第014話「勇者VSスライム2」
修正2
水野と大地が勇者撃退の策を準備していた頃、スライム達を倒しながら、ダンジョン内を進んでいたクロライト達は、下へと続く階段を発見していた。
「ここから先は二階層ってことか、」
「事前に調べた情報だと、このダンジョンで確認されている階層は全部で四階層、うち四階層目については階段を確認したという事実だけで、四階層目の情報についてははっきりと確認できたものはありませんでした」
「なんで確認できなかったんだ?」
「階段を確認した冒険者チームは三階層を踏波するまでに装備の大半を消費しており、戻る分の余力を考えて四階層には下りなかったそうです」
「ま、しょせんこのダンジョンに来るのはかけだしの冒険者がほとんどだからな、ベテランや中堅冒険者達からすればスライム種しか出ないダンジョンなんて狩場としての魅力もないし、マジになって攻略しても自慢にもならんし、むしろヘタすれば笑い話のタネにされちまうからな」
「おまけにベテランの冒険者だってダンジョン攻略はそこそこ命の危険を伴うしね。三階層までたどり着けただけでも運がよかったんじゃないの? そのチーム」
「とにかく、次の二階層と三階層までは情報がきちんとありますからそれを頭に入れた上で対処してください。いいですね皆さん?」
「ちょっと待てリーゼ、さっきのスライムの大軍が押し寄せてくるのとかは情報になかったのか?」
「……天井に張り付いていたのに関しては情報がなかったわけではないですが、あれは一切聞いていません」
「ま、あの数を捌いて逃げられる奴はそういないだろうしな、遭遇した奴は多分全員死んだんだろうな」
「やっぱり旦那もそう思う?」
「クロライトのスキルとリーゼ達の魔法が一緒になってようやく倒し切れる数だからな、ふつうの冒険者じゃ途中で力尽きるか、スライムに飲み込まれて一巻の終わりだろう」
「そう考えるとよく俺ら助かったな」
「勇者であるクロが言うと一層こわいよ。スライムってこんな危険なモンスターだったけ?」
「……どんなものでも群れれば脅威となるのは一緒だ。モンスターしかり、人間しかり、」
「ゼグの言うとおりだ、ここから先も油断せずに行こう」
そう気を取り直してクロライト達が階段を下りると、そこはいままでの入り組んだ迷宮ではなく、大きなトンネルになった一本道だった。
「ずいぶんと広い道だな」
「気を付けろクロ、広い道って事はデカイ敵も出て来やすいってことだからな?」
「わかってるよラルフ」
「どうだか」
探索者としてトラップを警戒しながら先頭を進み始めたラルフはそう思いながら前に進もうとして、直後になにかやわらかいモノにぶつかった。
「んぶっ! なんっ、!っ、 ひっついて!」
「ラルフ!」
「どうした! ってこれは…、まさか!?」
「……ビッグスライムだ」
暗い洞窟でなおかつ体色が透明なスライムであったがため、発見が遅れたのは仕方がない事と言えよう。しかもそれが広い通路を埋め尽くすほどのサイズを有するビッグアクアスライムであり、なんとなく気配を感じていたゼグやラルフが相手との距離感を間違えてしまったこともこの状況作り出した要因と言えた。
「クロライト様! ラルフさんが!」
「分かってる」
ビッグスライムの体内に徐々に引きずり込まれようとしているラルフをクロライトはすかさず剣でスライムの部分だけ切り裂き、助け出した。
「ラルフ! 生きてるか!?」
「……うっ、げほっげほっ! ……最悪の気分だけどなんとか、」
「クロライト! 一度階段まで下がるぞ!」
「……援護する、さっさとラルフを連れて行け」
「ありがとうゼグ」
ゼグが火の魔法を放つことでビッグスライムは行く手を阻まれ、その間にクロライト達はビッグスライムと距離を取る事に成功した。
「よし、仕切り直しだ」
「今度は私も魔法で援護します」
「クロライト、ビッグスライムは飛び散った一部もある程度の大きさまでは本体に戻ろうとしたり、単体で襲い掛かってくることがあるから注意しろ」
「あぁ、わかった。行くぞ皆!」
勇者の合図でパーティが一気に勢いづいたその時、周囲の状況が変化した。極めて濃い煙のようなものがいくつも通路の奥から一固まりずつで現れ、次第に数を増やしながら、クロライトたちの周囲を覆っていった。
「ダンジョンの中で、煙?」
「……いや、煙じゃない! ミストスライムだ! この煙みたいなのはミストスライムの身体の一部だ! 吸い込んだら最後、窒息する!」
ラルフの言葉でパーティ全員に緊張が走る。
「マジ!?」
「まずいぞ! もうほとんど囲まれる!」
「クロライト様、この布で口元を、」
リーゼが自分の持っていた布を手渡そうとしてクロライトがそれを取ろうとすると、いきなり布は裂けて使い物にならなくなった。
「な!?」
「勇者一行の皆さま御機嫌よう、会ってそうそうですが、死んでください」
ずたずたになった布に驚いたクロライトが背後からした声に振り返ると、銀髪の少女が自分めがけて襲い掛かってきていた。
向かってくる少女の拳をとっさにガードしようとしてクロライトは腕を上げたが、受け止めたと同時に彼は大きく体勢を崩された。
「重!?」
「終わりです」
「……させん」
体勢を崩されて無防備になっていたクロライトに銀髪少女はとどめを刺そうとしたが、次の瞬間、少女が直前までたっていた場所にゼグの魔法が殺到し、間一髪でクロライトは助かった。
「なんだあの少女!?」
「クロライトを一撃でふっ飛ばした!?」
「皆さん! 気を付けてください! 一見女の子のような姿をしていますが、あの者は人間ではありません!」
「何かわかったのか? リーゼ」
「あの黒い魔力の波動、間違いありません。あの少女の姿をした者はモンスターです」
「モンスターだと!?」
「全然人間に見えるぞ?」
「……ますたーの予定通りなら、もう少し混乱させるためにこのまま戦う予定でしたが、バレてしまったのならば隠す意味はありませんね」
銀髪少女はそう言うと頭に巻いた布を外し、それと同時に背中から黒い羽根が一対出現させた。その姿はさながら…、
「あ、悪魔…?」
「『スライム魔窟』に悪魔種だと……、」
「我が主の命により、低位悪魔エステラ、あなた方のお相手をさせていただきます」
エステラと勇者の戦いが始まった。
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その頃、大地と水野は状況によってスライムやエステラに指示を出しやすくする為、少し離れた場所から勇者やエステラ達の様子をうかがっていた。
「スライムもエステラの正体もいきなりバレてるけど大丈夫なのか?」
「まだまだこれからだって、ミストスライムはその名の通り霧状の身体と微細なコアのおかげで物理的に倒すのは困難なモンスターだ。やつらが少しでも吸いこめば肺にミストスライムの身体がまとわりついて呼吸困難に、」
「火炎魔法【フレイムストーム】」
ぼおぉぉぉぉぉ!
