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『長い夜の終』

『一年って…爺さんつい最近じゃねぇかよ…』


『そうでもないわい。ワシがココに来た最初の頃じゃ。』


『え!?あんた、20年近くココに住んでるんちゃうんかい!?!』


『あぁ、世間的には20年、ワシの中ではまぁざっと1年ちょいってとこじゃ。…あの時忘れの洞窟のおかげでのぉ…』


『あぁ…』


小僧ども…ソロソロ、聞いてくれるか??とズズズズっと暑いお茶を啜りながら俺達に問い、俺達も黙って頷いた。


『ワシがココに来てまだほんの1ヶ月くらいの時じゃった。ワシはいつも通り部屋の掃除をし、風呂に入って、樹海から近くのデパートへと買出しに行っていたんじゃ。まぁわしかて最初から虫など食う趣味は無いんでね。買出しに行って帰ってくると一匹の狐が倒れておったんじゃ。』


『狩人にやられたみたいでのぉ…何発もの銃弾を受けて酷い怪我じゃったんじゃ…ワシは直ぐに手当てした、幸い致命傷になるところには当たっていなくてな一月くらいでその狐は歩けるまで回復したんじゃ。ワシは獣医免許どころか、人間の手当てすらした事の無いワシだけにそんなに早く回復するとは思いもせんかった。』


『狐と暮す一ヶ月間、ワシは愛着をもってはいかんとは思ってたんじゃがのぉ狐に名前までつけて可愛がったんじゃ。【ビーハイブ】それが狐の名前じゃ。』


『ビーハイブ!??中々センスの良い名前だな…』とっさに五右衛門が呟いた。俺も爺さんにしては中々のネーミングセンスだと関心した。


俺はてっきり、コンタとかつけたもんだと思った。


『どごがやねん…悪趣味極まりないやんけ…』五右衛門の言葉に光の鋭い突込みが入った。


『爺さん、ビーハイブってどぉせ蜂の巣の事ちゃうん!?ワイが思うに初めて発見した時に銃弾を浴びてのが理由やろ…』


『カカカカ、いかにも。』


良く分かったなと言わんばかりに爺さんは笑い、俺と五右衛門は前言撤回を言い放った。


すっかり冷めてしまったお茶で喉を潤わせ、爺さんは再び話し出した。


『ワシはビーハイブのおかげで久しぶりに寂しさとは無縁の生活が送れたんじゃ。出来る事ならこのままこいつと一緒に過したいと思ったりもしてしまったわい。それでも人間と野生の動物…』


『歩けるようにもなったし、辛い気持ちを押し殺して、ソロソロ仲間の元へ帰れと野に帰してやったんじゃ。一ヶ月も一緒に居たんじゃビーハイブもすっかりワシになついてのぉ。ワシが森へ帰れと言っても言う事なぞ聞いちゃくれなかった。』


『ワシはビーハイブを家から離れた場所まで連れ出して置き去りにするなど、色々可哀相な事までしたが、結局何日かしたら戻ってきてしまったんじゃ。ワシは……』


カンペでも見ているのかと思うほどすらすらと話していた爺さんが、凍りついたように言葉を無くし黙り込んでしまった。


肩を小刻みに上下に揺らし、下げた顔は床と平行を保ったままだった。


俺達は顔を見合わせ、爺さんの様子を伺った。泣いているのか…な???


『爺さん。大丈夫か?…』


爺さんの啜り声が狭い部屋に響き渡る中、光が心配の声をかけた。


『あぁ…大丈夫じゃ。すまんのぉ…昔を…あの時の事を思い出してしまったわい。…』


無理なら、もぉ話さなくて良いぞと言う五右衛門に、もぉ大丈夫じゃ。ブィィィィィ。っと大きく鼻をかんで一息ついて話を始めた。


『ちっとも本当の家族の元へ帰ろうとしないビーハイブにワシは狩用の銃を向けたんじゃ。一月前の嫌な思い出が一気に蘇ったんじゃろうな。4本の足をガタガタ震わせて森の中へと消えていったよ。』


『ビーハイブと別れて数日後、ワシは悲惨な光景を目にしたんじゃ。………ビーハイブが……ビーハイブが……。』


『((え??))』


ココから先は爺さんの声が涙で言葉になってなかったので、恐らくこぉ俺達に伝えたでは無いかと思われる事を俺が述べよう。


【爺さんが帰宅するとビーハイブが大怪我をして、家の前で倒れていたらしい。又怪我をすれば爺さんと一緒に居れると動物ながら考えたのか、爺さんに見放され家族を探している間に出来てしまった怪我なのかそれは爺さんも分からないままらしい。怪我が酷く爺さんが手当てをしても、ビーハイブは良くはならなかった。爺さんが発見したその日のうちにビーハイブは死んでしまったらしい。それを爺さんは自分のせいだと…

