『カオリンからカオリへ♪♪♪』
月から目を離し、大きな空をぐるりと一周見回した。
星の数に目がくらみそうだった。
パサパサパサっと一羽の鳥が横にある森から飛び出てきて、温泉をチュポチュポと突付いて顔を突っ込んでいた。
少しするともぉ一羽やってきた。さっきのより一回りくらいデカイ…
少し怖いな…って気持ちもあったけど何故か動けなかった。
2羽は寄り添うように並んで、一緒に顔を突っ込んではブルブルと振るえ、何事も無かったかのように一緒に夜空に飛び立った。
…こんな偽りの自分で良いのかな…と思うと涙がポタポタと落ち、音も無く温泉に吸収されていった。
一番最初に恋したあたしが、いまだ全然発展なし、それに比べてキキチャンや、羽チャンは…と思うとますます泣けてきた。
少ししたら、男子に対して苛立ちが湧き上がってきた。
『もぉ!!!大体さ!!活発な羽チャンとキキチャンと一緒に天然のおとなしいあたしが一緒に居るわけ無いじゃん!!!共通点全く無いし、その辺を不思議に思って少しは感づいてよ!!!鈍感すぎて嫌になる!!!それに!!』
それに!!それに!!と天然キャラを演じてきた今までのストレスが一気に噴出し、あたしの頭で愚痴の温泉が出来上がった。
『カオリン…』と言う声にドキッと首がつりそうなくらいの速さで振り向いた。
キキチャンと羽チャンか…ほっとすると力が抜けた。
『もぉ!!びっくりしたやん!!』とまだ残っていたストレスを二人にぶつけた。
ぶつけてる間、二人が何も反撃をしてこず、うんうん…と全部聞いてくれた事に今度は悲しみが溢れ出して来た。
『もぉやだ…あたし、五右衛門諦める…このままじゃ自分がおかしくなっちゃいそう…』
結局この5ヶ月片思いを続けて何も出来なかったな…
やったと言えば自分を偽った事くらい…
『もぉ諦めるならさ、本当のカオリを見せてみたら???』と羽チャンが言うと、キキチャンも『それが良い!!』と決定事項の様にあたしの意見は無視で話を進めだした。
話し方がぎこちない…何か怪しい…そんな雰囲気が漂っていた。女のカンって奴かな。
墓穴を掘ったな!!
二人の会話で『もしかしたら五右衛門の好みは元気な子だったのかもしれないし!!』と言う羽チャンの言葉があたしの耳でリーピートされた。
あのさ…と二人の会話を強引に割った。
『一つ聞いて良いかな???キキさん、羽さん』『羽さんって…』
『正直に答えてね。あなた達のためにも…』あたしの言葉に二人ともドキッとした表情を見せた。
『五右衛門のタイプってどぉゆう子だっけ???』
『可愛らしい…子…』
『ホントに??』
『うん…』
『ホントに??ホントに??』
『うん…』
『ホントに??ホントに??ホントに??』
『……ううん…』
『実は…あの時、すっかり五右衛門のタイプの人を聞くのを忘れてて…それで…男子に一番人気ありそうな…その…』
ごめん!!!っと二人が、お湯すれすれまで頭を下げて、謝った。
はぁ…やっぱり…
このまま沈めてやろうかと思ったけど、気がつかなかったあたしも悪いし、それに自分の好きな相手を友達に調べさせたのも悪い…
と自分でも少し反省し、聞こえないくらい小さい声で『ごめんね…』とあたしも謝った。
下げっぱなしの二人の頭を『えい!!』っと押し、二人はひっくり返った。
『アハハハハ!!これでいいよ♪』っとニッコリ笑って許してあげた。
もし天然キャラだったせいで五右衛門に嫌われてたりでもしたら…こんなもんじゃすまなかったけどね♪と付け加え、二人をギロリと久しぶりに目を細めにらめつけた。
『カオリ…だ…』
羽チャンの声であたしは心に引っかかっていた大きな塊がシューっと除呪されるようにすっきりした気分になった。
『ふにゅ…なんだか疲れた…』
露天風呂から上がり、室内のお風呂にも入る事無く脱衣所に向かった。
時計を見ると3時を回っていた…
『3時間以上入ってたなんて…』
『ホントだ…』
ドライヤーで頭を乾かし終わった頃には3時半を回っていた。
体脂肪計付きの体重計があったので、久しぶりに体重を量ってみた。
『42,1キロか…』
今日めっちゃ疲れたのにあんまり体重は減ってないな…それに何だかフルマラソンの距離みたい…
羽チャンが乗ると44.3キロ…とでて、ニヤリと微笑むと、羽チャンは自分の胸を指差し、勝利の笑みを浮かべていた。
逃げるようにその場を立ち去り、100円で牛乳を購入し、グビグビと飲み干した。
『げ…』
すっかり忘れていた…服がベタベタ…それに凄い臭い…ロッカーのドアを開けたとたん凄い異臭がモアモアと漂い、塩と泥まみれの服を親指と人差し指でつまみ、羽チャン達に見せた…
『う…そぉ言えば、着替えマスターの車の中だよね…』
『はぁ…』とため息をはいて、渋々気持ち悪い服を着ることにした。
汗で湿った服の袖を通すと、鳥肌が体中に出来、ぞっとした。
三人とも、気持ち悪い服を着終わって、脱衣所を出た。
『あれ??何これ…うちらの名前が書いてある』
【女湯には入れないので入り口に置いておく。気がついたら着替えてその部屋で休むと良い。マスター】
浴衣と810号と書かれた鍵が置いてあった。
アハハハハ…ハァ…と空笑いからため息へと変わり、再び体を洗いにお風呂に入り、810号室に付いたのは4時を回っていた。
あたし達は明かりをつける事無く、倒れ込むように眠った。
【今日は本当に御疲れ様…バイバイ、カオリン♪】