第013話「勇者VSスライム1」
ちょっと先の展開上どうしてもごまかしようのない矛盾が生じてしまったので、修正した話に差し替えます。
「ちょっと待てもっちー、勇者ってチートだったりハーレムだったりして無駄に恵まれた環境とか才能を振りかざして敵対するヤツを倒していくあの勇者?」
「そうその勇者」
「なんでいきなりそんなもんが来てんだ! てかもっちー、ずっと奥に居たのによくわかったな」
「ダンジョン内に入って来た奴は自分のウィンドウでダンジョンマップを開けばわかるんだよ、他にも色々方法はあるけど、ともかく侵入者の反応があったんで確認したら、なぜかここ最近ドラン王国で名が売れ始めてた勇者パーティーがここに来てたんだよ」
「もしかして俺を追っかけて?」
「いや、いくらなんでもあの一件からここにたどり着いたとは考えづらい。俺が仕入れた情報だとあの勇者は普段王都の周りを活動範囲にしているハズだけど、正直なんでここに来たのかよくわからん」
「理由はともかくどうするんだ? もっちー」
「……悪いけど大地、二階層程下に移動してくれ、さすがに最奥部までは案内出来ないけど、ここよりは安全だ」
―――なるほど、家具があるからこの近くが一番奥かな? なんて思ったりしたけど、やっぱりまだまだ先があったか。そうだよな、いきなり招いた客をもっとも大事なところまで案内するハズが無いよな。
水野に誘導されて大地とエステラが通路を進んでいると、先ほどの勇者来襲で水野になにか指示を受けてパタパタと飛んで行ったDちゃんが戻って来た。
「もっちー、指示通りにしたわよ」
「よし、Dちゃん、一階層のスライムたちは?」
「とっくに配置完了よ」
「二階層のアシッドとポイズン、あとミストスライムは?」
「それぞれ言われた通りの位置に動く様指示してきたわ」
「残りも大丈夫か?」
「言われた通り三階層に行く階段手前に集合するように言ってあるわよ」
「よし、じゃあ始めるか、勇者との戦いを!」
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「クロライト様、いくらこのダンジョンがスライムしかいないと言っても油断しないでくださいね」
「そうだぜクロライト、お前はまだまだ防御が甘いから気を付けろよ」
「ダーストもリーゼも心配性だなぁ、大丈夫だよ。いくらダンジョンの中だからってスライムに遅れを取ったりはしないよ」
「……そういう事はダーストとの訓練で一度でも無傷で一本取ってから言った方がいい」
「そうそう、クロはいつも肝心なとこで油断するからねー」
「ハハッ、違いない」
「ラルフ! 誰が油断してるって? お前だっていつも正面の敵に気を取られ過ぎて脇がおろそかになってることがあるだろ!」
「ふっ、俺はそれすらも演技なのだ」
「ぜってー嘘だ」
「おい二人とも、おしゃべりはそこまでだ、次が来たぞ」
現在ドラン王国が認定している勇者は5人、その中でも近年魔物との戦闘が増加する王国内で頭角を現してきた勇者が居た。彼の名は勇者クロライト、彼は日頃王都周辺に出没するモンスターを相手にすることで研鑽を積んでいたが、数日前にドラン王国から直々にある依頼を受けたことで、彼らは大地たちが居るこのスライム魔窟へと赴き、足を踏み入れていた。
クロライトには仲間の戦士ダースト、僧侶リーズ、鎧の魔法使いゼグ、探索者ラルフの4人が付いていて、クロライトを含め計5名のパーティで行動し、ダンジョンに入ると散発的に襲いかかって来たノーマルスライム達を相手に、クロライト達は剣でスライムを一刀両断したり、火や風の魔法で焼いたり切り裂いたりして瞬く間に倒していった。
