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第012話「スライム魔窟」

 ギリギリ間に合った。

 有言実行は大事。

 情報収集の為に建物に入ろうとしていきなり襲われた大地たちは謎の日本人、水野(みずの) 模智太郎(もちたろう)に誘導され、王都の外壁近くまで来ていた。


「ご苦労さん、っていうか嬢ちゃん早すぎだよ! 今の(・・)俺じゃなかったら振り切られてたぞ?」


「こいつはちょっと特殊だから」


「あ~まぁ察しはつくけど、そういう話はまた後だ」


 そう言って水野は大地達を民家の一つに案内した。最初は警戒していた大地だったが、ほかに良い案があるでもなし、最悪はエステラと脱出すればいいかと考え、家の中に入った。


 中に入ると、水野は部屋の中のガラクタをかき分けながら奥の方に進む道を作ろうとしていた。


「ここってお前の家なのか?」


「んー、一応は俺が買ったことになってるから俺の家と言えば家だけど、ほとんど使ってないなぁ」


 作業の手を止める事こそしなかったが、水野は大地の問いかけに背中を向けたまま答えてくれた。


「ってことは別に家があんのか?」


「家っていうかダンジョンな」


「あ、やっぱりお前もダンジョンマスターなのか?」


「そ、この王都から一日歩いた距離にある超初心者向けダンジョン、『スライム魔窟』のダンジョンマスターこそこの俺、水野(みずの)模智太郎もちたろうってわけよ」


「『スライム魔窟』?」


「ああ、俺のダンジョンは基本的にスライムオンリーなんだよ」


「それでどうやって生き残るんだ?」


「まぁ最初のスタート時は結構やばかったな、入ってきた冒険者は初心者ばっかだったけど、それでもスライム数体じゃ足止めにもならなかったし……、けど、あいつら急所さえやられなければ串刺しにしても死なないからトラップと組み合わせると結構効率よく冒険者が狩れるんだぜ」


「そうなのか?」


「あと、そこらに生えてる毒草を与え続けるとポイズンスライムやアシッドスライムに進化するからそこから先は大分楽になったなぁ」


「進化?」


 水野の話を聞いていると大地の知らなかった情報が次々と出てきた。


「モンスターって進化するのか?」


「あれ? 知らないのか? 大抵のモンスターは特定の条件を満たすと次のクラスに進化するんだぜ?」


「……知らなかった。Pちゃんはそんなこと一言も言ってなかったし」


「あー、それってお前のサポート役か? 多分最初の進化が起きてから説明するつもりだったんじゃね? 俺のところがそうだったし」


 Pちゃんが進化について説明してくれなかった理由について水野は適当な予想を話しつつ、ガラクタの奥から出て来た錆の浮いた鉄扉に手を掛けた。


「そーなのかな?」


「まぁ、はっきりとは、ん、この! ……悪い、ちょっと手伝ってくれ、これ普段使わない扉だからなんか妙に固くなってる」


 水野に言われて大地とエステラは扉の取っ手を掴み、一緒に引っ張った。


 ギ……ギギッ……ギギギギッ!


 錆びついた鉄扉が重い金属音を鳴らしながらゆっくりと開いていった。


「よし、こっから外壁の外にある小屋まで抜けるぞ」


「抜け道か、ずいぶんと用意がいいな」


 水野に先導され、大地たちは土がむき出しで材木の枠が組まれただけの地下通路を進み始めた。

 

「これでもダンジョン歴二年だからな、一年目で王都の場所を把握してから今日までじっくり王都での基盤作りに勤しんでたんだ」


「へ~、でもいいのかよ? そんな大事な秘密をぽっとでの俺に話して」


「まぁ、同じ日本人だからってだけならここまで親切にする理由もないけどな、お前がダンジョンマスターだから一応話だけでもしとこうと思ってよ」


「ダンジョンマスターだから?」


「そうだよ、だってこの世界、普通の転生者はともかく俺達はあいつらからしたら殲滅すべき敵って認識の奴が大部分だからな、生き残るためには同じ境遇の奴同士で少しでも協力体制を築いておくのが利口ってもんだ」


