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復讐者、過去を覆して共に戦う

魔王の私室というが、そこは女性らしさの欠片もなく、仕事ができる様に綺麗に整えられていた。


そんな中でレンコは正座をして座っていた。

この身に起きている事に思考がついていけないからだ。


近くでニトベが伸びているが気にしない。


(あのー、そんな事をしても私は話すのはやめないからね、それよりも早く名前つけてー)


頭に響く自身に似た声。

だが、そこにレンコ自身の意思は全くなく、明らかに他人が頭へと声を掛けている。


(えーっと、つまりあなたはリョウマの言っていた番人という事かしら?)


リョウマから聞いていたスキルの始まりとなった7つのスキルに宿る生命体。


(そうよ、私は嫉妬の番人って呼ばれる存在よ)


さらりと重要な事を言う嫉妬の番人。


(つまり、リョウマと私は同じ状況なのね)


意志を持つスキルの話はリョウマから聞いていたが、まさかそれが自分とはと思った。


(ふーん、あなたのスキルは「一途」ね)

(え?スキル持っているの私?)


レンコは自身がスキルに恵まれた事など知らなかった。


(珍しい後天スキルだけど、それよりもなんで嫉妬の私が…まぁ「一途」も「嫉妬」も一方通行の感情だと言えばそうなのだけど…)


(「一途」!!私そんなスキルなの?!)


すると、レンコの頭に流れ込んでくるスキルの概要


(何何…想い人を思えば思う程最大限自身を強化される?ただし具体的な強化は分からない?)


つまり肉体的に強くなるとは限らないという事だ。


(そ、だから私の人格を入れ替わる事があなたにとって最大限の強化だったのよ)

(え?つまりあの倒れている男はあなたが倒したの?)

(えぇそうよ)


呆気からんと言う嫉妬の番人。


(どうして人格を入れ替わる事が私の強化だったのかしら)


その答えはすぐに嫉妬の番人から返ってきた。


(私…いや、番人達は所謂…天使だからよ)


(え?)


(細かい話は後でするわ。今は人外の力だって分かっていればそれでいい。それよりもあなたはまだ他にもする事があるんじゃないの?)


レンコからしてみれば訳の分からない事だらけだった。だが、嫉妬の番人の言葉で最優先でやる事を思い出す。


(そうだ!とにかく、貴方がいるなら百人力ね。お願い、一緒に戦って)

(名前をくれるのと引き換えなら)

(えぇ、とびっきりいいのを用意するわ!名づけの親には心当たりがあるしね!)

スキルの発動もレンコ次第なので主導権はレンコにあった。

(ふん…憤怒の番人の子が名づけを得意とはね…)


嫉妬の番人に心を読み取られるレンコ。


(ちょっと!やめてよそういうの!)


