第003話「チュートリアル後編」
「次はダンジョンに住まわせるモンスターについてですが、モンスターを手に入れる方法は大きく分けて三つあります。一つ目はシステムを使って相応のDPを払う事でモンスターを購入する方法。二つ目はモンスター同士で繁殖する方法。三つ目はスキル等で捕まえてきて手懐ける方法があります」
「ふむふむ、なるほど」
「まず一つ目の方法は確実にモンスターを入手出来ますが、大地さんの知っているモンスターしか購入リストには表示されないので、手っ取り早く手に入れられる種類を増やしたい場合はシステム購入の中にあるガチャを使ってみるのもいいかもしれません。ただ、ガチャは運試しのギャンブル要素が強いのであまりDPを使い過ぎないように注意が必要です」
「あれ? Pちゃんちょっと聞いていい?」
「どうかしましたか? 大地さん」
「いや、購入にDPが必要なのは理解できるんだけど、なんで購入リストに表示されるのが俺の知り得たモンスターだけなんだろうなって思って、もっと最初から色々なモンスターがリストにあった方がダンジョン運営が楽になるんじゃない?」
「ああ、その理由は簡単です。この世界の神からの制限だからです」
なんだって?
「制限ってどういうことだ?」
「詳しい説明は後回しにしますが、そもそもこの世界を管理している神の許しなく世界の法則ガン無視のこんなシステムを立ち上げるなんて不可能なんです。大地さんだったらどうですか? 自分の家の中に突然知らない人間が現れて勝手に自分の部屋を作り始めるようなものなんですよ?」
「そう言われるとたしかに許しがたいものがあるな」
「でしょ? ですからこっちの神に許可をいただく為にわれわれ眷属がいろいろ制限を設けて一方的な搾取にならないよう契約も結んで、世界を荒廃させない範囲で魔力収集をする了承を時間をかけてようやくもぎ取ったんです」
「苦労してんな~」
「そ~なんですよ、なのにこれだけ苦労して仕事こなしてもうちの神様全然給料上げてくれないんですよぉ~」
神の眷属なのに給料もらってんのかよ…、てか眷属って給料一体何に使うんだ?
「さて、話が脱線しましたが、次に二つ目の方法は、」
「あ、それは大体想像が付くのでまた今度でいいです」
「そうですか? じゃ、すっ飛ばして三つ目のモンスターを捕まえてくる方法についてですが、一番簡単なのは特定のスキルを使用して捕獲するやり方です」
「スキル?」
「はい、この世界で魔法と対をなすもう一つの技能です」
「ゲームで言う特技みたいなものか?」
「その認識で大体あってますね。より正確にはこの世界の専門的な技は全般としてスキルとして分類されています」
「なんかいまいち分かりにくいな」
「まぁ、これからこの世界で生きていくうちに少しずつわかっていくはずですから、その時にまた詳しい説明をしますね。今はモンスターを従えるスキルについて説明します。
モンスターを従えるのには最低でも魔物使いのスキル【キャプチャー】と【テイム】が必要になります。【キャプチャー】は自分より弱いモンスターなら大体捕獲できるスキルで、強力なモンスターが相手でも【キャプチャー】を使用できる人数が多ければ捕獲率は高くなります。
そして、捕まえたモンスターを手懐けるスキルが【テイム】です。これは基本的に一人でしか使用できませんので、当然本人の力量次第で使役できるモンスターの強さも決まってきます。さらに魔物使いが使用できるスキルでより上位のものになると捕獲と手懐けの両方が一度にできる【ドミネーション】なんてのもありますけど、今は使えませんし、大地さんが魔物使いのスキルでそれを手に入れられたらまた詳しい説明をすることにしましょう」
「そっか、なぁPちゃん、モンスターを捕まえる一番簡単な方法はスキルを使うことだって言ってたけど、スキル以外にも捕まえる方法ってあるの?」
「あるにはありますが、どの方法にしてもあまり現実的ではないですね」
「どんな?」
「ただ捕まえてくるだけなら何もスキルを使わずとも道具なり、人数を揃えるなりして捕まえればいいわけですが、それだとせいぜい閉じ込めておくか、魔導具で無理矢理いう事を聞かせる方法しかありませんし、あとは、絶対的な実力差をモンスターに見せつけた上で上下関係を構築し、従わせるといった手法がありますね。それ以外にも、極稀にですがスキルや魔導具を使わずになんらかの形でモンスターとの信頼関係を構築してパートナーとしている冒険者の存在も確認されてます」
「へぇ、捕まえるにしても色々やり方があるんだな」
「大地さんの場合、まずは堅実にDP購入で数を増やすことをお勧めしますけどね」
