第011話「王都ドラグニス」
月曜までにもう一本書くつもり、いや書きます!
少しでも執筆ペースを上げたい今日この頃。
ドラーク大渓谷を抜け、街道をひたすら歩くこと一日半、三人の歩く先に大きな城とその周りに広がる城下町が見えてきた。
「あれが王都か」
「そうよ、あれがドラン王国の王都ドラグニス、あのでっかい城が国の名を冠したドラン城ってわけ」
「で、メーティアはこれからどうするんだ?」
「ここまで来ればもう大丈夫だけど、せめてあの羊皮紙のお力には私もあやかりたいわね。無駄な出費を抑えられるならそれに越したことはないし」
「じゃまずは宿に行くとするか、なんて名前だったっけ?」
「『笛吹き猫のたまり場亭』です。ますたー」
「じゃあそこに行こう」
メーティアを先頭に王都に入ると、宿が集中している宿場街に向かい、無事に『笛吹き猫のたまり場亭』を見つけることが出来た。
「ほんとに猫だらけだな」
「たまり場って感じがするわね」
「ますたー、このちいさいのの毛並、なかなかいい手触りです」
エステラは早くも手近な猫を捕まえて撫でくり回していたが、猫はまったく気にした様子もなく日向ぼっこを続けている。
「お、そうか、気に入ったみたいだな、そいつは猫っていう生き物だ」
「そうなんですか! 覚えておきます!」
店の前のたまり場から中に入るとこれまた数匹の猫がおり、さらにその猫たちに餌を与えている恰幅の良いおばちゃんが居た。
「ん、なんだいあんた達、客かい?」
「ああ、この羊皮紙を見せてウクロスって人の名前を出したら一泊タダにしてくれるって聞いたんだけど」
「ああ、てことはまたあのダイルがバカやって迷惑かけたのかい」
この反応…、どうやらおばちゃんもあのバカ兵士の面倒事に慣れているようだ。
「そういう事なら歓迎するよ、どうせ金は王国軍の経費で払われるからあんた達も遠慮しなくていいからね」
「なら、とりあえず長旅で疲れてるからさっそく部屋に案内してくれないか?」
「はいよ、じゃあ、ちょうど二人部屋二つと四人部屋が空いてるけどどっちがいい?」
「二人部屋二つで」
「いいのかい? お楽しみをするなら別にわたしゃ構いはしないから一つの部屋にしてくれたっていいんだよ? その方が掃除の手間も省けるし」
「いいです」
「ふ~ん、若いのに身持ちが固いねぇ」
「むしろ若いからこそです」
『笛吹き猫のたまり場亭』の女主人とそんなやりとりを交わしてから部屋に案内された大地たちはひとまず三人で片方の部屋に集まって息をついた。
「は~、なんかここまで来るだけですっげぇ疲れたなぁ」
「ますたー、お疲れでしたら帰りは私がお運びしましょうか?」
「んー考えとくわ」
「はーい! いつでもお申し付けください!」
「ふふ、なんだかんだでたった数日一緒に居ただけなのに私までそのやりとりに慣れちゃったわ」
「まぁ、エステラは常時こんな感じだからな」
「えへへ~、ますたーにお褒めいただけて光栄です」
「……なんかあんた達を見てると商売を教わった師匠と別れた時よりつらくなっちゃいそうね」
「でも行くんだろ?」
「当然よ! 私には大陸一の大商人になるっていう夢があるんだから!」
「そりゃまた大変そうだな」
「厳しいのは承知で選んだ道だもん、後悔はないわ」
「そっか、なら明日は分かれる前に王都観光でもしとこうぜ」
「あ、賛成」
「ますたーが行くのなら私も行きます」
旅の疲れを一晩たっぷり休んで回復させた大地達は翌日、『笛吹き猫のたまり場亭』を後にすると、メーティアの提案で王国一と言われる市場に足を運んだ。
「こっちが各地から集められた果物や珍しい食材を扱っている区画であっちの区画が染物や敷物、あとは作りにこだわらないなら結構いろんな服も売ってるわ、値段が安いからハズレも多いけど、たまに掘り出し物もあったりするからひま潰しで見に行くのもありよ」
「へー、ほんとに色々あるんだな、そっちの区画は?」
「そっちは雑貨系の区画ね、小物から家具までいろんな日用品や必需品なんかが揃ってるわ」
「ホントに詳しいな」
「これでも見習いの頃に師匠にくっついて何度か王都にも来てたからね、商売の手伝いをしながら自然とどこで何を売ってるのか覚えたってわけよ」
「へー、」
「ますたー! これすっごいもふもふです!」
メーティアの解説を大地が聞いていると、いつの間にかエステラは動物の毛皮が大量につるされた店舗の前で満面の笑みを浮かべていた。
「おお、御嬢さん、お目が高いねェ、そいつはレッドホーンラビットの毛皮だよ」
「レッドホーンラビット?」
「そうさ、普通のホーンラビットよりも上質の毛皮と肉が取れるってんでその深紅の一角づのと真っ赤な瞳から別名「ラビットルビー」なんて呼び名まであるんだ」
「へー、」
「この毛皮のサイズならお嬢ちゃんにぴったりの帽子か襟巻が出来そうだぜ、どうだい? 本来なら銀貨3枚と言いたいとこだけど、今なら1枚にしといてやるぜ?」
「いや、金ないからいいです」
エステラに毛皮を売り込もうとしていた店主に対して大地はばっさりとそう言い切った。
「というわけでお返しします」
「あ~そう? これだけの上物はめったに出ないんだけどなぁ~?」
毛皮を受けとりながら、未練がましくエステラと大地を横目に店主がそうこぼすが、無い袖は振れないのだから仕方がない。大地はそのままエステラを連れて足早に店を後にした。