「しっかしダンジョンに入ったばかりとはいえ、いまのとこ出て来たのは全部ノーマルなスライムばっかだな。これじゃ王都周辺に出るモンスター共の方が全然強いぞ」
「ほらクロライト様、油断はいけませんよ。いきなり強力なモンスターが出てくるかもしれないんですから、特にダンジョンはそういう事が多いと聞きますし」
「たしかにな、だが、クロライトの言う通りこうノーマルスライムばかりだと拍子抜けするな」
「……相手がなんだろうと私は仕事をこなすだけだ」
クロライトと仲間達がドラン王国から受けた依頼、それは『スライム魔窟』を完全攻略し、危険なモンスターを生み出すダンジョンを完全に掌握せよ、というものだった。
「けど、本当にいいのかねぇ? このダンジョンって駆け出しの冒険者が自己鍛錬するのにも活用してる便利な場所なんだろ?」
「その理由とともに王国もスライムしか出ないダンジョンだからこそ、脅威度は低いと判断して放置してたようですが、どうも最近他で確認されているダンジョンのモンスターが強力になっていく傾向にあるらしいので、王国は「ならばいまだにスライム種しか出現しないこのダンジョンを利用して少しでもダンジョンの秘密を探ってやろう」という腹積もりのようです」
「リーゼ、それって教会からの情報?」
「さあ? 私はそういう噂があると聞いただけですのでなにも知りません」
僧侶であるリーゼはしれっとした顔でそんなこと言った。
「だとしても、いまだにわからない事が多いダンジョンを完全に掌握せよって王国も無茶言うよなぁ」
「それだけクロの力を信頼してるって事じゃないの? 仮にも王国が認定した勇者なんだし」
「王国の認定って言ってもせいぜい国の中で普通の奴じゃ何十人集まっても倒せない危険なモンスターを複数討伐したとか、大勢の人間がかかわる争いを未然に止めたとかすれば誰でももらえる物だしなぁ、」
「わぁーお、しれっと自分は優れてる発言しやがったよこの勇者」
「そんなのより俺は複数ヵ国から認定された者だけがもらえる世界勇者認定証こそほしいと思ってるんだ」
「世界勇者認定証かぁ、たしか一国が発行する勇者認定証よりも多くの特権が与えられるんだっけ?」
「そうだぜラルフ、国毎の勇者認定証は与えられる特権や活動支援なんかがまちまちなのに対して世界勇者認定証はすべての国でほぼ同じだけの特権と活動支援を得られる事ができるんだ!」
「おお、って事はそれがあればどんな高級宿でも泊まり放題?」
「そんなの序の口だ! それさえあればいままで手が届かなかった装備だって手に入るかもしれないし、入りたかったあんな店やこんな店にだって行き放題に!」
「ストップですクロライト様、あまり神職にある私の前でそんな俗にまみれた発言をしないでください。世界勇者認定証は世界各地に力を持った救い主である勇者様を平等に派遣できるようにする為に教皇様と各国の王族の方々が長い年月をかけて作り出した素晴らしい仕組みなんですからね!」
「えー、でもせっかく特権を与えられてもらったんだったら使わないとくれた方にも悪い気が、」
「一国の認定証と違って世界認定証は教会が定めたはるかに厳しい認定基準がありますから今のままのクロライト様であれば確実に対象外ですね。さあ、関係ないので忘れましょう」
「マジで!? 基準ってどんなの!?」
「知っていたとしても私が教えると思いますか? というか今私たちはここになにしにきてましたか? 今ないモノに思いを馳せる暇があるなら目先の仕事をしっかりしたらどうですか?」怖いくらいにっこり
「すいませんでした。真面目に仕事します」(こえぇ~!)
