『廃墟★五右衛門,薫』
やっとの想いで光達の待つ、ロープのくくりつけた大樹まで辿りついたが、一枚の紙だけが残っており、そこには光達の姿は無かった。
紙の内容を理解し、五右衛門と薫は光達を探すため、再びロープを辿って樹海の中へと進んでいった。
むむ…
俺が、この道はさっきとは違う道だと分かったのは、自殺防止の呼びかけの手紙がいくら進んでも落ちてなかった事で気がついた。
WHY…
ロープは横にある…けどさっきまで俺達が通っていた道ではない…
夏の生ぬるい風が汗だくの髪の毛を駆け抜けると、同時にもの凄い恐怖と不安が湧き上がってきた。
背中で幸せそうに眠るカオリンを起こして、話をしたい気分だった。
一人でこんな道を進んでいたら頭がおかしくなってしまいそうだったからだ。
けど…スースーと寝息を立てて眠るカオリンを俺は起こす事が出来なかった。
話し相手が欲しい…一人では不安で怖い…
でも…カオリンは幸せな気分に浸っている、そんなカオリンも俺と同じ死地に戻すなんてあまりにも可哀相だ。
クソォ…
込上げてくる涙を拭う事無く、俺はひたすら前進するしかなかった。
ロープの1メートル先は闇に飲まれ、確認する事が出来ない。足元と前方には十分に注意を払って進んでいると、気のせいだろうか…やけに虫の死骸が目立つようになってきた。
5センチくらいあるだろうと思われるデカイ蜘蛛…
15センチくらいの蛾…
コガネムシ、蝉、カブトムシ…多数の昆虫達の死骸が俺を案内している感じにも思えた。
『ご…ごめんなさい…寝ちゃってた…』と起きたカオリンの言葉にもビクっと体は反応した。
『お…おう!!ゆっくり寝てて良いんだぞ!!』と起きてくれてありがとうと思いながらも強がってしまう自分が居た。
『ぅぅん。大丈夫、あたしも歩くからおろして♪』と、しゃがみこみゆっくりとカオリンを地面に下ろした。
ギャァっと虫の死骸を見てカオリンは俺に飛びついてきた。…ウォ!!!
さ…最悪だ…
カオリンが飛びついた衝撃で、しゃがんでいた体勢から、背中をボンと押されたような感じになり、両手を地面に思いっきりたたきつけるように…
右手で、蝉を…左手でモスラ級の蛾を…見事にプレスしたのだ。
ごめん、大丈夫…と言ったカオリンの言葉にも怒りを感じるほどに…死ぬほど恐ろしい体験だった…
寒気と共に、狂った獣の様に鳥肌が立った。
綺麗とはとても言えない土で手を洗い、何とかあのグチョっとした感じは御払いできた。
『あれ??ココって前と全然違う道じゃない??』
『うん。俺もよく分からんのだけど、明らかに別の場所だと思う。』
怖くなったのか、カオリンは俺の手をギュッっと握って、少し幸せに思いながらも、こんな汚い手を握らせてて良いのだろうか…左手は…モスラ…
俺は、罪悪感を感じながらも、カオリンの右手を離さなかった。
死骸とロープを辿って、進んでいると、大きな壁にぶち当たった。
なにこれぇ…とカオリンの言葉に、俺もなんだこれ…と目を見開いた。
壊れた家???…でも流石に誰も住んでいる気配は感じられなかった。
入ってみるかと、カオリンの手を引いたが、胸を打ちぬかれるような可愛い上目遣いで『こわぃ…』と言われ、取り合えず入るのをやめた。
じゃぁまず家の周りから調べてみよっか。と提案し、家の周囲を調べる事にした。
玄関へと続く階段は酷いありさまで、死骸が圧縮されたように固まっていた。何匹かつぶれている死体もある…
階段の脇には、階段を囲うように草達が生い茂っていた。
気持ち悪いね…と言うカオリンに正に同感と大きく頷いた。
家の東側に回ると、大きな彫刻のような…墓石のような…訳の分からん物体が置いてあり、なにやら文字が書かれていた。
【どうだ妹と二人暮らし、どうだいもっととうもろこし】
【正解を入力せよ…】
何だコレ。と石の前にカオリンと二人で並んでしゃがみこんだ。
『入力しろって書いてあるけど…』
『うぬ、これに問題文なのか??コレの言葉の意味が理解不能すぎる…』
大きな石の前にはパソコン用のキーボードが置かれており、コレを使って入力するのだろうか…と少し首を傾げた。
電源はつながっていないし、モニターすらない…ただ答えと思われるボタンを押せと??
