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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
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アルカディアの27

修正前のやつを投稿していたことに気づいたので直しました。変化は誤字の修正くらいで、あまり大きく変化しているところはありません。

 「強化魔法について?なんだよ急に」



 突然の問いにイナセは聞き返した。

 なんだよと聞き返されると質問した本人としては困る。

 特に意味はないのだ。ただここに来るまでに会話らしい会話も無かったので何か話すべきかと思っただけなのだ。



 「特に意味はねえよ、あんまり見たことがなかったからな、お前のあのスピードは強化魔法によるものだろ?」

 「あああれな、アタシの唯一の特技ってやつよ」

 「しかしあれだけ圧倒的な力を発揮できるならもっと皆覚えそうなもんだ」

 「そりゃしょうがねぇよ、こんな使い勝手の悪いモン普通使いたがらねぇもん」



 使い勝手の悪さ。

 身体能力を底上げするという便利この上ない強化魔法がこの世界ではあまり使われていない理由はそれに尽きる。

 魔法とはイメージによって発動するというのは何度も話した。

 ではここで疑問が生じる。

 身体能力が上がるイメージとは具体的にどうすればいいのか。



 魔法行使の際のイメージは具体的であればあるほど魔法の精度が上がる。逆にイメージが雑だとうまく扱えなかったりする。

 当然自分が何メートルもの高さに跳んでいる姿なんてものを想像しても魔法はうまく使えない。



 体のどこを強化するのか一々イメージしなければならないのだ。

 その上人間の体と言うのは単一の筋肉では動かない。パンチを打つのだって腕の筋肉のみを強化すればいいというわけではない。

 腰、足、背中、首、一つの動作に着き様々な部位を強化しなければならない。

 そんな精密なイメージを動いている間中要求されるのだ。



 「それなら最初から放出系の魔法で風を出して加速した方が早いし重い物だって操作系の魔法で動かした方が楽、つまりさ、他の魔法で十分に代用が可能なんだよ」

 「なるほど……でもそれなら何でお前は使ってるんだ」

 「強化魔法唯一のメリットがあるからな」

 「メリット?」

 「ああ、強化魔法は魔素を体内に留めたまま性質を変化させて使うから魔素を消費しないんだよ、つまりなアタシみたいに魔素保有量(インベントリ)が少ない人間でも楽に使えるってわけ」

 「聞いてる限りだと相当有用じゃねえか、使い辛いってことを差し引いても余りありそうだぞ?」

 「その有用さを含めて考えても余りあるほど使い辛いんだよ、じゃなけりゃもっと皆使ってると思うぜ?」



 納得すると同時にそうであるべきなのだろうと安心のようなものを覚えた。

 イナセの動きはリュージが生身で追えないほどの速さだった。

 あんなものを誰も彼も使えるようになったら訪れるのは無法時代だろう。

 ありえたかもしれない世界に思いを馳せて一人恐々とするリュージにイナセが言った。



 「つか白々しいぜ旦那、アンタだって強化魔法使ってたじゃねえか、しかもアタシよりも精度高いやつ」

 「ん?ああ、あれは強化魔法じゃねえぞ」

 「は?冗談にしちゃ三流もいいとこだぜ、生身でアタシについてきたとでも言うのかよ、流石に自信なくすわ」

 「いや、そうじゃねえんだが……まあその、なんだ、そんなことよりお前は何であんなに強化魔法に慣れてるんだ?」

 「なんだその下手くそな話題の変え方……」



 リュージの様子を見て『ああ、何か言えないことがあるんだな』と察したイナセは、呆れながらもリュージの質問に答えることにした。



 「アタシが慣れてんのは単純に家で昔っから練習させられてたからだよ」

 「家ってのは実家のことか?」

 「ああそうだよ、毎日毎日使わなきゃいけない状況にされたらそりゃ嫌でも覚えるさ」

 「使わなきゃいけない状況って、上手くできなかったら夕飯抜きとかか?」



 冗談のつもりで言った一言をイナセは鼻で笑い飛ばした。



 「抜きなのは朝昼晩で期間は一週間だったけどな」

 「は?」

 「あとはなんだったっけ、家から大分離れた山の中に置き去りにされたこともあったし、崖から落とされたこともあった。でも一番きつかったのは地下室に丸一日くらい閉じ込められたことかな、知ってるか?完全な暗闇って結構怖いんだぜ?」