嫉妬の番人は一筋縄ではいかないようだ。

レンコは少し新しくできた仲間に戸惑いながらも魔王の、アマンダの私室を出て他の部屋を調べるのだった。



魔王城でレンコとラフロシア、それぞれの戦いが始めってから少しの時間が経った頃。

レイフィールドの街も慌ただしくなった。

レイフィールドの民により、街の奪い返しが始まったのだ。


至る所で騒がしい音と声が混ざり合い、戦場を騒がしくする。

ルカルドが入手し、渡した大量の武器のおかげで一般民でもイグルシアの兵士には十分に対応できた。


しかし、それも徐々に分が悪くなっていった。。

近接での戦いでは鍛錬をしてきた兵士の方が一枚上手だ。

腕っぷしが強い一般市民が数人いても、平均では鍛え上げられた兵士には太刀打ちできなくなる。

だが、その心配も未然に防ぐことができた。


「ごふっ!」


イグルシアの兵士がまた掌底を顔面に喰らい、気絶して倒れる。

打たれた頬の火照りにひりつくように響いた。


「メグ!回復魔法よ!」


近づいてきた兵士を一番倒しているメグに回復魔法を当てるエマ。


「ありがと」


普段なら息を挙げていてもおかしくないにもかかわらず、まだ戦えるのはエマの回復魔法の技術が高いからだ。


メグの戦闘においての興奮状態を維持したまま、体の傷と体力を治癒する。エマの魔力のコントロールがずば抜けているのだ。


リョウマをはじめ、レンコとスフィアの影に隠れ、さらに逃げな性格で影を差す事が多いエマだが、その才能は確かだ。


「あんた、今失礼な事考えたでしょ?」


そんなメグの思想をエマは勘で悟る。


「うんうん、別にエマが残念美人と思ってなんかいない、ここは戦場よ」

「その言葉、そっくりそのままあんたに返すわ!ほら、さっさと兵士を倒してきな!またくるわよ!!!」


メグのボケに腹が立ちながらも、エマの本来の仕事に戻る。


エマはさっきメグの倒した兵士に近づいた。


そして頭に触れ、念じた。


スキル発動 【心操】


スキルを発動させたエマ、すると、兵士は目を見開いて、立ち上がる。


その兵士はそのままイグルシアの兵士を攻撃しに向かう。


「これで50ね、何人までいけるのだろ?」


エマのスキル「心操」で気絶した兵士を操っているのだ。

触れる事でエマのスキルは発動ができ、念じた行動を取る。エマが念じた行動をキャンセルするか、自身が気絶しない限りは途切れない。


「エマ、すごいね」

「私からしたら50人も兵士ぶっ倒しているあんたの方は異常よ」


いくら回復魔法である程度体力も回復するからといってもそれでは満タンにはならない。

常に新しい兵士と戦って勝ち続けているメグの方が異常だとエマはぶっきらぼうに言う。


「私はスキルで相手の体力も吸っているから、相手は本来の調子で攻撃できない」


メグのスキルは【大喰らい】

リョウマの指南でただ大食いが出来るスキルを戦闘向けに改良したものだ。


「はぁーリョウマがね、ふーん」


イグルシアの兵士が攻めてくる中でも一定の余裕があるエマ。

彼女はリョウマとの冒険者時代にこういう乱戦の経験があったのもあるが、メグのような心強い存在がいるのも大きい。

そんな中でリョウマがかつて自分に魔法や学問を教えてくれたのを思いだす。当時は真面目に聞いていなかったが、惜しい事をしたと思う。


もしかしたら自分もメグの様に早くなれたかもしれないと思うからだ。


「隙あり!!」

「え!?」


すると、気づかない内に目の前までイグルシアの兵士が攻めている事に気が付く。


「エマ!あぶない!」


メグは助けようとするが、遠くて間に合いそうに無い。慌てて、エマも自身の魔法で反撃しようとするが、先に兵士の剣が当たりそうだ。


(うわ、やば、死ぬ…)


エマはそう思った。しかし、それは杞憂に終わった。

イグルシアの兵士の剣が空中で止まったのだ。


「はっ??なんで剣が止ま…」

「私がいるからよ、残念でしたー」


すると、どこからともなく間延びした声が聞こえると、その姿が見えた。

そして彼女は思いっきり兵士の股間に蹴りを入れる。


「ぐほぅ!!!」


あまりの痛さに気絶する兵士。


「…ラウラ…あんた貴族でしょ?いいのそんな身も蓋もない攻撃して」


助けてくれた友であるラウラに感謝を言う前に注意するエマ。

可哀そうなので兵士に回復魔法をかけるのも忘れてはいない。部分的にだが…


「いいのよ、すぐに片付くし、私の体力も温存出来て、極めつけにエマも守れた。この攻撃には一石三鳥も籠っているのよ」


くるりと一回転してラウラは笑顔で言う。彼女が戻ってきたという事は兵士達の司令官を気絶させたという事だ。

戦う前に師匠であるルカルドに認められたのが嬉しいのか、いつもの1.5倍程テンションが高いように感じる。


「それにもう貴族とかに戻るつもりもないわよ私は!いい男と結婚して幸せに暮らすの!貴族のがちがちの政略結婚なんてまっぴらごめん!」


「おーい、帰ってこーい、日常の本音を今ここでカミングアウトされても私困るわ」


エマはラウラに回復魔法をかけながら言う。回復魔法の掛ける位置を間違えたのだろうか。

しかし、仕事はしているようで、イグルシアの兵士の攻撃が止んだ。

攻めてきた兵士達も、一旦城の方へと退却を始める。

メグが突撃してきた兵士を倒して、二人に近づいた。


「ラウラ、お疲れ…成功したみたいね、良かった。」


嬉しそうに言う。


「えぇ、これで時間かせぎにはなると思うわ、その間にこっちの兵士も増やしましょ」


そういうと、気絶して兵士達をどんどん操っていくエマ。

そんな3人の若い戦士に街の人も大喜びで賛辞を贈った。


「いや、お嬢ちゃんたち凄いよ」

「あー!正直三大将軍がいないから不安だったが、あんたらがいて助かったよ!」

「おねーちゃんたちありがとう!」


一緒に戦ってくれているレイフィールドの民が口々にお礼をいう。


「…なんか恥ずかしいわね」


照れながらエマはそう言った。


自分のしてきた事を振り返るとこの賛辞を素直に受け取れないようだ。


「うん、私も苦手だった、けど受け取っておいた方がいいって事を知ったわ…その…自信になるから」


エマは獣人の国の街であるヴォンロウドにて街の人の褒められた事を思い出していた。そこからこういう賛辞は謙虚に断るのではなく、受け取るものなのだと知り、己の糧になる事を学んだ。


