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束ね鬼怪奇譚  作者: ばち公
二人でテレビゲームしてるだけ
34/66

『ただの苦行』

「もっとさっさと終盤までいけないの、これ。飛ばす方法とかないわけ?」


 延々繰り返される演出、戦闘、そしてゲームオーバー。先に音を上げたのは紫苑だった。

 舞夜も先行きの見えない不安と、さらにヘルメットが暑苦しいのもあって、疲弊を吐き出すように溜息を吐いた。


「んー、攻略本はあるけど、あれ使えん攻略本やしなぁ。大丈夫じゃないやつ……」

「そもそも何で攻略なんてゴツイ単語なんだろうね? どう思う?」

「コントローラーを床に置くな!」


 叱りつける舞夜に、紫苑が肩を竦めて画面の端を指さす。既に何度見たか知れない霊体のパークがふらついていた。出来ることは無いとでも言いたげに立ち尽くしている。最早手すら振らない。

 と、よそ見しているうちにミントも吹っ飛ばされる。


 ゲームオーバーという文字。やたらおどろおどろしい画面に、舞夜は再度の溜息がてら呟く。


「――なんでもいいならあるよ、攻略法」



 紫苑がそう言うのなら、と舞夜は効率だけを見て動くことにした。まずタイトル画面で隠しコマンドを入れ、全会話もイベントもスキップしてしまうように設定をいじる。

 RPGで苦労する金策も、自由度の高いこのゲームではあくどい手段を使えばあっという間だ。夜闇に紛れての追剥ぎ、泥棒、かっぱらい、なんでもござれ。相手はただのデータだ、恐れることはない。適当に金を稼いで移動速度を上げるアイテムだけを買い、それ以外は全て売却する。

 武器すらない? そんなときのための裏技だろ!?


「ここでABAB←→BBAB↑↓ABBAAB→→←……」


 隠しコマンドを打って最強の装備品を回収し、


「この壁でA連打!」


 宮殿を上がる階段の途中、何の変哲もない壁に向けてただひたすらコントローラーのボタンを連打していると時空が歪み、あらゆる壁という壁を無視してダンジョンだろうと町だろうとガンガン行こうぜで進むことができる。


「なんでこんなもんあんの」


 紫苑が若干でなく引いている。

 これは意図的な小ネタでしかも二週目どころか四週目のセーブデータ(舞夜と彰冶のデータがある)が無いと使えない要素で、と舞夜が説明するが、ちっとも分かってもらえない。


「んっと、伝統的な隠しというかな、それを説明するにはまずな、別ゲームのバグについての説明がいる」

「いらない」


 さすがにこれじゃあ霊も満足するまい、と結局紫苑に止められて終わった。


「じゃあ家のゲームのデータ使う? カンストキャラおるから強いよ?」

「カンスト?」

「えーっと、数字が上限いったってこと。ステータスマックス。強い!」


 アクションゲームだが、一応ステータスは存在するのだ。

 そんななかで、兄の彰冶がせっせと作り上げたキャラクターの名は『カンストくん』。ちなみにここまで頑張って作り上げたというのに、これ以上の成長が無いのが寂しいらしく、実際にはあまり使用されていない。


「へえ。それどれくらい強いの」

「このパークとミントを5とすると、53万みたいな感じ。でもこれもやり過ぎかなぁ。お化けも満足しやんかも」

「わかんねぇ」


 紫苑は笑顔でそう言い放ったあと、自分の手元にあるコントローラに視線を落とした。


「ゲームって、どうしようもなくなるともう『ただの苦行(・・・・・)』だね」

「なんでもそうやろ?」

「いや、娯楽な分、それが際立つと言うかさ。……で、どうしようか?」

「うーん。うーん」


 舞夜は頭を捻って、アイデアが降ってくるのを待った。

 もちろん、こんなのんびりした状況で大したヒラメキが出るはずもなく、とりあえず思いついたことを口に出してみる。


「このゲームへの愛とか語った方がいい?」

「大丈夫、そこまでの脳みそないよ。たぶん頭にも視界にも存在意義にも、ゲーム画面以外何もない」

「うわっ辛いなーそれ。かわいそ」


 何の楽しみも見いだせない説明だった。そこまでいったら娯楽どころでない、『ただの苦行』だろう。

 呆れよりも憐憫の情が増してきた舞夜に、紫苑は「死んでんだから所詮そんなもんだよ。くっだらないよねぇ」とのたまう。


「なんでそんな残酷なことに……。ゲーム画面だけってそんなん……絶対つまらんやん……」

「だからそこまでの脳みそ無いって」

「そ、そっか…」


 もしも舞夜がその立場であったらと思うとぞっとする。今が楽しい分、余計その悲惨さが際立った。

 紫苑のゲームの腕前も、それ以上に態度もこっ酷いものだが、それでも友達とあーだこーだ騒ぎながら協力するのは楽しいものだ。舞夜が普段、こんな風にして共にゲームに取り組むのは、兄や幼馴染など昔から慣れ親しんだ相手ばかりであるから、どこか新鮮みさえある。

 何から何まで気苦労も多いけれど、これはこれで悪くない。


(――もしもこれが、)


 と思いかけたところで、舞夜はハッと大きな瞳を見開いた。


「シオンくん……私にいい考えがある!」

「おっ、いいね。駄目だったらどうする?」

「えっ……、その時はその時。致しかたなし!」


 腹切りの覚悟でも決めた侍のように、舞夜は根性と共に拳を握りしめる。

 紫苑は膝に頬杖をついたまま、無感動にそれを眺めていた。


「……で、そのいい考えは?」


 尋ねられると彼女はにっと笑ってから、紫苑に力強くゲームコントローラーを押し付けた。


「フツーに遊ぶ!!」

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