「わりぃ、エステラ、また今度金が入ったらなんか好きなもの買ってやるから」
「いいえますたー、あの程度の毛皮なら自分で探して捕まえられますから大丈夫です。お心遣い感謝します」
……そのうちプレゼントでも買ってやるか、そういえば贈り物をする習慣とか誕生日の概念についてはまだエステラに教えてなかったな、プレゼントを贈るときにでも教えてやろう。
毛皮の店を後にした大地がそんなことを考えている頃、エステラと大地を別の店舗からじっと見つめる視線がある事に大地は気づいていなかった。
一通り市場をメーティアに案内してもらい、いろんな商店を見て回って楽しんだ後、メーティアは商人として再起を図る準備の為、いよいよ大地たちと別れることになった。
「じゃあ、いずれまたあの洞窟で」
「ああ、その時はまた食事でも用意してやるよ」
「さよならです。メーティアさん」
「ええ、エステラちゃんも大地の事、お願いね。またドラーク渓谷の時みたいに無茶したら助けてあげて」
「言われなくともますたーは私がお守りします!」
男の立場全否定な女子二人の会話に軽くヘコみつつも、実際エステラがいないとこの世界での自衛手段が現状ほぼ皆無に等しい大地はただ黙って二人を見ているしかなかった。
メーティアと別れ、エステラと二人だけになった大地はこれからどうしようかと少し迷っていた。
「う~ん、さっさと帰るのもありだけど、せっかく王都まで来たんだからもう少し歩いてみるのもありかなぁ?」
「私はますたーが行かれたいところにただついていくだけです」
「……よし、もう少し情報を集めよう。エステラ、昨日言ってた酒の匂いがたくさんする方向はわかるか?」
「はい! ご案内します!」
王都に着いた初日、『笛吹き猫のたまり場亭』で夕食を食べた時に女主人が出してくれた葡萄酒を大地とメーティアが飲んでいるとエステラは初めて嗅ぐお酒の香りをいたく気に入り、部屋に戻ってから街のあちこちでも同じような香りがする建物が何件かあったと大地に話していた。
―――俺の予想通りなら多分そこは、
エステラとともにたどり着いた先は大きな看板を掲げ、一階が酒場風になっている大きな建物だった。
「ますたー、ここです」
「よぉし、まずは入ってみるか」
―――ファンタジーな世界で情報収集をするならまずは酒場とか冒険者みたいなのが集まる場所と相場が決まっている。テンプレだとガラが悪いのに絡まれるのまでセットだけど、そこはエステラと一緒にどうにかしよう。
大地がこの世界の情報得るための店の中に第一歩を踏み出そうとすると、
リーンリーンリーンリーン!!
大きなベルの音が鳴り始めた。
「なっなんだ!?」
「ますたー、失礼します!」
突然鳴り出した音に驚くのそこそこに今度はエステラの声が聞こえたかと思うと突然視界が反転した。
「うわ!」
その直後、大地が直前まで立っていた場所には刃が振り下ろされ、床に切れ込みが出来ていた。
「なんだお前? 魔物避けの結界が鳴ったって事は魔物なのか?」
「え? ま、魔物? なにが?」
エステラに背中から担がれている形で大地はいきなり攻撃してきた男に対してとっさに否定の言葉を紡ごうとしたが、あまりに唐突な攻撃で驚き、頭の整理がつかず、はっきりとした言葉を出せなかった。
「まぁ捕えて聞き出せばいいか、おい、誰か手を貸してくれ。そこの男はともかく、下のちびっこはすこし厄介そうだ」
男の呼びかけに建物の中に居た数人の男女がそれぞれの武器に手を掛け、大地たちの方に向かって進み始めていた。
―――なんでこんなことになってんだ!? 魔物避けの結界!? そんなのあるなんて聞いてねーぞ!!
「ますたー、戦いますか?」
「……いや、逃げろ、急いで逃げるんだエステラ!!」
「承知しました!」
「逃がすか! なんで結界が鳴ったか詳しく調べてやる」
大地を担いだまま、エステラはその場から一気に数メートル程飛び退き、そこからさらに横の路地に飛び込んで一目散に駆け出した。
「どちらに向かいますか、ますたー?」
「ひとまずあいつらが追ってこなくなるまであの場から出来るだけ遠ざかろう!」
「分かりましたますたー」
「だったらいい隠れ家があるぜ」
「「!」」
会話に突然入り込んできた声に二人は驚いて周囲を見回した。
「どこみてんだ、上だよ」
声の主に言われて上を見ると、そこには茶色のマントを羽織った男が屋根の上から大地達を見下ろしながらついて来ていた。
「だれだお前!?」
「あー、今すぐ話してやってもいいけど、ここじゃいつ邪魔が入るかわかんないし、ひとまず王都から出ようぜ」
「……そう簡単に信じて「はい行きます」なんて言うと思ってんのか?」
「そりゃそうだ、なら時間がないから一つだけ、……お前も地球から来たんだろ?」
「!」
「その反応やっぱ合ってるみたいだな。まぁ、その黒髪で日本人丸出しな顔立ちだし、違うって言う方がこっちとしては驚きだけど」
「もしかしてお前も?」
「おう、」
エステラに追走する形で移動し続けながら、マントの人物はフードに手を掛け、その素顔があらわになった。そこにあった男の顔は紛れもなく日本人の顔立ちで黒髪の人物だった。
「俺の名前は水野 模智太郎だ、宜しくな!」