自分が殺したようなもんだと、ガキの様に泣きながら俺達に訴えてきた。長い人生に置いてあの日程、後悔した日は無い…と…】


爺さんが言うには、(ビーハイブ)の死体は部屋の中にあるとの事だ。流石にコレには俺も五右衛門もそして光も声を出して驚いた。

俺達他人から見たら只の白骨体だが爺さんから見たらまだ、昔の可愛い(ビーハイブ)なのだろう。死んでしまっていても、埋葬や火葬はできなかったらしい。

この言葉を訊いて、光がくらい着くように爺さんに質問した。


『なぁ爺さん。あんたが昆虫食いだしたのはいつや??それと、時忘れの洞窟に一日篭ったって言うのもいつの話だ???そもそもあの洞窟が時忘れの洞窟だと言う事が確信できたのは(ビーハイブ)が死んでからの事じゃないんかい??』


『…うむ。小僧の言うとおり、ビーハイブが死んでからじゃ。始めに入った日は正直疲れて眠って時間を忘れてただけかもしれんしのぉ。それに今思うとあの中で何時間も寝てたはずなのに日付の変化が今と比べて段違いじゃな…』


『爺さんのゆうとおり、あの洞窟は呪われてとるな。霊能力者か例の緑茶だかしらねーが爺さんの友人の言ってた事も全て当てはまるな…』


流石に頭の悪い俺にも五右衛門にも何となく光の言っている事が理解できた。【恐らく狐の呪い】だろう…


『なぁ爺さん。光の言いたい事わかるか??爺さんが子供の様に可愛がっていた狐…ビーハイブが死んでから色々な災難が続いてるんだぜ??その狐が爺さんを呪おうとしているのか…そんな事言わなくても分かるよな。』


光るに続いて五右衛門が言い、それに続いて俺も話した。


『爺さん言ってたよな。時忘れの洞窟にいる霊は悪い霊じゃないと…寂しいから死後の世界に誘っているんだと。ココが樹海って事もあるし、俺達も爺さんの友達の霊能力者も自殺した人の霊だと思ったんだよ。でも全ての発端はビーセントじゃないか??』


『…ビーハイブじゃ…お前ら、ビーハイブを葬ってくれるか…??ワシが自分でやるのが一番良いのはわかっとる。けど…あんな姿になってもワシには今も動き出しそうで…とてもビーセントに火なぞつけれんのじゃ。。』


『((ビーハイブだろ!!))』


俺達は爺さんに案内され、(ビーハイブ)の死体がある場所に移動した。


その場所は意外に近く、爺さんの本家とも言えるあのボロ小屋だった。


『この家の地下にビーハイブはおるんじゃ…お主は一回降りてきたじゃろう』と俺の方を指差してきた。


『この地下か…』と俺は少し不安の声を漏らしながら、ふとあの時の光景が頭を過ぎった。


爺さんが何故あんなに気味の悪い部屋に居たのか…あの大量の虫の死骸がずらりと並べてあったのは何故なのか…

全てを聞かされてから考えると、爺さんは狐に会いに地下に降りていた。そこに俺達が来て、樹海の見学者かと思い爺さんもビクビクしながら身を潜めていた。

あの大量の虫の死骸は、恐らく俺達人間で言うお供えものだろう…俺の考えが正しいのかどおかは爺さんに聞いて見ないと分からないが、恐らく間違っていないだろう…そぉであって欲しい。



俺が過去を振り返っている間に、五右衛門と光と爺さんは地下におりて、ビーハイブの入った箱のような物を抱えながら上がってきた。


それはそれはもの凄い異臭を放っているかと思ったが、そぉでも無かった。3人の後に続いて俺も小屋の外に出た。


爺さんがランタンを近づけ、中確認すると、ポタポタと涙を流し、ビーハイブに最後のお別れの言葉をかけた。


『ごめんのぉ。お前を苦しめてばっかりじゃったな…お前が生きてる間はたった一ヶ月くらいの付き合いのじゃったがワシは一時もあの一ヶ月の出来事をわすれちゃおらんよ。』

『最初は、お前がでっかい蛾を食べようとして、ワシが取り上げてデパートで買ってきたドックフードを食べさせたりもしたのぉ、昆虫はお前の大好物だったのにな…今ではワシが昆虫を食うようになっとるわい…カカカッ』

『お前と近くの川に行って、お前がおぼれて流された時は、心臓が止まるかと思ったのもよぉ覚えとるわい…本当に死にそうで焦ったのお前なのになぁ…』

『おい、ビーハイブ。お前あの一緒に女湯覗いた時の事覚えとるか??、お前ときたら興奮しよって女湯に飛び込んでいくもんじゃから、ワシ一人で逃げようかと思ったわい。まぁお前のおかげであの時はある意味美味しい思いをさせてもらったけどな…ハハハハハッ。』

『ビーハイブ…ワシが死んで、お前と一緒の世界に行った時には又一緒に暮そうな…あの世で元気でやれよ…今度は狐の女湯覗こうな…』


爺さんは俺達に『スマンが、これ以上見とると笑顔でお別れできそうにないわ…』と言い、ランタンを渡して座り込んだ。


俺達3人は爺さんの家の倉庫にあったスコップを借り、少しでも柔らかそうな土を見つけ、昔タイムカプセルを埋めた時の様に必死で掘り出した。


50センチくらい堀り、ビーハイブの入った箱をその穴に入れ、塩をまき、ガソリンを箱にかけて、火のついたマッチを放り投げた。


この後俺達は爺さんの綺麗な部屋にもどりビーハイブの事は話題にせず4人綺麗に並んで眠りについた。


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