第007話「来訪者」
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こっちはいろいろ時間をかけて書いていますので時間がかかりますが、その分楽しんでいただけると嬉しいです。
エステラを作ってから半月ほどが経過し、大地達の生活環境は徐々に整いつつあった。食料問題に関してはエステラがその身体能力を駆使して魚や野生動物を楽に仕留めてくるので、肉には不自由せず、むしろ大地にとっては野菜をどう確保するかに頭を悩ませるほどだった。
住居問題に関しては最初ダンジョン内に草を敷き詰めてベッド代わりにしていたが、最近ではスライムたちを敷き詰めてその上に横になるのが大地にとってマイブームになりつつあった。見た目はあれだが、ウォーターベッドのようでひんやりと心地いい感触と他に適当な代用品が無い事から、現時点でスライムベッドが一番の寝具になっていた。
そうして生きるための最低限の基盤が出来、そろそろDP購入以外でまともなものを手に入れる手段がほしいと大地が思い始めていると、
「ますたー! 外に人間が転がってましたけど、いかがいたしますか?」
「人間?」
「冒険者ですかね?」
「エステラ、人数は?」
「二人ですけど、一人は死んでました。もう一人は息があったので、近くの木に蔓でぐるぐる巻きに縛ってあります」
「……エステラ、そういうのは出来れば縛る前に報告しような?」
「申し訳ありません! 出過ぎた真似とは思ったのですが、ますたーにお見せする前にどこかに行ってもまずいと思いまして、」
「いや、次から注意すればそれで良い。その時の状況にもよるけど、放置しておけばこちらの存在を知られなくて済む場合もあるから、今度からそのあたりをしっかり考えた上で行動できる様になってくれ」
「はい! 分かりましたマスター!」
エステラに軽く注意をしてから大地達はその倒れているという人間のところに行くことにした。
森の中をエステラの案内で進んで行くと、確かに蔓で木にぐるぐる巻きにされたメガネの女性とそのそばに大きな荷物が転がっていた。
どうやら女性はすでに気がついて、なんとか蔓から抜け出そうともがいているようだった。
「ふぬ、この! ぬけろぉー!」
「…手伝おうか?」
「うわぁ! だ、誰!? 盗賊!? あ~最悪だ~、やめて~、お金はあげるから身体だけは、初めてだけは好きな人とさせて~」
「誰が盗賊だ、誰が!」
「え? 違うの? でもあたしのことこんなぐるぐる巻きにしたのはあんた達じゃないの?」
「あーうん、そのことについてはそうなんだけどな、」
「やっぱり盗賊じゃない!! お願いだから慰み者にするのだけは勘弁してー!」
「だから盗賊じゃねーっての!」
「貴様…、下等な人間の分際でますたーを盗賊呼ばわりするなど、死にたいのか?」
「ひ、」
「エステラストップ!」
大地は不穏な空気を放ち始めていたエステラの脳天に軽めのチョップを加え、後ろから掴んで大人しくさせる。
首根っこを掴まれたエステラは借りてきた猫のように大人しくなった。
「いいか、俺らは盗賊じゃないし、別に今は金も欲してない。けど、あんたがそこから出たいって言うんならそうだな…、情報をよこす代わりに解放してやるってのはどうだ?」
「じょ、情報…? なんの?」
「なんでもだよ、えーと、そう、俺らこのあたりに来たばかりで知らない事が多いからさ、な、良いだろ?」
「……ならあたしからもいくつか聞きたい事があるんだけど、それには答えてもらえる?」
「答えずらいことでなければ答えるかもな」
「……いいわ、解放してくれるならある程度の事は教えてあげる」
「よし、交渉成立だ」
相手が条件を飲んだ事で大地はさっそく彼女を蔓の拘束から解放し、話し合いの場を設けることにした。
「まず、あたしからどうしても聞きたいことがあるんだけどいい?」
「なんだ?」
「そっちの娘、人種じゃないわよね? 角あるし、南大陸に居るっていう亜人かなにか?」
「あー、これは、」
「私はますたーにお仕えする者です。それ以外の何者でもありません」
「んーまぁ、そんな感じだ」
「…そ、そうなんだ、まぁ言いたくないなら深くは聞かないわ、じゃあ、あなたの頭の上に乗っているそれはなんなの?」
女性の視線の先には俺の頭をベッドにしてぬくぬくとうずくまるPちゃんがいた。
「これは俺の…、そう、ペットみたいなも、いって!?」
ペットという発言が気に食わなかったのかPちゃんは俺の頭にくちばしをクリーンヒットさせてきた。
「ペットね、あたしもあちこち行商で行ってるけど、見たことないくらい珍しい鳥ね」
「行商?」
「そ、あたし商人なの、最近ようやく独立して馬車も手に入れてこれからって時だったのに、」
「何があったんだ?」
