『球技大会!!(後)』
もぉ2年も前の事。
1年の球技大会の前日、俺と五右衛門は光から色々なコツを教えてもらっていた。
…『お前らホンマにスパイスのタイミングへたやのぉ!!』…
…『だからお前にコツみたいのを教えてくれってたのんでんじゃねーか』…
…『良いか!?大体お前らセンスないねん!!』…
…『好き放題言いやがって…教える自信ねぇなら他あたるぞ!!』…
…『まぁワイがおしえちゃるわ。教えたるつーかセッターからのトスを見ていつ飛べば良いかをまず判断する事やそれは自分の練習次第やで!!』…
…『わぃが中学の時の顧問は色々な作戦を教えてくれはった。一番印象にのこっとるのは数字トスや。』…
…『あ?何だそれ。』…
…『Aクイック、Bクイック分かるよな??』…
…『Aが速攻でBが遅め?』…
…『まぁ本来の意味はちゃうねんけどまぁそれでええわ。AやBクイックを使えこなせたらかなり良い攻撃になるねんな』…
…『ふぅn。じゃぁそれ教えてくれよ』…
…『そのつもりや!!お前ら俺らが今から言う数字の意味考えてくれ。』…
…『21と32と64、12と78と46と13この違い分かるか』…
…『んー10の位の数字と1の位の数字の大きさか??』…
…『流石は数学トップクラスの優馬やな!!当たりや!!』…
…『それを利用するんや!1の位のガ小さかったらBで1の位のガ大きかったらAや。』…
光が何も説明しなかったのも俺らにしか出来ないって言ったのも納得できた。
これを教えるのに恐らく5分10分では到底無理だ。それに、俺達が忘れてたら多分無駄に想いださせたくなかったんだろう。
言えば薄ら覚えで何となく分かる分かると言って説明する時間が無いままゆえに適当に懐かしいなぁ〜って気持ちで終わって試合で混乱を招く結果になる。…もし忘れてたなら作戦なんて無しでガチで戦うつもりだったのだろう。
【42…Bクイック…】
俺と五右衛門が理解しているA,Bクイックの意味のは恐らく普通のルールとは違っている…光から以前指摘を受けた。
【…Aクイックはセッターのほぼ真上のレフト側からの攻撃、BクイックはAクイックよりレフト側に離れたところ。Cクイックはセッターほぼ真上のライト側からの攻撃で、DクイックはCクイックよりライト側に離れたところからのスパイク。…】
…が、ぶっちゃけると初心者には意味不明で…Aが速攻Bが遅い…こっちのが分かりやすいって全く聞かなかったことも今になって想いだした。
光のトスを見て俺は、ボールが頂上手前に来ると飛ぶふりをし、相手のブロックが飛んだのを確認し、俺も飛んだ。
バン!!!!これが俺の中でのBクイック!実際では一人時間差っていうのかな?まぁなんでもいいや。
久しぶりに気持ちよく決めることが出来た。スパイクを綺麗に決めた事より、その後の光とのハイタッチの方が気持ちよかった。
3vs7。
『ナイスナイス!!』と飛び交う中キキはサーブのポジションについて、合図を待っていた。
ピ!!となると同時にクイックサーブであってるのかな??とにかくベテラン君のカバーにが入る前に大穴さんに速攻でサーブを打ちつけた。
もぉベテラン君はカバーをしに走ったりしなかった。彼女がこぼしたボールをカバーする側に回ったのだ。
そんな祈りが届いたのか大穴さんのはじいたボールはベテラン君の付近に飛んできた。
すかさずボールの落下点に入り、2打目でもぉ完全に立て直したが、後ろから飛んでくるボールに合わせるのだから、以前みたいにキレのあるスパイクが打てていない。
当然俺達もらくに処理できた。キキがアンダーで光につなぎ、光は『29!!』と言い。
ポンと俺に出した。すぐさまジャンプし、ジャンプした瞬間くらいに叩き付け、これまたかっこよく決まった。
『シャァァ!!』とついつい吠えてしまい、応援してる奴らも盛り上がった。
4vs7。
あと三点の所まで来た。
キキも流れをつかみたい一身で最後のサーブも大穴さんを狙った。コントロール重視にしすぎたせいか、威力がさっより少なかった。
流石にこれには大穴さんも綺麗とはとても言えないフォームでセッターにボールをつないだ。
セッターからトスが出され、相手にしても久しぶりのアタックチャンスだった。
五右衛門がブロックに入り、他の4人は下で待機した。敵は五右衛門のブロックごとぶっ飛ばす勢いで強引にスパイクを放った。
ボールは五右衛門の腕からすり抜け一直線に地面を目指した。
と!!羽樹がダイブし、ボールの命を救った。
球技大会で女の子がダイブする姿を見たことがあるだろうか…俺も光も若干心配だったが、このボールだけは殺せないと思い、羽樹のボールを生きたまま相手に返した。
軽いたまになってしまったが、死なせてサーブ権と一緒に渡すよりはずっと良い。
またもや相手はアタックで終わる体制だった。
『ブロック3枚はるで!!』と光からボソッと言われ、トスが上がると五右衛門に近づき3人でブロックを張った。
バン!!と大きな音を上げで放たれたスパイクは光の手に当たり、相手コートに落ち、相手も必死でダイブしたが、間に合わなかった。
5vs7。
ビーーーーーーーーーーー!!!
