復讐者、不死身を率いる首領
ルカルド達の準備が終わり、戦いの火ぶたが切って落とされた直後。
魔王城に潜入した一人のエルフがいた。
たたたっ
ラフロシアは宰相であるジェフ達が軟禁されている魔王城内部の区域へと赴いた。
「貴様!何者だ!」
「かかれ!」
途中、ラフロシアを止めようとイグルシアの兵士達が襲うが、ラフロシアの敵ではない。
「縛りの草」
「「「うぁぁぁ!!!」」」
お得意の植物魔法で次々に無力化をしていく。
そして、目的の区画へと到着した。
「思ったよりも手ぬるいわね…」
いくらなんでも簡単すぎだとラフロシアは怪しむ。
まず、人数が少ないのだ。
魔王国の重要人物が軟禁されている城の区画にしては、兵士の質も量も足りない様にラフロシアは感じた。
「でも…今はそんな事を考えている暇はないわね」
そうして、部屋を次々に魔法で開けて、ジェフ達を救出する。
「おぉぉ、ラフロシアか!」
ジェフがラフロシアを目にして安堵する。
見た限りだと拷問や不当な扱いを受けてはいないようだ。
「ラフロシアか!という事はリョウマもいるのか!!」
奥の部屋からは衛兵団団長のガモンが出てきた
「ジェフさん、ガモンさん達も…森にミカロジュの森へと繋がる転移陣がありますので、皆で一旦
そちらへと向かって下さい」
リョウマは来ていないが、それを説明している時間はない。
二人に助けて人を任せて、自分は他の班の援護に向かおうとするラフロシア。
「あぁ…分かった…皆行くぞ!」
一番力が強いであろうガモンが先導して、森の方へと逃げる。
そうして、ラフロシアは無事にジェフ達を助けて、彼らを見送った。
「さてと…私もアマンダを助けに行きますか」
思ったよりも自分の担当が早く終わり、軽い安堵を覚えるラフロシア。
そんな時は大抵、その後はうまく行かない。
ジェフ達の走って行った方向とは逆の方から気配をラフロシアは感じる。
(誰か来る?)
革靴の独特の足跡が廊下に響いていた
身構えるラフロシア。
すると、道中である人物と歩いてきた。
「あなたは…」
ラフロシアは記憶の中にあるイグルシア帝国の要注意人物を洗い出す。
そしてその外見から一人に見当がつく。
地味だが質の高さを感じさせる背広。マフィアを思わせるような風格に目に見えてのご老体。その男は指輪指した一刺し指でラフロシアを指さす。
「誰だいお嬢ちゃん?見た所魔王国の者だね…俺の休憩時間に来るとは…ついていないな」
その風貌は事前に聞いていた情報からとある人物と類似していた。
「カモーラ・ギャングスタンね、イグルシア帝国八蛇団第七団長の」
(なるほど…彼がここを任せているのなら、兵士が少ないのも分かるわ)
カモーラは懐から葉巻を出し、先を切ると口に加える。そして、呆れる様にして言う。
「まったく…うちの兵隊さんもしっかりやってくれないと…じじぃは寝て隠居したいのに若いのがこれじゃあなぁ」
一服吸うカモーラ。
「一人なのね?お仲間はどうしたの」
「それはこっちのセリフだ。君の仲間はどうしたんだ?」
「ふふ今頃、暴れているでしょうね」
廊下の窓から騒がしい音が聞こえた。
その窓をカモーラは覗いて、事体を察した。
「なるほど…町ぐるみで姫さんを助ける訳か…だがやめておきな」
「何を?」
「お前らには無理だって話だ」
呆れるかのようにカモーラは言いのけた。
「…何を言っているのか分からないわ、その無理をするために私達はここに来たのよ」
警戒態勢を解かずにじっとカモーラを睨むラフロシア。
「はっはっは!気が強いお嬢さんだ…麗しいお嬢さんに免じて見逃してもよいが、俺も命令があるんでね、ここでは来た者を捕まえる事にそうさせてもらおう」
背広を広げ、戦闘態勢を取るカモーラ。
「捕まえる?舐めないでほしいわね!!!」
それを見て、ラフロシアは植物魔法を発動させる。
植物魔術格闘技 『反発のタンポポ』
足にタンポポの生み出し、反発の力を利用して高速でカモーラの周りを走りぬける。
カモーラの様子を見るにラフロシアの動きについていけない様に見えた。
(行ける!)
これからどのような戦いがあるか分からないラフロシアにとっては例え幹部相手でも瞬時に終わらせたかった。
そうして、カモーラの顔面へと拳を入れようとする。
しかし…
ガンッ!!!!