「一理あるな」


「あとは……一つ聞くが、お前は目の前に極上の肉まんと極上の桃があるとしたら、どっちを選ぶ?」


「……ふ、愚問だな、極上の桃まんを選ぶに決まってんだろ!!」



 大地の回答を聞いた水野は無言で右手を差し出し、大地はその右手を取って固く握手を交わした。


「お前とはいい酒が飲めそうだ」


「こちらこそ改めてよろしく、水野さん」 


「そんな他人行儀な言い方をする必要はない、もっちーと呼んでくれ」


「なら俺のことも気軽に大地と呼んでくれ」


「OK、わかったぜ大地」


 二人の日本人が特殊な会話で友情を確かめ合っている頃、二人の会話の意味がいまいち理解できず、頭に?マークを浮かべたエステラはただ黙って大地の後を付いて歩いていた。



地下通路の出口らしきところに来ると、水野は扉の前に張り付くと、大地たちに制止するように片手を前に出した。


「ちょっと待て」


 扉の向こうを警戒しつつ、水野はゆっくりと扉を開き、周囲を確認した。


「OK、大丈夫だ」


 水野の合図で大地たちも扉から顔を出し、三人は地下通路からふたたび地上に出た。


「とりあえず、ここでゆっくりしようぜ」


「ここってどこなんだ?」


「王都近くの森にある小屋の一つだ、そうそう人はこないから安心していい」


「そっか……、あー、なんか一気に力が抜けた。生きてるのが不思議なくらいだ」


「まぁ、あんなバカやって命があっただけめっけもんだろ」


「そもそも俺なんでいきなり襲われたんだ? 魔物避けの結界がどうとか言ってたけど…、」


「まずそこからだな、さっきお前が入ろうとしてたあの建物な、冒険者ギルドの王都支部だ」


「そんな感じはしてたんだよなぁ、なんか無駄に屈強そうな奴がたくさんいたし」


「で、あの建物には有事の際に街の人間が避難できるようする為に、ある程度の魔物が入って来れない結界が張られてるんだよ」


「ふむふむ、」


「で、そのある程度を超えるような強力な魔物が結界を無理矢理破って入ってきたときに中の人間に危険を知らせるための非常ベルが鳴るって仕組みが一緒に組み込まれてんだよ」


「あの俺が入った時に鳴ったやつか」


「そうそれ、冒険者の仕事には魔物の捕獲なんかもあるけど、大抵は結界を破れないような雑魚がほとんどで非常ベルが鳴るほどじゃない。仮に結界を破れるほど強い魔物の場合は、捕獲より討伐して死骸を持ち帰るのがほとんどだからやっぱりベルは鳴らない。そこに来てお前は生きた魔物を持ってるでもないのに入って来た瞬間、強大な魔物の侵入を知らせる非常ベルが鳴っちまったんだ。警戒しないほうがおかしいだろ?」


「そういうことか、けどなんでもっちーはそんなこと知ってんだ?」


「ああ、それは簡単だ、一年前俺も引っかかったからだ」


「マジかよ」


「その時はなんとか誤魔化して、その後色々街の連中から聞いて知ったんだ。しかし大地が同じミスをしたときには一年前の俺を見ているみたいで正直な話、笑っちまったよ」


「けどなんで結界が反応したんだ? ダンジョンマスターって魔物扱いなのか?」


「多分だけど、そうなんじゃないか? 魔物(モンスター)達を束ねる迷宮の主(ダンジョンマスター)なんだから少なくともただの人間とは言い難いだろ?」


「なるほど、しかしまいったな、あの時そのまま逃げちまったし、もう王都には入れないかな?」


「いや、顔を見られたのは数人だけだし、数か月~半年もすれば少し恰好に気を使って王都のギルドに近づかなけりゃ大丈夫だろ、たぶん」


「それ確認するの地味に命懸けだな」


「ますたー、その時は私が行きます」


「ありがとなエステラ、けど大丈夫だよ」


「まぁ、なんとかなるさ、自分で王都に入る以外の方法もなくはないし」


「……確かにな」


 大地は水野の言葉を聞いてメーティアの顔を思い浮かべ、まだ王都で活動する方法があると安堵する一方で、メーティアにも危険が及ぶかもという考えがよぎり、一抹の不安を覚えた。


「とにかく、今はさすがに戻るのは危険だし、どうする? ここから自分のダンジョンまで戻れるか?」


「……戻る前に少し食糧を買っときたかったんだけどな、現地調達にしても限度があるし」


「イモとかで良かったら少し融通してやるぞ? 余ってるし」


「マジで?」


「ああ、ただし俺のダンジョンにあるからほしいなら一緒について来てくれ」


「了解だ、」


 ダンジョンに帰還する道中の食料を手に入れるあてが出来た大地は小屋で水野と一晩を明かした次の日一路、水野のダンジョン『スライム魔窟』に向かう事になった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ここが入口だ」