「…ずるいな…反省させてもくれないなんて、ホント、世の中って辛いわ」


そう言うと、エマは嬉しそうに頷いた。


「…ふふっ、そうだね。若い子の考えている事なんてどんどん流していく」


そしてメグもエマの言っている事に笑う。


(この二人が、一緒の事で笑うなんて)


側で見ていたラウラは少し感慨深くなる。

いじめっ子といじめられっ子。


本来なら不可能な絵が今彼女の目の前にある。その事実に二人の側にいたラウラ自身感動しないという事はなかった。


「…そういえばルカルドさんは?」

「あぁ、あの人ならもうお城の方へと行ったわ」


ルカルドはメグ達のいる城下町戦線が安定するのを読んで、もうすでに城の方へ向かったのだった。


「そう作戦通りね。じゃあ当分は私達は休めるね」


エマはそういうと、手を休めた。


「うん、敵も引いたみたいだし…」


ラウラとエマはそう安堵しながら口々に言う。

安堵したためか、はたまた長年の軋轢がゆるんだからなのか…


そう、その一撃に気が付かなかった。


「!」

気づけたのは最後に緊張を保っていたラウラだった。


しかしそれでも間に合わなかった。

「!エマ!あぶない!」


「え?」

















ざくっ!


そのメグがエマを狙ったナイフから守ろうと飛びかかった。しかし、それよりも早くにナイフがエマの胸を切る。


「エマ!」


「エマ!!」


ラウラとメグは彼女の胸に沈んだナイフをにらみつける。


そしてその投げられた方向へと移す。


そこには…メグにとっては見覚えがある男が立っていた。


「回復役は先に殺っておかないとな♪」


そしてその男が、赤い靄から出ているのが見える。


エマの側にいたラウラが彼女を抱えて慌てて、その靄から離れる。


「エマ!!エマ!」


ラウラも彼女が出来うる回復魔法をかけるが、傷が治らない。


「う…」


辛うじて息はあるが、うまく体を動かせないのだろうか、痺れた様にプルプルと震えている。


「無理無理、無駄無駄、このナイフには俺様の特別な毒を塗っている。毒によって血が止まらなくなり、痺れていき、最後には死ぬ毒だ。さらにー解毒剤は俺しか持っていない!」


高らかに言うイグルシア帝国の男、フレディ・オッポサム


「この!」


すぐメグは戦闘態勢に入るが、そこですぐに気が付いた。


フレディの体力が吸えないのだ。


「おぉ?見覚えのある顔だな…なんか俺の体力を吸おうとしてるみたいだけどな…生憎、俺には効かねぇのよ」


そういうも、メグは拳をフレディの体目掛けて殴りつける。

しかし、フレディは簡単に避ける。


「なんだお前?こんな奴にやられるうちの兵士じゃあこの先まいるねー」

「この外道!」


それでも攻撃をやめないメグ。

その視線もフレディから外れない。


「ははっ、お嬢ちゃん、どうやら俺が刺したのは君のお友達だったのかな?でもこいつ友達いたのか?」


エマは一時イグルシアにいた、なのでフレディは彼女の事を知っていたのだろう。


「この女、エマって言ったか…操る能力は強いが触らせなければどうとでもなる。攻撃する術はないし、何より精神が弱い。一応知り合いだから真っ先に倒させてもらったけど…良かったなエマ、そんな君でも泣いてくれるお友達がいたみたいだよ」


フレディの言っている事を聞いて、メグは自分の状態に気がついた。そう、泣いてることに。

メグは自分の心の中が不思議に仕方なかった。


メグの認識ではエマはいじめっ子であり、弱い人間であり、間違いを犯した人であり、女の子であり、ただの友達だと思っていた。


しかし、エマの胸にナイフが沈んだ瞬間、そしてそれをやったのがこの男だと分かった瞬間、すぐに心が怒りで狂いそうになった。





「――――――――――――――!!!!」

言葉にならない悲鳴が彼女に聞こえた。



「メグ!落ち着いて!怒り任せに戦っていい敵じゃないわこいつ!」



「ご名答、そして君には自己紹介まだだね、俺はフレディ・オッポサム、八蛇師団は第四師団団長様よ、得意なのは暗殺、好きなのは殺しさの典型的な殺人狂ですよ」

避けながら器用に説明するフレディ。


(そんなの!その身のこなしとナイフで検討つくわよ!でもまさかここに団長クラスがくるなんて?!)


