『★作戦21★前♪』
午前9時。
焼け付くような太陽と、それを照り返すアスファルトが妙に俺達の集中力を高めてくれた。
心なしか静岡は俺達の地元より、空気が綺麗なのか、はたまた磯の香りで気分が良く感じられるからなのか良く分からなかったが、★作戦21★を実行するに当たっては申し分ないモチベーションだった。
『ほな、作戦の説明するで、よー聞いとくんやで!!』
ココで、頭の悪い五右衛門と俺のために光が再度★作戦21★の段取りを説明してくれた。
作戦の説明中、流石に暑すぎるアスファルトに耐えかねた俺達は、大きな木の下の木陰に移動した。
光がちょうど良さそうな木の枝を拾い、それを使って地面にガリガリと作戦の内容など、要点をまとめてくれた。
そもそも★作戦21★と言うのは、昨日からずっと部屋に居ましたよ作戦なのだ。
ん!?…謎いって!?…意味分かんねぇよ!!って??
まぁ無理も無い、君達より頭の良い俺ですら光に説明されるまではクエッションマークが頭の中を飛び交ってたもんだ。
要するにだ。
昨日の帰りは確かに遅かったけどちゃんと帰ってきて、部屋にずっと居たんですが!?!?女性人ついでにマスターさん。そんなに慌ててどぉかなされました!?!?!
とあたかも昨日からずっと部屋に居たかのように振舞う作戦だ。
俺達の部屋809号室にはロビーの横の階段、エレベーターを使わないと行く事はほぼ不可能。
そして、先ほど俺達がロビーを柱の影から覗いたら、マスター達は俺達の帰りをロビーにて待ち構えている。
それに気がついた時は、俺と五右衛門は作戦21もだめか…とため息をついた。
叱られるしかないな…と項垂れる俺達の肩を光はポンと叩いてニヤリと笑って見せた。
光だけは、皆がロビーで待っていることを逆に利用しようと考えたのだ。
『ええか!?…こりゃ今までワイらがやってきた中でもかなり危険な作戦やで…よぉ聞きや。下手したらマスターに2〜3発殴られる方が軽傷で済むかもしれへんこっちゃ。』光が真剣に言った。
『うむ…確かにこの作戦…下手したら命落とすじゃねぇかよ…』光の言葉に五右衛門も真剣に応答し、俺も唾を飲んで頷いた。
光が提案した作戦とは8階にある俺達の部屋に外から上ると言う作戦なのだ。
当然俺達も最初は、『無理!!無理!!無理!!無理!!』と断固拒否った。
ロッククライマーでもあんな壁登れっこねぇぞ!!と言う五右衛門の言葉に俺も大きく頷いた次第だ。
【まぁ壁をよじ登るとなったら、流石にロッククライマーでも無理やわな。けどな、ワイらが登るのは1つの階だけや。それも壁をよじ登るんやのぉて、あの筒に足を引っ掛けて登るんや。】
と光は俺達の部屋付近の壁を指差した。
太陽が射し、眉間に皺をよせながら俺と五右衛門は確認した。
『確かに、雨水を通す筒みたいなのはあるな…あれでを使って8階まであがるんか!?!?』と五右衛門が無理だ!!と言おうとした時光が『アホか』と五右衛門の言葉を遮った。
『ちゃうちゃうちゃう!!!さっきもゆーたけど、あれを使って登るんは7階から8階だけや。それ以外はあの階段ですんなりといきゃぁええ。』と光が再びホテルの側面を指差した。
あっ!!と俺は光の言いたい事が理解できた。俺の声に光はウインクし、親指を立てた。
『なるほどなぁ…』と少し遅れて五右衛門も気がついた。
『この作戦俺達の部屋が809号室じゃなかったらアウトだったな…』と五右衛門が付け加えた。
『せやな。まぁ運も見方してくれとる見たいやし、今回の作戦は上手く行くやろ。』
