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ステゴロソウル~たとえば俺が勇者なら~  作者: 寅猛
建設都市アルカディア
76/165

アルカディアの21

短くなったので二話投稿

 これがどれだけ珍しい光景なのか、話でしか知らないリュージでは実感が持てない。

 だが周囲のざわめきにちょっと耳を傾けるだけでこの二人が一堂に会するのは異例の事態なのだと察することができる。

 信じられない、あり得ない、何年ぶりだ、聞こえてくるのはそんな声ばかりだ。



 「リュージさん、これ、どういうことなんです?」

 「俺にもさっぱりだ」



 イナセを挟む形で横に立ったヴィートの質問にも答えることができない。一切関わることができないうちに、事態が進んで、進むたびに複雑になっている。

 何が何やら、混乱しているのは同じだ。



 「さっさとこの手を離せ」



 オットナーが吐き捨てるように言った。

 しかしブルーノがその要求をのむことはなかく、代わりに口を開いた



 「だったら意味のない暴力は止めろ、オットナー」

 「これはうちの問題だ、口を挟む権利があるとでも?」

 「そうだな、でもそれはお前も同じことだ」



 何、と眉を顰めるオットナーを無視して、ブルーノが顔だけ向けたのは突然の凶行に反応すらできなかった騎士。



 「おい、俺の知る限り容疑者に暴力を振るって良い決まりはないと思うんだが」

 「は、はい!その通りです、いくら親方といえど看過できません!」



 ようやく自らの職務を取り戻した騎士は、親方に向かって毅然と言いきった。



 「……そいつは明らかに隠しごとをしているぞ」

 「それを調べるのは我々の仕事です、我々が責任を持って取り調べます」

 「責任、責任ねぇ、こんな事態になるまで何一つできなかったお前たちが今更責任を語るか」



 隠そうともしない侮蔑に、オットナーの目の前の騎士だけでなく、リュージを囲んでいた騎士全員が顔色を変えた。

 しかし言い返さない、言い返せない。

 その言葉が少なからず真実であることを、騎士たち全員が痛感しているからだ。



 「そうだろう?お前たちがもっと早くこの女を見つけていれば、私も、この都市もここまで追い詰められていなかったのだ」

 「それは……」

 「揃いも揃って不甲斐無い連中ばかりだから、私が直々に黒幕を探そうと――」



 突然オットナーが言葉を切った。顎に手を当てて考え込む親方に目の前の騎士は訝しげだ。

 そのまま数秒固まっていたオットナーは、ブルーノに視線をやると、ぼそっと呟いた。



 「なぁブルーノ、しばらく会わないうちに随分親切になったんだな」

 「ああ?」

 「なんでこの女を庇った?」

 「……俺はただ通りすがっただけだ」

 「下手な嘘は止めろ、お前が見ず知らずの奴を助ける類じゃないのは知っている。ヤジ馬と人ゴミが嫌いなのもな、そもそもここにいることすらおかしい」

 「……気が向くことだってたまにはある」

 「気が向いた?言い訳にしてもマシなのを考えろよ……正しくはこうだろう、この女が捕まると困るから口を挟みに来たんじゃないのか」

 「何が言いたい」

 「だから、お前が黒幕だと言っているんだ」



 突きつけられた指に対して、ブルーノは目を見開いた。

 ここまで平生を保っていた表情が徐々に赤くなっていく、握りしめた拳がぶるぶると震えていた。

 隠しごとがばれてしまったからか。

 違う、何も知らずに見ていたリュージだからこそ、気づいたのかもしれない、あれは純粋な怒りの発露だ。



 「本気で言っているのか」



 身の内にある全ての怒りを詰め込んだような低い声で、ブルーノは言った。

 荒々しい感情をぶつけられたオットナーは、それでも気にする様子もない。



 「状況がそれを物語っているじゃないか、そうだろう」

 「そう言うことを言ってるんじゃない」

 「なに?」

 「俺が、お前の持つアイデアを盗むと、本気で思っているのか!」