いきなりのブザーで驚いたが、時間を見て落ち着いた。
『タイムアウトです。少し水分補給をしてください。なお、コート無いからはでず中で飲んでください。応援している皆さんも選手には近寄らないでください。』
俺達はとりあえず水を貰い、コート内に円を書くように輪になって座った。
『大分流れがこっちにきたけどまだ負けてるねぇ』
『うん…』
羽樹と五右衛門の暗い話題を掻っ切るように光が割って入った。
『これからや無いか!!今ままでは相手の調査や!!穴も見つかったし、こっからバンバン攻めるで!!』
『ヒカチンの言うとおりだね。』
『誰がヒカチンやねん!それだけはやめて』
アハハハ!!光とキキのおかげで場の空気が和んだ。
『まぁこのままでは相手も終わらんと思うし、こっちも気合いれてかないかんな!!』
『せやせや、向こうもこのままでは終わらへん。絶対勝ちにきよるで!』
『だな!!』
『次はわいのサーブやで、優馬に2打目回すんやで!!んで優馬はあの作戦忘れんように五右衛門にトス上げたれや!たまには羽樹に山越トス上げてもええけどな!!』
『あ、五右衛門作戦の事分かってる???』
『おう!お前らのやり取りってか光が数字言ってるので想いだしたわ。』
『OK!じゃぁ確認するで!!一の位がでかい時は!?』
『((A))』
羽樹とキキはハテナ顔だったが俺達はばっちりわかっていた。2年前のあの時に戻ったみたいに繊細に…
『よっしゃ!!問題ないな!!じゃぁソロソロ、ポジション戻るで!!』
光と同時くらいに審判からの試合再開の合図がでた。
各々のポジションに着き、光は大穴さん目指してジャンプサーブを打った。
バァン!!!とものすごい音が鳴り、大穴さんは倒れた。
『お、おぃ…大丈夫かいな!??』
光が心配して駆け寄り、鼻血が出て再起不能状態だった。
『大丈夫!!大丈夫!!』
と2組の先生は言っていたがあんまり大丈夫そうじゃなかった。大穴さんは本部へと運ばれ、人数が一人減り俺らと同じ人数になった。
本当に優勝できるかもしれない!!同人数になった事で誰もが優勝を意識した。
が…それは反対だった。光が大穴さんを消滅させたおかげで相手には穴が無くなり、大穴さんから点数を稼いでいた俺達からしたら、最悪の展開。
乾坤一擲…光のサーブは大博打となってしまった。
試合再開で光はさっきと同じジャンプサーブを打ったが苦労しながらも相手は確実に受け、2打目はトスでつないでスパイクを打ってきた。
手のうちようが無いくらい鋭い所を突かれて一点…取られてしまった。
6vs8。残り時間8分。
2点差で前半に比べれば全然望みはありそうだが、俺らの周りにずっと嫌な雰囲気が流れていた。
相手のサーブになり、意識をボールに集中させた。
相手もジャンプサーブで俺達の息の根を止めに来た。
サーブは光が受けたがタイミングが合わずずれた所に飛んでしまった。五右衛門が追いかけコート内にもどし、俺が確実に相手のコートに戻した。
休む暇…体制を整える時間も与えられず相手はすぐに攻撃を仕掛けてきた。
俺と羽樹がブロックに飛んで、光がダイブし、キキがダイブし、五右衛門が走り、守りオンリー状態になった。
ついには相手も決めれる所でも決めようとせず、ただただ長い、長いラリー…いや、また耐えるだけの一通攻撃が始まった。
光もキキも必死で【落とすもんか】とボールに食らい付き、流れた球を俺達が必死でカバーした。
点差が動かず何往復ラリーが続いただろう…10?…20?…30?…実際は4回くらいだったが瞬発に筋肉を動かす動作の連発でもぉボールを追いたくないと…体は悲鳴を上げていた。