俺達の部屋809号室はちょうど一番端の位置にあり、その部屋の真下である709号室の横の壁に階段があった。
その階段を利用して、7階まであがり、7階まで来たら部屋の横にある雨水を流す筒をつたって上に上がると言うことである。
『けど、なんであの階段7階までしかねーんだ!?!?』と俺が聞くと、確かになと五右衛門も首を傾げた。
『まぁその辺はよぉわからんわ。元々7階までのホテルを客の入りが良いからって事で改装して10階まであげたんかもしれへんしな。ワイらの部屋が709号室やったら何の危険もなくいけたんやけどな。』
一通り、やる事を把握し、俺達は青空の下教室である木陰を離れ、ロビーのオープンなガラスからマスターたちに見られないように、ホテルの裏から周り側面にある階段へと足早に移動した。
『近くで見るとめっちゃ高いなぁ…』と五右衛門が思うがまま声を出した。
『じゃっ!とりあえず上がるで!!』と光が立ち入り禁止の掛札をまたぎ、カツカツカツと鉄の階段独特の音を鳴らしながら上がっていった。
それに続いて、五右衛門、そして俺と順番に上がっていった。
7階…樹海の件で2日間動きっぱなしの俺達の体には酷な階数だった。
体力馬鹿の五右衛門は光をあっという間に追い抜き、俺と光が4階に到達した時にはもぉ7階で待機していた。
『なぁ光よ…この作戦…膝にくるぞ…』
『優馬よ…わかっとるから一々声にだしてゆわんでええやろ…余計にしんどいで…』
『すまぬ…』
7階に着いた時には流石に尻餅をついて休憩する事しか出来なかった。
『なっさぇねぇなぁ。7階上ったくらいでハァハァハァと…おっさんじゃあるめぇし。』と待ちくたびれたぞと五右衛門が腕を組んで俺達を説教し始めた。
『ハァ…せやかて、ハァハァ…ここ2日間動きっぱなしで…ハァ…只でさえ体ボロボロやねん…しんどいっちゅーに…ハァハァハァ』と途切れ途切れに光は五右衛門に反論した。
俺はというと、五右衛門への反論を心で言い放ち、声に出すと言う労力は避けた。
『じゃぁ、お前ら顔あげてみぃ!!!一気に疲れ吹っ飛ぶぞ!!!』と五右衛門が白い歯をキラリと太陽の反射で輝かせ俯く俺達の肩をゆすった。
『うぉぉぉ…マジですげぇ…』
『ホンマに疲れ吹き飛ぶでこれは…』
俺と光が声を出したのはほぼ同時だった。
五右衛門が階段の手すりから体ごと乗り出して見ている先には、今までに見たことも無い凄い綺麗な風景があった。
途切れる事の無い太陽の光が、澄み切った海に跳ね返り、キラキラなんていう言葉では表せないほど輝き、波に乗って泳いでいた。
俺は羽樹にもこの光景の感想を伝えたい…そぉ思ったが、『すげぇ…』ただコレしか言葉として表現できないのが悔しく思えた。
もっと賢い人はこの光景を言葉にし、人に伝えられるんだろうなぁ…と思うと何だか俺の知り合いは損をしているようにも思えた。
『それにしてもすげぇなぁ…』と光も口をあけて視線を海に送っていた。
『なっ!!疲れ吹き飛んだだろ!!?』と五右衛門の言葉に、ハッっと我に返りった。
『せやな。何か癒されたわ!!!』と光が笑いながら言い。
『うむうむ!!』と俺も大きく頷いた。
変わるはずないのに、さび付いた階段がほんの1分前よりかなり汚い物体に思え『はぁ…』とため息がでた。
『…ココからが慎重にならなあかんとこやな。ワイが最初に行くけど、二人はワイが登りきるまでココで待機やで!!登ったら合図送るわ!!』と光は階段の手すりをヒョイッと越えて709号室のベランダへと飛び移った。