『時忘れの洞窟』
すっかり暗くなった外に戸惑いながらもキョロキョロとあたりを見回しながら、歩き、爺さんの家であるボロ小屋に着いた。
ちょっとここで待っとれい。と言われそのまま例の石の前で俺達は爺さんを見送り、再び戻ってくるのを待っていた。
『どぉ思うよ…』
『どぉってお前…時忘れの洞窟とかありえねぇだろ、非現実的すぎるし科学的にもおかしい…俺の尊敬するアルベルト・アインシュタインさんの相対性理論だろ。爺さんの話に夢中になってただけや…』
五右衛門の問いに俺も率直な感想を述べた。
『せやな、ホンマに時間を忘れてワイらも気がつかへんうちに爺さんの話に夢中になっとっただけかもしれへんな…』
『うむ、それしか考えられんだろう…あの謎めいた洞窟に入ったら勝手に時間が早送りされるなんてどぉ考えてもおかしいだろ…』
と俺達は戸惑いながらも【夢中になっていただけ…】と言い聞かせそれで納得しようとしていた。
『小僧、残念じゃがそれは違うぞ…ワシも昔はそぉ思ったんじゃがな…』と言いながらランタンを片手に爺さんが戻ってきた。
ガチっと音をたてポワっと俺達の周りを優しい光が包んでくれた。
虫達がワサワサとランタンの光目掛けて集まってきて、大きな蛾を一匹捕まえてむしゃくしゃと美味しそうに食う爺さんを見て、ゾクゾクゾクっと3人とも震え上がった。
『おぉ、すまんすまん。あまり見慣れぬ光景で気持ち悪いって思うのも無理わないな。忝い(かたじけない)…』爺さんは手についた蛾のりんぷんをズボンでパッパとはらって、軽く頭を下げた。
『爺さん…唇に蛾の触角がついてるぞ…』っと五右衛門が言うと、『おっと、これまた失敬♪』と舌でペロリと当たり前の様にさらってご馳走様でした。とゲップした。
『それはそうと、小僧達はまだあの時忘れの洞窟を信じてないようじゃな。時忘れの洞窟と言うのはワシがネーミングしただけで実際は只の洞窟じゃ。あの洞窟はな、死者の魂が通常には考えられないほど集まっておっての…樹海で自殺した寂しい死者が集う洞窟なんじゃ。』
怖い事と坦々と当たり前の様に言ってのける爺さんに俺達はいつになく真剣な表情で話しを聞いた。
『ワシがさっきまでおった、場所はその中でも霊が大量に集まる場所でな、気づいてたかもしれんが、あそこには壁に小さい穴が開いておってな質量の無い霊達にとってはあそこが交差点の中央みたいなもんなんじゃよ。』
そんな事言われても…穴にも気がつかなかったし、今ままでそんな不気味なとこに居たと思うと恐怖で気絶してしまいそうになった。
そんな俺達を無視し、爺さんは話を続けた。
『あそこの場所は時空間が歪むんじゃ、何年も前に死んだ人の霊、最近死んだ人の、色々な種類の霊達があそこをに集まるもんだから恐らく、時間が狂ったんじゃろうな。まぁ現実的に考えてありえない事じゃからのぉ。言葉では説明できん、小僧らを納得させるには体験させるのが一番じゃろ。』
そりゃそうだ。そんな事を言われても、まず信じるはずがない。現に体験した俺達でも俄かには信じがたい内容だった。
『せやかて、爺さんはなして時間が歪んだって思うん!?ワイ達が言ってるみたいに単純に時間を忘れて夢中になってただけかもしれへんで!?』
『うむ…そうじゃなぁ。』と言い爺さんはランタンと一緒に持ってきた本を俺達の前にバサッっとだした。
光が最初に見つけたエロ本だった。
『これじゃ。コレには生が無い。夢中もクソもないじゃろ。ワシだってな、実体験をどんだけ繰り返しても信じれんかったんじゃ。ある日、ワシはあそこで1日過したらどぉなるんだ!?と言う疑問きかられてな…愛読していた本を持って24時間こもったんじゃよ。』
このあとは何となく爺さんの言わんとす事が分かった気がした。