水野がドヤ顔でミストスライムの説明をしていると鎧を着た大柄の魔法使いが火の魔法を使い、次々にミストスライムを焼き尽くしていった。
「燃やされてますけど」
「くそ! けどまだビッグスライムが、」
「光魔法【ホーリーライトボール】」
僧侶の放ったまばゆい光の魔法が一つ命中する毎にビッグスライムはぶるぶると身体を振るわせ、次第にその巨体が溶け始めた。
「溶けてますけど」
「ひ、光魔法の一部はスライムなんかの雑魚モンスターには効果あるからな、」
「だめじゃん」
「ま、まだだ! まだ切り札のポイズンスライムが!」
「みんな! ポイズンスライムが居るぞ、隙を見て万能薬飲んどけよ」
「わかった! ラルフも飲み忘れるなよ!」
「万能薬って毒にも効くの?」
「……プラス数時間は大抵の麻痺や麻酔なんかの直接的な物以外の毒物も無効化する」
「準備万端だなぁ、さすが勇者パーティー」
「この~、いいぜ、こうなったらウチのダンジョンのボスを見せてやる!」
「おー、どんなの?」
「ふっふっふっ、いでよ! ボススライム!!!」
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エステラとスライム達VS勇者の戦いが始まってから勇者はエステラと、他の仲間達は勇者のサポートや周りにいるスライム達の排除をメインに戦っていた。
「見た目が女の子でももう油断しない!」
「あら、油断しなくも勝てませんからお好きにどうぞ」
「クロライト様!」
「リーゼ、右からまたポイズンスライムだ、手伝ってくれ!」
「……左は任せろ。いくぞラルフ」
「はいよ」
それぞれが拮抗した戦いをしていると、そこに新たな乱入者が現れた。
「なんだこいつ、これもスライムか?」
「教会の書物でもこんなモンスターは見た覚えがありません」
ダースト達の前に現れたそれは、人間ほどのサイズで青いボディをし、きれいな水晶玉を思わせるような球の形をしていた。
「油断するなよリーゼ、一気に叩くから援護してくれ」
「はい、まかせ、」 ボッ
ダーストに返事をしようとした瞬間、リーゼの身体はくの字型に折れ、後方へと向かって飛ばされた。
「リーゼ! ぐあ!」
突然やられた仲間の方に気を取られていたダーストは相手からの攻撃への対処が一瞬遅れ、剣で受け止めはしたが、肩を大きくやられてしまった。
「なんだあの玉っころ?!」
「……おそらくあのスライムと思われるモンスター、魔法を使っている」
「スライムごときが魔法を!?」
「強力な個体になると稀に魔力を多く溜めこみ、魔法を用いる奴も出てくる。おそらくあれはその中でもそこそこ魔力が高い」
「やばいじゃん! それにダーストとリーゼが」
「ここは私が抑えるからリーゼとダーストを助けに行け、リーゼの応急処置が終わったら、一度引くぞ」
「わかった!」
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「どーだスフィアスライムの力は! いままで魔力を持った道具や石なんかをこつこつ食わせてようやく進化したうちの隠し玉だ!」
「玉だけに?」
「そこ! 揚げ足取らない!」
「でも魔法使えるスライムとかすごいな」
「あぁ、今スフィアスライムが使った水魔法【ウォーターランス】は魔力で作った水を高圧で打ち出す代物なんだけど、ちょこっと手を加えて凶悪にしてある」
「手を加える?」
「魔法で打ち出す水に微細な石を大量に入れてるんだよ。そうすると水だけの時より、破壊力が増すんだ」
「うわ~、えげつな~」
「人んちにずかずか入り込む連中に遠慮する気は毛頭ないからな。友好的な目的の奴以外には当然の対応だろ」
「ま、俺も襲われれば同じ対応するだろうから文句を言うつもりもないけどな」
「とりあえず、スフィアとエステラちゃんでケリが付けばあとはスライム達が死体も食ってくれるし作戦も無事終りょ、」
「くあっ!」
戦いの様子を見守っていた大地たちが優勢だと思った次の瞬間、勇者と戦っていたエステラが吹き飛ばされ、勇者に変化が起こった。
「もっちー、このパターン、なんかやな予感するんだけど、」
「ああ、俺もだ」