『球技大会!!(中)』
一歩でてまず思ったのは…涼しい!!
炎天下の下で、太陽の日は朝より増していたが、サウナ状態の体育館の中に居た俺達にとっては外はまるで別世界。エアコンでも効いているのではないかと思った。それも長くは続かず5分間外に居ただけで体育館のが涼しかったのでは??と思えるくらい直射日光によって俺達の体は焼き尽くされた。
午前中の試合も全部終わったので、皆でカオリンの様子を見に本部へ行った。
『あのぉ。内藤薫と言う生徒が足を怪我して来たと思うんですけど何処に居るかしりませんか??』
キキが冷静かつ丁寧に保健室のおばちゃんにカオリンの事を聞いた。
『えぇ。内藤さんね。斉藤先生と一緒に来たんだけど、どうも靭帯を痛めたみたいでね…軽くみても捻挫、酷いと靭帯損傷か骨折してるわね。うちではそこまで酷い怪我は担当外だからさっき斉藤先生の車で病院に行ったわよ。』
軽くて捻挫???…思っていたより事態は酷いみたいだ…
『そうですか…分かりました。失礼します。』
『あなた達も怪我には気をつけてね。』
俺達は軽く会釈し、本部を離れた…人気の無い木陰に座り、何となく空をぼーっと見ていた。
本当なら6人でクラス代表になった事を祝って生温い水で乾杯をしてただろう…
最初に口を開いたのは五右衛門だった。
『カオリンに電話して容態きいてみたら!?何かこんな状態だと落ち着かんしさ』
『そぉだな…』と俺は携帯を取り出し…電話してみた。意外にもカオリンにだけはタイムカプセル事件以来の電話である。
トゥルルルル…トゥルルルル…
『はい。内藤薫の携帯です。』
出たのはカオリンじゃなくて斉藤だった。
『あ…高橋っすけど、薫の状態はどぉなんすか!?』
『おぉ。高橋か。安心しろ、捻挫だ!捻挫!それも結構軽い捻挫らしい。1週間もかからず元通りだそうだ回復が早く安静にしてれば2〜3日で普通に歩けるって医者は言ってたぞ!!あと薫が足引っ張ってごめん…って伝えてくれってさ…』
『そっすか…こっちも薫に班員からのメッセージあるんすけど伝言頼んで良いすか!?』
『おゥ!何でも言え。』
『ぜってぇ優勝するから安心しろ!!!と伝えてください。』
『…分かった。必ず伝える。お前らも怪我すんなよ!』
『あぃ、じゃぁまた。』
電話を切り、皆に薫の容態と伝言を伝えた。保健室のおばちゃんが言ってた最悪の結果ではなかったので皆、安堵の笑みを浮かべた。
あとは優勝して、優勝メダルを貰うだけ!一人少なくても問題ない!一人一人が1.2倍の動きでカバーすれば良いだけの事!!
さっきまで殺伐としていた空気がしだいに無くなり、いつも通りの俺達の会話に戻っていた。
『ピーガガガ、えー午前の試合が全て終了し、決勝トーナメント進出チームが決まりました。まず一年生から発表します…』
と1年、2年と発表され、いよいよ俺達の対戦相手となる、3年の発表だ。
『続きまして三年生、3年1組…3班、3年2組…1班、3年3組…6班、3年4組…7班、3年5組…1班、3年6組…3班以上で決勝トーナメント進出チームの発表を終わります。各々の学年に共通するお知らせをします。初戦の対戦相手は1組vs2組vs3組,4組vs5組vs6組でスタートします。まずこの3クラスの代表達で総当り戦をし、勝ち上がった2クラスで決勝。グループの2位どうしで3位決定戦をしてもらいます。以上で午前の試合と、午後の試合のお知らせを終わります。各自,
昼食にしてください。』
今日は昼飯も班員で食う事にした。地べたにすわり、光が小さい石と使って色々な作戦を話し出した。
5人という大きな問題をどぉ乗り越えるか…結局大きな作戦は午前中と変わらず、試合中に光が色々指示を出すらしい。
あっという間に昼休みも終わり、午後の試合が開始されようとしていた。
『ピーガガピ…午後の試合を開始したいと思います。各クラスの代表チームは運動場に集合してください。なお一年生の午後の試合は体育館で行われます。一年生の方々は体育館に集合してください。2年生は運動所の北側、3年生は南側にて試合を行います。それでは午後も怪我には気をつけて楽しみましょう。以上でお知らせを終わります。』
俺達3年は運動場の南側…プール側のコートを2つ使っての試合となるらしい。コートの周りに人だかりが出来ていたので俺たちもコート付近に移動した。
『三年生の各クラス代表チームは揃っていますか!?それぞれの班の班長さんはこちらまで来てください!!』