5往復目のラリーでついに相手はしとめにきた。光の足元に鋭いボールぶち込み…両手を高々と挙げ優勝宣言をした。
6vs9…
また振り出し…相手は容赦なく穴である中央にサーブを打ってきた。
【しまった!!!】
中央のボールはセッターが取る役…俺はボールを目で追い、届け…!!!と精一杯てを伸ばした…
『危ない!!!』
『ウァァァ!!!!!』
俺では無理だろうと判断した光が、カバーに入っていた事に俺が気が付いた時にはもぉ最悪の状態だった。
ボールしか見てなかった俺は光の膝に顔面を強打し、大量の鼻血が出た。それに対し光は膝を押さえ倒れた。
審判が中止するかと促してきたが俺も光も中断なんてする気はさらさら無く、試合を続行した。
体操服は血で染まったが元々毛細血管が強かった俺は出るだけ出たらピタリととまった。
光は足を引きずる仕草をみせたが問題ないの一点張りであきらめる事だけはしなかった。
今のサーブは当然決まり、6vs10とまた点差が出来てきた。残り5分強。
【チクショーーーー!!】
心の中で思いっきり叫んで、俺はポジションに戻った。
『…ばれ!!』
ん??何か聞こえたように感じた。観客が大声で応援しているのだから当然かもしれないが…
『…優馬!!…』
え!?確かに聞こえた。周りを見てみると五右衛門達も誰かを探してるみたいだった。
『タカハシィィィ!!!優勝するんじゃなかったのかァァァァ!!』
班員とクラスメイトが一斉に声の方をみた。
斉藤が叫んでいた。『!!!!』皆が斉藤に注目している中、班員だけは一瞬で斉藤から目を離しすぐ横の小さい子に目が行った。
『カオリン…』
『キキチャン!!羽チャン!!光!!優馬!!五右衛門!!頑張れェェ!!』
斉藤の馬鹿でかい声に消されかけていたが、斉藤の馬鹿でかい声なんかよりも俺たちの胸にはカオリンの声のが大きく響いていた。
松葉杖を使い、ぎこちなくトコトコとコートに近づき、応援席の最前列に座った。
今すぐにでもカオリンのそばに行き、大丈夫??痛くない??頑張って決勝まで来たぜ!!など聞きたいことや聞かせたいことが山ほどある。
近くに来て気が付いたのか、俺達のドロドロでボロボロな姿を見てカオリンは号泣しだした。
俺達はカオリンの気持ちは言われなくても分かっていた。
【『私のせいで…私が怪我なんかしたから…皆に迷惑までかけたのに私は何もしてやれない…』】正確じゃないかも知れないけどそんなような事思ってんだろ??
【カオリンのせいでボロボロなんじゃないし、むしろカオリンのおかげでココまで真剣に頑張れたんだぞ!!安心して応援しててくれ!!勝ったら打ち上げするぞ!!だから顔を上げてしっかり見ろ!!】
と自分で想像したカオリンの思いに心で応答した。
ピピピ!!
『4組!!4組代表!!試合再開しますよ!!?』
審判の『K・Y』な発言で俺達は我に帰った。皆、カオリンの登場で動揺していた。そして、諦めかけていた優勝の二文字をもぉ一度想いだした。
『すいません。大丈夫です。』
とキキが審判に答え、皆が真剣な眼差しに変わった。今の空き時間で少しだけど、体力も戻り俄然、闘志が燃えてきた。
6vs10。残り5分。
泣いても笑ってもこのコートで優勝を賭けて戦えるのはあと5分。
泥だらけになったって良い…
また鼻血が出たって良い…
酸欠でぶっ倒れったて良い…
腕が真っ赤にはれ上がっても良い…
足が壊れても走ったるでッ…
俺達全員、5分…あと5分だけ本気で頑張ろうと誓った。
そんな思いが届いたのか、カオリンも顔を挙げ、喉が壊れそうなくらい声を出して応援してくれた。一人一人の名前を呼んで…
相手がサーブを先ほど同様、穴の中央を狙ってきた。俺だ!!!
