復讐者、救出が始まる
場所は戻って、レイフィールド。
ルカルドはエマ、メグ、ラウラを連れ,協力してくれるレイフィールドの民の所を回っていた。
「なんか、イグルシアの兵士達が門の方へと走っていませんか?」
ここ数日よりもイグルシアの兵士達の様子がおかしい事にメグは気が付いた。
「うんにゃ、きっとレイフィールドの近くの監獄が解放されて慌てているのにゃ」
さも知っているかのようにルカルドは言う。
実際に彼は知っている…というか事をすでに起こしていたのだ。
「え?どうして分かるのですか?」
何も知らない女子三人。その中でエマは不思議そうに言う。
「俺っちがやったからにゃ」
「えーー?!いつそんな事をしたんですか?ここから監獄までは半日は掛かりますけど、昨日も一昨日もずーっと一緒にいたじゃないですか!」
エマは声を…メグは声を上げていないが、目を見開いて驚いた。
エマの言う通りに、ここ数日、ルカルドはレイフィールドに残り、共に準備をしていた。
ラウラだけ、合点がいった顔をした。
答えになる事をラウラが言う。
「エマは…というかこの国の殆どの人が知らないけど、ルカルドさんのスキルならそれを可能にするわ」
「え?!もしかして転移系のスキルなの?」
エマはワクワクしながら聞く。
彼女がイグルシアにいた時、双子のローナとレーナとは少しばかり会話をした事がある。
そこで彼女達のスキルについて聞き、羨ましいと思っていた。
しかし、ラウラは転移系ではないと否定する。
「いえ、違うわエマ…でも結構便利ですよね?ルカルドさん」
ラウラはくすくすと笑いながらルカルドの方を見た。
一方のルカルドは不思議そうにラウラを見ていた。
「…なんでラウラっちが知っているの?」
そう、ルカルドは言っていないのだ。自分のスキルの事を。
「それは私のスキルでルカルドさんのお部屋を覗きましたからよ」
ルカルドは手を頭に当てて、演技をするかのように愕然とした。
「え?いつの間に…あそこは俺しか入れない様にしたはずにゃんだが…」
とほほという擬音が聞こえるかのようにがっくしとラウラを見るルカルド。
「えぇ…なので、私のスキル【稀薄】で一緒に入りましたよ。気づきませんでした?」
ラウラもスキル保持者だ。
エスカルバンの一味との戦いで発言したスキル。
それは自身の存在を稀薄させる【稀薄】というスキルだ。
物の存在を掌握でき、相手に奇襲をかける事が出来る。
ルカルドは思わず額に手を当てて、天を仰いだ。
「あーにゃるほど…参ったにゃ…。…言われるまで気が付かなかっにゃー」
ラウラに修行をつけるようになってから、幾数か月、一回でも自分の度肝を抜かしてみろとラウラに言った事があった。
まさか自分の一番の秘密をラウラが知る事になるとはとルカルドも驚いた。
少しラウラを甘く見ていたとルカルドは反省した。
「でも、慢心はしないようににゃ」
そしてラウラの背後へと瞬時に周り、首へと手のひらを当てる。
突然の瞬間移動、そしてルカルドのスキルを知ったラウラは冷や汗をかく。
それはこの瞬間移動は単純な彼の運動能力に起因しているという事、つまりスキルは使用していないという事に。
「はい、勿論です」
しかし、これがお遊びだという事はルカルドに稽古をつけてもらったラウラには分かっていた。なので、はっきりと師匠に応える。
「うむ、よいにゃ、後ろから見ても自信あふれる返答。良いにゃ!」
決戦を前にして、師匠に褒められたラウラ。
(良かった…これで決戦に集中できるわ)
ラウラとしては決戦を前に自信が欲しかった。尊敬する人物に褒められるのは彼女にとっての自信へと繋がった。
「ねぇねぇ!ルカルドのスキルってなんなの?」
すると、エマが口を挟む。
「それはね…」
ラウラはエマに話そうとしたが、それをルカルドが止める。
「やめて、ラウラッち、その情報は俺の生命線にゃ、知られる訳にはいかないのにゃ」
ルカルドは自分のスキルは出来るだけ秘密にしたいと思う派だ。