くだらねーと想いさっさと他の場所を見に行こう。と立ち上がろうとすると、カオリンがズボンを引っ張り、もぉ少しだけ考えようよ…と言い出した。
しかたないなぁともう一度腰をおろし、座禅を組んみ、両手の人差し指を舐め、その指で頭にクルクル輪を描き、その手を股間の前に持っていき、両手で丸みの帯びた△をつくり目を閉じた。
そう!!俺はあの有名な一休さんの如く、考えた。
どうだ妹と二人暮らし…これはどおゆう事なんだ…???妹と二人で住む感想を聞いているのか??…何だか色々とめんどくさそうだが…むむ!!!もしやこの【妹】というのは別に血のつながりのある妹とは限らないではないか。義理の妹にしても、妹と思っている存在の事なのかもしれない…
ふむ…待てよ…何か例はないのか…
閉じていた目を少し開けると典型的な名探偵のTVの主役のように、手を口に当て、考えているカオリンの姿が飛び込んできた。
ビビビビビビビビビ!!と頭の中を電撃が通過した。
家に帰ると『おかえりぃ♪』とカオリン(妹)が待っている…
『ねぇねぇ、お兄ちゃん今日は一緒にお風呂入ろ♪』と俺の背中を揺するカオリン(妹)…
夜中に俺が自分の部屋で寝ていると、そっと俺の布団にもぐりこんで『こわいから一緒に寝て良い??グスン…』と涙を溜めるカオリン(妹)…
『今日はねぇ。トウモロコシが安かったから買ってきたよ!!♪』と晩飯にトウモロコシを出してくれる…カオ…ん???
トウモロコシ??…トウモロコシ…
【どうだいもっととうもろこし】…【どうだい??もっと、トウモロコシ】
カオリンのような可愛い妹と二人暮らし…
そんな可愛い妹から、トウモロコシ(俺の大好物)をもっといかが??と進められる…
ポクポクポクポクポクポクポクポクポクポクチーン!!!
『分かった!!!!』
『え!!?ほんと!?』
『あぁ!!これで間違いない!!!』
カオリンも考えるのを止め、俺をじっと見つめ、目をキラキラとさせていた。
入力するぞ…ゥン!!
俺は自信満々に、コードレス状態…いや…電気レス状態のキーボードに打ち込んだ。
【S・I・A・W・A・S・E】
『幸せ???って入力したんだよね???』
『おう!!!』
何も…起こらない…
…なんだよ…正解か不正解か教えてくれてもいいじゃねーか!!!と石を蹴飛ばした…
その時、『うッ…』家の中から一つの光が俺とカオリンの顔を撫でるように通り過ぎた。
不正解と思ったが、やはり正解だったのかもしれないと、カオリンと目を合わせた。
『いま、何か家の中で光ったよな?!?』
『うん!!!』
俺の正解にカオリンも驚きを隠せない様子で、家の中に入って何が起きたのか確認したい!!と言い出した。
すぐさま玄関に向かい、死体の山を踏みつけ、階段を上った。
ガッ!!
ん??何だこのドア、鍵かかってんのかな???とドアノブをまわして押しても引いても動かなかった。
『え??開かないの??』とカオリンも心配そうにこちらを伺ってきた。
ドンッドンッドンッドンッ!!!
ドンッドンッドンッドンッ!!!
ぶち破ってやるって勢いで俺はドアをドンッドンッと叩いた。
うぅ…とカオリンは耳を塞いでいた。
『何だコレ…まじであかねー…』
いまにも壊れそうなボロボロのドアなのに押しても引いても叩いてもびくともしなかった。
俺はその辺に落ちていた角材のような物を拾ってきて、角材でドアを再び叩いた。
ドンッドンッドンッドンッ!!!
ドンッドンッドンッドンッ!!!
『〇☆ぁ!!!!!★×□◎☆△!!!』
もぉ一発と振りかぶった時、中から何か声が聞こえてきた。ドキっとし、のけぞり、カオリンに訊いた。
『い…今、家の中から何か聞こえたよ…ね??』
『う…うん…』
俺が、叩いた事に後悔していると、カオリンがトントンとノックをしだした、『誰かいるんですか〜??』と言おうとするカオリンの口を手で閉じて、『やめたほうが良いかも…』とカオリンに
もしかしたら…かもしれない…と少し大げさに伝え、そそくさと立ち去ろうとした時、
ガチャ。ギィィィィィィ
と何故か勝手にドアが嫌な音をあげながら開いた。