『カオリからカオリンへ♪』
うぅぅぅ。上せちゃいそう…。
あたしってそんなに、長風呂するタイプじゃないんだよね…
キキちゃんも羽ちゃんも長すぎるよ…
ボコボコと酸素がマグマのようにあわ立てているジャグジーバスに3人で入っていたけど、キキちゃんと、羽ちゃんの長話&長風呂に着いていけなくなり、あたしは再び露天風呂に行った。
【もぉ!!!あの二人長い!!!一人ででちゃおっかな!!】
ヒューっと夏なのに冷たい風が抜け、ブルブルっと強制的に体を振るわされた。
【さ…さむい…】
ガラガラっと中に戻ろうとすると、キキチャンたちの主婦顔負けのスペシャルトークが耳に入り、仕切りをまたぐ事無くドアをしめた。
仕方なく、露天風呂につかった。チラッと手を見てみると、シワシワになり、ふやけていた。
『五右衛門、光、優馬〜誰かいる??』…当然の様に返事は無かった…ってあたし何言ってんだろ!!っと少し頬を赤く染めた。
【はぁ…暇暇…】
空を見上げると沢山の星達が輝いていて、ほえぇっと遠い過去の記憶がよみがえってきた。
キーンコーンカーンコーン…
『カオリ!!今日部活はどぉする!?』
『あーあたしはパスパス、ってかメンドクサイしもぉ行かない〜ってかあの先生うざいんだよね…キモイし臭いし…2年間我慢したけど、3年からは部活行かない!!』
そう…実はあたしはつい最近まで、こんなブリブリの可愛いかおりちゃんではなかった。
高校2年も終わり、留年する事もなく、3年に上がれたあたしは、またまたキキちゃんと羽ちゃんと同じクラスで、少しほっとした。
『また一緒のクラスだね!!』と羽チャンの言葉に皆で素直に喜んだ。
3年4組…か…男子の列をズラーっとざっと目を通した所、2年の時にあたしに付きまとってきた男子がいないことにさらにほっとした。
あたしは入学式の日に目立つように遅れてきた、田中洋介こと、五右衛門に一目ぼれしてしまったのだ…彼に続くように優馬と光も遅刻し、教室に入ってきたけど、あたしの目には五右衛門しか映っていなかった。
ポト…とくわえていたオレンジ色のペンが床に落ち、八ッと我に返った。
え!?まさかね…ほんの30分前まで男何てクソ食らえ!!って思ってたあたしが、今日始めて会った子に恋を…??
ないないないない…っとセットした髪の毛がバサバサになるくらい頭を振り、深呼吸し、高まる心拍数を抑えた。
3人は遅れてきたこともあり、あたしより黒板に近い前の方の席に座った。
惚れてなんか無い!!…惚れてなんか無い!!…惚れてなんか無い!!
何度も頭では、否定したが、あたしの視線は気がつくと彼をロックオンしていた。
『田中君と知り合い??』と後ろに座っていたキキちゃんから小声で話しかけられた時は心臓が破裂してしまうのでは無いかと思うほどの心音が体中を駆け巡った。
ドクンッ!!ドクンッ!!ドクンッ!!ドクンッ!!
『違う違う違う違う違う違う!!』っと人生でこれ以上に無いくらい赤面していたあたしを見て、キキちゃんは目を細めてニヤニヤと笑い出した。
惚れてんだ!!…の言葉を第三者から聞かされ、あたしの魂はどこへやらと…意識が朦朧とし始めた…やっぱり、あたし、惚れてる??
今まで異性を好きになった事が無かったあたしは、高鳴る鼓動を直ぐには恋をしているんだと自覚する事が出来なかった。
ツンツンっとッ突っついてくるキキちゃんに、いつも通り反撃する事が出来ず、あたしは土偶の様に固まった。
キーンコーンカーンコーン…と、鐘が鳴ると同時に、土偶の化した体を元に戻し、キキチャンと羽チャンの腕を引っ張り、渡り廊下まで有無言わさず移動した。
『ハァ…ハァ…ちょ…ちょっとカオリ??…どぉしたの???』
何も知らない羽チャンは驚き、少しごめんなさいって気持ちだった。にも関わらず『もぉ何も言わずに聞いて!!!』とあたしは強引に話し出した。
『あたし…恋しました…』
『え!?!?!?!?』と頗る驚く羽チャンと『やっぱり!!』と改めて納得するキキチャンに細かく説明した。
っと言っても【一目ぼれしちゃった…】で全て終わりなんだけどね…
『と言う訳で…彼の情報色々教えて!!』っと少しだけ頬を赤くし、隠すように頭を下げてお願いした。
『えーどぉしよっかなぁ♪』と羽チャンもキキチャンもからかってきたから、ついつい、キレそうになった。
…略…
ココであたしが言った言葉を書き記しちゃうと印象が酷く崩れちゃうのご想像にお任せします♪
…略…
『冗談じゃん!!冗談!!勿論協力するよ!!』っと二人とも快く引き受けてくれてほっとした。
入学式も終わり、休み時間になり、二人から彼の情報を色々と貰った。
『田中君って高橋君と土屋君とすっごい仲良いらしいよ!!』
『田中君って頭は良くないけど、運動神経はめっちゃ良いってさ!!』
『田中君って意外とモテテるみたいだよ、うちは全然タイプじゃなかったから少し驚き。』
『田中君って…』
最後にキキチャンから放たれた言葉にあたしは絶望を感じた…最初の恋…実らない…恋だった…と涙腺を刺激し、涙が滝の様に流れ落ちた。
『ちょっとカオリ!!大丈夫??』…大丈夫ではあるはずが無い…だって、今日芽を出したあたしの片思いが、ものの1時間で踏み潰されたのだから…
『カオリだって、女の子らしいとこいっぱいあるじゃん!!』…そう。最後にキキチャンが言った言葉は…田中君って女の子らしい可愛らしい子がタイプみたい…これだ。
あたしは、自分で言うとさらに性格が悪いと叩かれるかもしれないけど…ルックスはそれなりに良いほうだと、自分でも感じている。
現に高2の時には、色々な男から告白された。
でも…可愛らしさ…女の子っぽさ…ってのはあたしにはまるで無い…見た目は美人でも性格美人とは無縁だった…
人生初の恋をした相手がよりによって性格美人…女の子がタイプだと聞かされた…
溢れ出す涙を自力で止めようとせず、いっそこのまま、脱水で死んでしまえば良いとおもった。
泣きすぎで脱水で死ぬなんて阿呆の考える事…なんてことはあたしが一番理解していた。
恋が実らず泣いている子達の気持ちが今までは全く分からなかった…けど今なら痛いほど分かる気がした。
潤んだ瞳に眩しい太陽が中庭で座り込むあたしを見つめていた。
『変われば良いじゃん!!♪』…何を無責任な…人事だと思って!!この恩知らず!!!馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!とついには励ましてくれる羽チャン達にも八つ当たりした。
『そこを直すんでしょ!!あんたのが馬鹿だよ!!』とキキチャンから片思いが崩壊したての女の子には痛すぎる厳しい言葉が飛んできた。
『うちらも協力するからさ!!』と今度は、優しい言葉飛んできて、思わず、抱き付き枯れかけた涙をまた噴水の様に噴出して号泣し、
変われるかな???…変われるかな???…と泣きじゃくった。
何の迷いも無く『大丈夫!!♪』と言ってくれる二人に背中を押され、あたしは恋して女らしく変わるんだ!!と決意した。