『一難去って又一難…』
ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
『ん…うるせぇ…なぁ…』
俺は眠い目を擦りながら、ポケットの中の携帯を取り出した。
ん??…羽樹から…メールか…まだ7時半じゃねぇか…はえぇぇなぁ…
【優馬!!!今どこに居るの!!??昨日も夜遅くまで薫とキキとマスターでみんなの帰りを待ってたんだよ!!!朝には戻るだろう男が三人で出歩いてるんだから心配ないってマスターに言われて昨日は寝ちゃったけど今日の朝になって優馬達の部屋に行っても誰もいなかったから…無事なら返事ください。それと早く帰ってきてください。】
羽樹の心配する文章に俺は水風呂に入ったかのように胸をギュっと締め付けられ、半分眠っていた頭も、フル回転で活動しだした。
『や…やべぇ…をぃ!!!光!!!!五右衛門!!!爺さん!!!!起きろ!!!!』
俺は五右衛門の頬に平手をくらわし、光の布団をひっぺ返し、その布団を爺さん目掛けて放り投げた。
『いってぇなぁ!!朝っぱらからなんじゃ!!!』と五右衛門が怒。
『人が気持ちよぉ寝とったのになにすんねや!!!ど阿呆!!!』と光が怒。
『小僧!!!!今日くらいゆっくり寝かせてくれてもいいじゃろうが!!!』と爺さんが怒。
『お前らアホか!!!このメール見てみろ!!!!』と俺が怒。
と俺は携帯を前に出し、五右衛門達三人はそれを覗き込むように見入った。
『薫とキキとマスターでみんなの帰りを待ってたんだよ…やべ!!!!マスターに殺される…』と五右衛門が焦る。
『優馬達の部屋に行っても誰もいなかったから…キキ…に殺される…』と光が焦る。
『無事なら返事ください。それと早く帰ってきてください…可愛い子チャンがワシの帰りを…』と爺さんが萌える。
『って小僧…ワシは関係あるのか!?!?』と爺さんが我に返る。
あ…ついつい無関係の爺さんまで起こしてしまった。【ブゥブゥブゥ】
爺さんのブゥイングも無視し、俺達は身支度を整え…といっても何も無いが…早急に帰宅しようとした。
『まてぃ!!!小僧!!!』
『なんやねん!!爺さん!!!ワイら急がなホンマに命が危ないねん!!』
と、爺さんはいきなり土下座し、話し出した。
『本当に感謝じゃ。お前らがいなかったらわしは死ぬまでココで暮していたかもしれん。ビーハイブとの別れは正直心寂しい。』
『けど、コレで時忘れの洞窟も虫の呪いも全部開放されたとワシはおもっとる。その証拠に今、虫を見ても食べたいなどとこれっぽっちもおもわんしのぉ。』
『恐らくビーハイブはワシにこんな所で腐ってたらダメだと伝えるために石の伝言や虫の呪い、時忘れの洞窟を用意したんじゃろうな。』
『死んでしまっても、ビーハイブはちゃんとワシの事を見ていてくれたんじゃな。…その気持ちに答えるためにもワシは今日を持ってココの樹海を去ろうと思う。』
『あの世に行った時にビーハイブに色々話してやれるように、残の人生を楽しんで生きようと思う!!…おぬしらのおかげじゃ。恩に着る…』
と爺さんは下げていた頭を上げ、俺達にニコッっと微笑んだ。
『それにしても爺さん。行くあてあんのか???』
『ない!!!じゃから旅をしようと思う。松尾芭蕉の様にな。。おぬしらの家にもいつか寄ろうと思う。差し支えなかったらおぬしらの住む土地だけでもおしえてくれんかのぉ…』
旅かよ…と突っ込みたかったが、俺達三人の同意で爺さんに俺達の住所…ではなく【和茶】の住所を紙に書いて爺さんに渡した。
『これまた…遠いのぉ…コレはワシの目標じゃなぁ。カカカカカカカ!!!』
『じゃぁ爺さんワイらもぉホンマに帰るわ!!元気でやるんやで!!!』
『覗きすぎで捕まるなよ!!!!』
『住所覚えても、死ぬ前に来いよ!!!死んでからは来るんじゃねーぞ!!!』
俺達は爺さんが見えなくなるまで何度も振り返り、手を振っては声をかけながら、立ち去った。
『あの爺さんなら、静岡からだろうが北海道からだろうがぜってぇ俺達のとこまで来るな!!!』
『ちげぇねぇ!!!』
『ちょっと女湯覗きたいがために、ここからあの旅館まで来るくらいだしなぁ!!!』
『((((ハハハハハハ))))』
『って笑ろーてる場合ちゃうで…待っとる4人が金棒もって旅館の前でたっとるのが目に浮かぶで…』
光の追い討ち発言にブルブルっと体を震わせて、俺達は片道1時間近くかかる所を駆け足で30分で帰宅した。
思ったより早く着いた俺達は近くの自販機でジュースを購入し、皆にどぉやって説明しよう…と言い訳を考える事にした。俺達は作戦を計30パターンくらい考えた。
★作戦1★『いやー。散歩してたら妊婦にばったり出くわしてさ…いきなり倒れるもんだから、今日の朝まで病院で付きっ切りだったわ…病院に居る間は携帯つかえんくてなぁ…』
妊婦付き添い大作戦!!
これは俺が考えた作戦だが、自分が病気にかかってるわけでもなく、妊婦のご家族の方々が来たら我々が最後まで付き添う必要など全く無いとの事で却下。
★作戦2★『ふぅ…やっと戻ってこれた。それにしても参ったよなー。すんげー追い風で遠くの方まで楽々に行けたんだけど、帰りは恐ろしい向かい風だもんなぁ。参った!!参った!!アッハッハ!!』
向かい風大作戦!!
コレは言わずとも分かる五右衛門君による提案だ。…勿論即却下。
★作戦3★『おーおったおった。まさか二日もココに泊めてもらえるなんて思ってもいてへんかったからなぁ。次のホテルまで三人で向かってたんやわー。せやかて、夜になっても皆全然けーへんやん??それでまさかと思って戻ってきて良かったわぁ。良かった良かった。』
先走り大作戦!!
コレは光君の提案だ。案外良さそうだなと思ったが、光本人が、もしそれなら今の時代TELして確認くらいできるわな…と言い出し、結局却下。
結局の所、素直に本当の事を話して謝るか…作戦30パターンの中で最も有力候補とされたあの★作戦21★で行くかと言う話し合いになった。
【実は樹海に再び探検に言ってて、そこで虫を食う爺さんや、化け狐の呪いにかかって色々と時間が経ってしまって、その呪縛から開放された時にはもぉ深夜で、結局虫を食う爺さんの家に泊めてもらってたんだよ。】
コレが本当の話だ…いや、今思うとあれは俺達の夢だったんじゃないのか…と実体験した俺達でも信じがたい様なファンタスティックな出来事だった。
そんな事信じてくれるはずもなく、それを話すくらいなら五右衛門が考えた★作戦11★の大名行列に巻き込まれて半日くらい土下座してました。その後は足がしびれて動けませんでした。
こっちの方がまだましに思えてくる次第だ…
よって俺達は、★作戦21★を実行する事にした!!!!