『…別れ…』
『いやいやいやいやいや!!五右衛門君!!流石にソロソロ戻った方が良いぞ!!光達も心配してると思うし…』
との俺の忠告にも『頼む!!』と一向に引こうとはせず、仕方なく、早めに戻って来いよ…とだけ言い残し、俺と羽樹はロープの頭を持ち、その場で待機した。
懐中電灯の光と、声が届く範囲にて五右衛門とカオリンは奥に進んだ。
そう!実はカオリンも着いて行ってしまったのである…
俺と羽樹が仕方ないなぁと諦めた時でも、カオリンは五右衛門に行かないで!!と泣きそうな眼差しを送り続けていた。
にも関わらず、ごめんなぁ…せっかくココまで来たし、もぉ少しみたいんよ…カオリンもくるか!?と五右衛門の発言に、俺も羽樹も『阿呆…』とため息をついたが、カオリンは『一緒に行って良いの!!??』と何故か嬉しそうにしていた。
『恋ですなぁ』
『えぇ。恋ですね』
と懐中電灯を手に薄気味悪い中、五右衛門とカオリンの帰りを待った。
『大丈夫かな…五右衛門とカオリン、それと光とキキ…』
『光組は大丈夫だろ…でも五右衛門組は心配だな…』
『だねぇ…二人とも少しって言ってたけどかなり奥まで入ってるね、うちらのの懐中電灯の光届いてるかなぁ』
『まぁ俺達もココを離れるわけにはいかないし、無事であることを祈るしかないな。。』
俺は、弱弱しく答え、羽樹は俯いてしまった。
『五右衛門さぁぁぁん!!大丈夫ですかぁぁぁぁぁ??』
と俺が叫ぶと、五右衛門から、応答があった。
『あぁ〜〜〜つきこ〜ど〜おぉ〜の果てに〜〜♪』
と五右衛門とカオリンの歌声が聞こえてきた。
『B'zかよ…』
小さく舌打ちする俺を見てか、五右衛門達が問題なさそうなだからか、羽樹は顔をあげてクスクスと笑った。つられて俺も笑ってしまった。
五右衛門も怖いのだろうか…歌いながら探索しているようだった。
15分くらいすると2人が帰ってきた。
『優馬ぁぁぁ…ちょっと…やばかった』
五右衛門は鼻穴を大きく広げ、ぜぇぜぇと過呼吸状態だった。五右衛門の背中にはカオリンがランドセルの様にくっついていた。
『お帰り!!大丈夫だった!?どぉかしたんか!?』
二人の様子から少々不安になりながらも、訊いてみた。
『歩いている途中、"五右衛門さ〜ん"ってどこかから声かけられた』
『…………』
俺は羽樹と顔を合わせ震える五右衛門とカオリンには申し訳ないが必死で歯を食いしばり笑いを堪えた…
五右衛門は俺の声に歌で応答したのではなく怖くなって歌いだしたのだった。
『いやぁ、最初、カオリンかな?って後ろを見たんだけど、カオリンは俺の横に居たし…よくよく考えると、聞いたことのない男の声だった…』
ブッと羽樹が思わず、口から息を漏らすと同時に俺は深いため息を吐いた。
【毎日毎日3年間ずっと聞いてる声なのですが…】と言いたくてたまらなかったが、カオリンの言葉に絶句し、少し震えた。
『あ…あたしもも子供笑い声…と泣き声…が…聞こえた…』
カオリンの震えかすれた声に五右衛門は『大丈夫、大丈夫』肩に乗った小さな頭をよしよしと撫でていた。
『え…カオリン…マジ!?』
カオリンは小さく頷き、多分、泣いたのだろうと思われるような鼻声で、『ぅん…耳を塞いでもずっと聞こえてきた…』と言った。
棒立ち状態の俺の腕をギュッよ羽樹がつかみ、胸元に引き寄せた。
その手は、小刻みに震え、羽樹の顔は蒼白く、いまにも泣き出しそうな面だった。
光とキキの場所に戻るためロープを巻き取るように、進みだした。
『イヤァァァァァァァァ!!!!』
『!!!!!』
突然の羽樹の馬鹿でかい悲鳴に俺も五右衛門も、本気で心臓が止まるかと思った。
『だ…だ…だれか…だれか居る…』
カタカタと歯を鳴らし、詰まる声で言った羽樹は震えているのが目に見えて分かるほど震えていた。
『だれも居ないから大丈夫だよ…』と伝えても、羽樹はしゃがみこんで目を閉じ、耳を塞いでいた。
俺が肩にポンと手を置いただけで、ビクっとし、怖がっていた。
『おんぶしてあげるから、背中に乗りな。』と、いつになく優しい言葉をかけると2回ほど頷いて、背中にへばりついた。
ギューッっとひっつかれるのは幸せに感じたが、状況が状況だけに素直に喜べなかった。
五右衛門と俺は、何も言葉を交わさず、ただただ光達の待つ、林道の大樹を目指した。
流石に、洒落になってなかった。
イッテ…小さな小枝が地面から剥き出しになっており、ジーパン越しに俺の足を突っついてきた。
『五右衛門…ストップ…ちょっとズボンに枝が引っかかった。』
ボロボロのジーパンに絡むように刺さった枝を、イライラする思いで、強引に引き離すとビリッ…とジーパンは甲高い悲鳴をあげた…
【くぅ…ダメージのジーパンなんか履いて来るんじゃなかった…】
『スマン!!お待たせ。』っと顔を上げると五右衛門とカオリンの姿は無かった。
俺の背中で眠っていた羽樹を起こし、状況を全て説明した。
『ズボンに引っかかった枝をはずしてる間に五右衛門とカオリンが消えていた』…と。そのまま。
『ぅぅぅぅぅ…』と羽樹が両目に涙を溜めだすのを見て、胸がズキッっと痛んだ。
『取り合えず…ロープを辿って光とキキのところに行こう!!五右衛門達もきっと先に行ったんだと思う…』
と、羽樹だけでなく自分にも言い聞かせるように言った。