キキが俺達の代表で行き、他にも何人か班長が集まっていた。
『あと一人ぃ…来てないのは5組の1班!!班長の方は速やかに集合してください。』
最後の班長が慌てて参上し、班長にルールの確認と、総当りの対戦表が渡された。
キキが戻り、対戦表を見てみると俺達は初戦と最後の二つだった。
4組vs5組
5組vs6組
6組vs4組
またしても連戦回避。
『なんかね、追加ルールで時間制限がついたみたい。』
『時間制限!?何秒以内に相手コートにボールを返さないといけないとか??』
『全体の時間。一試合15分だってさ。でも15分以内に25点とったら5分しかたってなくても試合は終了。』
『なぁんだ。それだけ!?』
『うん!絶対勝とうね!!』
全員で円陣を組んで…おう!!と気合を入れた。開始まで10分を切った。さっきまでは敵だったクラスの連中が俺らのコートの周りに座り、応援体制になっていた。
中でも俺らと仲の良い奴らは直接、声をかけてくれた。…負けんなよ!!…
『はよぉやりたいのぉ!!10分がまちどぉしぃわ!!』
『もぉすっかり疲れもふっとんだしな!今は血が騒ぐって言うか体が動きたがってるって言うか…』
『まぁ1敗すら許されて無いからな!!気ぃぬかず頑張ろうぜ!!』
五右衛門が言い終わると審判がピーと集合の笛をならした。
『4組の代表と5組の代表はコートの後ろにならんでください。』
両チームの整列を確認すると、試合開始の合図がでた。俺達は全員前にでて、相手チームと握手し、コイントスで最初のサーブ権を決め、ポジションに着いた。
最初にサーブ権を手に入れたのは相手チームだった。ボールをポン軽くはたき、確実性のあるサーブを打ってきた。威力は無いがミスも無い。
ボールは俺の方に来た。
ドクドクドク…何だか異常に緊張する…ボールが凄く遅く感じる…立ち眩みしそうな緊張感…ミスはダメ…
『優馬ァ!!!!』
ビク!!光の声で我に返ってからはボールのスピードも普段の速さになり、張り詰めていた緊張からも何とか脱出できた。
『OK!!』
普段通り。特別に緊張する事もなく普段通りやるのがベスト。そぉ自分に言い聞かせ、オーバーハンドで光にパスした。
『ナイスナイス!!キキいくで!!!』
五右衛門へのトスだ!!
『OK!』とキキは返事し五右衛門をちらっと見た。五右衛門は軽く頷き、光からトスが出された瞬間二人とも飛び上がった。
パンッ!!
五右衛門のスパイクが綺麗に決まり、先制点に場内、場外共に歓喜の声を上げた。
『二人ともえぇ感じやったで!!』
『お前のトスもナイスやったわ!!』
サーブ権の移動でローテーションし、サーバーは羽樹。光も流石にまだ誰が穴とかは良く分からずとりあえずバック側を狙えとだけ指示がでた。
羽樹はポーンとボールを少し手前に投げ、1,2歩、走ってスパイクサーブ!!
パァン!!と大きい音が鳴り、相手コートのバックラインギリギリにストレートに決まった。
場外は大歓声!!午前中の羽樹のサーブはアンダーサーブでポーンと打ち上げるのばかりだった。
ゆえに場内は…皆が羽樹をみて【エェェェェェェェッェェ!!!?】である。俺や五右衛門は当然、この中の誰よりも上手かった。
羽樹は可愛くピースし、ウィンクした。鬼に金棒、羽樹にバレーボール…
『羽樹には指示は不要やったのぉ』と光も笑い。また一歩優勝の二文字が近づいた気がした。
立て続けに3本。相手に触らせることなく羽樹のサーブは終了。
4vs0
サーブ権は五右衛門に渡った。
五右衛門はコントロール重視のフローターサーブ。当然相手も楽々つないでくる。綺麗に回しスパイク!!
光が飛び込み、それをキキが上げて俺のアタックでまたまたプラス1点。
5vs0
正直言って一番最初に戦った岡田たちのチームのが強いくらいだった。このチームが相手なら負ける気がしなかった。
あっという間に15分がたち、【17vs2】…コールド勝ちには至らなかったが楽勝だった。
勝利と言う刺激によって細胞膜のイオン透過性が変化することによって、電位差が生じ、活動電位が発生し興奮状態になる。普段なら絶対ありえないがこうゆう時は、男女関係なく抱き合い喜びを分かち合う!!この時自分だけ冷静でいられたらどれだけ幸せか…あ…それだと自分だけ性的興奮に陥り…下半身がとんでもない事になってしまうか…まぁ何がともあれ、まず一勝して一笑!!
