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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
番外編 裁縫都市パッチワーク
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パッチワークの3

二話連続投稿です。前に一話あるのでお気をつけて

 「あのな、怒ってるわけじゃねえんだ、普通に嬉しかったけどよ、それはそれとしてだ……隠す意味なかったよな」



 昼間にしては人通りが落ち着いている道に四人分の足音がこだました。バラバラな足音のついでとばかりに愚痴を吐き出すリュージに、ヴィートは気まずそうに視線を逸らし、イナセは素知らぬ顔で雲を眺め、ラフィは未だ機嫌が直っていないらしくむくれていた。

 リュージは脱力して肩を落とした。

 どうせ言いだしたのはラフィだろうが、なぜこんな回りくどいことまねをするのか、素直に感謝させてくれても良いのではなかろうか。

 そんなリュージを見かねてヴィートが口を開いた。



「で、でもラフィさんも悪気はなかったんですよ、リュージさんをちょっとびっくりさせたかっただけで――ねぇラフィさん?」

「……そーねそうそうそのとおり」

「何でやる気ないんですか僕今あなたに有利な発言をしてるんですよ!?」

「ま、怒んなよ旦那、すげぇ面白かったぜ!人生に驚きが大事って姐さんが言ってる意味がよく分かった!」

「悪い影響受けんなよ……」



 これ以上楽しさ至上主義者に増えられても旅が難儀になるばかりだ。多少口が悪くても態度が大きくてもいい、頼むから第二のラフィにはならないでもらいたい。

 一人いれば十分すぎるほどに足りている。



「なーんか失礼なこと考えてる人がいるわね」

「気のせいだ……で、流されるままに着いてってるがどこに向かってるんだ?」



 ラフィは釈然としない様子だったが、気を取り直して行き先をリュージに告げる。



「わざわざ来といてその辺にいる職人に任せるなんてナンセンスよ、どうせなら一番腕のいい人に頼むべきじゃない?」

「腕のいいって……お前ここに来たことあるのか?」

「その時自分が持っているもので満足して生きるのが人間の生き方よ」

「分かりやすく言うと?」

「服は十分持ってるからわざわざ他の都市に買いに行ったことなんてないわ、よって来たことはないわ!」

「……そんなお前でも知ってるってことはよほど有名なんだな。ヴィートも知ってるのか?」

「勿論です!パッチワークの裁縫長――市長――の腕は西の大陸では知らない人はいないくらいですよ!」

「忘れてたじゃねぇかよ」



 イナセの鋭い指摘にヴィートは一つ咳払い、そして気を取り直すと説明を再開した。



「そ、そもそもパッチワークの裁縫長は世襲制なんです、代々その技術を受け継いでいて、何でも同時に二十本以上の針と糸を操れるらしいですよ」

「二十本、それはすごいな」

「はい、仕事をしながらでも人と話をしながらでも一切休まずに作業を続けられるんだとか」



 それが本当ならばもはや意識の外側、無意識で作業を行っているレベルだ。実際のところ魔法はイメージで行うものなので無意識ということはないだろうが、だったら尚更のこと相当な練度の高さがうかがえるというものだ。

 リュージは好奇心からラフィに訊ねた。



「お前も頑張ればできたりするのか?」

「できるわけないでしょそんな細かい作業、ストレスで体調崩すわよ」

「そうか、ラフィでも無理なのか」

「相当な操作系統の実力と才能が必要よ、世の中上には上がいるってことかしらね」

「いや、多分実力的には姐さんにもできるぜ」

「……どういう意味だ?本人はできないって言ってるが」

「えぇと、なんて言ったらいいのかな、うまく言えねぇけど……範囲の問題なんだよ」

「範囲?」

「魔法はさ、用途を絞ることによって特定の行動に特化させたものにできる……だったかな、多分」



 自分から話し始めたにも関わらず自信なさげなイナセに、リュージは首を傾げた。

 イナセは腕を組んでゆっくりと思い出しながら訥々と語る。



「姐さんはさ、いろんなことに魔法を使うだろ?だからイメージの力が散ってるっつうか、まぁ分散されててあれだけの力ってのがおかしいんだけど」

「そんな話初めて聞いたわよ」



 ラフィの言葉にリュージは素直に驚いた。

 ラフィがまるっきり知らないことなど今までそんなになかったからだ。しかもそれを知っているのが四人組のなかでもリュージの次にものを知らないイナセだというのも驚きに拍車をかけていた。

 一応視線で確かめてみれば、ヴィートもそんな話は聞いたことがないようだった。



「イナセちゃんは、何でそんなこと知ってるの?」

「ああ?決まってんだろ、強化魔法を使うコツがそれだからだよ」

「どういう意味だ?」

「強化系統ってのはただでさえイメージが難しいんだぜ?どんな状況でも対応できるような完璧な強化なんて人間には絶対無理だよ……だから用途を絞るんだ、何か一つの動きに絞ってイメージを徹底的に固めるんだ」

「それが強化系統を使いコツってこと?でもそれだと対応できる状況が極端に限られるじゃない」

「そういうもんだぜ、だから強化使いはできるだけ自分の有利な状況を作り出してから魔法を使うんだよ。例えばアタシは『走る』ことしかできないからな、だいたい奇襲が基本なんだ」

「つまり、パッチワークの裁縫長は『針と糸を操作する』ことに特化してる魔法使いってこと?」

「ああ、多分それ以外のものを操作するのは苦手なんじゃねぇかな」

「へぇー!イナセちゃんは物知りなんだね!」

「……まぁな」



 前髪で隠れた瞳を輝かせて感嘆を露にするヴィートとは違い、リュージはイナセの知識の出所を考えていた。

 本人の話ではイナセが強化魔法を覚えたのは実家だという、ということはこの情報も実家で知ったものと考えられる。この世界の人間でもあまり知らないことを一般常識レベルで教えている彼女の実家とはいったい……。



 そこまで考えてからリュージは頭を振る。イナセ本人が話さないのならば下手に勘ぐるのは止そう。知られたくないことくらい誰にだってあるのだから。

 現にヴィートに褒められたはずのイナセも、どこかぎこちない様子だった。それこそ勘ぐりすぎかもしれないが話したことを後悔している様子すら感じる。



「――あ!あれじゃねぇのか、市庁舎!」



 話を逸らすようにイナセが指さしたのは他の建物よりかは大きめの赤い屋根の建物だった。

 しばらくアルカディアのビル群を見ていたせいか、とてもささやかな建物に感じるが、目立った建築物がないこの都市では十分大きい。



「下らねぇ話に時間食っちまったな、早く行こうぜ!」

「あ!待ってよ」



 途端に駆けだしていくイナセとそれを追うヴィートを見ながら、リュージはイナセとの間にあるほんの少しの、それでいて大きな隙間のようなものを感じていた。


裏設定~世襲制~

 魔法の才能が遺伝しないこの世界において、世襲制は非常に珍しい。技術を売りにしている都市ではそれが顕著で、その意味ではパッチワークは非常に珍しい都市と言える。

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