復讐者、家族を想う
リョウマたちがレイフィールドの城下町へ赴く少し前…
マリアン達は乗合馬車で話をしていた。
「へぇー…家族でこれからレイフィールドへ観光ですか」
「そうなんですよ、妻と共働きなんですけど、休みが被ったので何かと噂の街へと遊びに行こうかなと思って行くんです」
マリアンの妻、ロウドは護衛で参加していた冒険者…ザッカと一緒に談笑していた。
マリアンは隣で朝早く起きたジェムを膝枕で寝かせてあげていた。
「いやー、俺は今住んでいるのがレイフィールドでこれから帰りなんですけど、いいですよあそこ!食べ物がなんでも美味しいし、魔王城も立派に佇んでいて楽しい所ですよ」
「一人暮らしでもしているんですか?」
「2か月程前に移ってきたんですけど、家賃を浮かせるために知り合いと複数人で家を借りて泊まっているんですよ」
早く出たいっすと後輩な感じで話すザッカ。
ザッカは見た目からして二十代の前半、あまり稼ぎもなさそうだ。思えば、ロウドも衛兵を最初にしていた頃は住んでいたところもみずぼらしく、美味しいものも中々ありつけなかったのを思い出す。
「そうだな、嫁さんとかもらえたらいいなー、なぁマリアン?」
「あなた、失礼ですよ。ごめんなさいね、ザッカさん。初対面なのに」
「いえいえ、暇だったので、いい話相手になっていて楽しいですよ」
ザッカは微笑みながら言う。
カランカラン!!
すると突然、鐘のにぶい音がなる。
これは魔物が出た時の注意警報だ。
「冒険者さん!ゴブリンが前方から出てきました!お願いします!」
「おー出番か?」
ザッカはそういい、席を立つ。
反対側に座っていた女の方も席を経つ。
「ローナ、数は何体だ?」
「私の魔法で感知するにざっと二十ぐらいね…」
「はぁ?多いじゃねぇか!」
「そうね、正直、ぎりぎりよね…」
冒険者の二人は少し慌てる。倒せる数ではないこともないが、回復役がいないので、二人でゴブリンを二十は少々油断できない数字だ。
席にいるのもほとんどが家族連れや商人の男だけだ。
「マリアン?いいかな?」
「えぇ…助けてあげて」
マリアンとロウドはそういい、ロウドは席を立った。
「あのー、自分、普段衛兵を務めているので、剣さえあればなんとかなると思います。」
片手を挙げて、志願するロウド。
「おーさっきのおっさん!…剣なら俺の予備があるから使ってくれ!」
そういい、彼は二刀流なのか…左の鞘にしまった剣をロウドに渡す。
「有難う…お!いい剣だなこれ」
衛兵をしているロウドは仕事がら剣に明るい。ザッカの剣も町で見る剣よりもいくらか良い業物だった。
「どうも!そう言われると剣も嬉しいっすよ」
そんなおしゃべりなザッカの言葉にローナは被せた。
「じゃあ、戦力もそろったし…そろそろゴブリンも来ているから出ましょう」
冒険者の女性…ローナは男二人を催促する。
「見ての通り、彼…ザッカは剣士よ。で、私はシーフで短剣と魔法を交互に使うスタイルで戦っているわ。できれば2人が前衛で出てもらって、私は後ろで取り逃がしたのと、馬車の警護、必要なら魔法でサポートをするわ」
「いいね、それで行こう」
ロウドはローナの意見に賛成する。
「よしっ…じゃあ行くか」
ザッカは荷台のから飛び降りて、馬車の先頭へ向かう。
ローナもそれに続く。
「マリアン。ジェムを宜しく」
「はい、ロウド」
ロウドはマリアンに一言を言ってゴブリンの襲撃へと向かう。
マリアンは少しだけ怯えていたが、ロウドは長年衛兵をしてきたベテラン。
且つ、ゴブリンよりも強いモンスターをいっぱい倒してきている。
ゴブリンはその数と手癖の悪さは懸念される所だが、一体だけならそこまで強くなく、大人の男なら倒せるだろう。
なので、マリアンは怯えるも、この時は普通に帰ってきてくれるだろうとばかり思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ギギ―!」
「ガーガ!」
目の前でゴブリンたちがまるで品定めするかのように馬車を見ている。
「うわぁー意外と多いな…二十じゃなく三十ぐらいはいそうだな…」
悪態をつくザッカ。
「うん?なんでこっちをすぐ襲わないんだ?」
「多分ですが、私たちの様子を伺っているのだと思います。後ろにグレートゴブリンもいるので統率力はありそうですね」
見ると、少し大きめのゴブリンがロウド達をじっと見ている。
「まぁー、なんとかなるでしょ、おっさん強そうだし」
「ははっ、まぁまだ若いのには負けないよ」
ロウドはザッカの軽口に乗って答える。
「来ますよ!」
「ガー!」
グレートゴブリンの掛け声を合図に戦闘が始まる。
まずは十体程もゴブリンがダッシュで攻めてきた。
その手にはぼろくさい剣やさびれた斧といった感じだ。
「じゃあ、まずは俺から」
そういい、ザッカが前へとかける。
ロウドから見ても、彼の足はとても速く感じた。前へ走りながらも、右にあった剣を取り出すザッカ。顔は笑っており、まるで狩りをしているかのようだ、
そして、ためをつくり、先頭のゴブリンに合わせて飛びかかる。
ザクっ!