 朝から歩いて丸一日、日が暮れ始めかけた頃ようやくたどり着いた森の中でポツンと出来た沼地に地下へと続くトンネルが口を開開けていた。


「ますたー、奥にたくさんの気配を感じます」


「全部もっちーのダンジョンモンスターだろ」


「ほぅ、やっぱわかるか」


「どれくらいの数が居るんだ?」


「んー、繁殖始まってから正確に数えてないけど、多分700匹以上は居るんじゃね?」 


「そんなに!? すげぇな、」


「いやいや、スライムって餌与えまくればすぐに増えるから結構数揃えるのは難しくないんだよ。むしろ数を揃えるより強力な能力を持った個体への進化条件を見つける方が難しくてな」


「どんなのが居るんだ?」


「それは奥に行ってから説明するよ」


 水野の案内で迷うことなくダンジョンの道を進み、大地達はテーブルや椅子、家具が置かれた部屋に行きついた。


「今、飲み物でも取ってくるからちょっとくつろいでてくれ」


 水野にすすめられて椅子に座ろうとした大地は急に声を掛けられた。


「もっちー、誰この子?」


 声の主は大地のサポート役、Pちゃんによく似た、いや正確には羽の色が黄色ではなく紫のデフォルメ感漂う鳥がパタパタと飛んでいた。


「あぁ、いまただ~Dちゃん」


「えりおか~もっちー、ってだからこいつら誰?」


「ん、ちょっと王都で知り合ったダンジョンマスターだ」


「は? なんで王都にもっちー以外のダンジョンマスターが居るのよ? そんな物好きもっちー以外いないと思ってたのに」


「まぁ、いろいろとな、とりあえず飲み物持ってくるから大地たちの相手しててくれ」


「はいはい、じゃああたしはロベリーストのしぼり汁でよろしく~」


「わーったよ」


 水野が隣室に行き、Dちゃんと呼ばれた鳥は大地とエステラを交互に見ながら周囲をパタパタと飛び回った。


「ふーん、結構かわいい顔してるわね、初めまして、私はディーレ・ペレニクス・ププ・ルインよ、Dちゃんって呼んでね。あなたは?」


「あ、俺、天海 大地っていいます。こっちはエステラです」


「……はじめまして」


「どーも、あなたダンジョン歴は何年?」


「まだ一年目だけど、」


「そーなんだ、なら担当はもしかしてピーポ?」


「Pちゃんの事か?」


「あ、やっぱりそうなんだ」


「Pちゃんを知ってるのか?」


「そりゃ同じ神に仕える眷属だしね」


「……なぁ、あの神に仕える眷属ってみんな鳥なのか?」


「さぁ? どうかしら」


 大地の問いかけにDちゃんははぐらかすように答えを濁した。大地もあまり深く詮索するつもりはなかったのでその話は一度そこで終わりにして、そこからはこの世界のグルメ情報の雑談に話がスライドしていった。


「やっぱり果物はアポールも悪くないけど、ロベリーストが一番よ」


「アポールのしぼり汁は飲んだ事あるけど、ロベリーストはまだ食ったことないから何とも言えないな」


「なら大地くんはこの世界の料理はなにか食べた?」


「料理と呼べるものはここに来る前に『笛吹き猫のたまり場亭』で食べたホーンラビットのシチュー位かな?」


「ああ、あれね、なかなか悪くないけど、シチューだったら一度はワイバーンシチューを食べる事をお勧めするわ」


「へぇ、そんなのまであるのか、さすがファンタジー」


「ますたー、ご所望ならば私が今度そのワイバーンを狩ってきます」


「あー、ありがとなエステラ、けどまだウチのダンジョンに調理道具が揃ってないからまた今度な。だからあわてなくていいよ」


「はい、分かりましたますたー」


 放っておくと暴走し過ぎるエステラの忠誠心に対してやんわりとブレーキを掛ける形で返答したあと、Dちゃんに他にもなにかおいしい物はないか話を聞きながら大地は水野を待った。しかし、戻って来た水野から出た言葉はそんな楽しい会話を一変させる内容だった。


「悪い、ちょっとまずいことになった」


「なんだ? まずい事って」


「…………勇者が来やがった」


 な、なんだってー!?

 次回はまた来週か、ペース次第でもすこし早く出せるかもです。


 大地と水野の桃まん問答の意味が分かる人は居るかな?

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