メグやエマには伝えていなかったが、作戦の展開上、ここには団長クラスは来るはずがなかったのだ。


正確にはフレディ、ニトベを始めとする団長の中でも中堅の者はルカルド達が戦うはずだったのだ。


(大将、総大将が動かないのが戦の常っていっていたじゃない、ルカルドさん!)


しかし、ここにフレディがいるという事は可能性は一つしかない。


(ラルフか、ラガーンのどっちかが動いてる!?)


おそらくルカルドにはそのどちらかと対峙しているのだろう。だから、フレディはここへとここへと着いたのだ。


そうなると現状でラウラの戦力では対処が不可能だ。

レイフィールドの民兵とエマにラウラではイグルシアの兵士はどうにかできても、強い個人へはどうしても奇跡が必要だ。


「どうした?考え事をして?」


フレディはメグに興味がないのか、ラウラの方へと声を掛ける。


「…こっちを見なさい!」


メグはひたすら激情に駆られながら攻撃をするも当たらない。いや、避けられている。


「はははっ!そんな攻撃!俺には当たらないよ!」


「どうして!?」


メグはおかしいと思った。


いくら攻撃をしても全く当たる気がしないのだ。


「はっはっは!これで気が付くんじゃないか?」


そして今度はフレディが拳を振り上げる。

一発、たった一発だ。フレディはメグを殴った。



しかし、その拳はこれまでのどの攻撃よりも強く、響いた。


(強い…そして以上に速い!!なんで、ナイフ使いのこの人…)


最初は見れていた拳も最後に気が付いた時は腹へと沈んでいた。

一旦距離を置くメグだったが…


ザクッ


「うっ!!!」


今度は投げナイフを投げるフレディ。


「ははっ、一度俺の獲物になったやつは俺は死ぬまで逃さねぇ」


((この人のスキルは…【加速】!!))

ラウラとメグは一連の攻撃を見てそう判断した。


「あなたの攻撃は【加速】ですね」


ラウラがフレディに声をかけた。ラウラの読みではこの声掛けに応えてくれると踏んでだ。


「正解―!まぁ分かるよね、これだけ見せつければね」


ちらっと周囲を見る、フレディの参戦でイグルシアの兵士の戦闘を再開した。そのため、周りのレイフィールドの戦う者達はすぐに援護できずにいた。


「まぁ、君もどいてよ、そこの女を嬲り殺しているのを見せてから君を殺す事にするよ」


そういい、メグの方へと飛んだ。


「!!!」


そしてメグを思いっきり蹴る。

そのままメグはエマの方へと蹴飛ばされた。


「うわっミスった。死んでるかなあの赤髪…まぁ回復しても俺に敵わないか」


そしてフレディはラウラの方へと向かう。


ラウラはそれを見ると前進した。


(あいつは私に興味があるみたい…)


ラウラは少しでもフレディの気を自分へと向けて、誰かが…もしくはエマ達がどこか遠くへ逃げれるようにする事にした。


ラウラはスキルを発動させる。

スキル【希釈】


「おー、気を抜くとどこにいるか忘れるね」


しかし、フレディは間一髪でラウラの攻撃を受け止める。


「【加速】だとして、なんで私達の攻撃を全部も避けれるの?」


ラウラはスキル「稀薄」で存在を消しながら攻撃する。しかし、攻撃する時には存在を元に戻さないといけない。

しかし、すんでのところで攻撃が避けられる。


「なーに、スキルの応用は誰でもしている。俺もスキル【加速】を応用しているのさ」

不敵に笑みを浮かべながら、フレディは笑う。


(こっちは全然面白くないわ!)


明らかに分があるのはフレディだ。まるで猫とネズミ。ただいたぶられるのを待つしかない攻勢。それでもラウラは手を休めない。


(エマとメグのために!)


ラウラ達とフレディの戦い。

深手のエマとメグが倒れる中、ラウラの孤高の戦いがフレディへと向けられるのだった。


「うぅ」


そして倒れた二人の内のどちらかのうめき声がした。

ここまで読んで戴き、有難うございました。


ブクマ、感想、評価等いただけると大変励みになりますので、もし良かったら宜しくお願い致します!


東屋

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