『T・T・S・計・画・2』
家のドアを開けるとバジバジバジと玄関に止まっていた一匹の蝉が壁に体当たりを繰り返しながら飛びたった。
一歩外に出ると、家の中の蒸し暑さとは別の熱帯地獄がモワモワとアスファルトから透明の煙の様な気体を放ちながら待っていた。
直射日光こと、太陽の日差しの雨。
自転車を右、左、右、左、と足を動かすたびに顔、背中、腹部から本当に雨に濡れたように汗が噴きだした。
温泉のサウナ顔負けの自然サウナの中、俺は一秒でも遅刻を早めねば…と、ひたすらペダルを踏み続けた。
予定では和茶で待ち合わせ…その後、マスターの家(実家)に向かい送ってもらう事になっている。
携帯の時計が一分、また一分と時が流れるごとに焦りが増し、今朝、トイレに行き忘れた付けが回ってきた。
俺には、焦りや緊張すると尿意が近くなると言う症状がある。チクショー…と心で叫びながらコンビニを素通りした。
もはや、体内の汗、というか水分が無になり和茶が見えた頃には目まいがし、視界が危うかった。
そんな危うい目にもハッキリと5人の塊が目に映った。
良かった…すまない…良かった…やばい…と安堵と不安の気持ちが俺の心でキャッチボールを始めだした。
キャッチボールの結果は…
『悪い、遅くなった(激汗!!)』
『優馬、おっせーぞ!!ジュースくらいおごれ!!』
『そうだそうだー!!』
『おう!!本当に悪かった。快くおごらせてくれい』
俺の中でのキャッチボールの答えはそうでた…否。そうであって欲しかった。
和茶に着き、皆が停めてある自転車の横に俺の愛車をそっと置き、皆の元へとフラフラ足に鞭打って駆け寄った。
さて、1000回近く繰り返した、キャッチボールの結果は当りなのか…期待と不安が入り混じる中、俺は5人のバッター目掛けて直球勝負で妄想どおりの言葉を投げ放った。
『悪い、遅くなった(激汗!!)』
【カキーン!!カキーン!!カキーン!!カキーン!!ボデッ!!】
バシッ!!ビシッ!!ブシッ!!ベシッ!!…ポコッ!!
俺の投げた球はキャッチャーミットにおさまること無く、ガラガラの客席までホームランを放たれた。
カオリンだけはピッチャーゴロで伝説的な、5連続ホームランは免れたが、言うまでも無くゴロを拾う気力など残っていなかった。
打順はこおだった。
光、五右衛門、羽樹、キキ、そしてカオリン。
俺の妄想ではホームランと言う清清しい表現で記されていたが、現実はちがう…俺がホームランの音を想像する度に、俺の頭は新人自衛隊の如くテキパキと、はたまた、横断歩道を渡ろうとする小学生のように右!!左!!右!!左!!と反意識的に動かされた。
頬には季節的にまだ早すぎる綺麗な紅葉が咲き誇っていた。右に2つ、左に二つ。
非紳士的…非乙女的…暴力的な4人に比べ、聖母カオリン様は優しく俺のフラフラの頭をポコと叩くだけだった。
『本当に…申し訳ない…』…我、コレにて切腹す…と冗談を付け加える余裕など微塵もなく、ひたすら、和茶の通りに額をこすりつけるだけだった。
忌々しいの太陽様は先ほどの説明より、はるかに勢いを増し、俺のこすりつけるアスファルトの温度を上げに上げた。
鉄板の如く熱いアスファルトは俺の額に5つめの紅葉…否。でかい根性焼きの刻印を刻もうとしていた。
『ねぇ。もぉいいんじゃない!?優馬が可哀相…』【何!?】
誰だろう…罪深き俺を救ってくれる御方は…と皆にばれない程度にポタポタと涙した…
罪深き俺を救ってくれる御方は、俺に『さぁ立ち上がれ』と言わんばかりにゴットハンド差し出してくれた。
逆光で顔を確認できぬまま、あまりの嬉しさに、罪深き俺を救ってくれる御方に抱きついた。
こんな、罪深き俺を救ってくれる御方は…羽樹しか居ない!!確信していた。
『ぅ…優馬…』
『羽樹…暑い中待たせてごめんな…皆も本当にすまない…』
俺は涙したことを隠すべく目をギュッと瞑り、ギュッと抱きしめ謝り続けた。
『まぁ…わいはもぉ許しとるけど…』
『ぅん…私も謝ってもらったし良いよー』
『俺も〜』
『あはひもぉ〜』
『…』
妙に羽樹がもがいていると思い、皆の許しと比例し乾いていった涙目をそぉっと空けた。
…あれ??…何故羽樹が俺の胸の中と五右衛門の横と二人居るのだ…??
…あれ??…さっきまで怒り狂っていた皆が、許してくれたと同時に何をニヤニヤしれおられるのだ…??
…あれ??…俺に優しく可愛らしいパンチをおみまいしてくれた薫こと、カオリンは何処にいったのだ…??
俺のフラフラの頭の中がクエッションマークで埋め尽くされようとした時、罪深き俺を救ってくれる御方が羽樹では無く、カオリンだと言う事に気がついた…
と同時に全てのピースがそろいパズルが完成…
と同時に暑苦しそうにカオリンが俺の腕の中から解き放たれた…
と同時に五右衛門の横に居た羽樹が一歩一歩俺に近づき、今度こそ5つめの紅葉…否。今度こそ本当のホームラン…グーパンチが俺の誇らしい鼻に直撃…殴り飛ばすと言う乱暴な言葉が現実になった瞬間だった。
体重60キロはあるだろう俺の体は、小さい缶コーヒーの缶くらいの細い腕によって宙を舞う事になった。
アスファルトへの着地は見事に失敗、
ゲレゲラと腹を抱えて笑う五右衛門、光に怒りを感じる余裕も無く、『羽樹…すまねぇ』と良い、涙しながら気絶した。