第002話「チュートリアル前編」
ドスンッ
「~ッ、いって~!」
神様と別れ、真っ白な空間に入ったと思ったら、今度は真っ暗な空間に放り出された。突然足元から落とされたのでうまく受け身が取れず、尻もちをつく形となってしまい、痛い思いをした。
「ここが神様の言ってた現地なのか?」
見た限り真っ暗な闇が広がっているだけで、夜なのか閉鎖空間なのか全くわからない。
「わっ!」
とりあえず大きな声を出して周りに反響するかどうか試してみた。ここがもし開けた場所なら音はそのまま広がり、閉鎖空間なら音は反響するはずだ。そして試してみた結果、かなり音が反響してきたことから、どうやらここは閉鎖空間らしいことが分かった。
さて、閉鎖空間というは分かったけど、こう暗いと何も見えない。普通数分くらい真っ暗なとこにいれば夜目がきくはずなんだけど、全然見えない。よっぽど光がない空間なのか?
暗闇の中、考え込んでいるとふいに頭が少し重くなった気がした。…いや、気じゃない。確実に重いぞ、感覚的に何かが乗っかっているような、
「あのー、ダンジョンマスターさんですよね?」
!?
頭の上に手を伸ばそうとしていきなりそんな言葉を投げかけられた。
「誰だ? どこに居る?」
「あなたの頭の上ですよ」
「頭の上?」
そう言われて上を向こうと俺は頭を上げる。すると、
「きゃ、落ちる落ちる!」
「いててててて!」
何か鋭いモノが俺の髪と一部頭皮をがっちりと挟み込んで地味に痛い。さっきの重みが原因なのは明らかだ。俺は慌てて頭の上にある重みを取ろうと手を伸ばすが、そうすると今度はパッと鋭いモノに挟まれていた痛みがなくなり、代わりにパタパタと鳥がはばたくような音が一瞬聞こえて重さが消えた。
「もー、レディをいきなり掴もうだなんて、とんだ変態さんですね」
「え? どういうこと? 暗くて何にも見えないから何がなんだか全然なんだけど、」
「暗いからって許されるというものではないですよ? でもいいでしょう、今回は許してあげます」
なんか知らんが、勝手に変態扱いされて勝手に許された。
「とはいえ、確かにお互いが見えないと話しづらいですね。……これでどうですか?」
突然目の前にぴかーっと光が出現し、暗さに慣れていた俺の視界に強烈に突き刺さった。
「ぎゃー! 目、目が、目がアァー!」
「・・・・そこまで強い光を出した覚えはないんですが、」
「いや、ついやってみたくなって、あと眩しかったのは事実だし」
「なにがつい、なんですか?」
「気にしないでくれ、それよりさっきからあんたどこに居るんだ?」
「どこってここですよ、ここ!」
「ここって…、」
声のする方向を見ても先ほど出現した小さい光の塊しか存在せず、周りには人の影も形もどこにも見当たらない。
「明かりしか見えないけど、もしかして隠れてんのか?」
「明かりしかって…、あーそういうことですか、じゃあ見えやすくしてあげましょう」
声の主がそういうと光の塊の光量が徐々に落ちていき、塊の輪郭がくっきりとわかるようになった。そうして見えてきた形は…、
「…ひよこ?」
光の中に居たのは黄色いデフォルメされたひよこみたいな鳥だった。
「違います。私はあなたの手伝いをするために神より使わされた眷属のピーポ・プライアス・ポポ・マリネです」
「ぴーぽ…、なんだって?」
「ピーポ・プライアス・ポポ・マリネです。言いにくいのであればPちゃんで構いませんよ」
見た目がそれっぽいだけに一気にマスコット臭い名前になったな、ほんとに神の眷属なのか? 実はどっかのご当地キャラだったりして…、
「ところであなたのお名前をまだ聞かされていませんので教えてもらっても良いですか?」
「あ、そうか、自己紹介してなかったな、改めまして、俺は天海 大地だ」
「じゃあ大地さんとお呼びしても良いですか?」
「ああ、それでいいよPちゃん」
「わかりました大地さん。 ではさっそくダンジョン作りの説明に入りたいんですがよろしいですか?」
「うん、お願いします」
「それでは始めさせていただきます。まず、ダンジョンを作る上でもっとも重要となるのはDP、『ダンジョンポイント』です」
「ダンジョンポイント?」
「そうです。これはダンジョンが集めた魔力を神様に送る分とダンジョンで使う分に分けて、ダンジョンで使う分の魔力を数値として分かりやすくしたものなんです」
「ダンジョンが魔力を集めるのか?」
「それについても説明しますからちょっと待ってください。それで、このDPは主にダンジョンを拡張したり、作り変えたり、防衛用の仕掛けを作ったりするのに使われます」
ふむふむ、ここまで聞いた限り、なんというか拠点防衛型のゲームみたいな感じだな。
「さらに手駒となるモンスターや自身で使う魔法・スキルなどもDPを使って得ることが可能です」
「え、あるの魔法? てか俺でも魔法って使えるの?」
「使えますよ。この世界に入った時点で大地さんにもこちらの世界の法則が適用されていますから、当然魔法もそのほかの技術も努力次第で取得可能です」
おお、こりゃこの世界での楽しみが出来たな。魔法かぁ、メ〇とかホ〇ミとか使えるようになるかなぁ?
