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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
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アルカディアの26

 思えば単独行動など久しぶりだ。

 なんだかんだあの馬車にこっそり乗り込んだ時から、常に傍にはあの二人のどちらかがいたわけで、騒がしいのが好きな身としては一人で行動する意味が特になかったというのもある。

 にも拘らず今回単独で行動しているのには明確な理由がある。

 それは――。



 ――リュージが怒りそうだもんね。



 全身を泥だらけにした純白のシスターが路地裏に佇んでいた。

 服も髪も、頬にさえ付着した泥はそれでも彼女の美しさを損なわせるには至らず、むしろインモラルな美を作り出していた。

 ただ肩から掛けている鞄にだけは泥が付着していない。



 「ま、このくらいでいいかしらね」



 満足げに頷いてからラフィは路地から通りを確認する。

 右よし、左よし、周囲に人はいない。

 ラフィは一度軽く呼吸を整えると、思い切り走りながら目の前にある扉を突き破る勢いで開けた。

 さっきまでいた騎士団の本部の扉を。



 「助けてぇ!!」

 「な、なんだぁ!?」

 「どうした!?」

 「あれ、さっきの――」



 突然飛び込んできたラフィに驚く者、さっき会ったばかりのシスターだと気づいて怪訝な顔をする者。

 様々いるがラフィの尋常でない様子を見てそれどころではないと思ったのかぞろぞろと集まってくる。



 「助けて、助けてよぉ!!」

 「落ち着いてください、何があったんですか」



 年配の騎士がラフィの背中を摩りながら優しく尋ねる。

 ラフィは元から白い顔を更に真っ白にしてガタガタと震えながらたどたどしく答えた。



 「中央ビルの前を歩いてたら、大勢の男たちが、急に、魔法を、そしたら爆発が起きて、皆が――」



 年配の騎士は周りにいる騎士たちと視線を合わせて頷き合う。

 すると周囲の騎士たちはすぐさま自分の装備を取りに奥へと消えた。

 年配の騎士は震えるラフィを手近な椅子に座らせる。



 「もう大丈夫ですよ、私たちが行ってきますから、ここで待っていてくださいね」

 「準備できました!」

 「よし!行くぞ!」



 騎士たちは覚悟を秘めた瞳のまま、一糸乱れぬ隊列で外へと向かった。

 全員がいなくなった本部の中、静まり返った空間でラフィが顔をあげる。



 「……思ったより罪悪感湧くわね」



 ラフィは立ち上がると素早く持っていたカバンからタオルを取り出す。

 そして魔法で水を生み出すと顔と髪だけさっと流した。

 汚れた服はそのままに髪を丁寧に拭きながらラフィは室内のある一点へと向かった。



 「え?ラフィ?」

 「どうしました、忘れものですか?」



 目の前の扉をノックもせずに開けると、牢屋の中から驚いているフィリーネと、奥のテーブルで何やら作業をしているディルクの姿があった。

 だいたい予想どおりの展開だ。

 だからこちらも考えていた通りに動こう。

 ラフィはディルクの問いかけを無視してフィリーネに一声かけた。



 「フィリーネ、伏せときなさい」

 「「へ?」」



 容疑者を看守、二つの声が重なった。

 結果としてそれが合図になった。

 局所的な凄まじい突風がディルクの体に吹きつけた。

 机ごと吹き飛ばされて壁に叩きつけられた彼をさらなる追撃が襲う。

 手首足首胴体に氷でできた枷のようなものが出現し、ディルクは壁に貼り付けにされた。



 「ぐぅう、ラフィさん、いったい何のつもりですか!」

 「抵抗しないでね、少し聞きたいことがあるだけだから――フィリーネ!」

 「は、はい!」



 敬語になってしまったフィリーネに、ラフィが確認を取る。



 「彼が貴方に声をかけた、あなたが捕まるきっかけになった人で間違いないのよね?」

 「そ、そうです!」

 「敬語使わなくていいのに……」



 ラフィがこの部屋から出る時、フィリーネに一つの質問をしていた。

 『あなたに声をかけた騎士の顔って覚えてる?』と。

 返事はたった一言だった。

 『ああ、それならそこにいる見張りの彼よ』

 あの時点でこうすることは決めていた。言えば必ず止められるからリュージには隠していたが。

 ラフィは壁に貼り付けているディルクに近づく。



 「一つだけよ、それに答えてくれたら降ろしてあげるし私は出ていく」

 「……降ろしてあげる!?何言ってるんですか、こんなことしてただで済むと――」

 「へぇ、じゃあ特に証拠もないのに女の子の鞄漁るのは罪じゃないんだ?」

 「――な、何を」

 「しらばっくれようとしてもダメよ、ここに来る途中にね騒ぎが起きた場所で話を聞いてきたのよ」



 八百屋の店主も、花屋の店主も、見ていた人たちは皆口をそろえて言っていた。

 何の前触れもなく騎士が女性に声をかけていたと。

 反撃せずに顔を伏せたところを見るにやはり後ろめたいところがあるようだ。



 「なーんでフィリーネのカバンの中にあるって分かったのかしら、あ、もちろん勘って言うのは無しね、物が透けて見える『オリジナル』でも持ってるっているなら信じてあげてもいいけど」

