『開けて悔しき玉手箱』
『優馬ぁ!!!優馬ぁ!!!起きなさい!!!優馬ぁ!?今日学校あるんでしょ!?』
目覚ましの【ジリリリリリ】という音で…は無く、【優馬ァァァァ】と叫ぶ母のスクリームで目が覚めた。
良く見るとまだ6時半…どおりで目覚ましがならないわけだ。
【ふぁぁ】とアクビをし、再び布団にもぐり、むにゃむにゃと布団の気持ち良さを実感していると、ダダダダダダともの凄い音と振動で起き上がった。
ドンドン!!ガチャ!!
ノックの返事をする間もなく、母が部屋に飛び込んできた。
『優馬!!!!あんた!!今日、五右衛門君たちと泊まる準備あるから早めに起こしてほしかったんじゃないの!?』
朝から母の怒鳴り声…本当に鬱になる。
『あぁそぉだった。じゃぁ準備するから出てって。』
うるせーと反撃する気力も無く、頼むから黙って退出してくれ…それだけだった。
【歯ブラシ、着替え、下着、財布、携帯、…】
とりあえずいつもより大き目のカバンに入れ、準備終了。
6時45分。
いつもどぉり起きてても全然間に合ったな…と後悔した頃には目がパッチリ覚めていた。
昨日の夜は、色々な事を考えて…勿論ムフフな事も含めてね…寝付けれないと思い、母に起こしてくれるように頼んだのだ。
ところがどっこい、布団に入って3分弱で寝てしまった。いつもより早く寝たくらいだ。
母に頼まなければ…30分…1時間は多く寝れたのに…とちゃっちぃ思考回路を働かせながら、とりあえず朝の日常習慣を済ませ五右衛門の待つ集合場所に向かった。
3年目にして初。五右衛門より早く集合場所に到着。3分くらい待つと五右衛門が来た。
『え!!?なんでお前がいんの!?』
『おは〜』
五右衛門は時間を1時間間違えたのではないかと、携帯を取り出し、時間をチェック。
『7時15分だよな???』
『今日はまぁ…ゆうならば遠足前の早起きって奴よ!!!』
『キモ。小学生か』
『ダハハハハ。ちゃうわ!!糞ババァが起こしに来て、いつもより早く起きたんだわ!!』
『要するに遠足前に『お母さん、明日は遠足だから、早く起こしてね。』っていう小学生だったんだろ!?』
『…』
『ぶ!!!キモ!!!今日の夜のネタ…いや学校ついたら即やな!!!。』
『っけ。勝手にせぇ!!』
学校につくなり、五右衛門は俺の話を報告。
五右衛門は必死に有る事無い事完全に作り話で、実話のエスカレートverを皆に熱烈的に語った。
キキと羽樹は苦笑…頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。
カオリンは良く分かってない様子…実に可愛い。
光にいたっては爆笑され『お前死んだ方がええぞ!!キモ過ぎる!!』と連呼…お前が死ね。
朝、母親に怒鳴られ…学校ではレディーには苦笑され、親友からは死んだ方が良いとまで言われた俺って一体…
『土屋!!うるさいぞ!!』
と斉藤の声に救われた。
始まったかと思ったらもぉ学校は終わっており、また今日も一日中寝ていた。
過眠症なのでは無いかと…少々自分の体を心配しつつも周りを見るや否や安心して眠りに付くのである。
今日みたいな金曜日は絶好の睡眠日和でね…
今日学校に言ったら明日から休み!!今日くらいは頑張るぞ!!
なんて、俺も昔は思ったよ。金曜が3回訪れて終了したけど…
キーンコーンカーンコーン!!
不思議なもんでね…学校が終わると凄い目が覚めるんだよ。充電完了!!みたいな!?
俺達は学校が終わると同時に、和茶へと向かった。
いつもなら学校から10分で付く道のりを今日は6分で付いた。最短記録だ。
6月上旬…中旬…なのに夏日の暑さの中、立ちこぎでダッシュしただけに到着し自転車を停めると風を切る事も無く、無風の状態になり今までずっと息を止めて我慢していた子が無理になり【ぶはぁ】と吐き出すように額、首、背中から汗が噴出した。
この暑さがエアコンのカンカンに効いた部屋に入った時の感動を倍にする。
早速涼しい店内を目指し、ペタペタと汗で学生服が足にまとわりつき何とも不快な状態で右左右左右と足を前にだす。
…≪CLOSE≫…
最初に目に泊まったのが5つのスペルから出来ている英語の文字だった。
店内の快適な涼しさとは別の涼しさがそこにはあった。
『え!?今日やすみなんか!?』
あれだけ期待してただけに俺達の落ち込みは半端なかった。
駄目…拒否…却下…
状況を体が受け入れようとせず、≪CLOSE≫という札のかかった純白のドアの前で座り込んでいた。
と言うより、何かすぐ帰れず座り込むしかなかった。
10分…20分…30分…
夕暮れ時は30分で結構風景がかわるもんでね、真昼から一気に夕方に太陽が滑り落ちた。
6人で座り込むには少々狭い空間だったが、広い部屋なのに身を寄せ合うカップルの様に何か悪い気分はしなかった。
学校で放課後まで話していた生徒達の帰宅ラッシュ…俺達の前を自転車で通りすぎていく。
和茶の前の道を通りすぎる度にこっちを向いて、珍獣の塊でも見るように不思議そうな眼差しだけ残して通り過ぎていく。
俺達は誰も何も言わず、ただ座っていた。
明らかに店は閉まっている、掛札まで出ているくらいだ。きっとマスターも急用が出来て今日は休みにするしかなかったのだろう。
それは、分かっているけど…
青春期の子供って複雑でさ、大人の事情があるんだって分かっててもこうゆう時ってなかなか受け入れられないもんで…
デートでディズニーランドに行く予定だった日に豪雨に襲われるみたいな??
歩いていてタンスの角に小指をぶつけて歯を食いしばるしか選択しがないみたいな??
暑いのに夏の太陽は容赦なく平然と俺達に日を当て、俺達は肌を焦がすしかないみたいな??
当たり所の無い…というか、誰にこのイライラ当たれば良いのか分からない状況??
大人から…というか第三者からみたらそんな事でイライラしてるなよ!!って叱られるかもしれないけどさ…
天国から地獄って言ったら大げさだけど、いきなりの期待破棄に『また今度にするか!!』なんて冷静な判断は俺達には出来なかった。
30分が40分になり40分が50分になりとうとう座り込んでだれも口を開く事無く1時間になった時、痺れを切らして声をだしたのは光だった。
『帰りますか…』
『そやな。』
と膝をポンと叩いて立ち上がり、いつもより重いカバンがまたむなしい…
俺、光、五右衛門、キキ、羽樹と順番に立ち上がり帰ろうとしたがカオリンだけが立たなかった。
『カオリン帰るでぇ〜』
『やだ!!今日みんなで泊まるもん!!』
流石にいつもならこの発言も可愛なぁっと一言で終わるけど、今日は場が悪かった。ただのわがままな発言にしか聞こえてこなかった。
『あ??何ゆーとんねや!もぉ十分待ったや無いか!!』
『でも…』
『光、ちょっと言い方きついよ!!』
羽樹がカオリンをかばうと、光とは思えないよな鋭利な目を羽樹に向けて言い放った。
『きっつーゆわな、このノータリンの天然ッ子にはなんぼやさしゅーゆうても伝わらん』
パン!!!
とキキの平手が光の頬を桃色に染めた。
『何するんじゃワレ!!!』
『あんただけ帰れば…』
と光に負けてないくらい冷たい目と言葉で光を両手で突き放した。