復讐者、新たな番人
ラフロシアがカモーラとの戦闘を開始した一方でレンコとスフィアはもう一つのアマンダの軟禁されている可能性のある場所へと赴いていた。
目指すは魔王城の生活区画だ。
しかしレンコとスフィアはすでに別行動をとっていた。
というのもスフィアが「広いから手分けね」と言い残し勝手にどこかへといったのだ。
(あいつ、また裏切らないわよね)
確かにこの魔王城は広いので、スフィアの意見は間違っていないが同時に敵の懐だ。
レンコもすでに何人かの兵士に気絶していただいた。
そしてレンコは魔王の私室の方へと向かっていた。
残念ながらそこには別の人物がいた。
「ふむ、侵入者がいると聞いてきたが…その刀を見るに剣士か」
ニトベとレンコはお互いに対峙した。
「ほう、見るに仲間はいないようだ。一人で拙者と戦うのか?女でも手加減はせぬぞ?」
「お生憎様、か弱い女の人生を過ごしてきたわけではないから平気よ」
そう言うが早いか、レンコは刀を取り出し、切りかかる。
「む?貴様、それはカッサイ・ヤギュウの刀≪響≫ではないか?」
ニトベは値踏みするかのようにして、レンコの刀である≪響≫を見る。
「えぇ、カッサイは私の父よ…そして、この刀は譲り受けた!」
刀、響に力を籠めるレンコ。
「ほう、カッサイに娘がいたのか…それは知らなかった」
意外といわんばかりにニトベは小さく言う。
「何よ」
「いや、カッサイに似ても似つかないぞ、貴様」
「…母親似なのよ」
母親の顔もうろ覚えでよく分からないが、レンコはぶっきらぼうに言う。
瞬間、レンコの剣戟がニトベへと届く、しかしニトベは己の刀を繰り出し、抑える。
「拙者はニトベ・サンジュウロウ・ニトベ。ラガーン様よりイグルシア帝国八蛇団第五団団長を任
された者」
「ラガーン…、第一団団長ね…」
「ラガーン様に敵う者なぞこの世におらん。貴様らが、万が一でも魔王を逃がしたとしても…すぐにラガーン様が率いる我らイグルシア帝国軍が捕まえるでしょう…そして、その前にこのニトベがあなたを刀の錆にしてくれましょう」
そういいニトベは自分の刀に手をかける。
「意外と口が達者なので、もっと寡黙な人かと思ったわ」
黒髪細めの長髪のニトベを見て、レンコはそういう。
「ふん、それで、カッサイの娘とやら…貴様も名乗るがよいぞ」
名乗るといってもレンコは戸惑った。
(うわー、こういう男らしいのはあまり受け付けないのよね)
そして、少し考えて言いたい事を言う事にしたレンコ。
「私はレンコ・ヤギュウ、リョウマを助けられ、助けた者よ」
「ほう、貴様があの復讐者の恋人か」
「復讐者?」
「リョウマ・フジタの事だ、ランドロセル王国を滅ぼし、そして魔王国へ再び逃げた男。イグルシアだけではなく、彼の行為は中々に騒然よな」
ニトベは顔に軽い笑みを浮かべながら言い続けた。
「彼は災いを運ぶ者でもある。住んでいる国がこうも滅ぼされるのだからな」
そういいニトベは言い、あざ笑った。
「そんな男に助けられたというとは貴様も酔狂な者よ」
レンコはニトベの言葉を聞き、確かに思う。
事実としてリョウマの住んでいた…もしくは召喚された国は災いに見舞われている。
それでも、少なくとも目の前の男にコケにされるような理不尽はレンコには耐えれなかった。
「だからなんなのよ?よその人がとやかく言おうが、私は彼を側で見てきたの…そんな不届きな二つ名で呼ばれているのは腹が立つわ」
刀を抜いて構えるレンコ。
その刀身には怒りが宿っていた。
「おぉ…同じ事を言うな…あの女と」
「あの女?」
「新しい仲間とラルフは言っておったが…あいつは勝手に新しい人員をどこからか持ってくるからな、貴様の所にスフィアと赤髪の女がいるんだろ?」
どうやらまだ見ぬ戦力がいるのだとレンコは理解した。
そして、スフィアの名前は覚えているのにエマの名前を憶えていない事に少し不憫にも思った。
「話はもういいかしら?」
「ん?貴様程度の剣士に負ける拙者ではないぞ?」
「こっちも…最愛の人の女を助けに来ているのよ!簡単に負けないわ!」
「ほう、何やら複雑な事情を抱えているようだ」
「いえ、至って単純よ…ただ私は彼が好きなだけ!」
「全く、最近の若い者はよく分からないな…」
ギンッ
ニトベは反撃するが、レンコが簡単に力負けしない事に気が付く。
そしてレンコは連続切りを繰り出す。
「ふむ…雷魔法で体を強化したか…なるほど…力ではなく、手数で勝負するタイプ…だが拙者には効かない!」
「!!」
全ての斬撃を受け止めるニトベ。
「…スキルね」
「ふっ、そうだ…拙者のスキル…【見切り】のおかげでいくら手数が多くとも、簡単に薙ぎ払うぞ」
つまり、今の剣戟を抑えたのは純粋な実力という事だ。
「ふん…なら!それよりも早く切ればいい事よ!」
「残念…単純に剣を振るのに拙者は貴様よりも…強い!」
「貴様は全然その刀を使えていない…ヤギュウ流は自由を重んじる流派…迷いがあっては剣も鈍る…」