 一色即発の空気の中、叫ぶブルーノが苦しそうに見えたのは、泣きだす直前のように見えたのは気のせいだったのだろうか。

 そこに答えが出る前に、誰も口を開けなかったこの場に、場違いな声が響いた。

 笑い声が聞こえた。その笑い声は、リュージ達が助けようとしていた女の口から聞こえていた。



 「フィ、フィリーネ?」



 友人の豹変ぶりに、イナセが恐る恐る呼びかけた。

 それが聞こえているのか、いないのか、目元に涙まで浮かべて哄笑するフィリーネを、痺れを切らしたオットナーが怒鳴りつけた。



 「何が可笑しい!」



 フィリーネは目もとの涙を拭いながら、呼吸を整える。



 「だって滑稽ったらないわ、大の大人が二人揃ってバカなことばっかり言ってるんだもの」

 「バカなことだと……」

 「もういいわ、抵抗するのも疲れちゃったし、そうよ、私が盗んだの、知らない女に頼まれてね」

 「フィリーネ!?何言ってんだよ!」



 半ば悲鳴じみた声のイナセに、フィリーネは薄く微笑みながら手を振った。



 「せっかく助けようとしてくれたのにごめんなさいねイナセ、本当に私なのよ」

 「そんなわけねぇだろ!誰に言わされてんだ」

 「言わされてなんかないわ、事実だもの」

 「信じれるわけねぇだろ、そんなことする理由もねぇじゃねぇか!」

 「あなたが私の何を知ってるの」

 「――っ!だって、あんなに毎日、楽しそうだったじゃねぇかよ……」



 イナセは無意識のうちに、フィリーネに手を伸ばしていた。

 縋りつくような弱弱しさを――。



 「イナセ、助けようとしてくれてありがとう、でもこれ以上は、ただの邪魔よ」



 フィリーネは一刀両断に捨てた。

 その場に崩れ落ちそうになるイナセを、隣に立っていたヴィートが慌てて受け止める。



 「イナセちゃん!?しっかり!」

 「おいイナセ!」



 必死に呼びかけるも、うつろな目の少女は一人で立つことすら困難なほどだった。

 フィリーネはそんなイナセを無視して、オットナーへと向きなおる。



 「じゃあ、行きましょうか」

 「急に素直になったな……何のつもりだ」

 「別に、このまま逃げ切れるんだったらそれでも良かったんだけど、もうしらばっくれるのは無理そうだし、それならおとなしく知ってること話して罪を軽くしてもらった方が得、違う?」

 「……ふん、罪人らしい狡い考えだな、さっさと連れてけ」



 命令に頷いた騎士に腕をとられたフィリーネが、やんわりとその腕を解いた。 



 「ごめんなさいね、エスコートしてくれる人は一人って決めてるの、自分で歩けるわ」



 今までの抵抗が嘘のように、フィリーネは自らの足で騎士に着いて行った。

 その姿が人ごみに埋もれる直前、立ち止まった彼女は振り返ってリュージを見た。



 「リュージさん、ごめんなさいね変なことに巻き込んで」

 「フィリーネ、本当にお前がやったのか」

 「……厚かましいのは分かってるんだけど、一つだけお願いしてもいい?」



 こちらの問いかけには答えはなく、代わりに口にされたのは一つのお願い、その頭に『最後の』とつくのは、直接言葉にしなくともひしひしと伝わってくる。

 決して声を荒げているわけでもないのに、有無を言わせぬ重みがあった。

 黙り込んだリュージに、フィリーネは構わず口を開いた。

 そこから聞こえたのは短い一言――。



 「イナセのこと、お願いね」

 「お前……!」



 見逃さなかった、見逃すはずがなかった。

 その瞬間だけ、諦めに染まっていたフィリーネの笑みから負の感情が消えた。

 心配はそれだけなのだと、フィリーネは微笑む。



 フィリーネはそれで終わりとばかりに、リュージから視線を切ると、今度こそ人ごみの中へと消えた。


9/13 セリフのミスを修正

×「フィリーネのこと、お願いね」

○「イナセのこと、お願いね」

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