5組対6組の試合の他人事の様に観察していた…しかし、最初の5分くらいで他人事に思えなくなった。
確かに5組の代表は強くは無かった、それに2試合連続で疲れも残っているとおもう、けど…何だ!?彼らは何をしてるんだ!?…試合開始から12分…試合終了。25vs4。流石にクラス代表になってくるだけあって弱くは無い…5組はたまたまだ…。ココからが真剣勝負なんだと班員で円陣を組んで気合を入れなおした。
『それでは4組vs6組の試合を始めたいと思います。選手の人はコートのバックラインに整列してください。』
とうとう決勝を賭けた試合が始まろうとしている。緊張で手は汗でベタベタ、今になってカオリンに約束した【絶対に優勝する】と言う言葉が重荷になってプレッシャーを感じる。
『優馬!いつもどぉりでええんやで!勝てる勝てる!さっきの試合の疲れもあるやろーしな!』
『おう!頑張るしかないな!!』
…光、サンキューな!…ここでもまた光に救われた。精神的苦痛になる緊張やプレッシャーは光との会話で結構吹き飛んだ。
開始の挨拶をして、コイントスでサーブ権を決めた。今度はこっちがサーブ権を先取。サーバーは光からだ。
『よっしゃ!まず一本とっとくでぇ!!』
こいつには緊張ってものが無いのか!?と俺は軽く尊敬した。
公約通り先制点を取るため光は全力でジャンプサーブした。ボールは敵の居ない所に一直線に進んだ…先制点GET!!
と誰もが思ったが、相手の一人がダイブし俺達の先制点を阻止した。威力もコースも申し分ないだけに、相手が取ったボールはシャボン玉の様に力が無く、ヒョロヒョロと舞い上がった。同時に相手の応援団からの歓声も大きくなった。相手のセッターが打ちにくい場所からでも綺麗にトスをあげ、最後はスパイクで終わる形まで持ち直した。
一方こっちは相手が光のサーブをとったのを確認し、皆が防御の体制に入った。俺にいたっては…ミスれ!!と神頼みまでしてしまった。
相手のセッターがトスを上げるとキキと羽樹はブロックの位置に移動し、相手のスパイクは思ったよりもするどくキキと羽樹の壁をすり抜けてしまったが、コースは絞れた。ナイスや!!と光が叫んで、すり抜けたボールに飛び込んで相手の3段攻撃にも何とか対応が出来た。
光が取ったボールは俺の真上に上がり俺は羽樹にトスを出すために叫んだ。
『キキ行くぞ!!』
光意外がこの作戦を使うのは初めてでキキは一瞬どっちか戸惑い、俺の目を見た。
キキの視線を感じ、俺はチラっと羽樹に視線を流した。キキはそれで理解した。『OK!!』キキから声が上がった。
俺の出したトスをキキはわざと空振り、敵の意表をついて羽樹がバシッと決めた。
1vs0…何とか先制点をものに出来た。
『羽樹ちゃんナイス!!優馬ナイスアシスト!!』
と場外からの歓声で俺は震え上がった。心のそこから【やった!!】って思った。でも、本当に紙一重だった。
今の1ポイント相手が取っていてもおかしくない展開だった。先制はしたが、油断はまだまだ出来ないと思った。
試合は先ほどと同様、光のサーブ権。もぉ危ない賭けはやめたのか鋭いサーブではなく的確に相手の陣地に入れるよう、軽く打った。
当然相手も楽に取り、敵の猛攻に耐えれるように皆で構えた。相手も綺麗に回し、鋭いスパイクを打ってきた。
バシ!!!と同時に俺の腕にあたった。…ェ?全く見えなかった…腕に残る強烈な痛みを振り払い試合に集中するため、腕に当たった後のボールを探した。
再びバシ!!!と大きな音が聞こえた時にはもぉ遅かった。
何が何だか分からぬまま点が取られてしまった。
『ドンマイドンマイ!!今のはしゃぁない!!』
と光の声が聞こえた。光に…どぉなったん?…と軽く今の状況を聞いた。
俺の腕に当たったボールは高々と空に上がり、相手のコート側に戻ってしまったらしい。それを綺麗に相手が合わせてアタックし、今に至るというわけだ。…完全に狙われた。いや、狙われてる??今後も??…
サーブ権の移動で相手のサーブとなった。現在試合は1vs1。
相手もサーブは鋭くなかった。綺麗な弧を描いて俺達のコート…俺の所に来た。
俺はいつもの【初手は光へ!】の作戦どぉり、光にボールをまわした。
ミステイク!!!!
あの作戦は光がフロント側…つまりネット側に居る時に行うものだった。
…しまった!!!!!…
班員からの視線が痛い…皆が『え?なにやってんの??』そぉ言っている気がする。目のやり場を無くした俺は思わず目を閉じてしまった。
まさか目を閉じているとは思っていない光は事もあろうことか、ボールをリターンして俺に返してきた。
『おぃ!!!!!優馬!!!!』
『え????』
…もぉ最悪…
五右衛門の大声で我に帰った俺の目の前にはボールが転がっていた。
光は審判に目にすなが入ったからちょっと待ってくれと嘘を良い、1分だけ時間を稼いぎ皆を集めた。