『暗中模索★光,嬉紀』
4人とも遅いなァと私は光の少し汗ばんだ服の袖をクィクィっと引っ張った。その度に頭をよしよしと撫でてもらえて少し幸せに思えた。
光に身を任せ、頭を光の肩に乗せ、私は目を閉じた…『イヤァァァァァァァァ!!!!』…と羽チャンと思われる叫びが唐突に私の耳を駆け抜け、体勢を戻し、光に訊いた。
『ネェ!!今の羽チャンの声じゃなかった!!??』
『あぁ、羽樹の叫びやったとおもう…』
私達は、このとき移動するべきでは無かった…
私と光は、何かあったんだと思い、羽チャン達を探しにピンっと張ったロープを辿って4人の所へと進みだした。
『ねぇ…光ぅ…まだかな…??』
『もぉすぐやろ…』
私は何度か光にまだかまだかと尋ねたが、光にも分かるはずも無く、ひたすら、ロープだけを辿って、穴だらけの足場の悪い土の上を歩き続けた。
『え!!!?…』
『おいおい…どないなってんねん…』
私達がロープを辿って、着いた先は変な小屋のような…家のような…ボロボロになった廃墟だった。
草木が周り一面に生い茂って、玄関と思われる入り口に続く階段には虫の死骸が無数に散らばっていた。虫の死骸を避けるように爪先で階段を上り、家に入ろうとする彼氏…
私が、やめようよ…怖い…と言ってみたが、『この中に皆が居てるんかもしれへんやろ、そばに居るから行くで』と言い結局…湿った異臭を放つ家のドアをあけた。
『優馬ぁ、五右衛門、羽樹ちゃん…カオリさん…いてますかぁ…』
ドアを開け、真っ暗な闇に小声で光は4人の名前を呼んでいたが、当然返事は返ってこなかった。
懐中電灯で部屋の中を照らしてみると壁は落書きだらけだった…
【来世は幸せになれますように…】
【この部屋…臭うよぉ!!】
【2000年7月21日、T・K参上!!】
など他にも色々と落書きがあったが、死に関する話題は意外に少なく、〇〇参上などと私達同様、見学者のふざけた落書きが殆どだった。
『光ぅ…居ないと思うし、やっぱり戻ろうよ…』
私の声は家の中でピンボールの様に反射し、声は響き渡った。
『せやかて、ロープはココに縛られとったんやし、居てへんはずないやろ…』
と私を入り口のドアの前に待ってるように言い、懐中電灯を手に一歩一歩、照らしながら中へと入っていった。
ガッガガンッ!!
『キャァ!!』
『ウォォ!!』
私も光も悲鳴をあげ、光は一旦、ドアの前まで戻ってきた。
心なしか少し安心し、私は光に寄り添った。
所々崩壊していて、床はボロボロ、私の体重(内緒だけど♪)ですらギィギィと鴬張りなのかと思わせるような崩壊ぷリだった…
霊の心配より命の心配をした方が懸命な気がするのは私だけかな…
『霊の心配より命の心配をした方がええな…』
光も全く同じ事を考えていた事に、アハ♪と笑う状況ではないけど、ついつい笑ってしまった。
『私も全く同じ事思ってた♪』
『カカカカッ!!って笑い事ちゃうで!!もぉ少しで落下死しかけたッちゅーに…』
とか言いながらも引き返さず、結局中に進んでいくんだもん…ホント男って阿呆だ。
でも、そこが少しかっこよく思えちゃう私は、もっと阿呆かも…エヘヘ…
私が心でぼやいているうちに、光は足場の良さそうな所を2〜3回、爪先でツンツンと確認しながら、奥に進んで行った。
光が足を止め、懐中電灯を一点に向けていた。
どぉしたの??…と少し前のめりになり、光に声をかけた。
『こ…これは………エロ本!!!(爆)』
『…』
エロ本を発見し、こともあろうことか、彼女の私の目の前で少し興奮気味の彼氏をに前言撤回し、心で…阿呆!阿呆!阿呆!阿呆!と何度も叫んだ。
『せやかて、何故にこないな廃墟に大量のエロ本が廃棄してあんねや…??』
『知りません!!』と強く即答し、こんな光見てられない…と視線を樹海に向けた。
【入ってからどれくらい立ったんだろうなぁ…マスター心配してるかな…そりゃ心配してるよね…怒られるのかな…そりゃ怒られるよね…】
八ッと何呑気な事を考えているんだと頭をポコポコと叩いていると、階段に散らばった虫の死骸が目に入り、視線を再び光に戻した。
!!!!
私はびっくりした…と言うか、軽く引いた…
何故なら私の彼氏こと、土屋光はこんな状況にも関わらず、ボロボロの床の上に堂々と胡坐をかき、さっき発見した、廃棄されたエロ本を読みふけっていた…の。
その光景に、私の頭からは恐怖がシャボン玉の様にフッと消え、【怒】の一文字で埋め尽くされていた。
足場も確認せず、ドカドカとよそ様の家に土足で侵入し、懐中電灯で、本を照らし、フムフムとエロ本を読んでいる、光の後ろに着いた。
『なんしようと!?今の状況分かっちる!?』
怒りのあまり、我をすれた私は、ついつい隠しに隠してきた方言が出てしまった…
ジュワーっと炭酸飲料水の様に頭に血が上って生きたのか…私は今までに無いくらい赤面した。
『え!?…博多…弁…です??』
光も方言…本来の標準語で応答し、怒りで埋め尽くされた頭は一転し、恥ずかしい思いでいっぱいだった。
『そ…そんな事より…な…なんでこんな時に変な本…読んでるの!!!』
私は噛み噛みながらも光に伝えた。
『は!!?…こんなとこで真剣にエロ本何か読むかい!!あほちゃうか…』
むむむ…と込上げてくる怒りを制御し、『じゃぁ何してるの??』と光の横にしゃがみこみ、どぉ見てもエロ本と思われる本を覗き込んだ。
『やっぱりただのエロ本じゃん…』
『ワイも、最初はそぉ思ってな、一回手に取ったが直ぐ捨てたんや。汚かったしな…』
『でも、今も読んでたじゃん…』
『おう、客観的に見たら読んでた事になるな。実際中も確認してたしな。でもコレ見てみぃや』
私は靴をズリズリと滑らせ、光のひっつき、誇りや煤で真っ黒になった光の指元を『もぉ少し懐中電灯あててぇ』と言いながら凝視した。
『2022年…2月22日発売…え!?』
本のタイトル、予定日、作品関係、色々な点で私も中身を見てみたけど(光よりしっかりと…)どうやら2022年2月22日というのはこのボロボロになった本が発売された日のようだ。
こっちもみてみぃ。と光に言われ、私は周りの数冊の本の発売された日を見てみた。
2022年1月23日
2021年12月21日
2022年3月23日
この本はたまたま222…と2が連なっていたけど、単なる日付じゃん…と少し拍子抜けって感じだった。
その事を光に打ち明けると、『はぁ!?』と馬鹿にされたように笑われた。
むぅ。っと頬を膨らませ、じゃぁ何が疑問なの!!?と光に訊き、私はギョッと目を見開いてしばらくの間、光のそばから離れる事ができなかった。
222のと連なっている事はそもそも何の関係もなく、この廃墟に廃棄されボロボロになった本は今より、14年も未来の本だった。