 「……もういい、変なこと聞いて悪かったな」

 「旦那が謝ることねぇさ、悪いのはあの人でなし共だ。ま、二度と会うこともねぇだろうからもう気にしてねぇけどな」



 忌々しげに鼻を鳴らす少女に、リュージは内心複雑だった。

 見たところイナセはヴィートより年下、フィリーネの話ではまだ十四だ。

 ということは彼女が強化魔法の練習を続けていたのは少なくとも十より幼いころということになる。

 イナセの家出はその苛酷な環境から逃げ出すためのものだったのだろうか。

 つい考えこんでいると少し前を歩いていたイナセが立ち止まった。

 顔をあげると目の前にあるのは四階建てのアパートのような建物。



 「旦那?なに考えこんでんだ、もう着いたぞ」

 「……ここか」

 「ここの四階だよ、行こうぜ」



 イナセが慣れた足取りで玄関を開けて中に入る。

 続いてリュージが後を追う。

 中に入ると入口のすぐそこにあった管理人室から驚きの声が上がった。



 「おやまあ!なんだいイナセあんたまで客を取るようになったのかい!知ってると思うけど料金は前払いだよ」

 「ばあさんあんまりふざけたこと言ってると叩きのめすぜ」

 「冗談さね、で、後ろの男前はどちらさん?」



 いたずらっぽく笑う老婆にリュージは訊ねた



 「あんたはここの管理人なのか?」

 「管理人兼オーナーさ、遊びに来たんじゃなければ何の用だい?」

 「……何でもねぇよ、自分の部屋に帰るのに理由がいるのか」

 「適当なこと言って誤魔化すのは止しな、フィリーネのことだろう?」

 「チッ、知ってんなら聞くんじゃねぇよ」

 「あのねぇイナセ、親切のつもりで言っとくけど首突っ込むのはやめな、なんだか良くない予感がするよ」

 「余計なお世話だ、アタシは自分がやるべきだと思ったことしてるだけだ」

 「……忠告はしたからね、あとフィリーネの部屋だけど直に他の娘を探して宛がうから荷物片付けておきなよ」

 「おい待てよ!フィリーネはすぐに戻ってくる!片付けなんて必要ねぇ!」

 「それは部屋を貸してるこっちが決めるこった、ほれ行った行った」



 憤慨するイナセに緩く手を振りながら、老婆はそれ以上話す気はないことを示した。

 イナセは音がするほど歯を食いしばってから、振り切るように階段へと向かう。



 「ったく!ここに住んでる女たちの金で暮らしてるくせに偉そうに!」

 「気にするな、口で何か言い返すよりも結果で見せてやればいいんだ」

 「分かってるよ!だからこうして階段登ってんだろ、ああもう何で四階なんかに部屋借りるんだ!」



 分かってはいても治まらない怒りがフィリーネを焦がしていた。

 今は適当なことを言っても意味がないと判断したリュージは黙って文句を言うイナセの後ろに続く。

 この世界の人間にとっては十分長い道のりだがそれでも所詮は四階建て、部屋にはすぐにたどり着いた。



 「ここだよ、鍵はかかってねぇから行こうぜ」

 「不用心だな」

 「……アタシが鍵持ってねぇからな、鍵使わねぇんだと」



 ぶっきらぼうに言ってイナセは扉を開けた。

 扉の向こう側は思ったよりも広い部屋だった。

 部屋は大きいのが二つ、生活スペースと寝室だ。それに小さいがキッチンにユニットバスまでついている。

 リビングに当たる部屋は中央あたりに布で仕切りがされていた。



 「これは……?」

 「半分はアタシが好きに使って良いつってさ、必要ねぇのにな、見ろよあいつのスペース明らかに足りてねぇんだよ」



 イナセの言葉通り仕切られている半分は細々とした雑貨や飾り物がどこかしこに置いてあるのに対し、もう半分のスペースに置かれているのは小さな棚と布団が一つ。



 「フィリーネは、随分お前をかわいがってたんだな」

 「理解できねぇよ、ああ理解できねぇ」

 「……それで、どこから探す?」

 「どこからって言われてもなぁ、寝室は客相手に使うものだからあいつはほとんど使ってねぇ、だから探すのはここだけでいいはずだ、多分」

 「そうか、勝手に触ってもいいか?」

 「いいよ、先にやっといてくれ。アタシは少し持っていきたい物があるから」



 そう言って自分のスペースに入っていくイナセ。

 一応許可をとったリュージは何かないか探っていった。

 机の上、棚の中、本棚の本、手当たり次第に探していくのだが目ぼしいものは見つからない。

 元から一つの部屋を半分に割っている狭い空間だ。探す場所自体そんなにない。

 すぐに残すところ棚一つとなった。



 一段目を開ける――服だ。

 二段目――これも服。

 三段目――こんなに服が必要なのだろうか。

 四段目――。



 「……ここは、イナセに任せるか」



 ぎっしりと詰まっている下着類にリュージはそっと棚を閉じようとして――気づいた。

 布の盛り上がり方が明らかに違う部分があった。

 リュージは失礼を承知でその部分の下着を除けていく。



 「これは――」

 「……何やってんだよ旦那」



 やたらと温度が低い声に振り返ってみれば、イナセが口元を不快に歪めてこっちを見ていた。

 きっとあの帽子の向こう側ではごみを見るような眼を向けてきていることだろう。



 「イナセ、ちょうど良かったこれを見てくれ」

 「近寄るな!見損なったぜ!まさかこんな時に性欲優先させるような男だと思わなかったよ!」



 どうやら下着を漁っていたと勘違いしているようだ。

 リュージは嘆息して、猫のように威嚇しているイナセに手に持った本を見せた。



 「隠してあった、中身はまだ見てねえ」

 「……なんだよそれ、見たことねぇぞ」

 「分からん、俺が確認するのもなんだからな、お前がするべきじゃねえか」

 「別に気にしねぇからさ、旦那も一緒に見ればいいよ」

 「気にしねえかを決めるのはフィリーネなんだがな……」

 「いいっていいって、読んじゃおうぜ。何か手掛かりになるかもしれないし」

 「いや、でもこう厳重に隠してあるってことは――」

 「読んでみりゃわかるさ!貸して!」



 イナセはリュージから本をひったくると、テーブルの上でそれを広げる。

 ここまで来たら見るも見ないも同じか、リュージは心の中でフィリーネに詫びながら本の内容に目を通し始めた。


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