先頭にいたゴブリンを真っ二つに切る。少し遅れて中から血がたくさん出る。
「おぉーやるねー」
ロウドは感心した。若いとああいう風に倒せないものだが、今のおかげでゴブリンたちに衝撃を走らせた。
「次っ」
そうロウドはいうと側にいた二体目を切り裂く。
「ギッ!!」
しかし、一体は斧でカバーされて、決定打にはならなかった。
それで気を持ち直したゴブリンを見て他のゴブリンがザッカへ剣を向ける。
それをうまくよけたザッカは引き続き戦いに身を置いた。
...
キンッ、キンッ
金属と金属がぶつかる音が鳴り響く。
十回程ザッカとゴブリンが打ち合うとゴブリンの斧が跳ぶ。
「ギギ~!」
ゴブリンは慌てふためきながら、斧が跳んだ方へと行く。しかし、それを許す冒険者はいない。
「甘い」
ザシュッ
「ガァ~~!!!」
後ろから致命傷を与えたザッカはすぐに次のゴブリンへと向かう。
すると、ザッカは彼の後ろから草が踏まれる音が聞こえる。
「ギーギィー!」
しかし、後ろを向くと、ゴブリンが彼を目掛けて襲い掛かっていた。
ローナはそれを見て、魔法でサポートをしようかと考えたが、必要がなかった。
「まだこっちにもいるぜ?」
ロウドがザッカとゴブリンの間に入って剣を受け止めた。
キンッ!
そしてそのままの勢いで、剣を薙ぎ払い、無防備にさせる。
「ギギャー!」
ゴブリンの断末魔が響く。
「若いね、前ばっかりじゃなくて、後ろにも注意しなきゃ」
ロウドはザッカに向けて軽く注意をする。しかし、ロウドの内心では久しぶりに若いのと魔物討伐が出来てたぎっていた。
昔は遠方の村へと魔物討伐もしたが、家族を持ってからはロウドの住む街の門での衛兵が主な仕事となっていたため、腕がうずうずしていたのだ。
このように魔物との対戦を楽しむのは彼の腕もあってこそなのだろう。現にザッカはロウドの評価を変えていた。
てっきり…失礼ながら燃え尽きた衛兵と思っていたが、そんな事はない。十分に彼は現役としても見劣りしない部類に強かった。
「強いねーおっさん」
「まぁなーこれでも衛兵をしているからな」
実は家族がいなければ、レイフィールドの衛兵団からスカウトもされていたロウド。しかし、彼の生まれ故郷で家族共に過ごしたかったのと、時期がジェムの生まれた時期と被ったために遠慮したのだ。
ザシュッ…
「とても街の衛兵のレベルではないけどな…」
「まぁ、俺は家族が側にいるならどこでも働けるよ」
ザッカが言った事にそう答えたロウドは軽く放たれた弓を剣でなぎ落とした。
見ると遠方でゴブリンが弓をもって迎撃してきた。
「…これはめんどくさそうな…」
弓にも警戒を入れなきゃいけない事を面倒に感じるロウド。
「まぁ、ぼちぼちやりましょう」
そういい、二人は戦闘へと戻った。
◇
ゴブリンの戦闘が始まってから1時間程が経った。
辺りにはゴブリンの死体が散乱と散っていた。
ロウドもゴブリンの返り血で服が汚れていた。しかし、彼にも、そして一緒に戦っているザッカにも怪我はなかった。
「後、ゴブリン数体とグレートゴブリンだけよ!二人とも頑張って!」
そういい、ロウドとザッカに回復魔法をかけるローナ。
あまり強い効果はないが、それでもないよりかはましだ。
「じゃあ、そろそろ親玉を討伐しますか…」
ザッカが後ろでたたずむグレートゴブリンへと目をやる。
「そうだな…見た所、あいつも剣を使うようだ。俺が一撃目をうけるから、その後に続いてくれ」
「了解!」
ここはそれぞれの体つきや戦闘スタイルを考慮して、ロウドが提案する。
