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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
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アルカディアの29

短くなったので二話連続投稿です。

 男たちが町を駆けている間に、少女は追跡を終了していた。

 中年の男が無抵抗で十五の少女に背中を踏みつけられているという一見シュールな光景がそこにはあった。

 実際は逃げる男の背中を蹴って倒したイナセが、器用にも腕の関節を足で極めて立てなくしているのだ



 「は、離してくれ!なんでこんなことをするんだ」

 「何でだぁ?そりゃこっちのセリフだぜ、なんでフィリーネが大ピンチだってのに顔も見せねぇんだ!今まで何してやがった!それでもあいつの、あいつの惚れた男かよ!」



 少女とは思えないほどどすの利いた声で責め立てるイナセに、男は堪らず叫んだ。



 「ち、違う!俺じゃない!俺は雇われてるだけだ!」

 「あぁ?」

 「だから俺は雇われてるだけなんだよ!あの女を指定の場所まで案内したり、あとは日ごろ酷い仕打ちを受けてないか見張ったりするのを頼まれてるだけなんだ!」

 「……ホントか?嘘だったらしばらく腕が上がらなくなるぜ」

 「ホントだ!今更ウソはつかない!」

 「だったら言え!誰に頼まれた」

 「そ、それは……言えない」



 無言で足に力を入れるイナセ。

 男の腕関節が悲鳴を上げ、連動して男自身も悲鳴を上げた。



 「不思議だろ?関節ってのは上手いこと極めれば筋力なんていらねぇんだ、アタシみたいな小娘でも簡単に外したりできるんだぜ?」

 「や、止めてくれぇ!!」

 「もう一回だけ聞いてやる、誰に、頼まれた?」

 「勘弁してくれよ!こう言うのは信用が大事な商売なんだ!脅されて依頼主吐いたんじゃ食っていけなくなっちまうよ!」

 「おおそうかよ、でもこのままじゃ食う食わねぇの前にフォークも持てなくなっちまうぜ?なんならもう片方も壊してナイフも持てなくしてやろうか!!」

 「ぎゃぁぁ!!痛い痛い!止してくれ!!」



 額に脂汗を浮かべながら必死に耐えようとした男だったが、メリメリと関節の継ぎ目が離れていく嫌な音に我慢限界を迎えた。

 目に涙を浮かべながら叫ぶ。



 「分かった言う!言うから止めてくれ!」

 「よし言え、次一瞬でも詰まったらもう止めねぇからな」

 「はっ……はぁ……先に言っとくと、今日俺が来たのはいつもの人に頼まれたからじゃないんだ」

 「はぁ?どういう意味だよ」

 「俺にも分からないよ、俺は唯あの女が捕まったって聞いたからどうしたらいいかを聞きに行ったんだ……そしたらいつもは大事な話なら本人が出てくるのに今日に限って違うやつが来たんだよ」

 「……続けろ」

 「それで、仕方ないからそいつに話を聞いたらあの女の部屋を調べて来いって言われて」

 「なるほどな、話は分かった。前置きはもういいからさっさと言えよ、どっちの奴もだ!」

 「……俺が頼まれたのは――」





 直後、轟音ととも空に真っ赤な炎が咲き乱れた。





 「ッ!?なんだ!?」



 近い。そんなに離れてない場所だ。

 明らかな異常事態にイナセの気が緩んだその一瞬に、男が体を跳ね上げた。



 「うわっ!このやろ!」



 肩を押さえながら這う這うの体で逃げだす男、ただでさえ自力のスピードで勝っているのに痛みを堪えているのでさらに遅い。二秒あればもう一度捕まえられる。だが――。



 ――なんだろう、嫌な予感がする。



 イナセはその爆発に妙な胸騒ぎを覚えた。

 具体的に言うとさっきまで一緒にいた男が巻き込まれているという確信に近い予感。

 イナセは爆発があった場所と逃げていく男を見比べてから、大きく舌打ちすると爆発の方へ走って行った。



※    ※    ※    ※    ※    ※     ※  



 男が後ろを振り返ると自分を痛めつけていた少女は何故か逆方向に走って行った。

 男は近くの路地に身を滑り込ませると座り込んで溜息を吐いた。

 結果的にだが依頼主のことを言わずに済んだことに対する安堵空だった。

 座りこんでいた男は迫ってくる足音に気づいた。それはだんだんとこちらに近づいてくる。

 不安に顔を歪めながら足音のほうへ目をやった男は、現れた人物を見て安心したように笑った。



 「なんだあんたか、わざわざ見に来たのか?」

 「……」

 「なんだよそんな顔して……もしかして見てたのか?そりゃかっこ悪いところ見られたな、でも安心してくれ何も喋ってないしあの女の子は俺の名前も知らない、しばらくの間隠れることになるけど、心配ないさ」



 男の言葉に、目の前の人物は無言で自らの旨を人差し指で軽く叩いた。

 それが自分の胸を確かめてみろという合図だと気づいた男は、言われたとおりに胸の内ポケットを探り、凍りついた。

 名刺入れが、ない。

 いつかは分からないが、誰かは分かり切っている。

 あの女の子だ。つまり、こっちの身元は割れてしまっているということだ。



 「……待ってくれ、下手打ったのは認める、でも見つからなければいいんだろう?大丈夫だ俺はプロだぞ、絶対に隠れて見せるから、だから――」



 男の必死の弁明に、目の前にいた人物は無言で自らの胸ポケットに手を突っ込んだ。

 そこから取り出した手に握られている、不気味な輝きを放つ三角錐の水晶、男は何故だか自らの本能が逃げろと叫んでいることに気づいた。

 だが体が動かない。



 動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない。



 「あ……」



 最後にできたのは喉を震わせることくらいだった。


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