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第001話「ダンジョンマスターに採用されました」

修正前と比べていくつか設定が変わっていますので、前作とまったく同じではありません。

 始まりは本当に突然だった。いつものようにコンビニにコーヒーでも買いに行こうと思い、家を出た先で、信号無視のトラックにはねられた。

 トラックにぶつかる瞬間までは確かにあった俺の意識が次にはっきりと周囲を認識すると、そこはなんだか雲の上みたいなところにだった。とりあえず自分の身体をあちこち確かめてみても特に骨折も出血もしていない、これでもし俺の立っている場所が街中だったら奇跡的に無傷で助かったという考えもできなくはなかったが、ここはどう見ても生身で来れるような場所に見えない。


「ここが…、天国なのか?」


「ちぃと違うな」


「え、誰?」


 背後から突然した声に驚きながら俺はすぐさま振り返る。するとそこには仰々しい恰好で木の杖を持った白ヒゲ白髪ロングのお爺さんが立っていた。なんかこの格好、いかにもアレって感じだな。


「まずは、初めましてじゃな」


「あ、はい、初めまして」


「別に畏まらなくてよいぞ、気楽に気楽に、」


「はぁ、」


「ワシはお前さん達で言う…、」


「神様…ですか?」


「お、正解じゃ、この世界を管理する神と言うのがより正確な認識じゃがの」


 この世界? 世界って他にもあるのか?


「で、お前さん、自分の現状はどこまで認識しとる?」


「どこまでって、多分ですけど、俺死にましたよね?」


「うむ、確かに死んだ、しかも手違いで」


 は? 手違いってなんだ? 


「…手違いってどういうことですか?」


「いや、つまりの、本来お前さんが死ぬのはもう少し先、だいたい50年後くらいのはずだったんじゃが、うちの者のミスで同姓同名の別人とお前さんのリストを間違えて処理してしもうたらしい、いやほんとすまんかった」


 おいおい、人の死が運命とか、なにかそういう力で決まってるんじゃないかというのはなんとなく想像したことがあるが、ここまでお役所的な、しかも手違い死んじまうようなずさんな形で処理されてたってのか?


「つまり、俺は死ななくていいのに死んだって事ですか?」


「そうなるな、すまんここのところウチの眷属たちも大分疲れが溜まっとるらしくて、」


「なんとか生き返れませんか?」


「お前さんがそう望むのならやってやれんこともないが、ミンチよりひでぇや、ってあの状態から蘇生となると良くて一生寝たきり、悪ければ植物状態で今度こそこっちに来るまで何も出来なくなると思うんじゃが、それでもよいか?」


 う、確かにそう言われると身動きできずに残りの半生を送るよりこのまますっぱり死んだ方がいいかもしれない。


「じゃあ、せめてこのままこっちで言う天国みたいなところとかにはいけますか?」


「うむ、お前さんはこっちの手違いで早くここにきてしもうたからの、なるべくならその分の埋め合わせはしてやろう。ただしの、ワシの作ったこの世界に天国は作っとらんのじゃ」


「え? ないんですか天国?」


「ない、ここにあるのはワシや眷属たちの居住空間くらいじゃな。たぶんそっちにある天国のイメージは臨死体験者がワシらの居住地を見てそれを勘違いしたんじゃないかの?」


「夢も希望もねー」


「まぁそういうな、その分良い話を用意してやったんじゃから」


「良い話?」

 

「そうじゃ、さっき言った通りワシの世界では天国を作っとらん。そうすると死んだ者の魂、この場合、お前さんもじゃが、どこに行くと思う?」


「うーん……転生、ですか?」


「正解じゃ、死んだ魂はこの場で今までの記憶をワシたちに消されて新しい生へと転生する事になっとる」


 て、事は俺も記憶消されるのか? うあー、なんかやだなー。


「で、ここからが本題なのじゃが、いまこの世界、地味にピンチなのじゃ」


「ピンチ?」


「そうじゃ、かいつまんで話すと魂は長い年月の間にエネルギーをため込み、分裂して数を増やす。そして世界に入っていられる魂の数は世界を作った時にもう決まっておる」


「もしかして魂の定員オーバー?」


「また正解じゃ、お前さんなかなか理解が早くて助かるわい」


「どうも」


「でじゃ、定員オーバーになった場合、新しい世界を作ってそこに転生予定の魂を放流し、数の調整をするのじゃが、そのために必要な魔力(・・)が今足らなくてな」


 魔力? 魔力って魔法とか使うのに必要なあれか? この世界にそんなのあったのか?


「新世界創造のための魔力は複数の世界で協力し、魔力を出し合って作る事になっとるのだが、どうも周りの世界も最近魔力不足なのか出し渋ってての、」


「魂が一杯になるとどうなるんですか?」


「なに、ただ中身の容量に耐えきれなくなって器となる世界が割れるだけじゃ」


 地味言ってるけどそれって要は世界滅亡だよな?