しばらく、ザッカと戦って分かったが、彼は速さで手数を多く戦う手法を好む。そのためか、線がロウドと比べると細い。
一方、ロウドは日々鍛えているおかげで筋肉が多い体つきでいる。
グレートゴブリンは大きく、その一撃で吹き飛ばされる人もいると聞くが、似た体格の自分なら受け止められると思い、ロウドは提案した。
「じゃあ、行くぞ!」
「おぅ!」
二人は前へと掛ける。
「ゴォーガ~!!!」
それに受けて立つと言わんばかりにグレートゴブリンは剣を掲げて振り下ろした。
ギンッ!!!
「ぐっ…!!!!!」
(うわっ…こんな衝撃はあの時以来だな…)
彼は人生の中で最も強かった相手、そしてマリアンと出会うきっかけともなった魔物を思い出す。
そいつには名前がなかった。
ただ大型の熊だという情報で向かってみれば、そこには同じぐらいの大きさの狼がいた。
それに立ち向かうも、半分の兵士がやられた。
そして、その時は若かったロウドも狼の前足を体で喰らった。
その時に自らの命を覚悟したが…途中でその狼は戦闘をやめてどこかへといってしまったのだ。
結果、不本意ながらも狼をを退く事に成功したが…それから己の未熟さをしったロウドは一層稽古に励んだ。そして、マリアンとも出会った事で、それは目標から使命へと彼の中で変わった。
自分がこの家族を守る。
力を籠めるロウド。
馬車の中にいる妻マリアンと息子ジェムを思うその心は父としての責任からくる物。
すると、一時間もの戦闘を繰り広げたにも関わらず、自然とどんそん力が湧いてくる。
「いまだぁあーーーー!!ザッカ!!」
自分が受け止めている時に決めろと言わんばかりに大声を上げるロウド
「了解!」
ザシュ!
そして、そのロウドが作った隙を使い、ザッカの剣がグレートゴブリンの胸を切る。
「グガァ――――!」
痛そうに呻くグレートゴブリン。
少し後ろへと下がり、自分の傷を手でかばう。
しかし、遠慮はしない…次の剣戟を出すロウド。
「うぉりゃーーーーー!!!」
ザシュ…
「ギガッ!!」
そして、少し反応が遅れるが、傷を最小限でとどめ、なんとか剣でかばうグレートゴブリン。
しかし、明らかに先ほどよりも防御は弱くなっていた。
「次っ!」
そして、とどめの一撃をザッカは与えた…
「あ?」
…が、間一髪横にそれたのだ。そしてそのままザッカは他のゴブリンに相手される。
残りの周りのゴブリンは三体いた。
その三体が連携して、ザッカを襲う。
「おっさん!これじゃあ俺はすぐに参加できねぇ!とどめは任せるぞ!」
そういい、自分の戦闘へと集中するザッカ。
「分かった!そっちも気を付けろよ!」
(よしっ)
気を引き締めたロウドはそのままよけたグレートゴブリンへと向かう。
ゴブリンは息をちらつかせながら、満身創痍といった感じだった。
「悪いな、俺も守るものがいるんだ…」
なぜ襲ってきたのかは分からないが、大方食料と女を奪いに来たのだろう。
最後にグレートゴブリンへ一言入れたロウドはとどめの準備をする
そして上段の構えから一太刀を浴びせた。
それによりグレートゴブリンは剣で対抗するも…ロウドの一撃にかなわず剣が折れ、そのまま頭へと突き付き刺さり、最後は体を真っ二つにして戦いは終わった。
その少ししてからザッカもゴブリンを屠る事に成功する。
こうして、馬車を襲ったゴブリンたちは全員死に無事に守られたのだった。
◇
馬車の御者に報告をして、馬車の荷台の後ろへと行くロウド。
真っ先に会わなければいけない人がいる。
「ロウド、お疲れ様!」
「お父さん強かった!」
マリアンとジェムが荷台から顔をのぞかせた。
「いやぁー、数が多くて手こずったが、なんとか勝てたよ」