「そうだな、捕まえに行くのはいずれまたにするとして、とりあえず今はモンスターの購入リストを…、ん?」
「どうしました大地さん?」
「いや、モンスターのアイコンをタッチして購入リストを開こうとしたら購入・ガチャの下にもう一つ項目が出てるんだけど、この『クリエイト』ってなに?」
「んん? あー、そっか、もう実装されたんだ」
「実装された?」
「あぁ、すいません大地さん。まだこのシステム絶賛調整中&拡張中なので、新しいシステムとかがこうして不定期で追加されたりしてるんです。それは前々から追加が予定されていた機能なんですけど、思ったよりもはやく実装されたみたいです」
本気でまんまゲームシステムだなこれ。
「じゃあついでですし、クリエイトについてもご説明しましょう」
「お、説明できるんだ」
「当然です。こうみえても私はこのシステムの開発チームの一員なんですよ!」
Pちゃんは両方の翼を腰に回し、踏ん反りかえっている。…くちばしでなかったら絶対ドヤ顔してるんだろうな。
「クリエイトは他のモンスターと違い、ダンジョンマスターである大地さんがご自身の手で自由にモンスターを作り上げられるシステムです」
「え!? それってキメラみたいなのを作ったりできるって事?」
「やってできなくはないですが、他と違ってこのクリエイトはモンスターを作るのに大量のDPを消費します。調子に乗っていろいろ追加し過ぎると、あっという間にDPを使い果たすことになってしまいますよ?」
「う、そうなのか、…ちなみにどれくらい?」
「購入で一番安いスライムやゴブリンが100DPなのに対してクリエイトでは最低でも5000DPは必要になります」
「たっか! ザコモンスターの50倍!?」
「ですが、その分ザコモンスターよりは大分強いですよ。成長も早いですから、いずれ先を見据えて先行投資として作るのもありかもしれません」
「……確かにそうかもな、ま、今は無理だけど、」
「ですね、とりあえず今回は無難にゴブリンとスライムを数匹ずつ召喚でいいんじゃないですか?」
「オッケー、じゃ各五体ずつ召喚っと、」
召喚数を設定し、モンスターのアイコンをタッチしすると、目の前に魔方陣が出現して光の中からゴブリンとスライムが五体ずつ現れた。
「ぐあ、げお」
「・・・・・・、」
…召喚したはいいけど、ゴブリン達は解読不能の言語、というより鳴き声みたいな声を上げ、スライムに至ってはイメージ道理と言うかなんというか、言葉など一切話さず、なめくじの様にのろのろと辺りを徘徊している。
「Pちゃん、こいつらって襲ってきたりはしないよな?」
「システムで召喚されたモンスターは支配が効いていますから、ダンジョンマスターやその仲間は絶対に襲わないようになってます」
「会話っていうか、意思疎通は?」
「モンスターと直接話をするためには要スキル必須ですね」
「必須のスキルってどんな?」
「そこは自分で調べてください。なんでも私たちに頼り切りだと大地さん自身がダンジョンマスターとして成長できませんよ?」
ごもっとも、
「とはいえせめて指示通りに動いてくれればいいけど…、よし、試してみるか」
大地はひとまずモンスター達が自分の言う事を理解して従ってくれるかどうかを試すことにし、手近なゴブリンにゆっくりと近づいてそっとゴブリンに声をかけた。
「おーい、こっち来てここに座ってくれるか?」
「がっ? ぐがっ!」
たったったっ、すとんっ
どうなるか不安だったが、思いのほか素直に指示通りゴブリンが動いてくれたのを見て、大地はもう二、三回似たような指示を出し、スライムでも同じように試してモンスター達がこちらの思い通りに動いてくれる事を確認した。
「よし、ゴブリンもスライムも指示すれば言うとおりに動いてくれる」
「おめでとうございます」
「でも何言ってるのかは早くわかるようになりたいな」
「じゃあヒントだけ教えてあげます。モンスターにはたくさんの種類がありますが、大別とするとそんなに彼らの言語の種類は多くありません」
「…? それってどういう事?」
「ゴブリンや獣人系のモンスターなら全て亜人言語スキル、鳥や獣系のモンスターなら全て鳥獣言語スキルといった具合で一つ覚えれば複数の種族との会話が可能になっていきます」
「てことはその亜人種スキルを手に入れればゴブリンの言葉は分かるわけか」
「そういう事です。スキルの取得についてはご自分で考えてくださいね」
「わかったよPちゃん」
ひとまず明かり、トラップ、モンスターとダンジョンとして最低限の配置を終了したことによって大地のダンション作りは次の段階へと進んでいくのだった。