「くっ…」
そして、ニトベの一方的な蹂躙が始まった。
◇
「もう…良いだろう…」
「はぁはぁはぁはぁ!!!!…」
「次で終わりだ」
「はぁはぁはぁはぁ…」
(もう…出せる手がない)
雷魔法での攻撃、ミカロジュの森で修行の成果…その全てを出してもニトベにはかなわなかった。
スキルは攻撃性のものではない。単純に剣術のみでこれ程までの力を持っているのだ。
ニトベは強かった。
(でも、リョウマのために…アマンダさんを…)
だけど、レンコの心は折れていなかった。
それよりもリョウマのために何としてもニトベを倒して、アマンダ救出を強く望んでいた。
「…意識も朦朧としているな…もう寝なさい」
そして、そんなレンコを哀れんで、ニトベはレンコを切る…と思われた。
実際にニトベは切っていたと思った、しかしその刀は届かなかった。
レンコのいた位置よりも遠くに彼女が移動している事に気が付くニトベ。
「…纏う雰囲気が変わった…確かレンコといったか貴様…いや、何者だ?」
ニトベの直感が言う。
目の前の女性は今別の存在に変わったのだと。
そして、レンコの口から驚きの言葉が出る。
「あぁ?レンコ?誰の事を言っている?」
先程のレンコの口調よりもぶっきらぼうな物言い。
ニトベはその豹変具合に戸惑う。
「貴様…自分を忘れているのか?」
「あぁ?私は嫉妬の番人!!この世を統べるスキルの頂点にして、最初に誕生した7つのスキルの生ける意志の一人だこら!!ここはどこだ!目覚めて見たらなんか戦っているみたいだし!この前となんら変わらないじゃないか!」
「…はぁ?」
突然ぶち切れるレンコ。先程までの態度と全く違う事にニトベは驚く。
まるで…別人だ。
「あぁ、そこの長髪!私はこの女の中にある別人格よ…簡単に説明するとだ、この女…スキル保持者で【一途】っていってな、好きな人を想う事で力を得るというなんとも甘ったるいスキルだ。まさかそんなスキルで嫉妬の私が宿るとは…まぁそれでもう一つの人格を作成して私の依り代になれるんだけどね」
刀をぶんぶん振り回す自称嫉妬の番人
ニトベが見るにレンコ程刀の扱い方を知らない様に伺えた。
(落ち着け、見るに刀の使い方を知らん小娘に切り替わったようだ。しかし、二重人格持ちとは珍しいの)
もう一つの人格などというスキルはニトベは聞いた事がなかった。なので、彼女が言った事を戯言と捉えた。
「フッ…なにがなんだか分からないが…だが、所詮、先程の女と同じ体。私のスキル「見切り」には敵わないぞ」
ニトベはそういうと、再び攻撃しようと前へと出る。
「ほら、もう終わり」
しかし、嫉妬の番人…いやレンコのスキルである【一途】が発動した事で戦いは終わっていた。
「なっ!!!」
もうすでに後ろにいるレンコに驚くニトベ。
「何故後ろ…!!!!…なっ…かはっ!!!」
そして、自分の脇腹がすでに切られている事に気づいた。口から吐血が漏れる。
「ただ目に見えない速さで切っただけよ…前の様にな…」
いつ程前かは嫉妬の番人には分からないが、レンコの状態を見るにそんなに時間は経っていない様に感じた。
レンコはなぜかザッカを倒せた時。その本当の理由はレンコのスキル「一途」が発動し、嫉妬の番人がレンコに宿されたからだった。
「そんな…バカな…」
そういうと、ニトベは床へと倒れる。
「ん?もう終わりか?茶髪の男はまだ立ち向かおうとしていたのにな」
ニトベを倒したのを確認した嫉妬の番人はこれまでの事を思い出す。
(さてと、他の6人も私みたいになっているのか?)
嫉妬の番人はレンコの記憶を探る。
そこでレンコとリョウマの会話から分かった憤怒の番人の存在。
(あいつ!おぉ!憤怒!生きてたのか!名前か…いいな)
嫉妬の番人んはその名の通り優しく今ではレイジと呼ばれている憤怒の番人に嫉妬した。
「私も名前が欲しい…」
そう、嫉妬と名があるように…彼女はよく他人に嫉妬するのだ。
活発な女性のような性格をしているが、意外と乙女で子供なのだ。
「はぁ…そろそろこの子にか正体を明かすか…」
名前が欲しいからではない、色々と説明しないといけない時だと悟ったのだ。
そして、強制的にレンコに戻す嫉妬の番人。
「え?え?」
目の前には瀕死のニトベを見て、レンコはどこか既視感を覚える。
しかし今度はそう思う前に、声が脳内に響く。
(おい!レンコ・ヤギュウ!)
「え?!誰?誰?ってこれ頭から聞こえる?…」
(あーもう慌てるな!私はあんたの彼氏さんの中にいる憤怒の番人と同じ存在の嫉妬の人だ!そして、頼みがある!)
「えっ!リョウマと同じ!番人!ちょっと話が見えないのだけど…」
(なんでもいいから、名前を私にくれ!!)
「今それ大事なのーーー!!」
こうして、さっそくレンコと嫉妬の番人は親睦を深めるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