『愛車☆エルグランドでTTS!!』
ガタガタガタ…キューー!!ピタ!!
ココは何処…私はだーれ…と気がついた俺。
何処からともなく皆の笑い声が聞こえてくる…
【あぁ。そうか…俺は我が愛しの彼女…羽樹によって殴り飛ばされ、硬く熱いアスファルトに頭を叩き付け、ただでさえ少ない能をばら撒いて、死んだのか…何たる結末…死してなお皆の笑い声が聞けるとは…ありがたや。ありがたや。】
とブツブツ心で呪文の様に唱えている時に、ドン!!と言う大きな振動でココは現実だという事に気がついた。
【ココはマスターの車の中か…むぅ…何か柔らかくて気持ちがいい…】と俺は顔を猫の様に椅子にこすりつけた。
『コラ!!動くな!!くすぐったいでしょ!!』
っと羽樹の声にビクリと上半身を起こし、キョロキョロと周りを見回した。
【あぁ…椅子じゃなくて、羽樹の太ももだったのか…何たる失態…気がつくべきでは無かった…】と俺はまたもや羽樹の太もも目指し、軽く目をつむり、体を倒した。
ドカ!!!
『イッテ!!!!!』
これまた、何たる仕打ち…起きたならちゃんと座りなさい!!と羽樹はこともあろうことか、膝を突きたて、俺が幸せそうに倒れる顔に、ニーキックをかましたのだ。
ガハハハ!!、アハハハハハ!!と5人の大爆笑に鼻を押さえながらVサインを出し、涙目ながら、ニィっと笑って見せた。
『おう!優馬!!起きたか!!?もぉすぐ着くからなぁ!!』
いつもながら元気なマスターに言われ、俺はかれこれ4〜5時間くらい眠っていたのか…と腕を抱えて、考えた。
『お前が羽樹に叩かれて、気絶したからあの後大変だったんだぞ!!』
と言う五右衛門の話に耳を向けた。
あれは…叩かれたと言う優しいレベルのパンチではなかったぞと、後でこっそり五右衛門と光に通知した。
『羽チャン!!やばいよ!!』…そう。コレは今から約5時間前に遡る。
羽樹に殴ぐり飛ばされた俺は、皆さんも知っての通り、と言うか情けない事に気絶をしてしまった。
『知らないから!!』と涙声で羽樹は必死に声を出し、俺を放置したまま、和茶の玄関に座り込んだ。
キキはマスターにすぐさま電話し、『いつになったらくるんだー!!』と豪快に出たマスターを無視し、状況を説明した。
光、五右衛門に肩を借り、ズルズルと両足を引きずりながら、和茶の日陰の庭に運ばれた。
5センチくらいに切りそろえられた、ふわふわとした芝生は、天気の良い日には日陰だけに、最高のベットだったに違いない。
サラサラとした湿気0%の風が、俺の疲れきった全身に癒しを与えてくれただろう。
日陰になっていた芝生は、さっきまで転がっていたアスファルトに比べ、ひんやりと若干冷たく、感じられただろう。
10数分し、マスターの愛車、エルグランドが玄関横付けで停められた。
『をい!!何してんだ!!?優馬は無事なのか!?!?医者はよんだのか!?…』と次ぎ次ぎ5人はマスターの質問攻めに対し、皆は『全ては優馬が悪い!!』と口を揃えて良い。
『ふむ。そうか。じゃぁ仕方ないな。』とマスターもあっさりと納得しやがった。
マスターに言われキキの呼んだ医者は、5分くらいで到着した。
『ん〜〜〜。こ…これは…』
『やばいんですか…』と敬語で訊くマスター。
『どないなってんねん。頼むわ。大丈夫なんやろ!?』光も真剣に訊く。
五右衛門、キキも光に続いて、大丈夫ですよね!?…と訊き、医者…は口を開いた。
『ふむ…大丈夫、大丈夫ではないの問題ではなく…彼は眠っているだけです…よって貴方方の問には大丈夫とお答えしましょう。』…まずココで俺の顔中にある打撲に気がついて欲しかったのだが…。