 「……関係ないだろう、現にその人は企画書を持ってた、それが真実だったじゃないか!」

 「誰かに嵌められているとは考えないの」

 「それは、それは仕方ないだろう」

 「呆れた、あなたつまらない人ね」

 「つまらないだって……?」

 「そうでしょ、無実かもしれない人を捕まえて、それでものうのうと騎士名乗ってる……誇りなんて欠片もないじゃない、うちの泣き虫のほうがよっぽど骨があるわよ」



 いやらしく口角を吊り上げて目を細めるその姿は明らかに相手を侮蔑するためのものだった。

 蔑んで、見下して、見限るためのものだった。

 対するディルクは歯を食いしばってラフィを睨みつけている。

 ラフィは神経を逆なでするような声音でとどめの一言を放った。



 「そんな姿、ハンナちゃんが見たらどう思うのかしらね」

 「うるさい!!黙れお前なんかに何が分かる!俺だってやりたくてやったんじゃないんだ!家族を養っていかなくちゃいけないんだ、だからあの紙に従って――」



 そこまで言ったところでディルクは我に返ったように口を噤むがもう遅い。



 「あの紙ねぇ、ほら、もう今更隠してもそうやってぼろが出るんだから、ていうか出させるから全部言っちゃいなさいよ」



 ディルクは激しく逡巡していたが、やがて諦めてしまったのか訥々と語り始めた。



 「あなたたちが都市に来た日の夜遅くに、本部に戻ったら机の上に紙が置いてあって、そこには俺に向けての指示とハンナの似顔絵が入ってた」



 脅しなのだと、ディルクはすぐに気づいた。

 しかし相手がだれかも解らない状況では言われるがまま動くしかない。

 そしてその時の指示が――。



 「指定の場所に行って気を失っている男たちを起こせ、それだけ書いてあったんだ」

 「なるほどね、あいつ等を逃がしたのはあなただったわけ」

 「知らなかったんだ!あいつ等が誘拐犯だなんて」

 「今更そこについて追及するつもりもないわ、続きをどうぞ?」

 「……それから何の音沙汰も無かったから忘れてたんです、そしたら今日の朝また紙が置いてあって」



 とはいえディルクも一端の騎士である。

 二度も同じ脅しに屈するわけにはいかない。

 最悪の場合は皆に事情を説明して家に帰らせてもらえばいい、そしてのこのことハンナを狙いにきた犯人を返り討ちにすればいい。

 そんな勇ましい考えを胸に手にした紙を見てみれば、そこに書かれていたのは脅しではなかった。

 甘い甘い毒だった。



 「そこの女性の似顔絵と彼女が犯人であるという情報、それに居場所まで……それで――」

 「それに従ったわけね、裏があるかも確認せずに」

 「……どうしても出世したかったんだ。今回の犯人を捕まえたら無条件で昇進できると本部でも噂だったから」

 「そのために無実の人間が何年も牢屋に入れられるのよ?」

 「それでも、金が必要だったんだ。妻の実家に借金があって、ただでさえ苦しいのに来年から娘を学校に通わせないといけないんだ」

 「娘を理由に使うんじゃないわよ」



 少しだけ語気を強めて言うとディルクは苦しそうに顔を歪ませた。

 きっと今の今まで罪悪感を抱え続けていたのだ。

 一人悩み続けていたのだ。

 決して同情できるわけではない。だが――。

 ラフィはディルクの拘束を解いた。突然解放されたディルクは受け身も取れずに地面に落下する。



 「私はあなたを裁こうなんて思ってないわ。人間が人間を裁くなんて傲慢だもの。でも一つだけ言わせて」



 ラフィはその金色の瞳をしっかりとディルクに向けた。



 「他人を陥れたお金で幸せになってもいつか必ず破綻する日が来る、実体験から言わせてもらうけどね」

 「え……?」

 「あと家族のこと持ちだしたのは卑怯だったわ。ごめんなさい」



 その調子の変わり様にディルクは混乱していた。

 ラフィはそれを無視して立ち上がると考え始める。

 ここから何か真相が見えてこないものかと来てみたものの、ディルクは正真正銘利用されただけだった。



 ――これはハズレね、私としたことが。



 とりあえず一旦宿に戻るべきだろう。

 そうと決まればさっさとおさらばするべきだ。

 何せ騎士団に嘘を付いているわけで、帰ってきたところに鉢合わせなんてしたら目も当てられない。

 とりあえずこの場を後にしようとしたラフィは――。



 何かが倒れる音を聞いた。



 そういえばさっきからやけに静かだった。

 自分のことを目の前で話されているのに。

 ラフィが視線を動かせば、そこにはいた。

 倒れているフィリーネがいた。



 「フィリーネ!?ちょっとどうしたの!」

 「う、うぅ……」

 「ディルク、ここ開けて!」

 「……ッ!はい!」



 茫然としていたディルクはそれでも素早く状況を把握すると急いで牢屋のカギを開けた。

 飛び込むように中に入るラフィ、倒れているフィリーネの顔色は蒼白だ。

 落ち付いてフィリーネの首筋に手を当てると魔法で体内の異常を探っていく。

 そして――。



 「え……?」



 ここにリュージがいれば驚くか笑うかするほど間の抜けた顔だった。

 ラフィは自分の手のひらの先から伝わってくる情報が間違いではないことを幾度も確かめた。



 「……これは、思ったより急いだ方がよさそうね」

 「ラ、ラフィさん、その人は」

 「毛布持ってきて、あと温度の操作はどのくらいできる?」

 「物体の温度くらいなら、空気の温度は無理です」

 「十分、とりあえず体冷やさないで、少しの間でいいから寝具もいいものに変えて、それと――」



 他に何かできることはないかと頭を働かせるが現状できることは何もない。

 そこまで考えた時だった。





 轟音とともに窓から見える空に真っ赤な炎が咲き乱れた。






 「……はぁ!?」



 窓から見える方角、そう遠くはない。

 あれは、中央ビルの近くではないだろうか。



 「うっそ、適当言ったのに……」



 このタイミングであの爆発、恐らくだがうメンバーの誰かが何かに巻き込まれた可能性が高い。

 ラフィは急いで向かうために、フィリーネの疲労を回復させながらディルクに指示を飛ばした。


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