「それもそうですね、そもそも自分の調べた事だし、簡単に教えるのも勿体ないですわ。エマ、知りたかったら実力で見つけなさい」
ラウラも自分で得た情報だから、簡単に言ってももったいないと思い直す。
ラウラからルカルドの情報を聞けなかったエマは別の手に出てみた。
「えー、なら…」
そういい、エマはルカルドをスキルで操作しようとするが…
「嘘?効かない?」
再びルカルドに触れるエマ。
確かにスキルを発動した。しかし、ルカルドの様子は変わらない。
同じ国家象徴であるカーナークも操れたはずのエマのスキルはルカルドに聞かなかった。
「ははは…まだまだにゃ」
余裕そうにして先を歩くルカルド。
「くっー、あんたのスキルなんなのよ!」
馬鹿にされたエマはキーッというかのようにしていちゃもんをつける。
「エマ、落ち着いて…目立つ」
そんなエマをメグが叱る。
「あっごめん…」
周囲の視線がややルカルド達へと集まったが、肝心の兵士達は監獄が解放された件でそれどころではなかった。
「で…誰を解放したのですか?まぁ…あそこの監獄で開放するなんて兵士以外にもう一人しかいませんよね」
「うん、だからレンコには黙っててね…。」
ラウラ…そしてメグはルカルドがザッカと手を組んだ事を察した。
(複雑だわ)
(複雑です)
ラウラとメグはかつての敵が今や共同線に立っている事を複雑に思いながらも仕方がないと割り切った。
「どうしたの?二人とも?」
このメンバーで唯一ザッカを知らないエマは頭に?を浮かべながら、複雑そうな顔をするメグとラウラを見る。
「エマ…簡単に言うならかつての敵が味方になったみたい…って今更ね…エマ、あなたもそうなのだし」
そしてラウラはエマを見て、自分の考えが今更だと悟る。
「うっ…やめてよ、今それを言うのは、まだ心の整理が済んでいないから」
エマはリョウマに許されてからは目に見えて明るくなった。
元々過度な自身の上層思考が己を蝕んでいたのだろう。
リョウマ達に許された今、もう彼女の中ではこれまでのような上層思考や取捨選択の捨てた事で笑う事も増えた様に感じる。
彼女が言うようにまだ心の整理が着いていないが、できるだけリョウマ達の力になりたいと思うようになったのは本心からの想いだ。
「エマはもう仲間よ」
エマの苦々しい顔を見ながら、メグは無表情でいう。
「ほんと、もうあなたに敵う気しないわ、人としても」
そういうメグを見て、エマは言う。
メグの器の広さはどこかリョウマに似ているとエマは感じた。
「はぁ…まぁね、エマ…リョウマさんとメグのそこらへんがずれているのは同感だけど、憎み続けるよりは良いと思うわ」
ラウラはそうエマへとアドバイスをする。
「うん、そうねラウラ!それとルカルドさん!ラウラとメグは困っている顔しているからその敵で味方になった人が来たら貴方が責任もって説明してください。レンコさんに!」
話を元に戻して、ルカルドに注意する。
「う…うんにゃ、分かったにゃ」
調子がいい事を言うエマに少し戸惑うルカルドだが、不思議と了承してしまった。
人を操るスキルを持つ彼女だが、その影響ではないとルカルドは思った。
(この子も自分の特技をうまく活かせたらいいのににゃ)
そうルカルドは思いながら、本題へと話を移す。
「さぁ皆、まずは武器を配りに行くにゃ、イグルシアの兵士にばれない様にね」
そして、エマ、メグ、ラウラは戦いに参加してくれるレイフィールドの民に武器を配りに行く事にした。
「これを配り終えたら同時に兵士を襲撃して暴動を起こすんですよね?」
「そうにゃ、で3人は参加してくれる町人を攻めてくる兵士を担当してほしいにゃ、俺は様子を見て前線…つまりは八蛇師団を相手にするにゃ」
そしてルカルド達の準備が終わり、戦いの火ぶたが切って落とされたのだった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