…やっぱりあんたの事大嫌い…あなたは他への関心が薄いし…関心が多くて自滅した私にはね…最初からあなたの無関心さに嫉妬していたの…」
そしてスキルを発動させた。
前から考えていた奥の手だ。
「だから受け取りなさい」
大嫌いなメグを想像して、メグに催眠をかける。
触れる事でエマのスキルは発動ができ、触れられた相手は念じた行動を取る。
身近にいたメグだからこそ掛けられる催眠。
自分が毒で倒れるのが先か、それともメグが助けてくれるか。
(役立たず、失敗ばかりの私だけど、そんな私を変えるためにあなたを変えるわ)
せめてメグに説明したいが、毒のせいでもう口が動き続けられない。
何か一言と、エマは考えた。そしてふとっある言葉が思い浮かんだ。
(また怒るかな…それでもいいや)
怒られると思っても、この場で、メグに発破をかけるためにこの言葉がいいと思ったのだ。
「やっちゃいな、平民!」
そしてエマは満面の笑みで言う。
かつていったメグへの蔑称。しかし、エマはその蔑称を使っていた時とは違う気持ちでメグをそう呼んだ。
「うん、分かった」
エマは気が付くと、メグが笑みで返しているのが眼に映る。
彼女はいつの間にか起きていたのだ。
「私の中で…もうエマは友達だよ」
相変わらずの無表情…ではなく少し微笑んだ顔で言う。
(はは…ホント敵わないや)
すると涙が出た。どんどんと、あふれるばかりに。
(ごめんね…ごめんね…)
そして心からの謝罪を
「寝ててエマ、あいつから毒の解毒剤奪うから」
そしてエマは自分の刺し傷に意識を戻した。少しでも自分の命を長くするために。
エマも、彼女も己との戦いが始まる。
そしてメグは力強く起き上がる。
「不思議…多分、エマ、催眠かけたのよね私になのに意識がある…それに誰かから声を掛けられている気がする?」
メグは何か背中にいる感じをするも、今はフレディとラウラの参加に視線を戻す。
「…今はあいつを倒さないとね…」
「おらおらおら!!」
フレディとラウラとの戦いはフレディの一方的な攻撃だった。
「ぐっ!」
メグからラウラとフレディの距離は少しある。
いつもなら気づかれる。しかし、少しの跳躍だ。それだけでメグは二人の間に届いた。
「え?」
「はん?」
ラウラは倒れたはずのメグが目の前にいるのに驚いた。
「なんだ?おまえも戦うのか?」
フレディは確かな手ごたえで倒したはずのメグがここにいるのに少し驚くが、復活したのに少し喜んでいるように見えた。
メグは気にせず、上段蹴りをフレディに掛ける。
「ぐっ?」
今度はフレディは避けずに、受け止める。そして慌てて距離を取る。
「なんだ?急に打撃が強くなって??また考え直さないといけないじゃないか」
そういい、手のひらをラウラとメグへと向ける。
赤くなった掌だ。
「エマがくれた力」
そういい、拳を前に出し、戦闘態勢を取る。
「エマ、あなたの力は嫌われるような力じゃない。友達の私が証明する!」
友達の想いを受け取ったメグは真剣だ。
しかし、それ以上にたまらなく嬉しく感じていた。
戦場には似合わないのかもしれない。
しかし、今、メグの顔を見れるラウラとフレディは確かに見る。
メグの顔には満面の笑みが浮かび上がっているのを…
ここまで読んで戴き、有難うございました。
ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!
そして読んで戴いた皆様!良いお年を!
東屋