「じゃ、実際にちょっと基本的なダンジョン作りから始めましょうか」
「あ、うん、…て、何から始めればいいんだ? 穴でも掘るの?」
「別に身体を動かしたいのであればそういうやり方でもいいですが、今回は私たちが用意したシステムを使ってみてください」
「システムって?」
「大地さん、ウィンドウオープンっと言ってください」
「? ウィンドウオープン」
Pちゃんに言われるまま、俺はその通りにすると目の前に半透明で未来的な感じの画面が出現した。
「おお、すげー、空中投影型のディスプレイ画面だ」
「魔力で写し出してるので大地さんの世界のモノとは少し原理が異なりますけどね。さ、その画面にちょっと触れてみてください」
「分かった」
おそるおそる俺は画面に手をかざし、触れてみる。直接触るというよりは半透明な存在に少しだけ指を差し込むといった感じで、触れている部分から波紋のように画面全体に光が広がって行った。そして光が画面を覆うと、日本語で『ダンジョン』『モンスター』『ショップ/各種ガチャ』『オークション』『達成目標』『所持アイテム一覧』の六つの項目が出て来た。
「・・・なんていうか、ゲームっぽいな」
「…これには理由がありまして、志願者の方々がダンジョンを始めた当初は手作業と魔法でダンジョンを作ってたんですが、それだと手間はかかるわ、管理しづらいわで、侵入者の把握も一苦労と言った有様だったんです。そのせいですぐ侵入者に倒されてしまう方が後を絶たず、私達眷属はどうすれば転生して来た方達が効率よくダンジョンを維持・運営しやすいか? で、連日寝る間も惜しんで会議や試作・実験を重ねていき、それによって出た結論が今の地球人類の大半が接しやすいゲーム形式にするというものでした」
「それでこんなソシャゲみたいな仕様になったのか」
「はい、近年のゲーム事情をリサーチして、できるだけ多くの方が親しみやすい形式にしようとした結果です。その甲斐もあって今では以前に比べ、ダンジョンが攻略される頻度はかなり抑えられるようになったんですよ」
「ふ~ん、なるほどな。で、ダンジョンを作るにはこの『ダンジョン』の項目を押せばいいのか?」
「はい、そうです」
Pちゃんに確認を取った俺はそのまま項目を軽くタッチする感じで触れる。すると画面が変わり、中央にマップのようなもの表示され、左右には色々なマークのアイコンが出現した。
「大地さん、このマップ上で光っているのが私たちです」
「これか」
Pちゃんが翼で画面の真ん中を器用に指し示すさきに青い光点が二つ映し出されていた。
「まず、この暗い部屋をどうにかしましょう。大地さん、画面横の一番上のアイコンを押してください」
「はいよ」ぽちっとな、
アイコンをタッチすると『設置可能アイテム』と書かれた項目が現れ、ずらっと何かのリストが下に並んだ。
「この発光石プレートをマップの四方に設置しましょう」
「これ? なんかm/10DPって書いてあるけど、」
「あぁ、これは1m×1m分の発光石のプレート毎に10DP必要って事です」
「今手持ちのDPっていくらあるの?」
「画面の右上に表示されてますよ」
あ、本当だ。 今は5000DPか、多いのか少ないのか微妙にわかんないな、
「とりあえず、無駄遣いせずに1m×1mでいいと思いますよ」
「そうだな、」
Pちゃん説明を聞きながら俺は明かりを設置し、さらに俺達が今居る空間から外に繋がる通路までの間に等間隔で電球サイズの発光石〈ミニ〉1個2DPを10設置した。設置と言っても目の前に出現しているディスプレイ画面を操作してブロック状に表示されている各アイテムを設置したい場所に動かし、決定のアイコンを押すだけなのでとても簡単だった。そして設置したことで分かったことだが、どうやらここは小さな洞窟で、入り組んではいるみたいだが一本道で行き止まりの構造だった。洞窟全体が明るくなったことで構造が良くわかり、自分が立っている場所をはっきりと確認できた。
「それじゃあ明るくなったところで、次のステップに進みましょう」
「次ってどんな事をするんだ?」
「んーそうですねぇ、大地さん、トラップとモンスターならどっちがいいですか?」
あー、なるほど、次はダンジョンの防衛に関してか、なら、
「トラップを先に設置してみたいな」
「分かりました。ではトラップの説明を先にします。さっき出したディスプレイの『ダンジョン』の項目からトラップのリストを開いてください」
「これか、」
画面から『トラップ』と書かれたアイコンをタッチするとリスト出現し、その中には、
・落とし穴 50DP
・飛び出す槍 100DP
・つり天井 150DP
の三つが表示されていた。それより下にもたくさんのトラップ名は続いていたが、すべて字が伏せられ、タッチも出来ないように×印が付いていた。
「これって下のやつはまだ使えないのか?」
「はい、まだダンジョンマスターとしての大地さんのレベルが低いので最初はこれくらいしか使えませんが、レベルが上がればもっといろんな種類のトラップや設備も使えるようになります」
「そっか、ま、使えるモノがあるだけマシか。じゃさっそく落とし穴から順に入口付近に設置したいからPちゃん、やり方教えてくれ」
「はい、分かりました」
Pちゃんの丁寧な説明のおかげで、トラップの設置も問題なく完了し、落とし穴を三個、飛び出す槍を二個、つり天井を一個設置した。無事にトラップ設置が終了し、次はいよいよお待ちかねのモンスター配置だ。