光も俺を信じ、その後のカバーだけを考え一歩も動かなかった。
ボールは意識があるかのように俺から逃げ、地面に吸い寄せられる。
笑う膝を無視して落下点に飛び込みギリギリでボールと地面を引き離すことに成功した。
真上に上がったボールは【ワイが上げるで!!!】と光が五右衛門にトスを上げる。
『28や!!』
『おう。』【A!!】
高く上がっていたボールを絶妙にいなし、五右衛門に軽くトスを上げた。
トスがあがった瞬間…光の手ごと引きちぎる勢いでバーン!!と爆発するような音が鳴り、ピーっと甲高い音が鳴った。
入った…綺麗に入った…7vs10。残り3分弱。
ワァァァ!!と場外も盛り上がり。一点追加を一緒になって喜んでくれた。カオリンだけは真剣な表情で俺達と一緒に闘ってくれていた。
サーブ権が入れ替わり、五右衛門のサーブ。
サーブミスだけは許されない。ここで3点取って同点にしたいところ。
もぉジャンプする事もままならないのか、いつもジャンプサーブをしていた五右衛門がただサーブを打つだけの弱弱しいサーブだった。
流石に死闘を共にしてきた相手も疲れはピーク。ヘナチョコなサーブにも少しながら苦戦していた。
動けるだけの力は残っており、ココは是が非でも逃げ切りたいとスパイクを打ってきた。
バン!!…
キキは飛び込み、何とかセーブしたが、飛び込みの連続でキキの足はすり傷で血と砂でボロボロだった。
痙攣する足を引きずるように落下点に光が入り、必死の思いで『31』と俺に告げ、トスを上げた。
【B】と頭で確認し、絶対決める!!と言い聞かせ、ジャンプのフェイントをかけようとした時、ガクガクと貧乏ゆすりでもしているかの様に足が震え、その場に崩れた。【マジで頼む!!!動いてくれ!!】あざ笑うかの様に俺の思いを体は無視し、ゆっくりと落ちるボールをただ目で追うしか出来なかった。
そんな俺を飛び越えるかのように羽樹が食らい付き、ギリギリのところでトスにあわせる事が出来たが、極度の疲労で飛躍力の減った羽樹の足は俺の肩に引っかかり、横転するように羽樹は転がった。
それでも、相手の意表を付いて何とか相手側の地面にボールを落とすことが出来た。
8vs10。残り2分弱。
何度も審判が中止するか??と聞いてきたがありがた迷惑とは正にこのこと。誰も試合の中断を申し出る者はおらず、試合続行。
激痛が走る足首…笑う膝…震える太腿…苦しい…でも…いや、だからこそ…諦められない!!負けたとしても諦めて負けるのだけは絶対に嫌だ!!
五右衛門の2本目のサーブ。腕に力の入らない状態でのサーブは、ネットギリギリを通過し、絶妙な位置に落ちた。
相手もこれにはどぉすることも出来ず、あっけなくボールは地面を転がった。
予想外の追加点で9vs10。残り1分半。
五右衛門最後のサーブ。またしても力の無いサーブ。
相手も2度同じミスはせず、最後の力でボールを返してきた。
羽樹とキキでブロックに入ったがボールはブロックの横を抜け、光の1メートル手前に落ちようとしていた。
【よっしゃ…これとって同点や!!…それにしても何ちゅう距離や…】
たった1メートル距離がの永遠不変の距離に感じる。
ダイブというより倒れこむように光はボールを捕らえ、五右衛門がそのボールを死なせるもんかと気力と精神力で動き、トスを上げようと俺を見た。
【優馬!!!死んでも決めろよ!!!!】俺にははっきりそぉ聞こえた。
立っているのが精一杯の俺に容赦なく五右衛門からのトスが出た。
【あぁ。死んでも決める!!】五右衛門に硬く約束し、最後の意地で動いた。
かっこよくスパイクなんて出来ない…でもこれだけは入れてやる。
実践躬行…口先だけではいけない、まず行動せよ。
地を蹴っている感触の無い足で落下点に入り、ジャンプできた…そのまま真下に叩き落とすように、相手のコートにほぼ垂直に落とした。
『オーバーネットだろ!!!』
と言う相手の声が耳に入り、恐る恐る審判を見た。
ピー!!と笛が鳴り、得点表がペラッっとめくられた。俺らの追加点だ。
10vs10。
『((ウォッォシャー!!!))』
同点!!追いついた!!並んだ!!後一つで逆転!!!優勝出来る!!!