『先週買った本が未来の日付に…いや、未来の本に変わったんじゃ。流石にワシもたまげたよ。我が家に帰って、その本を読もうと思って家に帰ってみたんじゃ。すると一日しか経ってないのに家は崩壊状態、バリバリに割れた鏡に写る自分をみて開いた口がふさがらんかったよ…髭は伸び、ちゃんと白髪染めで黒くしていた髪の毛も真っ白になっておってな…流石にどぉしたものかと2〜3日ほど寝込んだわい。』
それだけ言うと爺さんは黙り俯いてしまった。俺達も爺さん同様しばし沈黙し、自分達の体は大丈夫だろうか…とキョロキョロと体中を見回した。
『心配せんでええ…小僧らがはいってたのは20分〜30分じゃぁあそこの時間にしても精々半日ってとこじゃ。1時間以上あの中に居ると丸一日寝てないと言う、疲労が後々襲ってくるがな…まぁ問題ないわい。』
『それにしても何で霊が溜まると時間が狂うの!?呪われたりだとか、そぉ言うのならまだ納得もできるんだけど…』
『せやな、時空間を歪めるなんて話聞いたこともないで…』
『うむ、そもそも何であそこに霊が溜まってるって爺さんは分かったんだ!?』
これこれ、ワシは聖徳太子じゃないんじゃ、質問は一人づつにしてくれ。と言うと、最初に発言した俺の質問から答えてくれた。
『まず、何故呪ったり襲ったりじゃなく、時間が歪むのか…小僧名前は!?』
『あ…優馬っす。高橋優馬。』
『優馬、呪うだの襲うだのそのような霊に対しての印象は何処から来たんじゃ??実体験ではなかろう…』
『まぁ…実体験ではないっすけど、TVやネットとかではそぉゆう事を良く聞くから…ってか悪いイメージしか伝わってこないから…』
『ふむ。まぁ人間と同じで霊にも色々、十人十色じゃなく十霊十色っていうのかの。大きく分けると良い霊、悪い霊の二つにわかれるんじゃ。おぬしはもし幽霊に出くわしたらどぉ思う!?』
え!?と少し戸惑ったが、正直に怖い…恐怖を感じる…と答えた。
『じゃろ。それが悪いイメージを拡大的にしてるんじゃ。』
『は!?どういうことなん!?』
爺さんはふぅ…と大きくため息をはき、説明してくれた。
『小僧例えばな、このまま進むと土砂崩れにあって地面が崩壊する…そんな道を走っていたとしよう。おぬしは土砂崩れが起こるなぞ、考えてもいないからそこを走っとるんじゃをな??』
『まぁそぉですね。』
『そこに幽霊が現れたらどぉする!?勿論、恐怖に駆られて逃げ出すじゃろ!?お主は幽霊がでて怖かった…でも実際はそれで土砂崩れからは助けられた…幽霊によって命を救われた…』
『なるほど…でも…それが本当に助けられたか何てわからないっすよね??』
『そうじゃな。だから考え方次第なんじゃ。世間の幽霊のイメージが凄い良い存在だったら幽霊を見れただけで幸せな気分になる…固定概念によって悪い印象しかないんじゃ…』
なるほど…と何となく納得できた。爺さんはそれでな…と話を続けた。
『それでな、ココからはそこの小僧の質問にも答えることになる。』
良く聞いておくんじゃよ。と爺さんは光を指差し、光は『はい。』と頷いた。
『結論から言おう。あそこに居る霊は悪い霊じゃ。と言うより寂しい霊の集まりなんじゃ。呪ったり、襲ったり、一瞬にして害を及ぼす事はせんがな。時間を歪める…っと言うのは、わしらの命を吸っとるちゅぅことなんじゃ。』
『幽霊は幽霊同士がお互い見えるわけじゃない。幽霊になっても見えるのは生きている人間だけでな。死んだからって死んだ人が見えるわけじゃないんじゃ。故に孤独。足もなく、体力もない幽霊は移動が殆ど不可能なんじゃ。だから一箇所にとどまるんじゃ。動けない…そして孤独。そんなところに人間が来る。』
『少しでも早く自分達と同じ世界に来て欲しいと思い、わしらの命を吸うんじゃ。だから小僧らが言うように呪い…と言っても間違いではないかもな。』
と爺さんは坦々と語ってくれた。爺さんはちょっと失礼、と言い水筒のようなものに入った。水をがばがばと飲み、俺達にも飲むか!?と進めてきた。
喉がからからで是非頂きたい。と思ったが、蛾をむしゃくしゃとうまそうに食っていた爺さんの水だ…飲みたいのを我慢して丁重にお断り申し上げた。