医者の冷静かつ沈着な態度、さらに俺がただ寝ているだけと知った皆の衆は俺を叩き起こそうとしたらしいが、医者の言葉に羽樹が泣いて喜び、本当に良かった。ごめんね。ごめんね。と抱きついたらしい。
それには、皆もお手上げで流石に叩き起こす気にはならなかったと光氏は言う。
俺としては、お金を出してでも是非見たかった光景だから残念で仕方ない。
結局俺は、単なる熱射病、脱水症状、【ッポイ】だけで、特に問題は無いらしく、そのままマスターの愛車で、静岡を目指す事になった。
一方、皆(羽樹を除く)が眠っている俺を起そうとすると羽樹はそれを死守したらしい。
勿論、五右衛門と光から俺を守ったのである。
こんな流れで、先ほど自力で目覚めるまでの4〜5時間という長い時間、俺の睡眠は羽樹に守られ、今に至ると言うわけである。
『そっかぁ…羽樹…ありがとな!!!』とマジマジとお礼を言い。
『うちも、叩いてごめん…』と羽樹もフカブカと頭を下げた。
まぁまぁ、お二人さん、コレにて一件落着と行こうではないかと五右衛門が俺と羽樹の肩をポンと叩き、仲直りが完了した。
どうしてココまで揺れるのだろうと皆、マスターの愛車エルグランドを疑問、不思議に思いながらもエアコンさえあればどうって事無かった。
高速はお金がかかるから下道でいくぞ!!と言うマスターの言葉に、反対できるはずもなく、田舎道を軽快に走らせていた。
俺が気がついた時には既にIN SHIZUOKAで茶畑、緑が美しい山々が窓の外にいくつも視界に飛び込んできた。
誰も居ない、と言うのは嘘になるが、道は車一つ走っておらず、老人達がMY畑を赤色のデカイ機械に座りタバコをふかしているくらいだった。
俺達の故郷も、十分田舎だったが、ココはそんな俺達から見ても素晴らしいくらいの緑に恵まれていた。青々とした空は普段より涼しそうにおもえ、その空を鳥達が競い合うように先回している。
『あぁ…すばらしい…』と光が標準語になってしまうのも分かる気がした。
そうそう、肝心な目的地だが、俺達は(野郎どもの要望…)富士の樹海を是非見てみたいと言う事で、辞めた方が良い…俺も昔…大学の頃、連れと見に行ったが…とマスターの不吉な助言にも俺達は聞く耳持たずで、あそこではふざけたりするな…それが守れるなら連れってってやらん事もない…と最後の御告げを気持ち半分で大きくうなずき、GOGO!!!と最初の目的地は富士の樹海に決定した。
学生時代マスターは二度とあそこには近寄らないと、固く誓った故、近くの銭湯で待っているから、見学が終わったら電話して来いとの事だった。
女性陣もマスターと一緒に待っていると主張したが、そんな意見は受け付けません!!と断固拒否し、結局、我々6人で行く事になった。
『ふぅ!!着いたぞ!!…あそこに見えるのが富士の樹海…俺はその辺のジムか銭湯で待ってるからなるべく早く連絡よこせよ!!』
分かりました…とキキだけが丁寧に応答し、マスターは俺達を下ろして、そそくさと逃げ出すように、その場を離れていった。
『よッしゃ!!!意外にあっとゆうまやったのー!!優馬のおかげで薄暗くて結果オーライやな!!』
本当は3時くらいの到着予定だったが、それの3時間半遅れで、時計の針は6時半をさしていた。
夏の6時半なんて明るいもんなのだが、光の言うように、何となく薄暗くどんよりとしていた。
『うぅ…なんか怖い…』
『ね…』
『ぅん…』
と女性達は乙女声を上げ、3人で寄り添って歩いていた。
『樹海探索にいざ出陣!!!』と五右衛門のでかい声により、ガサガサと樹海へと最初の一歩を踏み出した。