【《ふぉふぉふぉ。面白い奴らじゃ。もう一点だけ動けるようにしてやるよ。》】
と神の御告げがあったかの様に、後一点で逆転できると思うと力がわいてきた。
みんなの目にもさっきより輝きが戻っていた。
残り45秒。俺のサーブ。
的確に相手のコートにだけ入れることを考え、俺は慎重にサーブした。
『ナイスサーブや!!!』
『ナイスー!!』
決して良いサーブでは無かったが声を出すのもしんどい仲間がナイスと叫んでくれた。
ボールは相手の中央に行き、冷静に対処してきた。スパイクで終わるほど相手にも体力が残っておらず、2本目でこっちに返してきた。
『よっしゃ!!ワイが行くで!!』
汗だくの光が落下点に入り、それを羽樹につないで、羽樹からキキ貰い相手のコートに放り込んだ。
もぉバレーというより、玉突き状態だった。
ビイイイイイイ!!!と激しい音が鳴り、『ラストイッポーーーーン』と審判が告げた。
同点の今、落とした方が負け…
時間切れのブザーが鳴ると相手も気力でしとめに来た。
とココに来てスパイク…そんなこと誰も思うはずもなく、ノーブロック。好きな所に打ち落とせる。
中央!?角!?
バン!!と相手のピストルのようなスパイクが放たれ、自らピストルの的になる様に五右衛門が飛びこんだ。
『ウォォォォ!!頼む!!!』
五右衛門の声が響きわたるほど観客は見入っており、少数しか声を出していなかった。
30センチで届く距離…
【五右衛門なら出来るさ!!!】
【五右衛門!われのとりえわ運動神経やろが!!】
【五右衛門頑張れ…】
全力を尽くしボールに触れた五右衛門は本当にピストルで撃たれたかのように倒れこんだ。
ボールは後ろに飛び、光が追う。
『任せろや…』
光が五右衛門に【よぉやった。ありがとう!絶対殺させへん!】と言うかの様に五右衛門の球を追いかけた。
【俺のダイブを無駄にしたらしばくぞ!!】
【お前はいつだって俺達に≪何でもやれる!≫そぉ思わせてくれたよな!】
【光頑張れ…】
皆の思いに答えたいと光は必死でボールに追いついた。コートからわずか3メートルくらい離れた場所。
『もぉ無理や…誰でもええから返してくれ!!』
と言い、コート内にボールを戻した。
誰でも良い…と言ったわりにはボールは俺の方に飛んできた。5歩前へ行けば落下点。
【頼む!!頼む!!頼む!!動いてくれ!!】
200kgくらいあるんじゃないかと思う足を、一歩一歩だしてる間にも光からのボールは距離を縮めてくる。
一歩前までの足とは別の足みたいに一歩一歩どんどん重さが倍になっていくように感じた。
『優馬頑張れ!!』とカオリンやクラスの奴らの声が聞こえているよな聞こえているような…
意識が朦朧とする中光のくれたボールだけは目を離さなかった。
全てがスローモーションに思えた。
観客の声も聞こえない…
ボールは静止しているような…
究極に眠い…
頭が重い…
地面に引っ張られる様にゴロリと倒れそ…ドタッ!!!!!…
天を扇いだ…
その瞬間今までコマ送りだった映像が再生ボタンを【ポチッ】っとされたかのように普段のスピードで動き出した。
ボン…ボン・ボ・・・
ボールは俺の横に落ちた…
ビィーーーーーーーーーーーー!!!!
試合終了の合図…
勝ったのか??…
負けたのか??…
キキ・羽樹・光・五右衛門・カオリン…両手で頭を押さえ肩を震えさせている…
相手はコートで抱き合って喜んでいる…
そっか…負けたのか…負けた…
もぉすこし踏ん張って立って居られたら…
ボールだけでも返していれば…
…たら
…れば
…たら
…れば
やり切れない思いが一気にこみ上げてきた…
血が出るほど下唇を噛み締め、泣いた…
生まれたての赤子に負けないくらい…