ロウドは笑顔で戦いに勝利した事を嬉しそうに言う。
「あ!」
すると、慌てて口を止める。マリアンはともかく、まだ子供のジェムにそういった事を話すのは早いと思ったのだ。
しかし…
「僕!お父さんみたいに強くなる!」
「え?」
突然の自分の息子の発言に頭が真っ白になるロウド。
それを察してか後から来たマリアンが話す。
「実は途中から起きてしまってね、お父さんの戦いが見たいっていいだしてから見せたの。あぶないとも思ったんだけど私も心配だったからつい、そしたら突然こういうようになってね…」
やれやれといった感じで答えるマリアン。
しかし、ロウドは内心とても嬉しかった。ジェムは絵が好きな少年だ。好きな事をさせたかったのでそのままにしたが、息子が父を見て父みたいになりたいと言ってくれて喜ばない男はいないだろう。
それを聞いて、少し目頭が熱くなるのを覚えるロウド。
「そうだな、じゃあ家に戻ったら訓練してやる!覚悟しろジェム」
「やった!」
「あなた!…仕事もあるのに、後ジェムを危険な目に合わせないでくださいね」
夫の健康管理も妻の仕事、衛兵は体力を使いのでできれば休んでほしいと思うマリアンだったが…まぁロウドの気持ちも分かるので深くは言わないでおく事にした。
マリアンもロウドが帰ってきて内心ほっとした。
ジェムと共に見ていたが、弓が当たりそうだったり、グレートゴブリンの一撃を受けた時ははらはらして落ち着かなかった。
そんな状況で、傷なく無事に帰ってくれた事をロウドに心で感謝しながら、彼をねぎらった。
すると、ロウドは小声で言ってきた。
「…あのな…マリアン、少し今晩いいか?」
「!」
「いやー一戦いの後な、どうしてもな」
そういい、ロウドは照れくさそうにいう。
二人は子供がいるがまだ三十代。
こくりっと頷くマリアン。
そんな二人とジェムは怪しそうに見る。
「なんの話~?」
「はははっまだジェムには早いぞ」
ロウドがごまかす。
「ロウドさーん!こっち来れますか?」
「あ―今行く!」
呼ばれたロウドはザッカ達のいる方へと向かう。
「じゃあ、後でな」
そのまま足早にいくロウド。
その後ろ姿を見て、マリアンは熱を覚える。
長年、共に暮らし、子供も設けたマリアン。
時には彼について文句を他のママ友ともするが、同時に心から込み上げてくる程に彼を愛おしいと思う想いが彼に向けられる。
さらに先ほどの一言…ご無沙汰だったので、今夜の事を楽しみにする事にした。
そんな相手の冒険者と話しているロウドをみて、これからの観光旅行を楽しみにするマリアン。
しかし、馬車の中へ戻ろうとするとロウドの顔が変わったのを見る。
目の前には何か話しているザッカと後ろに佇むローナ。
ザッカの顔をみると、先程と変わっていなかった。
しかし、何か違うと感じ、自らの額から汗が出る。
そしてマリアンが心配でロウドの方へと足を運ぼうとした時に事が起きた。
「がはっ!!!」
ロウドの痛々しい声が響く。
決して大きくはなかった。だが、長年連れ添った夫の声、それも危機的状況を伝える声を無視するはずがない。
「ロウド!」
慌ててロウドの方へと走るマリアン。
マリアンから全てが見えていた。
ロウドの脇腹、そこには短剣を剣を刺されており、掛かんだ格好になったロウドの目の前で動きを止めるザッカ。
「…」
何事もなかったように佇むザッカ。
マリアンの悪夢はここから始まった。
ここまで読んで戴き、有難うございました。
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東屋