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勇者クロライトの煩悩をリーゼが抑え込んでいる頃、 ダンジョンマスターである水野は、クロライト達を迎撃する為の準備を着々と進めていた。
ダンジョンを操るためにシステムを操作する水野の片手にはガラス板のようなものが握られており、そこにはガラス版の部分にタブレット端末のように勇者達の映像が映し出されていた。
「突っ込ませたスライム達はほぼ全滅か、やっぱ勇者っつーくらいだから普通の冒険者よりはやるな、けど、まだまだここからだ。俺のスライム魔窟の、スライムの恐怖を教えてやる」
水野はそんな言葉をつぶやきながら、クロライト達を迎撃するための次なる一手を投じた。
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「……スライムこなくなったな」
「もしかしてもう全滅しちまったとかって事はないよな?」
「まさか。数えていたわけではないですが、まだ50体も倒していないはずですよ? ダンジョンのモンスターがその程度の数しかいないなんてことは、」
「……静かにしろ、なにか気配がする」
「ゼグ、たしかか?」
「ああ、近くに何かがいる」
「なら俺に任せろ。スキル【フィールドサーチ】!」
ダーストがスキルを発動し、周囲の一定範囲内に存在する生物の正確な位置を確認した。
「まずい! 上だ!」
ダーストの言葉で四人が上を見ると、天井の岩肌に擬態して張り付いている無数のスライムがいた。
「んな、何体居るんだ?」
「わ! 落ちて来た!?」
クロライト達が気づいたとたんバスケットボールサイズのスライムが天井からぼたぼたと落下を始め、直撃を受けないようにクロライト達は落下するスライムを回避しながら、盾で受け、時には切り裂いてやり過ごそうとした。
「ち、数が多い!」
「クロライト! スライムを顔に受けるんじゃねぇぞ、ヘタしたら助ける前に息が出来なくなってあの世行きだぞ!」
「皆さん私の近くへ! 結界魔法を発動します!」
「よし、頼むぞリーゼ!」
魔法の発動準備を整えたリーゼは、四人が傍に来たのを確認すると、結界魔法を展開させた。
「光魔法【ホーリーライトウォール】!」
リーゼが結界魔法が発動すると、半透明で薄光色の壁が出現し、リーゼを中心にしてクロライト達を円錐型に包み込んだ。そしてその結界の周囲に落下したスライムたちは結界に向かって次々に突撃を開始したが、スライムが結界に触れると、たちどころにそのスライムボディは燃えたがり、スライムたちは結界に焼かれて内部へと侵入することは出来なかった。
「おぉ、いいぞリーゼ、このままあいつらが自滅するまで結界で待とう」
「……すいません、私この魔法の扱いにまだ慣れてなくて、あとちょっとしか持たないです」
「え? あとちょっとってどれくらい?」
「もう消えます」
「やべぇ、全員構えろ! 来るぞ!」
「結局戦わなきゃだめなのかよ!」
結界が消失したあと、クロライト達は数十分かかってようやく全てのスライムを全滅させた。
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水野はガラス板のようなものに枠を囲む装飾と一緒に付いている丸いダイヤルを回し、真ん中を押してカチッと音をさせてガラス板に写る映像を切り替えながら、勇者達の様子を確認し続け、すぐに新しい対策を取れる体制を取っていた。
「スライムシャワーは突破されたか、なら、今度はどうかな?」
マップに表示された勇者達のマーカーが進む先を確認しながら水野はのりのりで画面を操作し、次の策を実行すべくスライムたちに指示をとばした。
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「今のはやばかったな、とはいえ結構な数を仕留めたけど、これちゃんとレベルUPしてんのかな?」
「スライムは一体当たりの経験値が低いですから、そこまで大きくはないかと、」
「レベルもそうだが、クロライトは実戦での技術を磨く事も心掛けた方がいいぞ? 失敗も気にする必要がないし、これだけ練習相手がいる修行場なんだ。しっかり技を磨けよ」
「……ダーストの意見に同意だな」
「言えてる」
「うう、頑張ります」
ドスンッ!!