「なっ!!痛っ!!!」
すぐに来る拳への痛み。まるで、鋼鉄を殴っているような感触をラフロシアは感じた。
そこから一旦、距離を取ったラフロシア。
「…頑丈とかになるスキルかしら」
頑丈系のスキルなら熱等の植物で対処は可能だ。
ラフロシアは殴って傷ついた手は手元の回復薬で治す。
「いや…もっと上位のスキルだ」
すると、カモーラの体が、変質する。
カモーラの体は膨れ上がり、側面に隙間が生まれる。
その傷から扉の様にして開いた。
「俺は女に優しいんでね、教えてやろう、俺のスキルは『棺』って言ってな…俺自身が棺の様に固く、また棺から過去の仲間達を発現させるスキル」
すると、カモーラの棺からどんどん出てくる背広の恰好をした男達がでてきた。しかしその顔は死者のように生気を感じられなかった。出てきた男達の数は廊下を埋め尽くすほどだ。
「数は100を超えるぞ…どうだ?」
元の姿に戻り、カモーラは不敵に笑う。
「でも…ただの兵士なら」
ただの兵士なら…それこそ烏合の衆。
ラフロシアにはあまり効果がない。
「こいつらはただの兵士ではない…アンデットさ、それはつまり…」
すると、カモーラの兵士達は高速でラフロシアの元へと駆け抜ける。
「肉体の限界で攻撃できる」
「くっ!!!」
カモーラの部下の攻撃をかわすラフロシア。
「はははっ、大丈夫。殺しはしねぇよ。気絶してもらうだけだ。俺の…長く苦楽を共にしたこいつらと遊んでやってくれ…」
ラフロシアへの攻撃をしながら、カモーラはそう口にする。
「剣の秋桜、そして猿朝顔!!!」
朝顔で出来た猿に、コスモスの花の剣を装備させる。
その数はカモーラの兵隊と同じくらいだった。
「長い間…戦いから身を離していたが…今回の魔王国を抑え込むこの戦に久しぶりに現場に出てきた…だけど嫌だね…若い者の力を目の当たりにするのわ…」
「うるさい爺さんだわ…兵士を生み出せるのはあなただけじゃないのよ」
花の戦士をたくさん生み出したラフロシア。その力はカモーラの棺の部下達程ではないが、十分足止めできる。
「総力戦よ」
カモーラを目掛けて、戦う兵士達の間を駆け抜けるラフロシア。
スピードは明らかにラフロシアに分があった。
「だが、いくら跳んできても、俺には傷つけられない」
「果たしてそうかしら?」
もう一度殴るラフロシア。
ガッ!!!
今度はもう少し本気を出すラフロシア。そしてカモーラの頬には傷が出来るのを見た。
「ほう…その熱…なるほどなるほど、失礼した。そうだよな、こんな所まで攻めれるお嬢さんがただのお嬢さんではないよな」
満足そうに笑いながらカモーラは言う。
「ラフロシア・ステュアート、この魔王国三大将軍の一人。なるほどなるほどなら俺に傷をつけれ
るのも頷ける」
長々とカモーラは話しているが、ラフロシアは付き合おうとは思わなかった。
「パンチが効かないなら!!!」
カモーラのの周りの四角にオレンジの花を刺すラフロシア。
「マグラドラの花弁!」
熱を生み出す花を置き、熱攻撃を試みる。
「がっ!」
すると、別の部下が何故か倒れる。
見ると出現した部下かまるで焼けたかのようにして倒れていた。
「…どうやら、攻撃を移せるようね」
ニヤッとした顔でカモーラが言う。
「あぁ、俺にそういう攻撃は効かないぜ」
再び一服吸うカモーラ。
どうやら己の攻撃を出現させたアンデットに移す事が出来るらしい。
「だけど、そのスキルは…動けないみたいね」
ラフロシアはカモーラのこれまでの様子を見て、そう判断する。
ラフロシアの攻撃を二度も避けなかった事。
それはスキルの発動条件がカモーラにあり、それは動けない事だと推察された。
「あぁ、そうだ…首領が動き回るやつに誰が着いてくる?…首領ってのはどんと構えているんだよ」
いや、彼は動かないのだ。
葉巻の煙が綺麗に上へと昇り、不動を表現した。
カモーラは笑みを浮かべて言う。
その弱点も、カモーラの頑丈さからしたら微々たるものだ。
余裕そうなカモーラを見る限り、この弱点も見抜かれるのは予想していたようだ。
(攻撃が効かないけど…同時に相手も攻撃はできない)
ラフロシアは第一にカモーラを他の戦場に行かせてはいけないと判断した。
彼のスキルはこの戦いにおいては脅威だ。
そのため、ここで彼を足止めするのに専念する事をラフロシアは決める。
(いくつかの攻撃でさらなる弱点を見つければ)
こうして、ラフロシアのカモーラに対する長い攻撃が始まるのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