第009話「旅支度」
夜に書き上げたけど、上げるの忘れてた。
あ~最悪だ~、せっかく生き延びてちょっと変だけどお人好しそうな二人組に助けてもらったっていうのになんでここでまたグレイウルフが出てくるのよ~~!
大地たちが木の実を集めにいっている間、メーティアはたき火を絶やさないように火の番をしながら、王都に向かう為、回収できた荷物の選別していた。
そこに背後から忍び寄る気配を感じで振り返ると、そこには5体のグレイウルフがおり、メーティアはあわてて木の上に登って危機から逃れたのだった。
しかし、いつまでも木にしがみ付いていられるほどメーティアは体力がある方ではないし、何より掴んでいる枝が僅かずつ下に向かって曲がり始めているのが最大の問題だった。
まずい、もう枝が持たない。 でも手の届く範囲にもう掴めそうな枝が無いし、あ~誰か~助けて~!
メーティアがグレイウルフに齧られる自分を想像しかけていると、突然自分を取り囲む一番外側に居た
グレイウルフになにか白い塊が激突した。
「な、なに?」
よく見るとそれはエステラだった。
「エ、エステラちゃん!? あ、危ないから逃げ、」
メーティアがそう叫ぶ前に残ったグレイウルフ達はエステラに向かって飛びかかった。
やられる! そうメーティアが思った次の瞬間、
エステラが手をグレイウルフ達の前にかざし、爆発が起こった。
「ま、魔法?」
グレイウルフ達が爆発に気を取られた隙にエステラは二体目を倒し、さらに三体目、四体目も倒してしまった。
「すごっ、」
「無事かメーティア?」
「あ、大地、エステラちゃんってあんなに強かったの?」
「まぁな」
五体目が逃走したのを見て完全に危機はさっと思い、メーティアは登っていた木から降りると、エステラのそばに行ってお礼を言おうとした。
ところが…、
エステラは五体目を仕留めるために翼を広げ、空高く飛び上がったかと思うとそのままグレイウルフめがけて飛んで行ってしまった。
「な、なにあれ…」
「あー、そのー、あれはなんというか、」
「…エステラちゃんって、もしかして、モ、モンスター?」
「いや、違うぞ! モンスターじゃないぞ!」
「じゃああの翼はなんなのよ!!」
「あーなんなんだろうねー、病気?」
「翼が生えて空飛ぶ病気なんてあってたまるか!!」
だよねー。やっぱファンタジーな世界でもさすがにそれはなかったかー。
「…もしかしてあんたもモンスターなの?」
こちらを警戒しつつ、メーティアは後ずさりで距離を取る。
「うー…、きちんと説明するからとりあえず夕食にしないか?」
「こ、この状況であんたが作ったもの食べられると思ってんの?」
「別に殺すつもりなら崖から落ちて気絶してる時にいくらでも出来ただろ? それだけでも信用してくれると助かるんだけど、」
「…た、たしかにそれはそうだけど、」
「気になるんなら、そこらに転がってるグレイウルフを自分で調理でもすればいいんじゃないか? 焼けば食えるだろうし」
「……分かったわ、とりあえず信用してあげる」
「ん、ありがとな」
たく、エステラの奴、秘密守れって言っ……てないな、うん。でもあとでこの事態の分のおしおきはしてやる!