クロライトが皆にちくちく言われて、弱々しく返事を返すのと同時に背後から大きな音がした。
「なんだ?」
見ると背後にあった通路が大きな岩で塞がれ、通れなくなっていた。
「閉じ込められた!?」
皆が驚いている中、岩にラルフが近づき、触ったり叩いたりして状態を確かめていく。
「ちょっと、いやかなり固いくてデカイ岩だな、奥行きはうす壁くらいの厚さじゃないことだけは確かだ」
「ならゼグ、魔法で、」
「……無理だ、こんな狭い通路でそれだけの岩を吹き飛ばせる魔法を放ったらこっちも無事じゃすまない」
「ダーストの旦那、なんかいい技ないのかい?」
「無い事もないが、アレは武器が持たないからな」
「そんな事言ってる場合じゃ、」
「あ、あの、クロライト様、」
「なんだリーゼ?」
「あ、あれ、」
通路を塞いでいる岩をどうにかする為に三人が話し合っている最中、一人通路の先に視線を向けていたリーゼに声を掛けられ、彼女の震える手の先に全員が視線を向けるとそこには信じられない光景があった。
「え!? なんだあれ!?」
緩やかな坂になっている通路の先からは大量のスライムがそれこそ津波のように通路を埋めつくしながらすさまじい勢いでクロライト達の方へと押し寄せてきていた。
「やばい! 飲み込まれる!」
「も、もう一度結界を、」
「時間が無い! 俺が吹っ飛ばす! みんな俺の後ろへ!」
クロライトが剣を構えて前に出ると、勇者の名にたがわぬすさまじい魔力を放ちながら技を繰り出した。
「スキル【銀光裂波】」
クロライトがスライムに向けて剣を振るう度、銀色に輝く斬撃が剣から放たれ、無数の飛来する斬撃の嵐によってスライム達は水がせき止められるかのように動きを遮られた。しかし、いくらクロライトが斬撃を繰り出しても一向にスライムの数は減らず、徐々にクロライトとスライム達の距離は縮まりつつあった。
「くそ、数が多すぎる!」
「クロライト様、援護します!」
「……魔法に当たるなよ」
遠距離攻撃手段を持つリーゼとゼグがクロライトの後ろから魔法による援護をしてくれたことでスライム達の勢いは完全に殺され、しばらくしてスライム達は斬撃と魔法によって全て全滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ、つ、疲れたぁ~、」
「お疲れ様ですクロライト様」
「やるじゃないかクロライト、スライムとはいえ、あれだけの数を捌ききるとはさすが勇者だな」
「狭い通路じゃなかったら確実にやばかったけどな」
「とりあえず助かった。けどこの岩はちょっとまずいぞクロ、仕掛けが見当たらないし、開け方もわからない」
「多分今のスライム達で侵入者を確実に仕留めるための岩だろうから、なんかのひょうしで開かないように仕掛けは別のとこにあるんじゃないか?」
「その可能性はあるな」
「じゃあダンジョンの攻略がてら、仕掛けも見つけて行くって事でいいか」
「異議なし」
「私も意義はありません」
「……賛成する」
「おう、俺も賛成だ」
全員の意思を確認したクロライトは仲間達とともに再びダンジョンの奥へと向かって進んで行った。
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「ち、スライム津波をしのぎ切るとはな。普通の冒険者ならあれで一発なのに、」
「大丈夫かもっちー?」
「ん?、大地か、どうした?」
「いや~、避難用の部屋にいてもヒマだからDちゃんに案内してもらったんだけど、お、なにこれ? i〇ad?」
「あぁ違う違う、これは魔導具の[写し画の水晶]だ、ちょこっと形は現代風に改造してるけどな」
「へー、相手の姿が見えるって便利だなぁ、と、その事は置いといて、なんか手伝えることないか? ただ待ってるのも悪いし、」
「んー、手伝いって言ってもいまは……あ、なら、ちょっとでいいからエステラちゃんの力貸してもらってもいいか?」
「ああ、良いぞ」
勇者達が進んでいく先で今、二人のダンジョンマスターが彼らを迎え撃つべく新たな作戦を開始しようとしていた。