プレゼント2 その1
十二月二十四日。クリスマスイブ。
今日は終了式であった。授業はなく、教室の掃除をして終わった。
「けがや病気に注意して楽しく冬休みを過ごすように! それでは号令をお願いします」
冬休みがよほどうれしいのか全員がうずうずしている。
「きりーつ。礼。あざーした!!!!!」
一気に教室が沸き上がった。仲間と一緒にワイワイ騒いでいる女子やこれからなにするかを決めようとして盛り上がっている女子。教室のあちこちで騒ぎ合っていた。
加奈もその一人だった。
「やっと長い二学期が終わったー! 誰か暇な人カラオケ行こー!」
加奈が教室の皆に声を掛けると大多数の女子が集まってきた。やはり加奈は普通では考えられないぐらいの人望の持ち主だ。
それに比べて男子は……。
男子全員が隼人の机の周りに集まっていた。例のクリスマス会についてだろう。
「全員集まったか?」
「大丈夫です兄貴。全員揃っています」
「よし。それでは今回のクリスマス会について最終確認をする!」
「「「「「はい!」」」」」
何でこんなところで全員の声が揃うんだ? これも隼人の人望なのだろうか。
「まず日時。十二月二十五日、午後三時に俺の家に集合。ちなみに俺の家を知らない奴はいるか? いるなら帰りに俺についてきてくれ」
「何言ってるんですか兄貴。俺たちが兄貴の家を知らないわけないじゃないですか。ここからだったら全員、目をつぶっても辿り着けますよ」
「そ、それならいいんだが……」
すごいな隼人の舎弟は。隼人の家がどこにあるか知らない奴がほとんどだったのに、一日で目をつぶっても辿り着けるまでに成長するとは。ちなみにここから三十分ほどかかるぞ。
「次に費用。食事を喫茶店でするから自分の食べる分だけ持ってきてくれ。他は特にいらない」
「質問良いですか?」
「何だ?」
「こんな大人数で喫茶店に行っていいんですか? 他の客や店お人にに迷惑じゃないですか?」
この中にもちゃんと他の人のことまで考えている奴がいるんだな。感動した。
「安心してくれ。ちゃんと予約を取って貸し切りにしたぞ」
「貸し切りって出来るんですか⁉」
「喫茶店の店長に、友達とクリスマス会をするからここを使っていいかと聞いたら、喜んで許可してくれたぞ」
「さすが兄貴! 準備が良い!」
「まあまあ。そんなこと言っても何もないぞ?」
そうは言ってるものの隼人の顔は明らかににやついている。
「あとは……特にないな。何か質問があるものはいるか?」
「兄貴の家は何時まで居ていいんですか?」
「何時でも構わん。むしろ家に泊まっても全然問題ないぞ」
「まじっすか⁉」
「ああ。親はどこかに泊まると言ってたから大丈夫だ」
「じゃあ兄貴の秘蔵コレクションを見ても良いですか?」
「もちろんだ。だけど壊したり盗んだりするなよ? 毎日数えているからすぐにわかるぞ」
「どれぐらいあるんすか?」
「三百弱はあるぞ」
「「「「「三百⁉」」」」」
男子達が一斉にざわつき始めた。
確かに多い。三百は多すぎる。
だけど多いなという感想よりも先に、毎日何してるんだよって感想が出てこないか?
「フッ、まあ大したことない数だ」
ドヤ顔で言っているが、隼人は、自分は負け組ですと宣言しているということに気付いているのだろうか? すごく疑問だ。
「他に質問がある者はいるか?」
「はい」
「どうした?」
「今日はクリスマス会を開かないんですか?」
「……」
隼人が固まってしまった。
「兄貴?」
「いや、これには深いわけがあるんだ」
隼人は自分のポケットから携帯を取り出してあるメール画面を開いた。
「今日届いたこのメールを見てくれ」
メールにはこう書いてあった。
『差出人 店長
今日は何の日でしょー? そうですクリスマスイブです。隼人君はわかったかなー? それで例年この日だけは忙しくなるから今日シフトに入ってねー。シフトに入ってくれたら特別報酬として私からプレゼントがあるよ! プレゼントが欲しいならぜひ来てね』
「普通の呼び出しじゃ……」
「待て。これにはまだ続きがるんだ」
隼人が新しいメール画面を開いた。
『差出人 店長
え? バイトに来れないの? へーそうなんだ。まあいいよ。友達とクリスマス会をするんだもんね。この四十代のおばちゃんを助けないでクリスマス会をするんだもんね! それは仕方ないか。おばちゃんよりも友達のほうが大事だし。青春は一回しかないからしっかり楽しんでくるんだよ。最後に一つ。もし今日来ないでクリスマス会に行ったら、友達に伝えておいて。
夜道に気を付けてねって』
「……」
メールの内容を見た全員が静かになった。
「兄貴の判断は正しかったと思います。じゃないと全員が死にます」
「そう言ってくれると助かる……」
「……」
「今日は開催出来なくなったことを全員に謝罪する。本当にすまなかった」
隼人は立ち上がって深々と頭を下げた。
これについては誰も隼人を責めようがない。むしろ感謝すべきだ。
「いやいや、兄貴は悪くないですよ」
ブーブー!
俺の携帯だ。
教室中に鳴り響いたマナーモードに全員が反応こした。
「すまん。俺のだった」
「本当に止めて。まじで心臓止まるかと思った」
「亮。それは犯罪だ」
「被告人に言い渡す。公共の場での着信罪で懲役五十年を処す」
「着信音の罪重すぎるだろ!」
「それだけお前の罪は重いということだ。反省しろ!」
「すいません……」
それを言われると何も言い返せない。確かにあの状況で携帯が鳴るのは心臓に悪い。
「というか早く出てやれよ。ずっと待ってるぞ」
「お、おう」
俺は教室を出て、画面を確認した。
掛けてきたのは……加奈か。おばちゃんじゃなくてよかった。
「はい」
「あー出てきた。こちら加奈。作戦は順調か?」
「作戦? なんだそりゃ?」
「昨日話したのにもう忘れたの? 感情集めのことだよ」
「いや、それは覚えてたけど……」
作戦って何なんですか、と言いたいがここは我慢だ。話が進まない。
「で、ちゃんと集めてる?」
「いや、今から集める。そっちは?」
「朝から少しずつためてるけど五分の一ぐらいかな」
「大丈夫かよ」
「亮にだけは言われたくない!」
「確かに。ごもっともです」
「でしょ? あ、もうそろそろ私の出番が来るから切るね」
「了解」
「ちゃんと集めるんだよー!」
「はいはい。また後で」
「じゃーねー」
さてどうやって集めようかな……。