それから数時間後、ひとまず倒したグレイウルフを含め、とってあったウサギ肉と一緒にグレイウルフの肉を焼いて夕食とし、無言の時間がわずかばかり過ぎてから、メーティアの詰問が始まった。
「で、まずはエステラちゃんがモンスターかどうかって事から聞きたいんだけど、なにやってんの?」
メーティアの視線の先では大地がおしおきと称してエステラのほっぺたをグニグニと引っ張ったり、押しつぶしたりしていた。
「ふぁすぅたぁー、もぉっろぉつぅよぉくぅしぃてぇもぉいーでぇふぅよぉ?」
「いいから黙ってろエステラ」
「だからなんなのよそれは?」
「おしおき」
「はぁ、で、やっぱりそうなの?」
「……そうだよ、エステラは俺が創ったモンスターだ」
「創ったって、なに? あんたすんごい魔導士とかだったりすんの?」
「魔力はあるらしいからあながち間違いじゃないけどな、どう創ったかは秘密」
「えー? 教えてくれないの?」
「当たり前だ! なんでそうほいほい重要な事を教えなきゃならねーんだよ!」
「まぁそっか、たしかにモンスター創造の魔法とか王国だったら宮廷魔導士に召し抱えられるくらいすごい事だしね」
「そうなのか?」
「そうよ! だって普通の属性魔法だって使える者は限られてるのにさらに基本の五属性以外の魔法が使えるなんてそれだけで希少価値は天井知らず! 各国がこぞって確保と研究に躍起になるくらいなのよ?」
「へー、」
「へーじゃないわよ。歩く天井知らず」
「別に俺、そんなすごいことはしてないけどなぁ」
「そー言われるとあんたってほんとにどこにでもいそうなフツー顔よね」
「喧嘩売ってんのか」
「それは商品にしてないわ、ところで大地、あんたはなんなの?」
「だから人間だって、…たぶんな」
「たぶんって、」
「信じる信じないは勝手だけど、とりあえず敵対しない奴を無差別に殺す趣味は今ンとこ俺にはないよ」
「…わかったわ、じゃあそれを踏まえた上で改めて交渉よ」
「交渉?」
「大地、お願いだから一緒に王都に来て!」
「だからそれは断るって言っただろう」
「いいの? あんた達の知りたいだろう北大陸の情報はまだたくさんあるのよ? そして私はそれを教えてあげられる。ね? 取引しましょ あんた達は情報を、あたしは王都までの安全な旅路を、エステラちゃんがいれば大抵のモンスターや野盗なんて怖くないわ」
「別に絶対お前から情報を聞かないといけないわけじゃないし、なんだったら他の奴を捕まえて聞いたっていい」
「あーもう、じゃあこれでどう? あんたたちが今後もここをしねぐらとして使い続けるなら定期的にあたしが物を売りに来てあげるっていうのは?」
「俺ら金ないのに?」
「動物やモンスターの毛皮とか薬草になる草との物々交換でいいわよ。…たぶん赤字だけど」
「……」
大地はこの提案を受けるかどうか正直なところ迷っていた。たしかにDP以外で物品を手に入れる機会が増えるのは喜ばしい。しかし、ダンジョンのある場所にこの世界の住人が定期的に来ると言うのはそれだけ危険が増すのでは? 安全と物資、両方がはかりにかけられた天秤が傾くのにそう時間はかからなかった。
「…一回だけだ。あとこの場所と俺達の事を他の奴に漏らしたらすぐにエステラがお前の命をもらいに行くからな?」
「それでいいわ、王都までたどり着ければ時間はかかるけど再起は出来るし、そうすればあとは自分で身を守る装備は整えられるから」
「ま、せいぜい頑張れ」
結局、まだ見たこともない品を手にできる機会を逃すのは惜しいと思った大地はメーティアの提案を受け入れ、王都までの道中、護衛をする事を引き受けたのだった。
「…で、その間ダンジョンはどうするんですか大地さん?」
「とりあえず、コアは俺の中に融合させていくから、戻ってくるまでの間の食糧はなんとかしといてもらえるPちゃん?」
「私がやるんですか?」
「Pちゃんならモンスターたちも指示に従うし、なにより、なんかあった時Pちゃんだけなら飛んで逃げられるだろ?」
「まぁそうですけど、それは最悪ダンジョンの放棄も視野の内だと?」
「まだそんなに大きくなってない今くらいしかここを離れて冒険するなんてことできないからな、頼むよ」
「…分かりました。ただし、無事に帰ってきてくださいよ? 自分の担当になった人を一年も持たせられずに死なせてしまったなんて事になるのは勘弁です」
「わかったよ。心配してくれてあんがとな」
「礼は帰ってからしてください」
王都までの旅の支度をしつつ、大地はPちゃんにダンジョンの留守を任せると、次の日、エステラを連れてメーティアとともに王都えと出発するのだった。