「そうならんように今、いつもは交流の無い世界にも足を延ばして魔力を集めようと動いとるんじゃ」


「へぇ~、大変そうですね」


「そう思うじゃろ? そこでお前さんに持ってきた話なのじゃが、…別の世界に転生してみんか?」


「べ、別の世界に転生?」


「そうじゃ、魂の定員オーバーを防ぐには主に二通りある、一つは今話した新しい世界を作ってそこに送り込む方法。もう一つは別の神が管理する世界に魂を送りこむ方法じゃ、根本は同じじゃが、一度に送り込める魂の数が圧倒的に違うのでほとんどは面倒の少ない新しい世界に送り込む方法をどの神も使っておる」


「その言い方からすると俺が送り込まれるのって、」


「そうじゃ、別の神が管理する世界じゃ」


「やっぱりか~」


「そう、残念がるな、なにもただ別の世界に転生させるとは言っとらんじゃろ、選択肢を三つも用意してやったんじゃから悪い話でないはずじゃぞ?」


「三つの選択肢?」


「そう、三つじゃ。一つ目はお前さんの様にたまに手違いで死んでしまった者によく進めとる能力付与をした転生じゃな、これはワシが与える能力と自分の努力次第でその世界の英雄や豪傑を目指すことも可能な事から結構選ぶ者が多い転生パターンじゃ」


 聞いた限りラノベとかにある転生ものの王道ストーリーみたいだな。


「次に二つ目は、人間をやめたい者用の転生じゃな、ある程度はワシの力で転生先を絞ってやれるのでその範囲から別の存在、たとえば魔族じゃったり、竜じゃったり、エルフじゃったりと、」


 おいちょっとまて、聞き間違いでないなら、なんか相当ファンタジーな世界に転生させられるみたいなんですけど?


「あとこれは他の見込みのありそうな魂にも進めているのじゃが、お前さんダンジョンマスターをやってみるつもりはないか?」


「ダンジョンマスター?」


「そう、ダンジョンマスターじゃ、」


「それってゲームとかにあるモンスターが一杯の迷宮でボスとかしてるあの?」


「第三者から見るとそうなるの」


「なんでまた?」


「新世界を作るために魔力を集めとると言ったじゃろ? 実はその為にウチの眷属たちはもう完全にオーバーワーク状態でな、転生者の中から志願制で手伝ってくれる者を探しておるんじゃ」


「手伝いって具体的に何するんですか?」


「お、興味があるのか? まぁそんな難しい事はせんでいい。ただ生き残ってダンジョンを運営してくれればそれだけで手伝いになるのじゃ」


「生き残るって、そんなに厳しいトコなんですか?」


「そりゃダンジョンじゃからな、宝やモンスターの素材目当てに襲ってくる者もおる」


「いきなり殺されたくはないんで一つ目の選択肢で」


「…お前さん少しは困難に立ち向かおうとは思わんのか? やってみたらやりがいがあるかもしれんぞ?」


「いや、やりがいよりも確実に生き残れる方がいいです」 


「………そうか残念じゃのぅ、手伝ってくれる者には他二つの選択肢以上の恩恵や能力、あと次の転生時にもワシが多少手を貸してやる特典があったのじゃが、」


 え?


「仕方ない、では転生先は普通の人間で、」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「お、気が変わったかの?」


「少しだけ考えさせてもらっていいですか?」


「あまり待たせすぎんでくれよ」


「はい」


 どうする俺? 転生物の創作物だと基本、神からの恩恵は多いほど、転生後の生活は楽になる事も多い。ダンジョン経営ってことは雨風しのげる家は最初から保障されているってことだし。加えて普通の転生より恩恵もたくさん。さらにもしダンジョンに入って来た存在に殺されたとしても、もう一回転生の面倒を見てくれると言うのが大きい。そんな保障が付くなら他の選択肢よりはるかに優良物件と言える。

 別にダンジョンだから物件という表現をしたわけではない。 ……誰に言い訳してるんだ俺?


「まだか?」


「あ、はい、やっぱりダンジョンマスターでお願いします」


「おぉやってくれるか。 本当に良いんじゃな?」


「はい、ただ、聞いときたいんですけど、……本当にもう一回転生の面倒見てくれるんですか?」


「構わん構わん、普段は記憶を消して現世に送り返すだけじゃからな、送り返す時に多少手間が増えたとて大して変わらん」


「んじゃお願いします」


「よし、では採用じゃ。早速向こうの世界に送り込むが、転生と言うてもお前さんはダンジョンマスターになるから赤ん坊ではなくそのままの姿で送ってやる、じゃからすぐにダンジョン作りに入れるぞ」


「あの、ダンジョン作りってどうやればいいんですか?」


「あぁ、心配はいらん。現地にはワシの眷属が待機しておる。そやつの説明や助言を聞きながらダンジョンを大きく強くしていけば良い」


「わ、分かりました」


「最後に一つ助言しておこう、ダンジョンはお前さんの頑張り次第でいくらでもその期待に応えてくれる。生き残りたいのであれば、全力でがんばるのじゃ」


 神様がそう言いながら自身の手に持っていた杖を上にかざすと、俺の足元が光だし、なにやら魔方陣のような模様が出現した。その途端、俺の身体は魔方陣の中に音もなくゆっくりと沈み込み始める。


「わ、わ、し、沈む!」


「落ち着け、すぐ現地に着くから大丈夫じゃ、それよりもなるべく多く魔力を集めるんじゃぞ?」


「で、できるかどうかわかんないですけど、やってみます」


「うむ、いきなり逃げを選んださっきよりは良い答えじゃ」


 神様のその声が聞こえるか聞こえないかのタイミングで俺の顔は完全に魔方陣に沈み込み、視界は真っ白になった。


 こうして俺は現代日本のある世界とは別の世界にダンジョンマスターとして採用され、送られる事となった。



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