商人だと名乗った女性、メーティアはこれまでの経緯を少しずつ話してくれた。いままで面倒を見てくれていた師匠の元から最近、やっと独立を果たし、行商に必要な馬車を手に入れ、さらに護衛を雇えるくらいの収入を得られるようになったことで、いままで師匠としか言ったことのなかった長距離で商売をしようと考えた。
しかし、その雇った護衛が想像以上に弱く、襲って来た狼型のモンスター、グレイウルフの群れに囲まれてあっさりと一人がやられ、一人は逃げ出し、残ったもう一人はメーティアの馬車に飛び乗って無理矢理馬を走らせて脱出を図ろうとし、それに巻き込まれる形でメーティアともども崖のそばでバランスを崩してそのまま落ちてしまったということだった。
護衛が死んでメーティアが助かった理由はおそらく一緒に落ちた荷物がクッション代わりになったおかげだと現場を発見したエステラの話から推測した。
「はぁ~、せっかく一人でここまで出来るようになったのに、馬車もなくなって積荷もパー、また最初からかぁ…、」
「え~っと、こういう場合なんて言えばいいのかな、が、頑張れ?」
「…特に意味もない応援をもらってもつらいだけなんだけど?」
「ご、ごめん」
「貴様! ますたーが励ましてくださっているのにその態度はなんだ!」
「ひぃ! す、すいません!」
「だからエステラストップ! ハウスさせるぞ?」
「も、申し訳ありませんでしたますたー! 反省しております! ですからどうか御身のおそばに居させてください!!」
「じゃあ、俺が良いというまで口閉じてろ」
大地がそういうととたんに笑顔になったエステラはこくこくと頭を縦に振って大地の隣に座りなおした。
「あー、すまない、うちのエステラは聞き分けは良いんだけど、ちょっと扱いが難しくてな」
「い、いや私の方こそせっかく励ましてくれたのにあんな風に返して嫌な思いをさせちゃったね、ごめん」
「大丈夫、気にしてないよ。じゃ、少し気分を変えて別の話にするか、このあたりって大きい街はあるのか?」
「どれくらいをおおきいと言うのかにもよるけど、私の知っている範囲ではこのあたりで大きい街は2つ、村が4つほどで、ここから徒歩で7日ほど行った所にドラン王国の王都ドラグニスがあるわ、反対の方向に行けば帝国の帝都がって、そういえばあなた出身は? 知ってる場所と知らない場所が分かれば説明しやすいんだけど」
「んーと、それは…」
「(南大陸より遠くから来たとでも言ってください)」
「み、南大陸よりずっと遠くから来たんだ、だからこのあたりの地理は全然で、」
「……そっか、なるほどね」
どうにかメーティアを納得させることに成功したようだ。Pちゃんナイス!
「じゃあ、簡単に説明するけど、この北大陸は主にドラン王国、ガルランド帝国、そして私の故郷ともいえるゼニストリス商人連合国の三大勢力をはじめとしてあとはいくつかの小国が存在しているわ、ここはちょうど王国と帝国の中間地点ってとこね、位置としては少し王国よりだけど」
「そうなのか、て、事はメーティアは王国に行く途中だったのか?」
「そう、商人連合で仕入れた商品を王国で売りさばいて一儲けしてやろうと思ってたのに、あの護衛の使えなさはほんとに計算外だったわ」
「…そういえば、もう一人死体があるって言ってたな、エステラ、死体はどうした?」
「?」
大地の顔を見て笑顔のまま首をかしげるエステラの姿がなんとも愛らし、ってちがあぁぁぁう!!
あ、そうか忘れてた。
「良し、しゃべっていいぞエステラ」
「はい、ますたー! 死んでいた方の人間は飛び散ってたので、まとめておきました」
飛び散ってたって、まあ、確かにこの上の崖からクッションなしで落ちたんならそりゃスプラッターな光景になるのも想像はつくが、正直見たくないな。
「お嬢さん、それどこにあるの?」
「……あちらです」
エステラが指さした方に向かったメーティアはしばらくして両手を血に染めて戻ってきた。
「ただいま~」
「お帰り、埋葬してあげてたのか?」
「いいえ? 依頼料として払ったお金とあいつの手持ちを回収しただけよ。死んだらもういらないでしょ?」
「あ、そういうことか」
道理で妙に早く戻ってきたと思った。
「ところであなたの名前をまだ聞いてなかったんだけど、聞いてもいい?」
あぁ、そういえば名乗るのを忘れていた。
「俺は大地だ」
「そう、なら大地、ものは相談なんだけど、あたしと一緒に王都に行かない?」
王都に?
「なんで俺に?」
「こんな森の中で私みたいな美人を一人にさせるのなんて危険でしょ!」
「そりゃあ、そうかもしれんけど」
「それにどうせあんた達も旅人の身でしょ?」
「いいや? ちゃんとウチがあるしな」
「……どういうこと? 南大陸より遠くからこっちに来たんでしょ?」
あ、ミスった。
ついつい口が滑ってしまった大地はそのあとなんとか誤魔化そうとしたが、一度疑いを持たれてしまったメーティアには何を言っても通用せず、結局ダンジョンへと案内することになるのだった。
現在までのDP使用状況
手持ち1140DP
【モンスター購入】
スライム×6 600DP
残り540DP